深夜と早朝の狭間の時間。ある東洋の国での遊戯の唄に出てくる夜明けの晩とはこのような時間を言うのだろうかと、すよすよと寝息を立てて眠っている兄を目の前にして、カノンはベッドサイドに置いた椅子に腰かけ、その東洋の国の一部では”ゲンドウポーズ”と呼ばれる姿勢を取ったままそんなことを考えていた。 鍛え上げられた筋肉とそれを包む肌理細やかな肌に引き締まった肢体。ふわりとシーツの上に広がった金色の髪は薄暗い室内に置いても輝きを失わず、それが余計に眠るサガの美しさに拍車をかけている。 しかしカノンの目線が向いているのはそんな麗しい兄の寝姿ではなく。 「…」 唯一サガの身体に纏われている、文字通り最後の砦である黒い下着に注がれていた。 事の起こりは今日も今日とて午前様に帰宅したサガにある。ほどほどに仕事を切り上げることのない兄に対し、仕事バカも大概にしろと幾度となく言っているがそれを改めるような気配は今のところ皆無な兄に内心ため息を吐きながら、ソファで眠りこけるその身体を宝物を扱うような手つきで抱き上げようとした。誓って言うがその時は決して疾しい気持ちなど何もなく、ただ短い時間ながらもゆっくりと眠れる寝台へと移動させようとしただけである。だが次の瞬間、無防備に眠っていたサガの口から吐き出された言葉が、カノンを苦悩と煩悩の狭間へと叩き込む引き金となった。 『服を脱がせて欲しい』 サガが発した言葉はこの一言だけだった。普通に考えれば着ている法衣が皺になるのを厭って口にした発言なのだが、今現在のサガは夢うつつの上非常に安堵しきった無防備な状態であること、酔っていてもそのようなことは言わない性質であること、そして何より重要なのは二人が双子の兄弟の垣根を越えて互いに想い合う仲であることが、カノンを思い込みという名の試練の道へと急き立てることとなった。 健全かつ健康な青年としては、恋人にそのような状況でそんな台詞を吐かれれば色々と妄想する。だが寸でで煩悩と苦悩の異次元空間へのADを打ち破ったカノンは、サガの願いどおりに身を包んでいた法衣をそっと脱がせて抱え上げ、寝室へと引き上げることには成功した。 しかし、法衣の内に着ていたヒーマティアも脱がせたサガを寝台に下ろした瞬間はたと気づいてしまう。基本的にサガは眠るときは窮屈な格好を好まず、ゆったりとした寝間着を着用している。緩慢なシルエットを肩から足首まで描きながらもデコルテのラインはくっきりと見える長裾服や、ふわふわとした着心地のバスローブなど、着ている方は良いかもしれないが見ている方は常にギリギリの理性が試される物ばかりを、だ。そしてそんな兄の好みを熟知しているが故に、気づいてしまったこと、それは、先述したサガの下腹部を覆う、布面積が著しく小さな下着だった。窮屈な格好で眠るのを好まないというのはつまりはそういうことで、肌触りの良い生地で作られた黒の下着と白い肌のコントラストは、否が応にも視覚を刺激し己の理性をぐらつかせ本能を揺さぶる。 果たしてこれも脱がすべきかどうするべきか。 そして場面は冒頭へと至る。 「よし」 とてつもなく一大決心をした顔でカノンは大きく頷く。 兄の睡眠を守るためにはこの下着は脱がしてやるべきだと、思いやりという名の欲望が訴えれば、健全な肉体と精神を持った青年であり、時に男はオオカミになることも厭わない、今がその時だと本能が追撃する。 時間にして一瞬、カノンの理性は裸足で逃げ出す間もなく瞬く間に煩悩と本能に支配された。その二つに促されるまま、眠るサガの下着の縁にかけていた指の位置を、ほんの少しずらす。 ふわふわとした声音で、自分に下着を脱がせてほしいと誘った(幻聴)双子の兄。コイツの方がよっぽど性質の悪い小悪魔だと改めて認識しながら。 「ん…っ」 黒い下着の中に収められているサガのソレは緩やかな兆しを見せている。それが単なる生理現象であることは充分理解しながらも、兄の小さく洩らした声にくつりと笑みを浮かべながらカノンは広げた掌をそっと押し付ける。 「ぅ、ん…、ん…」 やわやわとサガ自身を掌で撫で摩りながら、同時に根元にある膨らみを柔らかく指で包んで揉みこんでやる。それを幾度か繰り返している内に、ピクリとサガの肢体が小さく震え、その肌は艶めかしい彩りを帯びてきた。 「ゃ、か、のん」 舌足らずな声で名前を呼ばれ、カノンはくつりと口角を吊り上げた。戯れにサガの金糸のような髪を撫でつけていた右手を移動させ、眉根を寄せながら閉じられている両瞼の上へそっと下ろす。 「いい子だから、もう少し眠ろうな?」 指先に込められていく穏やかな小宇宙。ヒーリング効果のあるそれは疲れ切った今のサガにとって恐らく効果はてき面だろう。いたずらに目を覚まして、この行動に怒り狂った渾身のGEを喰らう心配はまずないはずだ。 完全に意識を刈り取るか否かの匙加減でカノンは小宇宙を注ぎながら、サガの下着の攻略を続行していく。 「ふ、ぁ、…ん」 撫でさすっている内に完全に熱が灯ってしまった兄のソレを、下着の上から丁寧に形を象るようになぞり上げていく。動きが変わった己の指に合わせて無意識下に漏れ落ちるサガの声に微かな色が混じっていく。 その反応が心地よくて、たまらずに無防備にさらされている喉元に唇を落としてやれば、ひくんと身体が跳ね上がった。そのまま新雪に足跡を残すかのように、その甘やかな肌を吸い上げたい気持ちに駆られるが、さすがにそれをやればこの悪戯がばれてしまう。その点だけには若干の不満を持ちながら、その代わりと言わんばかりにカノンは舌先を尖らせて、兄の白い首筋に触れる。 「ぁ、っ、やぁ」 触れるか触れないかギリギリの舌先の軌跡に反応する兄が可愛くて仕方がない。くすりと笑うカノンの顔は緋に色づき始めている胸の突起へ辿り着いた。 「ゃ、ぁ、あっ、ん」 そしてそのまま躊躇いなくパクリと口に含んで肌に朱を散らせない腹いせに思うまま吸い上げれば、柔らかさの中に悦を含んだあえかな声がサガの唇から上がる。ずくりと腰に来るその声を耳にしながら胸の突起を舐めしゃぶっては柔らかく歯を立てるを繰り返せば、下着越しの兄のソレは、熱さと硬さを増していく。 「かのん…ぁ、ぁ」 サガの太ももがもぞりと擦りあい、無意識の内にカノンの掌に腰を押し付けてくる。平素であるならば、焦れた愛撫に我慢が効かなくなって潤んだ瞳でダイレクトな刺激を求めだす頃合いだ。 眠りに落とされていながらも無意識の内に己を求めるサガの仕草に小さく笑いながら、カノンは下着の上から先走りをほとばしらせている兄自身の先端に指を這わせていく。 「ぅぁ、っや、ぁ、ぁ」 布ごと食ませられ、そこをほじくっていくカノンの指先にビクビクと反応するサガが愛おしい。瞼を閉じているとはいえ自分の施す愛撫にどれだけ蕩けそうな表情になっているかを見たくて、カノンはサガの目元に載せていた指先を退ける。 「ゃ、かの、ん、んんっ」 きゅうっと目を瞑り眉を下げるサガの顔は、思った通り平素でも感じ入った際に見せる表情で、目にする度にもっと感じさせてやりたい、もっと快楽に溺れさせてやりたいとカノンの欲を刺激して止まないそれだった。 「…あんまり俺を煽るな、サガ」 耳元に顔を移動させ、ことさら低く囁きかければ、その声から逃れるように小さく顔を動かす。そんなサガの耳をカノンはそっと唇で含んで舌先を這わせ始めた。 「はぅ、ぅ、ぁぁっ」 それに連動するように段々と下着の中にあるソレが濡れそぼっていくのが伝わってくる。このまま下着の中で射精させても構わかったが、流石にそれはやりすぎかと考え、カノンは兄自身を取り出して、パクリと口に含んだ。 「うぁっ」 突然迎えられた口腔内の感触に驚いたのか、下肢を捩って逃れようとするサガをがっしりと押さえつける。先端から溢れ出る雫を吸い上げて、口腔深くに根元まで迎え入れては軽く歯を立てながら出し入れを繰り返せば、解放を目指したサガ自身の体積と熱量が増していく。 「んぁ、ぁっ、や、カノ、んっ」 未だ下着に包まれてる、柔らかな二つの膨らみも同時に揉みしだいてやれば、サガの身体はひきつるようにのけ反っていき、限界が近いことをカノンに訴えかけてくる。 「…っ、そろそろか?なあ、可愛いサガ」 根元を飾る膨らみの更に下にある、カノンを迎え入れて止まない場所も戯れに下着の上から弄ってやれば、物欲しげに布ごとカノンの指を食もうとする。 「っ、」 その感触に今までかわせていた興奮が、自分の中心に集まるのを自覚し、流石にこれはやばいとカノンの脳内に警鐘がなる。いつもならばその最奥が自分を受け入れられるようになるまで時間をかけてじっくりと解し、それに身悶えるサガを堪能しながら自らの熱塊を埋め、挿入の衝撃と快楽に耐えうる兄の顔を見ながら自らもまた絶頂へと上り詰めていくのだが、サガの意識が無い状態でそこまでしてしまうのは流石に躊躇われる。それに何よりサガは明日も普通に仕事のはずだ。身体にかかる負担を考えれば挿入するのは得策ではない。 ここまでやっておいて何を今更という自覚もあるのだが、それとこれとは別問題だ。 「…サガ…」 「んん、」 すまない、愛してると小さく心の中で詫びながらカノンはサガ自身から口を離し、自らの寝間着のパンダロニとボクサーパンツを脱ぎ捨てる。そして下着をずり下ろされ、性器を完全に露出させられた状態のサガにのしかかると、絶頂間近でお互い勃ちあがる二つの自身をぴたりと寄り添わせて握りしめた。 「うぁ、あっ、」 「サガ、ぁ、にい、さん…っ!」 己にこれ以上なく密着するサガ自身の感触は、内部とは違った熱をカノンにありありと伝えてくる。それはどうやらサガも同じのようで、カノン自身の熱と与えられる刺激を感じ入って、眠りの中に快楽を侵入させたくないようにいやいやと首を振っている。 そんなサガの顎を捉えてカノンは口づける。通常の性交の際にも、上下余すところなく繋がりたくて交わす激しいキスを。 「ん、ふ、ぅん、は…っ、」 頭の中に段々と靄がかかって来る。勃ち上がった兄自身の裏側に自らの先端を擦りつけながら括れを直に弄り回し、その窪みから溢れ出る蜜をお互いの自身へと塗りこめていく。 「気持ちよくしてくれよ、サガ」 普段ならば与えられる快楽から逃れようとカノンの胸を押すサガの手は、今は微かに波打つシーツをゆるく掴んでいる。そんなサガの手をカノンは取り、二本の自身に絡ませて仕上げとばかりに自らの手を重ねて一気に扱き上げた。 「ぁっ、ぁぁぁっ」 普段ならば恥ずかしがってしまって目にすることがない兄の痴態に、興奮が募って段々と息が荒くなっていく。そんな弟の視線を無意識下の中で受け止めてか、互いの掌とカノン自身に、サガの中心部が限界まで昂ぶっているのを伝えてくる。 「っ、く、サガ、サガ、っ!」 「ゃ、ぁ、あぁあ」 一際高い嬌声を上げてビクビクと身体を撓らせながらサガは達する。眠りの中で散々に乱れた兄の姿を最後の最後まで見届けながら、カノンもまた兄の手の中にその熱を吐き散らしていく。 は、は、と荒い息を吐きながら、カノンは眠り続ける兄の姿をじっと見下ろしていた。べったりとお互いの白濁で汚された掌を持ち上げてそこにそっと舌を這わせれば、快楽の名残とくすぐったさに身じろぐサガにカノンはくつりと笑う。寝顔は清廉、その肢体は今しがた散々弄んだ名残が色濃く残っており、太ももの途中に引っかかったままの中途半端に脱がせた黒い下着が、その倒錯性に更なる彩りを添えていた。 寓話よりもずっとずっと麗しく、そして官能的な、カノンだけの眠れる兄君。しかしこのままの状態で目覚めのキスをしたならば、起こした途端に完膚なきまでに叩きのめされ、明日の太陽が拝めないバッドエンドを迎えるのは火を見るよりも明らかだ。 もう少し眺めていたいという名残惜しい気持ちを仕舞いながら、カノンはサガを眠れる麗しの兄君へと戻すため、身体を清めるためのタオルのついでに、これでもかとサガの魅力を醸し出す役割を果たし自分の煩悩を今しがた散々に乱してくれた兄の下着を完全に取り払い、手洗い桶に漬けるために、ほくほくした顔で寝室を後にしたのだった。
リンク先の神里光希さまのサイト・Platinumの10月13日付のブログに書かれていた小話があまりにも素敵すぎたので、その設定を用いて書かせて頂きました! 眠たいサガ+(法衣を)脱がせて=パンツも脱がせていいのか!?と逡巡するカノンという本当に美味しすぎる話で、妄想が止まらず行き着くところまで行っちゃいました(*ゝω・)b 個人的に性的な悪戯って挿入なしでどれだけエッチなことが出来るのかが醍醐味だと思っています。特に相手が眠っている場合は起きるか起きないかの加減が非常に難しいと言うか…。こういう時、本当小宇宙っていい仕事をしてくれるなと思いましたw 神里様、改めてご許可頂きありがとうございました!神里様のサイトへはリンクページからどうぞ! (2017/10/23)
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