ついうっかり覗き出ました
今日はお互いにその気になるのが早かった。宵闇の訪れから間もなくしてベッドにもつれ込み数戦を交え終えた刻、散々に乱された息を整え終えたサガが寝台から起き上がり、床に足をつけたのをカノンは微睡みの中で感じていた。
どこへ行くんだ、俺の側にいろと腕を伸ばそうとしても身体がいうことを聞かない。ここ数日、海界や冥界を飛び回り、疲労が溜まった身体が欲していた睡眠よりも、サガが欲しいという欲望を優先したツケだとでも言うように、睡魔に絡め取られているカノンだが、判った、これが済んだらきちんと眠るからと眠気を訴える身体に妥協してもらい、ゆっくりと瞼を持ち上げていく。
薄暗い部屋の中では、流石に視界は良くはない。それでも根気よく目を薄くだが開き続けていれば、望んでいた恋人の姿はすぐそこに在った。
高貴な海の蒼に覆われた長い髪と、それに隠された白く艶めかしい背中。今日は何度その背中に跡を残して攻め立てただろう。平素ならそう思い返すだけで散々に吐きだした自分の欲情が再び灯るのを感じるが、流石に今夜は打ち止めだと叱責する睡魔に持って行かれそうになる意識を繋ぎとめながら、カノンはサガを眺めていた。
どうやらサガはその裸身に何かを纏っている最中らしい。普段なら素肌のままで寝入ってしまうことが多く、そんな身体を常に抱きしめて眠っているカノンとしては珍しいこともあるものだと思っていたが、夜目に慣れてきた目に映り込んだ光景に、その考えもどこかへ飛んで行った。
「サガ?」
「え!?あ、カノン?」
その行動に思わず声をかけたカノンに、まさか起きているとは思わなかったのか、大げさな位に驚いたサガの身体に纏われていたのは、情事の前にカノンが脱ぎ捨てたシャツだった。いっそ飄々とするくらいカノンのシャツを拾い上げ腕を通していたはずのサガは、寝ぼけ眼のカノンの目にも判るくらいに狼狽えており、その姿を見て何とも思わずに寝こけてしまう程枯れてはいないと言わんばかりに腕を伸ばし、何度も交わった寝台の中へ引きずり込む。
「何してんだ?兄さん」
「いや、その…」
なんでもない、という言葉は通じそうになく、気まずそうに視線を逸らし口ごもるサガの身体を下敷きにして見下ろす体制をカノンは取る。
着古してくたびれた自分のシャツでもサガが着れば上等なものに見えるから不思議だ。そして、ひどくそそられる。
「何だ?今度はそういうプレイをお望みか?」
にやりと笑いかけながら訊ねた途端、自分を跳ね除けようとする右手の動きを察して押さえつける手に力を込める。
「誰がそんなことを考えるか!」
自分の衣服を身に付けた、恋人が可愛く叫んでいるそんな姿に、呆れ果てたように匙を投げて身を潜めてしまった睡魔に変わり、またじわじわとサガを欲する欲望が湧き出てくる。
「じゃあなんだ?」
「それは…っ、あっ、もう今日は…!」
中途半端に閉じられた服の間から不埒なカノンの手が戯れに入り込む。
「今ならまだ間に合うぞ?」
とは言ったものの、カノンも本気で仕掛けるつもりは流石に今日はない。ただ、こんな風に自分に翻弄される兄の姿を見るためともなれば話は別だ。
冷めかけた熱がこれ以上灯るのは阻止したいと肌の上を悪戯に這いまわる弟の手に、兄は観念したようにその真意を告げる。
「その…、大きくなったなと思って…」
「え?」
バツの悪そうに口を噤んだサガの言葉に、カノンは悪戯を忘れてポカンと見下ろす。
「ずっと同じだと思っていたお前にその…、抱かれるたび、逞しくなったなと思って…。だから、それを確かめる意味でお前の服を着てみただけで、疾しい気持ちは決して…!」
自分が今、何を言っているのか、この兄に自覚はないのだろう。そして、目の前の弟がどれだけ驚いて、そしてじわじわと締りのない表情になっていっているかも。
「…ああもう!笑いたくば、わっ!」
そんな可愛いことを言われて平静を装っていられるかと、今度はカノンがサガの肩に顔を埋めて身悶える番だった。
「…おまえ、反則すぎ」
何をすると訝る自分の声を出す前に、耳に届いたその声に一瞬目を見開いたが、次にくすりとした笑みを浮かべながら、サガは頬に当たる弟の白群の髪に指を絡めながらその頭をそっと撫でつけていく。
「何だ、まだまだ可愛いところがあるではないか」
「…うるさい」
先ほど身に宿り始めた欲望が、今夜はこのまま天使を腕に抱いてそのまま甘えて眠っちまえと白旗を上げて去って行き、入れ替わるように雲隠れした睡魔が、良い夢を見ろよと言わんばかりにゆっくりとやってくる。
「愛しているよ、カノン」
心地よい温もりと抱き心地を感じながら、どれだけ時間が経とうとも力を付けても、一生色んな意味でこの兄には勝てないと心の中で両手を上げたカノンは、耳元に落とされたささめきと口付けを素直に受け取り、やがて眠りへと落ちて行った。

元ネタはCPシチュエーション系スロットさんから。これ、目押しタイプなので特にスロットの類をやらない私はいつも適当に止めているのですが、回すたびに色々ナイスなお題で止まります。今回はタイトルずばりの「暗闇の中 飄々としながら 恋人の服を着る」というとんでもないツボなお題が出てきました\(^0^)/ 体格が違うCPなら彼シャツとかやれますが、カノサガの場合どういった状況で恋人の服を着るのかなと考えてたら、何だかんだで弟さんにベタ惚れなサガ兄様が出来上がりましたw
カノサガ、本当に美味しいです。
(2018/02/07)

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