少々痛々しい描写があります。 苦手な方はご遠慮ください。 「止めろカノン! 私はそんな物いらない! 欲しくない!!」 「煩い! 愛する者が苦しみ悶えているのを、解決策があるのにそれを講じず指をくわえて黙って眺めているような愚か者に、二度もなれとお前は言うのか!?」 「だからってこんな、あぐ…っ」 痛々しく肉がむき出しにされたカノンによって飲み込まされたそれは、香しい甘さと柔らかさに満ちていた。 「…大丈夫か?」 サガが確実にそれを飲み込んだことを確認したことで、幾分か興奮状態から醒めたカノンは、寝台の上に馬乗りになって押さえつけていたサガの頭上でまとめ上げていた腕の拘束を解く。 そしてそのまま兄の手を取って腕を伸ばさせ、海の緑を媒介する瞳を良く凝らせば、愛する者の皮だけが良薬であるという奇病の証である鱗はひくひくと蠢きながら一時的にではあるがその肌から姿を消した。 「良かった」 今日もこの愛する兄の命を長らえさせることができたと、安堵の息を吐きながらカノンは労わるようにその部位に唇を落とす。触れるか触れないかのその口付けに、以前まではくすぐったいとは言いながらも確かに幸福に満ちていたはずのサガの表情は、今は悲しげに歪められるばかりだった。 「何故、こんな…お前にばかり、私は…!」 首を振りながらぽろぽろと涙を零しながらサガは嗚咽を漏らす。 聖域の書物に辛うじて載っていた、この腕に鱗が出来る奇病はかかれば最後、”薬”を摂取しなければ激しい痛みにのたうち、やがては鱗が全身に巡り、そのまま見るに堪えない姿と痛みのまま絶命するという。そしてその病の特効薬は通常の薬ではなく、心の底から愛し愛された者の皮膚であり、それを摂取し続けても完治する者としない者に明暗が分かれるのだという。 その病に自分がかかっていると知ったサガは叩き落された絶望の中にすぐさま希望を見出していた。自らに何かがあった際、光の表舞台に立つことを宿命づけられている弟。今でこそその宿命は解かれてはいるが、己の後を任せられる弟がいる自分がこの病に侵されて良かったと。 今は聖戦を経た平和な世の中ではあるが、地上に燻る不穏要素はなくならない。そんな地上を守る真の意味での双子座の聖闘士としてカノンが立てるのならばこの命は惜しくはないと、ただひっそりとサガは三度訪れる終焉を密かに待ちわびようと心に決めた。 だがそう思ってはいても動揺はしていたのだろう。微弱な小宇宙の乱れは半身には通じず、何があったと詰め寄る弟によって真実は暴かれてしまい、こうしてカノンの身体を犠牲にして、どうにか息を繋いでいる。 「私は、お前から奪ってばかりだった…、今度こそお前に与えることができるのが嬉しかった…、なのに、どうして…!」 傷つけるばかりで何も与えることは出来なかった自分がようやくカノンに与えられるものを見つけたときは悩みはしたものの、その気持ちを抱かなければ良かったという後悔はなかった。 だがそれが皮肉にもカノンを傷つけるものへと変貌したことを知った時、初めてサガは後悔した。 何故、カノンを双子として愛するだけに留められなかったのかと。 そんなサガを黙って見下ろしていたカノンは、昨日”薬”をねん出したため包帯を巻いている腕を伸ばしてそっと抱き起す。 「俺の方こそ、お前には置いていかれてばかりだった」 小さく息を呑み、自分の腕から逃れようとする兄を、カノンはことさら強く抱きしめる。 「俺が気づかなければお前は、三度俺を置いていっただろう?」 「そ、れは…」 否定しないサガの言葉にカノンはぐっと奥歯を一度噛み締めた後、強引にサガの唇を奪い取る。 「ふ、ん、んんっ」 自分から逃れようともがくサガの身体を改めて抱き直し、この憎らしくも愛おしい存在に自分という存在がどれほど想っているのかを知らしめるような口づけを送り続ける。 「はぁ、ぁ…っ」 充分に蹂躙して離れていくカノンの唇から伝う細い煌銀糸が兄の唇を微かに繋いで儚く消える。 「絶対に許さない。俺のためと称し、お前がお前自身を軽んじることを」 怒気を孕んだ声とは裏腹に、今にも泣き出しそうなカノンの表情を認めたサガは、鱗が生じる腕の痛みよりも強く胸が軋むのを感じた。 「俺は、もう、影であった頃の俺じゃない。」 ただ光を妬み誹り、その上に胡坐をかいて力になろうとしなかった無知で卑小な影などではない。 「お前が俺を心底愛してくれると言うならいくらでもこの身を捧げる。だから、サガ…」 俺の想いを受け入れてほしいと肩口に額を載せて再び抱きしめられたサガは、カノンの万感の想いを知り、小さく頷いた後ゆっくりと、その背に手を回していく。 「すまない、すまなかった…カノン」 自ら皮を剥いだため、かなりの痛みを伴っている腕にそっと自らの手を重ねる愛しているから失いたくないとその身を呈する弟のためにも、まずは生きることを放棄しない強さを持ち、カノンへの愛を失うことがないようにと、サガはカノンの傷ついた身と心を癒すため、微弱ながらも小宇宙を分け与え始めたのだった。
元ネタは奇病にかかったーさんからのサガは腕に鱗のような痣ができる病気です。進行すると強い痛みを伴います。愛する者の皮膚が薬になります。」から。 こういう役どころ、サガは本当に似合うから怖いですw むしろ公式の勢いですよね(゜∀゜)=3 もしも同じ病にカノンがかかった場合、彼は自分が動ける間に八方手を尽くして、どうにかこうにかで解決策を見つけそうなんですが、サガの場合はこんな感じで諦めてしまうのも早いかと思われます。蘇り後も自分が犯した事に罪悪感を抱えている分、「これこそが自分の求めていたものだ」とあっさり身を委ねてしまいそうな…。そんなサガを何とかこちらに引っ張り上げるカノンというのが好きみたいです。 カノサガはいいです、本当に。 (2018/02/07)
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