安らぎの眠りの代理人(ワンドロぬいぐるみ)
「俺の代わりにコイツを渡しておく」


一週間海界へと出張する弟から手渡されたのは、無駄に精巧な双子座聖衣の形をしたぬいぐるみだった。抱き枕に丁度良い大きさで、優しいカスタードクリーム色をしたシープボア素材のそれを一体どうやって作ったのかと問えば、愛の為せる技だと真顔で答えられてしまえば受け取らざるを得ない。

「で、これを渡された私はどうせよというのだ?」

子どもならばまだしも28の大人のぬいぐるみの使い道などたかが知れている。曲がりなりにも憎からず想う弟によって作られた物だ。粗略な扱いをするわけにはいかない。とすれば必然的に一緒に寝る位しか用途はないわけで。
と、そこまで考えたのと同時、サガは、自らのこめかみが思わずひきつってしまうのを感じた。一体この弟は自分をいくつだと思っているのか。お前と同じ三十路を迎えようとしている成人男性だ。しかもこちらの方が僅差で兄なのにという思いは言葉にする前に飲み込んだ。長い出立の前にくだらないことで言い争いたくない。喧嘩別れはもうこりごりだ。なので俯きがてら小さく息を吐いてそれで終わらせようとしたのだが、そんな考えが顔に出ていたのだろう、双子座聖衣を纏ったカノンが困ったように笑うのが見えた。

「居ない間一緒に寝ろと言うのは間違いではないが、お前を子ども扱いしている訳ではないぞ?」
「…ならば何故?」

今しがた受け取ったばかりの肌触りのいい双子座聖衣のぬいぐるみを、ギュッと胸の前で両手で抱きしめる。確かにこれなら温かいし、独り寝の寂しさや寒さを癒してくれるだろう。そんなことを考えながら小さく小首を傾げてくるサガに、そういうところがあざといながらも可愛くて仕方がないのだという想いを飲み込んだカノンは、その肩に優しく手を置いた。

「冬場は日照時間が少なく落ち込むことも多い。そんな季節性が齎す鬱を軽減するにはぬいぐるみと添い寝するのが良いと聞いたのだ。お前はただでさえ無茶をするのに、色々とためこみやすいからな…」

肩に置かれた手がそっと移動して、柔らかくその頬に触れてくる。出来ることなら冬の間中、一緒に寝て些細なことで気を揉むお前の小さな降り積もる痛みを拭い取ってやりたいと、その表情と優しい手つきは顕著に語っていた。

「カノン…」

そんな弟を見つめながら、夜毎自分を抱き潰すお前がぬいぐるみなどという可愛いタマかと思いもしたが、それよりも強く、例えようのない愛おしさが突き上げてくる。

「…判った、お前がいない間はこの子に癒してもらおう」

だから早く帰って来いと、手に持っていたぬいぐるみをそっと傍らに置いたサガは、カノンの身体をぎゅっと抱きしめた。

「ああ、なるべく早く戻ってくる」

サガの隣で寝るのも癒すのも俺だけの特権だからなと呟きながら、繊細な心を持つ兄の大切な身体を、いない間の分を前借するようにカノンもまた強く抱き返す。
そんな双子を黙って見つめていたぬいぐるみは、己では役不足だが立派にカノンの役割を果たして見せると言わんばかりに、ちょこんとお辞儀をするように小さく傾いだのだった。



短い上に時期遅れも良いところですが、双子座ワンドロお題の”ぬいぐるみ”をカノサガ仕様でお送りいたしましたー。
黄金聖闘士の中でも最強のこの二人がぬいぐるみと関わる事態なんぞ、ロドリオ村の訪問ぐらいしかないのでは?と思っていたのですが、このツイートを見て「Let`sカノサガ☆」とネタが降臨\(^0^)/一気に書き上げてしまいましたw
というかカノンって兄のためなら何でも出来ると思うのですが、よくよく考えたら公式からしてそうだったことに気づいて、改めてカノサガ美味しいなと思う次第であります(^p^)

(2017/12/21)

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