「カ、ノン…その、」 「ああ?」 とっぷりと日の落ちたある夜のこと。 拗れに拗れた13年もの間、聖戦を終えて奇跡の復活を果たした後、様々なすれ違いを乗り越えて再び結ばれた双子の絆をより強固にするための儀式が、今、正に始まろうとしていた。 だが、その始まりはいつまで経っても訪れない。双子の弟であり半身であり一生を共にする伴侶になろうとしているカノンの様子を、サガは寝台の上に押し倒されたままで不安そうに見上げている。 それもそのはず、今現在のカノンは気だるげな表情を見せながら、サガに乗り上げたまま目を合わせようともしないのだ。 平素は執務の合間にサガがどんなに諫めても『今度こそ後悔しないように、少しでも時間のある限りお前に想いを伝えていきたいのだ』と言いながら絶えず愛を囁き、行動に移してきたカノンだ。それだけに、元来清かであるが故の繊細さを持つサガの心に不安のさざ波が立ったのは当然のことと言えよう。 双子であり男同士であり、それでも尚、今生は共に生きたいとカノンは言ってくれた。 その言葉に驚きはしたものの、自分は決して流されたわけではない。 だが、その気持ちをカノンと同じように自分は言葉や態度にして伝えてきただろうか? もしかしたら、カノンはうんざりしてしまったのではないだろうか。 後悔しないように時間のある限りとは言わないまでも、双児宮内の二人きりの時間に、カノンからの抱擁とキスを受け止めるばかりだったと今更ながらに気づいたサガは、これ以上弟の心に負担をかけまいと上から退いて欲しい言う意味を込めてそっとカノンの胸を押した。 「な…っ」 「え…?」 一つは戸惑いの声。もう一つはその戸惑いに戸惑う声。 一瞬の時差はあったものの、双子の声が重なったのはほぼ同時のことだった。 「いや、え、なんで?」 先ほどの気だるさは嘘のように慌てふためきだすカノンに、サガもまたポカンとする。 「いや、その…、乗り気ではなかったの、だろう…?」 そんなカノンの反応に当然のごとく疑問に思ったことを口にしたサガだが、改めて言葉にすることで一瞬忘れていた不安の芽が再び首を擡げてくる。 「っ!? そんなわけないだろう!」 不安そうに視線を逸らす兄の仕草と表情に、ようやく自身の失態を覚ったカノンはそのまま勢いよくサガの上に倒れ込み、その身体をかき抱いた。 「っ、だったら何故そんなに気だるそうだったのだ!? わたし、はてっきりお前の気が」 「そんなわけあるか!!」 肩口に額を押し付けているためくぐもった声だが、そこから先は言わせぬとばかりにきっぱりと否定するカノンに、サガの不安の芽はぴたりと成長を止める。 「俺だってなあ…、っ、緊張、してるんだよ…! ずっと、手に入れたくてたまらなかった相手と初めての夜だぞ!? 大事にしたいのに、今にも暴走しそうで…、」 「っ」 密着している箇所から伝わるカノンの分身の熱さに、サガは思わず息を呑んだ。 「だから必死になってセーブしていたのに、お前が、そんな顔を見せるから…っ!」 くそ、格好つかねえ!と吐き捨てたカノンだが、耳元にくす、と小さな笑い声が届き、笑うんじゃねえよ!と半ば自棄になって顔を上げたのと同時、サガの唇が自分の唇に押し当てられた。 「っ、」 それは唇の表面上だけをすり合わせるだけの、拙ささえ感じられるキスだったが、カノンの気持ちを余すところなく満たすには十分すぎる物だった。 「サ「ばかもの」」 掠れた声で愛しい天使の名前を呼ぼうとした瞬間、ばさりと切り捨てられる。 何だとこの…!ともう一度物申そうと口を開きかけたカノンだが、春の緑の恵みをふんだんに宿す瞳が潤みながらも微笑むサガを目の当たりにし、は、と言葉を飲み込んだ。 「私はそんなにか弱くなどない」 両手で頬をしっかりと囚われ、まっすぐに海の緑を宿す瞳を見つめるサガに、カノンは理性という壁に風穴を開けられたのをハッキリとイメージ出来た。 「大切にしてくれるのは嬉しいが、それで不安にさせられる…っんっ!」 皆迄言わせずに、主導権をこちらに移すため、健気さと芯の強さを兼ね備える誰よりも愛しい天使の唇を奪い取る。 「はっ、ん…く、ぅ、ん…」 瑞々しいそれを何度も堪能するため角度を変えて貪りながら、舌を絡め、吸い上げる度に小さく切なげに漏れる吐息に、崩された理性が更に木っ端みじんになっていくのを自覚できた。 「ぁ、カ、ノン…っ」 合間から聞こえてきた己を呼ぶ半身であり伴侶の声に、カノンが理性を保てていたのはそこまでだった。 ぐったりと寝台の上で横たわる天使の珠肌にはいくつもの朱が散っている。 息をしているかどうかわからないほど寝入ってしまうほど、初めてだというのにかっ飛ばしてしまった己を深く省みたカノンは、せめてもの罪滅ぼしにとサガの身体を温めるようにそっと抱きしめた。 「お前のせいにするつもりはないが…」 言い訳じみたことは、これから先金輪際兄に対してしたくはないが、これだけは言わせて貰いたい。 「ハッキリ言って反則だ…」 弱くはないと言い切った通り、サガは自分の全てを受け止めてくれた。 大切にしたいが故に暴走しないように必死だった自分のトリガーをやすやすと外し、恥じらいながらも全部受け止めてくれたのだ。 ”ぁ、カ、ノン…カノン…っ!” ”っ、だい、じょうぶだ…だから、カノン…” ”はやく…っ、おまえのものに…” 「~~~くそっ」 先ほどまでのサガの姿を思い返し、知らず顔が赤くなる。 それでも腕の中に収めたサガを起こしてしまうのは不本意ではなかったので、ゴロンゴロンとベッドの上でのたうち回りたくなる衝動はどうにか収めた。 「…お前はどれだけ、このカノンを夢中にさせるつもりだ」 自分の予想ではもう少し余裕を持てていたはずなのに、全くの番狂わせである。 本当に思い通りになってくれない奴だと小憎らしくも思ったが、そういう所も自分が惹かれてやまないところなのだ。 時が来るまでその身に悪霊を宿しながらも、たった一人で持ちこたえ続けた、この強く気高く凛とした兄。 あの頃の自分の立ち居振る舞いを悔いるからこそ、これ以上傷つけたくない、大切にしたいが故に憶病になっていた自分の気持ちを一笑に伏して軽々と掬い上げる、聖母のような包容力と天使のような大胆さを持つ半身。 そしてこれからは、死が三度自分たちを分かとうとも傍にいると誓い合った、唯一無二の伴侶となったのだ。 「愛している、サガ…」 昔も、今も、これから先も、ずっと翻弄されてやっても良いと心底願うほどに───…。 秘めやかながらも熱い想いを紡いだカノンの元に、ゆっくりと微睡みの欠片が降りてくる。 腕の中にいる愛しい存在を一層かき抱きながら、夢の中でも会えたならもう一度同じことを告げようと決意して瞼を下したカノンの腕の中で眠るサガの耳がほんのり赤く染まり、次の瞬間、これ以上ないほどに幸せそうな笑みを浮かべたのはほぼ同時のことだった。
BGM:ワンルーム・ディスコ(perfume) 元ネタはこちらの結果に出てきた、"カノンとサガの初めての夜は、気だるそうな様子の攻めが不安そうな様子の受けの身体中にキスマークをつけながら丁寧に抱きました。なんだか疲れたね。ぐっすりとおやすみなさい。"から。 毎度のことながらいい仕事をする診断メーカーさんに感謝しつつ書き進めていましたが、2019年の11月22日と11月23日に合わせてのカノサガという事でアップしてみました~。 というか拙宅のカノンの場合、サガという天使という名のご馳走を前にして気だるそうにするのはあり得ないと思うんですよね(^_^;) 常にOAMTを地で行くような弟が気だるそうになるのってどんな時よ?と考えてたら、思いの外ヘタレ純粋な弟さんになったという\(^0^)/ そして拙宅のお兄様も、天使のように恥じらう乙女なだけではなく、腹を括ったならとにかくどどーんとカノンを受け止めてくれるに違いない(*゜∀゜)=3 聖母のような包容力と天使のように大胆にという言葉はまさにサガのためにあるようなフレーズですよね(≧▽≦) 何にせよ、GTの中に少々のSPDRを混ぜたカノンと、OAMTでOAMSなサガの話は何度かいても楽しいですw (2019/11/23)
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