LCアイミーギガンティックフェザースフラップ秘話

「相変わらずえげつない技を使う」
第一獄の静けさが満たされた法廷にどこかあどけなさの残る声が響く。今しがた自らの判決に納得できないと暴れていた亡者を見えない糸で拘束し首の骨を折ってもう一度殺して、ふさわしい地獄に送り込んだばかりのミーノスは裏口から入ってきた来訪者に小さく溜息を吐いた。
「それはどうもありがとうございます。アイアコス」
迦楼羅王を名乗り悠々と空を翔ける三巨頭が一人。彼の軍は一糸乱れぬ”絆”によって、ミュルミドンもかくやというほどの統一を誇っている。
もう一人の同僚であるラダマンティスはどうだか知らないが、ミーノスは少なくともアイアコスの唱える”絆”について内心共感していた。信頼だとかいう不透明な物にすがるより、手っ取り早く調教してしまえばいい。そう考えるのは、自らもまた、傀儡を思うがまま操れる糸を持つ身だからだろうか。
「で、何か御用ですか?」
主神の器が覚醒しない以上、特に招集がない限りはここから動くつもりも相手をするつもりもないと言外に滲ませながらミーノスは問う。あなただってお暇じゃないんでしょうにという皮肉を込めるのも忘れずに。ひっきりなしにやってくる亡者が全て大人しく裁きを受けるようなできた者ばかりではない分、閻魔帳に乗っている分は後々に響かずに片付けたいのが本ミーノスの本音だった。
「っ!」
その時ミーノスの背後の空気が不穏に揺れる。閻魔帳をめくりかけていた白い指が止まり、開きかけていた法廷の扉が厳かに閉まる。振り返ったミーノスの藤色の瞳がまず捕えたのは艶やかな黒髪だった。
「うぐぅっ!」
次の瞬間、驚愕に見開かれた藤色の瞳の麗人は、冥衣の上から羽織っている裁判用に着用するローブの襟首に手をかけられそのまま持ち上げられてしまっていた。
「はは!いくら見えない妖糸とはいえ、懐に入られちゃあ技かける暇も余裕もないだろう」
苦しげに顔をゆがめるミーノスを、存外大きめの黒水晶の瞳を細めてからからと笑うアイアコス。だが掌に込められる力は冗談とは思えないほどの力が込められていた。ギリギリと首を絞めあげられていく中、コズミックマリオネーションで応戦しようにも、近距離では効果が薄い上に定まらない意識下では操ることなどできなかった。
「ぐっ、げほっ、げほっ!」
先ほど自分が殺した亡者と同じように殺されてしまうと危惧したミーノスだが、もう十分だと言わんばかりに手を離される。重力に従い床に落とされ、無様に尻もちをつく形になってしまったが、それを取り繕う余裕などなかった。ひゅうひゅうと酸素を肺に取り込みながら、何のつもりだと声なき声で生理的な涙をこらえながら睨みあげると、大胆不敵なガルーダはどこか得意げな顔でこう言い放った。
「お前のその顔、すごくゾクゾクする」
「っ! ふざけるな!」
今度こそコズミックマリオネーションをかけようと構えた瞬間、アイアコスは再び俊敏な動きを持ってミーノスの白い手を捕える。
「離せっ!」
がっしりと手首を抑え込まれそのまま床の上に押し倒されるミーノス。この下種がと水の膜が貼られた瞳が屈辱に歪められる様はアイアコスを非道く興奮させた。
人を食った笑みを浮かべて、意のままに人を、亡者を操る傀儡使い。しかし何とも儚げで、脆い姿をさらしている。
冥界の三巨頭とは言えどコズミックマリオネーションはどちらかと言うと暗殺向きの技である。正面を切って不意を突かれれば、そこいらのスケルトンにすら付けいれられてしまうとアイアコスは以前から恐れていた。自分の前だけでいい。プライドの高い冥界の傀儡使いのこんな姿が見られるのは。その純粋な衝動に沿っての行動だった。
「…おい」
「何だ!?」
捕えた手は離さず、馬乗りになったままのアイアコスにミーノスは吼える。黒水晶は藤色をとらえたものの何事かを思案していたのか、一瞬心ここに在らずの状態だった。にも関わらず手に込められた力はいっかな緩むことはなく、それがミーノスの神経を逆なでさせている。
「つぅっ!」
改めて力を込めて冥界の傀儡使いを法廷の床に縫い付けながら、アイアコスは、他の冥闘士に聞かれたら偽物なのではと疑われるほどの、らしくもない提案をミーノスに持ち掛けていた。
「俺の技、ガルーダフラップの基礎を教えるから覚えろ」
「はあっ!?」
馬鹿にするのもいい加減にしろと手ばかりではなくて四肢をもばたつかせるが、一回り近く違う体重が馬乗りになり、そこに天雄星の小宇宙が加えられてしまっている。どうあがいても動きを封じられたミーノスは最後の抵抗と言わんばかりにきつくアイアコスを睨目付続けていた。
「馬鹿にしているわけじゃあない。現にお前のコズミックマリオネーションの弱点は俺によって証明されただろう?」
「っ!」
悔しそうに唇を結ぶミーノスにアイアコスの興奮が高まる。しかしまだだ。まだ、この男を頂くには時が早いと気持ちを抑え込む。
「使いたくなければ使わなければいい。ただ、聖戦において弱点のはっきりしている技を後生大事に使い続けて返り討ちにあったなどとあれば、三巨頭の名折れ。お前ほどの男がそれを望むはずはないだろう?」
痛いところだが紛れもない事実を付かれて黙るミーノス。人間は本当のことを言われれば鬼神のごとく怒り狂うと言うが、ミーノスはそんな失態は晒さない。そう見越してアイアコスは手の戒めを解いた。
「それに俺はお前を失いたくはない」
こんなにも興奮させるお前を頂くまでは、という言葉を省いて伝えた言葉に、人形のように押し黙ったミーノスがぽかんとした表情になる。ああ、その顔もいい。
「…それも」
「うん?」
すっかりと怒りが失せた、どこか呆然とした体で、床に寝転がったままミーノスが問いかける。
「それもあなたが信奉している”絆”によるものですか?」

「いいや?
今言っただろ?ただ単に、俺がお前を失いたくないだけだ」

存外物分りが悪いグリフォンだと揶揄すれば、はくはくと何か言いたげに口を開閉し顔が薄紅に染まる。うん、やはり今ではない。
俺の持つ技を吸収させてから徹底的に調教する。頂くのは気が熟してからこそが好ましい。

「…良い、でしょう。あなたの口車に乗って差し上げますアイアコス」

だからさっさと上から降りろと言わんばかりに胸板を叩いて退かせたアイアコスに、今、改めて手を伸ばす。

「ただ、あなたの技を模倣するだけでは終わりませんよ。その覚悟はできているんでしょうねえ?」
「無論だ。ただ、覚悟ではなく後々の楽しみと言ったところだな」

飄々と言い放つガルーダに手を取られ起き上がる。今なら意趣返しのコズミックマリオネーションもかけられたのにかける気が失せていることをと自問自答している天貴星を盗み見ながら、頂いた後も出来れば関係を続けていきたいと、今まで感じたことの無い想いが生じ始めたことに天雄星もまた内心驚愕していたのだった。 

LCミ様がフラップ系の技を使ったシーンを見て「あ、これアイコが教えた奴や」とすんなりと納得した勢いで書いた話。
無印の方でのアイミは割と糖度が高いですが、LCはアイコの方がミ様より結構キレているイメージが強いので殺伐系に。









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