after birthday wine time

※ラダバレとカノサガ破局前提設定です。
苦手な方はご注意を!













































「そういえば先日はあなたの誕生日だったな」
聖域と海界、そして冥界に近い位置にそびえ立つは、双子座でありながら海龍でもあるが故、冥界との繋ぎ役であるカノンの私宅。その手狭なリビングにて、冥界の妖鳥は持参した物を取りだし、簡素な造りのテーブルの上に無造作に置いた。
「そうだが…これは」
長方形の箱にオフホワイトの包装紙に包まれたシンプルなそれを目にしたカノンの質問に、バレンタインは小さくため息を吐きながら呆れ混じりの声を上げる。
「前後の会話から、これがあなたへ贈る物以外の何に見えるのだ?」
「は?」
思いがけない言葉を聞いたような気がして、思わずカノンは間抜けた表情を曝け出す。
冥界のカイーナ軍の副官であるバレンタインとこうして寝食を共にするようになってからしばらくが経つが、彼とは特にこんな風に記念日に贈り物を贈り合うような仲では断じてない。
あちらは将の翼竜に、己は血を分け合った双子の兄へそれぞれ恋慕を抱いていたのだが、その想いを実らせ続けることも実ることもせずに朽ちてしまった。自分達はそうした関係がとことん不向きであるということに気づいたのが縁となって共に居るに過ぎない。
バレンタインにとってラダマンティスは、過去も今もそしてこれから先も敬愛する上司であることには変わりはないし、カノンにとってもサガは共にありたいと想う大切な半身だし、それぞれに還る場所がある。
だから辛うじて知り合い以上ではあるものの、友人とも言っていいのか微妙なラインのはずだった関係。その相手から誕生日プレゼントを贈られるなど夢にも思わなかったカノンは、しげしげと手に取ってその箱を眺め続けることとなる。
「開けても」
「もちろん」
しばしの沈黙の後にそう尋ねれば、淡々としたバレンタインの声に促され、丁寧に包装を解いていったカノンの目の前に現れてきたのは、対になったペアアロマワイングラスだった。
計算して施されているアロマラインはワイン好きにとっては外せない部分であり、このグラスに注がれたワインは、いかようにして魅力を何倍にも引き出されるのが見て取れるデザインだ。そしてもう一つカノンの目を引いたのはその色合いだった。光の加減によっては春を介する翠にも、海を介する翠にも見える控えめなその色彩。
華美さはないがシンプルで品の良いこの贈り物にしばし魅入っていたカノンだったが、不意に飲みきれなかったワインがまだ戸棚の中にストックしてあったことを思いだした。海界の者達から誕生日プレゼントとしてもらったそれらはまずはこの私宅で保存し、頃合いを見て双児宮に持って行ってサガと共に飲もうと思っていたが気が変わった。
「バレンタイン、まだ時間はあるか?」
「は?」
「あるのならば少々付き合って貰いたい」
バレンタインの返事を待たずにカノンは地下に降り、簡素なワインセラーの中からその中でも飲み頃だと思っていた一本を手にして戻っていく。
この優美なラインのアロマワイングラス。たった今これを贈ってくれたこの男の髪の色を思わせるワインを注ぎ、共に飲みたいと強く思った。
「いや、これはあなたと兄君が飲むように購入したのであって」
普段はあまり表情が変わらず大人びて見えるバレンタイン。その表情は、微かに困惑しており、年相応に見える。
「これは俺への贈り物なのだろう?」
「そうだが…」
「なら、この贈り物をどのように使おうと俺が自由にしてもいいはずだ」
そう言い放てば未だバツの悪そうにしているハーピーを繋ぎとめるために、ワイングラスをそこに置く。
「お前とこのグラスで飲みたくなった。ついでだからその時間も誕生日の贈り物として貰い受けたい」
にっと唇の端を吊り上げて笑うカノンにバレンタインは、そう言えば目の前の男は海神を誑かした者だということを改めて思い出す。
「全く、口が達者な上に図々しいことこの上ない」
「そういうお前こそ辛辣な割には俺に甘い」
そういうヤツは嫌いじゃないと喉の奥で笑いながらワインを注ぐカノンの頭の上に、身体に優しい素材であるマゼンタの液体を景気よくかけてやろうかとも考えたが、自分が選んだ翠によく映える液体を目にしてすんでのところで思いとどまったバレンタインは、気を取り直してボウルを持つ。

全く、どこまでも思い通りにならない。
だけど思い通りになってもらいたいわけでもない。

「…とりあえずおめでとうくらいは言っておく」
「それは心遣い痛み入る」

甘さの欠片のない言葉のやり取りとは裏腹に、柔らかくぶつけられる双つの翠のアロマグラスの音色が涼やかに響き、注がれたワインが微かに揺れる。それが密かに相手の心を和ませたことは互いに与り知らぬまま、二人はそれなりに有意義な時間を過ごしたのだった。










フォロワーM様からの影響でハマったカノバレ小説二つ目!
この二人は互いに大切な人が居て、尚且つそれでも寄り添わずにはいられない微妙なモダモダした関係がしっくりくると思います。
そのモダモダから一歩前進した感じの話でしょうか?
恋人では断じてないし友人ともいえない、それでも互いをそれとなく判っているけども大人とも言えない関係…。そんな言葉に出来ない二人が当家のカノバレ設定だったりします。

(2018/07/09)

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