私の身体を貴方が軽く感じるのは、きっと貴方が満たしてくれるから――・・・。
私のここにこれを咲かせたのは、この血の色が本当に貴方と同じ色なのかどうかを確かめたかったから――。
Pliable Pain
「ただいま戻りました・・・。」
「あぁ、お帰り。」
ワルハラ近衛女副官であるシドが、一人寝には寂しすぎるこの広すぎる屋敷に帰ってくると、そこには存在するはずの無い一人の男が彼女を出迎えた。
彼はシドと同じような淡い緑青がかる銀髪と、穏やかな夕暮れの様な、または角度によっては鮮やかな朝焼けの様に色彩が変わる緋色の瞳を持つ、正に鏡に映したようにそっくりな容姿を持つ青年だった。
違う事と言えば、シドと彼の背丈とその性別位であり、彼はその背丈に見合うほど逞しい野性味に満ちた雰囲気を醸し出していた。
「良い子にしてましたか・・・?」
くすくすと笑いながら部屋の出入り口に外套をかけているシドに、青年は自分に宛がわれた部屋の広さにうんざりだと言わんばかりに軽く伸びをしながら立ち上がり、背を向ける彼女に近づいていき、彼女の痩せぎすな身体に見合う造りの鶏がらの様な腕を引っつかんだ。
「あぁ、ここで飼いならされるのにも大分慣れた所だ・・・。」
その身に纏う、清廉な彼女に見立てて作られたと勘繰る位シドに似合う白いワルハラ近衛の制服の前ボタンを引きちぎる程の強さで外していくと、胸布など必要ないほど華奢な白い身体が現れていく。
そして後ろから捕らえた彼女の身体をかき抱きながら、腕から衣服を脱がせていくと、二の腕から肘にかけて幾筋の紅く綺麗に腫れ上がった線上の傷の上に己の鋭く伸ばした爪を立てた。
「ふぁ・・ぁ・・・。」
ぷつん・・・と、肉が密やかな音を立て、血が出るか出ないかの微妙な力加減で、寸分違わないその位置をなぞられて行く。
彼の長い指でたやすく掴まれる細い手首はそのまま手錠の様に捕らえられ、シドはその背を彼の逞しい胸に預けながら、同じように彼の指が回れば簡単に折れてしまう程細い首にある喉から、掠れた様な、まるで媚びる猫の様な甘い声が上がる。
「もう、これだけで悦くなってるのか・・・?」
その一種の絵画の様に描かれた紅いインクで、深く浅く描かれた彼女の自傷を、彼は薄くなるはずのそれを、自身が自らが付けたように抉っていくのを毎夜毎晩繰り返していた。
「あぁ・・、バ、ド・・・っ」
呼吸を乱されたシドが彼の名前を解き放つと、青年-バド-は一度シドから離れると、その細身の身体を半回転させて、自分達の世界と、一歩外に出てしまえば彼女と自分の距離を見せつけられる異界を唯一隔てている扉に押付けた。
「あ・・・っ」
立たされたままやや乱暴に下肢を覆っていた布と下着を剥ぎ取られた、文字通り一糸纏わぬ姿になったシドの足を軽く広げたバドは、若木の様な滑らかな肌の片足をその肩に引っ掛けるように持ち上げて、何時も涙を流しながら自分を甘く求め誘い込む蜜泉に唇を寄せていく。
「あぁ・・・あー・・・っ」
滅多に素肌など曝さないシドの秘められた姿態を唯一見つめる事を許された彼の舌が、狙い定めた場所に触れるたび、固く触れ上がり勃ち上がっていく小さくも熱い赤いざくろは、糸を引くほどに甘い蜜を滴らせ始めバドの舌に甘美な味わいを齎せていく。
「やぁ・・ぁあぁ、んっ」
びくんびくん・・・と、その愛らしい小さな胸を揺らせて、自らの蕾をその熱い唇と舌で覆われて開かされていく悦びと本能とそして僅かなる恐怖に打ち震えていくシドの裸体。
「もっと・・、もっとしてぇ・・っ!」
自分の唇から漏れた言葉の意味を覚る余裕も無いまま叫ぶ彼女に、バドは苦笑しながら、自分の後頭部に指を絡ませて強く押さえつける彼女の望むがままに、自らの唾液とその甘い甘い蜜を絡め合わせた音を奏でながら、シドを追い上げていく。
「あぅ・・っん・・・、ぁあーーっ・・・・!」
ざぁっと、一陣の白い霞を混ぜた風が吹くかのように、思考を塗り潰されたまま、しなやかに裸体をくねらせてシドはバドの与えられた快楽に呑まれていった。
「あ、ん・・、ぁふ・・・っ!」
「ほら・・・、シド・・・。ちゃんとそれに触って?」
ちゅぷ・・・、くちゅ・・ちゅく・・・。
「は、い・・・。あぁ・・んっ!」
先ほどと引き続き、音を立てられながら蕾に湧く泉の中を、その長い指でかき混ぜられていく快楽に身悶えながら、シドもまたバドの熱くそそり立つ自身に滑らかな白魚の様な指を絡ませては精一杯にその雄を刺激する。
「そう・・・そうやって・・・っく・・・。」
うっすらと笑みを模りながらシドを労うバドに対し、彼女もまた嬉しそうな表情で悦びを表していく。
鏡像の様な出で立ちの男と女が、立ったまま向かい合う形で互いの恥所刺激しあう光景は、恐ろしいほどの淫美さと背徳を浮き立たせている。
それでも、シドとバドの器は紛れも無く違うものであり、バドはシドの中に、そしてシドはバドを受け入れる形を持って生れてきたのは紛れもない事実であって。
これまで特別、女として生れて来て良かったと思うことなど取り立ててなかったのだが、今こうして彼を受け入れる事のできる身体を持って生れでたことに初めて感謝を捧げた事を噛み締める。
「ぅあ・・・っんんーっ・・・」
バドの唇が、先ほど鋭く爪を立てて彩ったシドの腕に刻み込まれた傷に舌先で触れていくと、彼女の身体は更なる高みを望み始めていく。
「シド・・・。」
低く甘く自分を呼ぶその声に誘われる様に、シドは己の唇をバドの唇に重ね合わせて、強請る様に舌先を貪り始める。
「ふ・・・ン、ぅ・・・く・・・」
いつの間にかバドの指が充分に潤ったシドの中から引き抜かれており、蜜でぬめった指先がまた紅の彩の線上なぞりながら、合わせた唇はそのままで、脈打つ熱い自身をシドの体内宇宙に侵食を始めて行った。
「んぁ・・・あぁ・・・あー・・・っ!」
立ったままで、ずぶずぶと柔らかく締め付けられる肉壁に根元まで誘い込まれる。
その内部は、バドが奪ったあの日以来、入り込めば入り込むほど得も言わぬ快楽を生み出して、蕩けそうなほど芳醇な香立つ熱で彼の全てを支配する。
「もぅ・・・・逃げられねぇよ・・・。」
頭の芯が痺れていく中、バドはシドの身体を優しく床に組み敷いて、彼女の両脚を広げて抱え上げ、シドもまた紅の彩の両腕を逞しいバドの身体にそっと回す。
「あ・・・・ぁ、んあぁあっ・・!バ、ド・・・っ!」
そして向かうは愛の最終形態。
シドの奥の奥にまで突き入れていくバド自身は、更に硬さを増して、灼熱にまで滾る凶器となって支配者である彼女の全てを狂わせて行く。
「ああー・・・ッ、ぅあぁ・・・!」
息をつくまもない程に喘ぐ唇と、滑らかな薄紅に染まる白雪の如くの肌。
決して豊満とはいえないシドの胸の、桜色に染まりぷつんと小さく固く立ち上がる突起に、バドは指を挟めて荒々しく揉みしだいていくと、彼女はますます甘い嬌声を上げて体をくねらせながら内部にいる彼を締め上げていく。
「や・・ぁあ・・あぁあ・・・っん、あぁっ」
その反動でバドはますます彼女の中にその硬さを増して行き、桜色の突起を口に含みながらシドの細い腰を両手で掴みあげて、彼女が逃れられない律動を繰り返す。
「も・・・っ、あぁあっ!もぅ、だめぇ・・・っ!!」
頭を左右に振りながら、絶頂を訴える彼女の中に出来るだけ居て、その中に熱を放出したく思うバドの本能の中に僅かに残る理性が、ギリギリのところで何時もブレーキを掛ける。
それが幸か不幸かは未だに判らずも、ただこれ以上彼女を自分の手で堕とすことだけはしたくないだけで。
「あぁあぁあっ!にい・・さ・・・っ」
「・・・シ、ド・・・っ!」
迸る欲望を受け止めるように開いた、禁忌の言葉を紡いだ艶やかな妹の唇にバドは自身を突っ込んでその全てを放出させる。
そしてそれを恍惚とした表情で受け止めるシドの身体は、陸に上がった人魚の様にヒクンヒクンと小さく痙攣を繰り返していた。
「もう、逃げられないな・・・。」
もう一度、先ほどの閨の最中の言葉を、ベッドに横たわりながらバドは言う。
「・・・誰から、ですか?」
ふと、情事の跡を散らす身体を半分だけ隠すようにしてシーツを胸元にまで引き上げながら、シドは兄の顔をくす・・と笑いながら覗き込む。
その腕には相変わらず、柔らかい荊の様な傷跡が散らばっており、折角こじ開けた傷跡はまた引き攣れて、一晩かけて塞がりかけようとするのだろう。
「私から逃れようなんて、許しませんよ・・・?」
つい・・と伸ばされた白い磨かれた爪で、軽く顎を持ち上げられるが、バドはその手を優しく取って抱き寄せると、その枯れかけた腕の荊に口付けを施した。
「俺じゃない・・・、お前が、だよ・・・。」
くく・・・と、どこか歪んだ無邪気な残酷さを含んだ笑みを浮かべる兄に、シドは一瞬面食らうが、それでもすぐにそれは愛おしく嬉しそうな笑顔に変わり、寝そべる兄の上にその身体を圧し掛ける。
「逃げるつもりなんて、無いですよ・・・。」
全体重を掛けられても殆ど重さを感じないほどの身体は、彼との行為以外に何も中身が入っていないのではないかと危惧するほどに軽いもので。
「こんな傷だらけのお前を、俺以外の誰が受け止められるって言うんだ・・・?」
彼女が自分自身で彫り付けた自傷の刺青に改めて掌を添えると、シドもまたそのたおやかな手を重ね合わせてくる。
「じゃぁ、もっと・・・。」
耳元で囁かれる甘い吐息に痺れていく。
「貴方の手で繋ぎ止めていて・・・。」
あなたを求めて彫り付けたこの傷跡を、もっとあなたの手で咲かせていて・・・。
「あぁ・・・・。」
自分にだけ見せるその妖しの如くの魔性に魅入られたときから、俺はお前に飼い殺されることを望んだ――・・・。
その執着に近いほどの恋心で二人は、毎夜秘められた絆を深めていく。
その想いは、選ばれる呪いに捕らわれた妹が忌まれた兄を想い、その腕に祈りを込めて切り裂いた祈りの荊が、また彼の手によって赤く腫上がり血をこぼし続けることによって――・・・。
BGM:COCCO『ブーゲンビリア』より“首”
戻ります。
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