恍 惚 の 庭
赤 痣 の 咎 人 達 へ・・・
「・・・それ・・・・。」
パサリパサリと一枚ずつ服を脱いで、寝台の脇に脱ぎ捨てている人物の方に近付いて行ったバドは、相変わらず痛々しく引き攣れた赤い傷痕にそっと手を伸ばして触れていた。
「・・・痛まない・・・のか・・・?」
消え入りそうな自分の声に、我ながら間の抜けた問いかけをしたと思って後悔したのだが、そんな彼にシドはそのような感情をおくびも持たずに、彼に向き合いながら少し哀しげに微笑んだ。
「・・・いいえ・・・?大分時間が経っているモノばかりですし・・・・、刺青みたいなものですから・・・。」
多分それは何の気なしに言ったのだろう・・・だが、今度はバドの方がその言葉を聞いて哀しげに瞳を伏せた。
「・・・すまない・・・。」
刺青・・・それ即ち、自分への罪悪感と自己嫌悪、ありとあらゆる負の感情をこの世界に生まれ堕ちてしまうことを呪って、自分で彫り付けていたこの妹を、バドは何をするでもなくただただ蔑みを持って眺めていただけで、そんな確かな真実を何でもないことかのようにさらりと言ってのけるシドに対して、改めて自分の愚かしさを思い知らされた。
「・・・・そんな・・・。」
困惑しながら瞳を兄の方へ向けたシドはふと、バドの首筋に刻み込まれている赤い痣を見つけて不意に手を伸ばした。
自分の記憶違いで無い限りは、こんな傷はあの聖戦ては憑いていなかった筈なのに・・・。
「これ・・・。」
どうしたのかと疑問を浮かべてくるシドに、バドははっとして目を見開いて、思わず脱ぎかけていて肌蹴たまま身に纏う服の襟をかき合わせてそれを隠した。
「何でもない。」
「だってそれは・・・。」
鋭く磨がれた刃・・・それこそ正に自分達が持つ伸ばされた爪の様な・・・で、首筋の血管を切り開かれたと思う程の裂傷を負わされるなんて、兄ほどの実力を持つ者ならば考えられないと、シドはそんなわけ無いでしょうと口を挟むも、バドは静かに横に頭を振る。
「お前は何も知らなくてもいい・・・。」
そう優しく・・・、だがもうこの話には触れるなと言うような強制的終了を促す言葉に口を噤んだシドに、バドはこれ以上無いほど優しく微笑みながらそっとその身体に触れるため手を伸ばしていた――・・・。
幾つもの尊い犠牲と悲劇を生み出した先の聖戦にて、北極星ポラリスのヒルダの聖なる祈りによって天上に昇った御霊を呼び戻された八人の神闘士。
各々蘇ったばかりの肉体を押して、このワルハラ宮殿に今度は純粋に・・・中にはそうでないものも居るのだがそれは置いておくが・・・、この地を治める神に選ばれた聖巫女に仕える為に戻って来た。
バドとシド・・、最も忌まれる異性の双子・・も例外では無く、二人はまるで遥か昔に、禁断の実を食べたが為に楽園追放の罰を受けた男女の様に互いに寄り添うようにしてここへ戻って来た。
兄のバドは、今まで辛い想いばかりをさせてきたシドに対し、あの世で一緒になろうと自害を計ったのだが、結局はこの世でやり直せる切欠を与えてくれた事、そしてシドは誰よりも想い焦がれていて近くに居るはずの、遠く離れていた兄をこの傍らにまでようやく取り戻せたことを、心の底から慈悲深い聖巫女に・・・、
そしてこのような苦痛に満ちた仕打ちを与えた老神・オーディーンに心底感謝の念を捧げたのであった。
――・・・あのような令を下されるまでは・・・。
しばらくは蘇ったばかりの身体を休ませる事と言うヒルダ様の命令により、それにしたがっていた各々の戦士達・・・、バドとシドは二人一緒の部屋で今までの溝を埋めるようにして寄り添って語り合っていた。
この間にバドは今まで妹の背後から見続けていた両の腕に散らばる腕の傷や秘められた行為について何も問わずに口にも出さず、シドもまた以前のような男物の長袖のシャツを着ていたためその傷については自分からは語ろうとはしなかった。
だが今まで離れていたとは言え、とっくに成人になっている男と女を一緒に部屋にするだろうか・・・、それにヒルダ様だけはシドの本当の姿を知っているはずなのに・・という疑念はこの時バドの中にはまだ無かった。
それを訝るようになったのは、ミザルの神闘士の影でしかなかったアルコルの神闘士であるバドの存在をヒルダ様の口から他の神闘士達に告げられた夜の事。
バドはそっと自室から抜け出して、昼間人目を避けてヒルダ様に人払いをしてもらうように頼み込み、今晩そこに忍んで行ったのだった。
「夜分遅くに申し訳ありませんヒルダ様・・・。」
「いいえバド・・・、それよりも貴方のお話とは・・・。」
「は・・・。」
謁見の間には火が灯されているとは言え、昼間とは比べ物にならないほどに冷え込んでいて、バドは防寒と顔を隠すためにマントを羽織って来ていた。
いくら認められたからとは言え、まだ新参者の、しかもつい最近までは影でしかなかった双子の片割れが堂々とヒルダ様の前にこんな夜更けに訪れる現場などを見られて、自分とシドにおかしな噂を立てられても困るが故。
その冷え切った、磨かれた石の床に膝をついて頭を垂れてバドは用件を切り出した。
つまりは、影でしかなかった自分が、忌み児としていた双子の片割れである自分がこうして光ある場所に出ることが出来たのなら、シドもまたその鎖を・・・、即ち男女としての忌み児の因習も断ち切る為に力添えをして欲しいと。
「・・・それは・・・、出来かねます・・・。」
だが、不意にヒルダ様のアイスブルーの瞳が揺らいで悲哀に満ちた眼差しが下に落とされることで、バドは愕然となる。
「何でですか!?」
感情に任せて声を荒げるのも構わず、バドは捲くし立てた。
「俺はずっとあいつが苦しんでいるのを見続けてきたのです!この俺が認められたのならあいつにだってその権利はあるはずだ!!」
思わず地上代行者である彼女に対し、その両肩を揺さ振って食って掛かかろうとするも、それはギリギリの理性で押さえつける。
「ですがバド・・・。シドはずっと今まで“男”としての生活を強いられてきました。・・・その絶望は“女”としてそのまま偽る事無く暮らしてきた私にとっては想像を絶する事だと言うのも判ります・・・。」
「だったら尚更・・!」
「でもね、バド・・・。貴方の言うようにシドが真実を告白したならば、“男”として彼女が築いてきたものを失う可能性だってあるのですよ?“男”としてのシドしか知らない彼女の友人や部下達のその信用や環境・・・。周りにだって受ける衝撃は大きくて、下手をすればシドは全てを失ってしまう・・・。それに・・・。」
彼女はそれを本当に望んでいるのですか?
「っ!」
その一言ににバドはグッと言葉に詰まった・・のと同時、やりきれない怒りが沸いてきた。
沸々と湧き上がってくる煮えたぎる心のマグマは、その口でお前はシドの影だと自分を貶めて煮え湯を飲ませ、そして自分をシドと同等の立場に引き上げてくれていても、何時も自分の願いは叶えて等くれない。
例え正論だとしても、相手はまだ少女であり、そして自分達の命を蘇らせた偉大なる神に選ばれた聖なる巫女だとしても、一度火のついた怒りは押さえつけることなど出来ずに知らず高まっていく。
「ヒルダ様の仰る通りです、バド。」
「っ!?」
だがそのとき、凛とした声が吹きぬけた聖堂に静寂を切り裂くように響き渡ると、カツカツと言う靴音を立てて、今バドが忌み児という烙印を撤去しようとしているその本人が近づいてくる。
「ヒルダ様・・・、兄の無礼申し訳ありません。」
さほど背の変わらない・・・その差は4~5cm程度の・・・兄の横に並んで、左胸に隠された傷のある腕を当てて恭しく頭を垂れるシドをバドは呆然として眺めている。
そんな双子の兄妹を、ヒルダ様もまたやりきれない気持ちで哀しげに潤む双眸で見つめていたが、そんな彼女の白い手を、シドは労るようにして同じように白くたおやかな手をそっと重ね合わせた。
「本当は、男子禁制であるこの場所に全てを知った上で留まらせていて下さったのはヒルダ様です・・・。そして私の最も大切な兄を、回り全てに認めさせて下さった。それ以上に何を望むというのでしょうか・・・。」
「シド・・・。」
嘘だ。
そんなのはでたらめだ。
だって今、ヒルダ様に優しく微笑むその綺麗な顔は、あの頃に見ていたものと同じで表面だけの乾いたそれでしかない。
「これからも兄と共に・・・、あなたとこの祖国に尽くしていく事を改めて誓います。」
シド・・・!
凛とした響きの・・・女性にしては低さを滲ませるその声に含まれているざらついた乾きの不協和音に貴女は気づいているのですかヒルダ様――!!
「・・・・・・・・・有難う・・・、シド・・・、そして御免なさい・・・・バド・・・。」
玉座に座って俯くこの幼さの残る、ある意味神の生贄にされたこの聖巫女のアイスブルーの瞳に翳りが宿り、涙が溜まっていた事を、呆然とシドだけを見続けていたバドは最期まで気づいていなかった――・・・。
「「・・・・・・。」」
無言のままで自室に引き上げた二人。
「シ」
「・・有難うございます・・・。」
「え・・・?」
重く立ち込める沈黙を破ろうとしてバドが口を開きかけたと同時、思いもよらないシドの言葉に振り向くと、彼女は先ほどと同じような綺麗な・・だが兄の眼から見れば一目で仮面だと見破られる笑顔を貼り付けていた。
「私のためを思っ・・・、て・・・の・・・・っ」
「っ・・シド!」
だがそれは、バドの前では長くは持たずに、まるで突如ぐずつき始めた空から振る雨の様にして、ぽろ・・とその夕暮れは潤みだし、堰を切ったように涙が溢れ出す。
「シド・・・!!」
そんな彼女をバドはたまらずに、衝動的にその華奢な身体をかき抱いていた。
「・・・っく・・ぅ・・うっ・・・ぇえ・・・っ!」
そのまま崩れ落ちるようにして座り込むシドと共にバドも床に座り込んで、向かい合う形で抱きしめ合う二人。
バドの耳元で、必死に押し止めようとする嗚咽と鼻の啜る音と、肩に滴り落ちる幾滴もの綺麗な雫。
抱きしめている手に力を込めながら、バドは先ほど以上の怒りと絶望を感じていた。
畜生、畜生!畜生!!
何でここまでシドだけが追い立てられる――!
一体この国は、人一人の存在よりも何をそんなに重んじる――!?
そんなに俺達が悪いというのか、ただ男女の双子として生れたそのことがそんなにいけないことだと言うのか――!!
この時バドの中に芽生えさせた・・・と言うよりも、あの聖戦の折から息づいていた感情が湧き上がる様々な感情の働きかけによって一気に覚醒したと言ったほうが正しいのかもしれない。
それを何と言うものなのか、何と名付けて良いものか、彼はまだ理解出来ないままで、しゃくり上げているシドの背を優しく撫で続けていた。
やがて時間だけは昏々と流れて行き、夜の闇は更に更け、しんとした闇の頃にようやく涙が収まったシドに、バドは行動を起こす。
「シド・・・。」
一度軽く身体を離して、その目尻にたまる涙を吸い上げる為に唇を落とすと、途端少しだけ身を震わすシド。
「ん・・っ」
その唇がそのままシドの頬に降りて行き、そこに軽く口付けを施して、小さく戦慄く薄く桜色に色づいた二枚の花弁に己のそれを重ね合わせた。
「ぅ・・ん・・・」
びくん・・と身体を震わせてもシドは抵抗を示さずに、涙で温かく濡れた瞳は閉じたまま、兄の口付けを受け入れていた。
触れるだけの口付けは、ゆっくりと・・だが段々と燃え上がって行く青い焔の様に、何時しか互いの唾液と舌の絡まる音だけが静かに二人の耳に届き始める。
「んっ・・ふ・・・ぅ・・っ」
そして互いに息をつけなくなった頃、密着させている身体はそのままで、重ねた唇を離すと、儚い夢の跡の様にか細い糸が銀に煌きながら双子を繋いで消えていく。
「・・・・・・・。」
じ・・っと見つめてくる、だがその行為に怯えも警戒心も感じさせないシドの視線を真正面から受け止めながら、バドはその頬に手を添えてこう切り出したのだった。
「お前の全てを俺に解放して欲しい・・・。」
その言葉に、シドは当然だと言わんばかりにこくんと静かに頷いた。
「っ・・ぁ・・ぁ・・・っん」
自らの手でするりと脱ぎ落されて、曝け出した無数の赤い荊の花を咲かせるシドの腕に舌を這わせながら緩く伸びた爪で抉るように刺激を加えて行くと、シドは切なげに瞳を歪めて子猫の様な喘ぎをあげる。
滑って行くバドの舌先に伝わるは、歪に塞がった傷の形と、かさぶただらけの偽りの皮膚で覆った赤が齎す血の香。
誰にも触れさせた事もなく、また誰も知る由も無い、彼女の体に自分だけを覚えさせる為に、バドのもう片方の空いている手が、寝台の上に座り込む彼女の肌蹴た華奢な胸で主張するぷつんとたち上がり始める桜色の頂にそっと触れていく。
「んっ・・・」
降ったばかりの新雪の上に落とされた淡い色づきの果実の様な初々しさを醸し出すそこを、バドは優しく摘み上げながら、指と指の間にそれを挟めて大きく筋張った掌で覆い隠すようにして揉みしだいていくと、シドは身を僅かに捩らせながら先程よりも甘く切ない声をあげ始める。
「はぁ・・・ぁっ、ん・・・・ぁ、・・バド・・・」
そして腕にあった唇も反対側の突起に辿り着かせて、そっと口に含みながら、ちゅう・・・っと吸い上げては舌先で転がしながら甘噛むと、シドの赤い両の腕は震えながら本能的にバドの頭を、先をせがむようにかき抱く。
「バド・・ッ、バ・・ド・・ぁあ・・っ!」
初めて男がその肌に触れたとは思えないほど敏感に感じ始めたシドを、バドは訝るでもなく、ましてや軽蔑するでもなく、ただ彼女が望むがままの快楽を与えていく。
しばらくそうしていた後、やがて彼女の胸から顔を離したバドがシドの座り込む上半身を優しく押し倒していくと、永遠に封じられる事を科せられた戒めの秘所に手を落としたとき、シドは初めて意を唱えた。
「ま・・って・・・。」
「あ・・・」
その声で、思わず我に帰ったバドだったが、シドは双子特有の察しで違う・・とか細く呟きながら、恥かしげに頭を横に小さく振った。
「わたしも・・・にいさんと一緒がいい・・・」
「ん・・っ、ふ・・っく、んぅ・・ん」
逞しい兄の肉体の上に跨りながら、躊躇い無くそそり立つ彼の性に手を伸ばして口に含んで高め始めるシドの技巧は、初めてにしては上出来だと言わんばかりのそれだった。
だがそれも、背後からの傍観の日々、彼女がどれだけ己を求め続けていたことを知っていたバドは、そんなくだらない考えに思考を及ばせる事も無く、己の顔の真上にある彼女のその入り口を長い指で押し広げながら、既に誘うように震えている一番敏感に感じる部位に舌を這わせ始めた。
「んんっ!・・ふ・・、ぁんっ・・・」
その途端、触れられた部分から電流が突き抜けていくのではないかと言う痺れる感覚がシドの全身を駆け巡り、反射的に浮き上がる細い腰をがっしりとその両手で押さえ込み、まずはその熱く熟れ始めている肉の果実を丁寧に味わいだす。
「ぁッ!・・んく・・っ、んぁっ・・・、んぐ・・・っ!」
舌先で軽く突いてはほじくるように動かして、唇全体をあてて揺すって、時には歯を立てて甘噛みながらと様々な形で刺激を加えて行くと、じっとりとした蜜を滲ませる、そのぷくりとした赤い実の皮を、腰に添えていた手をそこに持って行って剥ぎ、震動を与えながら直に触れてやる。
「あぁぁ・・っ!んく・・ぐ・・っ・・んっ!」
初めて彼女に齎していく快楽に、頭の中が白くなり始める妹に、バドはそのまま愛撫を続けながら、そっと彼女の最も忌まれるべき蜜口に己の指を突き込んでいく。
「ぁ・・っ!」
いくらそこに白い栓を詰め込んでいたとは言え、初めて生々しい他人の体温がそこに触れた異物に引き攣れた声を上げて一瞬びくんと跳ね上がるシドの内部は蕩けそうなほどに熱く、しっとりと濡れていてそれで居て柔らかく狭く吸い付いてくる。
「んぅ・・はぁ・・あぁっ・・!」
思わず兄の性を銜える事も忘れて手を添えたまま開いた唇で喘ぎ始めるシドの、違和感を訴える内部に銜え込ませた二本の指を赤いざくろをひたすらに弄りながら責め続けるようにして、ゆっくりとだが強弱をつけて出し入れを繰り返す。
「はぁ・・ぁあっ!ん・・んぐ・・んんっ」
そうすることによって、Gスポットに当たって段々と開発されるシドの内部は、バドの指を得も言わぬ柔らかさで締め付け始め、思わず恍惚としながらバドもその動きを早めていく。
「んぁ・・んっぁ・・ぁあっ!・・いぃ・・っ、きもちいい・・っ」
そのあまりの気持ちよさにシドも、またこの中に兄を受け入れられるようにと、懸命にその性を唇だけではなく白い手で根元を優しく扱きながら奉仕をバドに返し与え始めていく。
「ん・・ぅ・・シド・・ぅ・・っ!」
「ん・・ぁあっ、は・・ぁあ・・、バド・・っ!」
けだものの様に絡み合い相手だけを貪っていくその光景は、何とも淫らで哀しくそして美しい。
この狭く、拙い箱庭に異なった性ゆえに忌まれて引き離された半身を舐めあい求め合うその音が、段々と二人の身体を絶頂に追い上げていく。
「や・・あぁぁっ、だめぇ・・ッ!あああっ」
「ッ・・シド・・っぅぁ・・っ!」
白く点滅する思考そのままに、バドはシドの手と顔に欲望を放出し、シドは兄の上で身体を大きく痙攣しながら甘い蜜を滴らせながら同時に達して行った。
「はぁ・・ぁあっ!あぁあ・・・っ」
息を荒げていたシドの身体を抱き起こして、そっと仰向けにして両脚を抱え上げたバドがゆっくりとその中に己の性を埋めていくと、先ほど度は打って変わったようにその声には苦痛が入り混じっている。
「・・・シド・・ッ、すまない・・っ」
先ほど指を締め付けていた柔らかい肉壁は、質量もそれとは比べ物にならない性に拒絶するようにしてきつく縮小し始めて、その白い太股を伝う鮮血にバドはその身を引こうとするも、シドは意思表示する為に大きく涙交じりの顔を横に振り、赤い腕を伸ばしてバドの頬に手を当てた。
「いい、の・・・っだいじょ・・ぶ、・・だから・・・」
わたしをあなたの全てで満たして・・・
苦痛を押し隠した吐息き混じりの声で囁いて、兄のがっしりとした首に両腕を移動させていくシドに、バドは感嘆としながらそっと瞳を閉じると、その唇に何度目かのキスを落しながら、シドの奥を開いて行く様に動き始める。
「あぁっ・・・んっ・・あぁあ・・っ!バド・・・っ!にいさ、ん・・!」
片手でシドの身体を抱きしめて、もう一方は先ほど以上の気持ちよさを感じさせたいと、結合している部分を飾るようにしてたち上がる、むき出された実を指先で軽く摘んでは押しつぶすようにしながら腰を押し進めて行くと、シドの内部は再び甘く、更に花開いていく。
「あぅっ・・あっ・・あああ」
諦めていた悦びを、他でもないずっと欲しく想っていた男に開かされていく歓びにシドは浸りながら、更に強くバドにしがみ付いてその動きに身を任せている。
そしてバドも、偽られ続け、重く圧し掛かる因習と言う名の悪魔に蹂躙され続けていたシドの存在全てを手に入れて、受け止めようと、彼女の中に入っている己の性でシドの性を満たすためにその内部を穿つ震動を早めていく。
散り散りに引き裂かれた赤い腕と、首に巻きつく赤い縄。
何が罪だ、何が禁忌だ、何が何が何が―――!!
「シ、ド・・・!おれだけだっ・・・・お前は・・俺・・が・・・っ!」
「わたしも・・・っ、あぁっ!・・私もあなただけ・・っ!」
うわごとの様に繰り返す、喘ぎ交じりの愛の告白と、肌と肉とが交じり合いぶつかり合う音と、寝台の軋む音がその箱庭いっぱいに響き渡り、やがて二人はこれ以上にない程に深く結ばれて再び達そうとしていた。
「ああっ・・く・・っ、バ・・、ド・・きて・・っ」
「ばか・・っ、それは・・っ!」
しかしシドの奥まる部分に自分の性を吐き出すのは流石に躊躇うバドに、妹は赤い両の腕の拘束を解いて、揺さ振られながらも己の唇を白い指で指し示す。
「ぜんぶ・・ちょぅだい・・、ここに・・・っ」
全て強請りつくすその表情に、バドは堪えきれずに、シドの内部から性を抜き出し、戦慄いているその唇を先端でこじ開けて後頭部を押さえつけて、文字通り全てを彼女に与えていく。
「んぐ・・ん、ぐぅっ!」
どろりとした断続的に放出される白い熱が、口内にねっとりとした生ぬるさが喉に粘りついてむせ返りそうになるも、シドは唇の端から僅かに白さを滲ませただけで、全て体内に兄を取り込んでいた。
「つらかったか・・・?」
「・・・・いいえ・・・?」
ぐったりとして二人横たえるベッドの上にて問いかけられた兄のそれは、何を指し示すものか範囲が広すぎたが、でも今のシドには何も辛い事は無かった。
「・・・うれしかった・・・。」
「・・・そうか・・・。」
先ほどまで見せてた仮面の微笑ではなく、心底嬉しそうに笑うシドにバドもまた吊られて微笑む。
「全て否定されても、もう良いんです・・・・。」
投げやりにも聞こえるその言葉は、しかし兄を真っ直ぐに見据えるシドの瞳でそうではない響きを持つ。
「・・・だって貴方が受け入れてくれたから・・・。」
赤い腕を伸ばして、その首筋の赤い裂傷に触れると、彼の手もまたそれに触れる。
「・・・お前を受け入れる世界はここだけだ・・シド・・・。この傷に誓って・・・。」
そう言ってバドの指先がシドの荊を滑っていくと、シドはまたひくりと身体を震わせる。
「じゃあ・・・その誓いの証として・・・」
この痕をずっと貴方が咲かせ続けてください・・。
いずれこの傷痕も日がたつにつれて回復する為に再生していくだろう。
だが、それをシドはこの夜にそれを拒み、兄に咲かせ続けることを望んだ。
結局は何一つ変わることなど無い、偽りの世界の中で、ここに開く傷痕とここにある互いの存在だけが真実であると悟った初夜。
結局は二人はこの世界では、放り出された異端の忌み児でしかなかったことを見せ付けられた長い夜の始まり。
しかし彼らはもう、それに絶望する事は無かった。
偽りだらけの世界で本性を晒すなどと、そんな馬鹿げたことはしなくとも、本物の存在である互いにだけ受け入れられればそれで生きていけると言う事実を見出せたのだから――・・・。
使用音楽:犬神サーカス団「異形の宴」より「赤痣の娼婦」
戻ります。
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