Egoist Marionette Ⅱ




Egoist Marionette Ⅱ









バドがシドの前から姿を消して早五日が経とうとしていた。
その間シドは兄が行きそうな心当たりのある場所を一人で探していたが、結局兄の行方を掴むことは出来なかった。
家を空けている間、もしかして帰ってきているかも知れないと、いつも僅かながらに期待に胸を膨らましながら扉を開ける・・・。だがそこには当然誰もいない、そんな日々が続いていた。
自分以外の気配を感じない、冷たい空気の部屋の中にいると、考えないようにしていたことが、悪い方に連鎖して頭を駆け巡る。

あの時・・・、優しく口付けてくれた兄が、突然自分を殺そうとしたこと。そのときの瞳に宿っていた光は、かつての自分に向けられていた憎しみの思い。

――どうして・・・?
兄さん・・・、私達は分かり合えたのではなかったのですか・・・?
それともそう思っていたのは己一人だけで、兄の心の中は未だ私の憎しみに捕らわれているのだろうか・・・?――

考えれば考えるほど、兄にとって自分は何なのか、今までの関係は虚像でしかなかったのか、そんな思いばかりがよぎって行く。
「ふ・・・っうぅ・・・。」
シドの瞳からは何度目かの涙が溢れ出た。必死にそれを押し止めようと、自らの手で身体を抱きしめそのまま兄に愛されたベッドの上に座り込む。
二人分の重さをいつも軋ませていたベッドには、今シドしかいない・・・。
「・・・っ・・・兄さん・・・っ。」
毎夜バドはシドを求めてきた。兄弟の一線を越えた初めの頃は、恐怖心の方が強かった。しかし、バドはそんなシドの不安を取り除こうと、大丈夫だから・・・と、何度も優しくあやすように囁き、いくつものキスを体中に散らしていった。
快楽を感じ合えるようになった時、初めて兄と想いが通じ合えたと思った。これが愛の形なのだと・・・。
  だけどそれは、勝手な思い込みにしか過ぎなかったのだろうか?いつも私を抱く貴方は優しかったけどとても哀しく辛そうだった・・・。
そんなことを考えているうちに、身体が徐々に熱を帯びてくるのを感じた。
「っ・・・!!」
その熱は、シドにとって何度も経験したことのある馴染み深いものだった。
たった今まで兄を想って涙を流していたのに、兄のぬくもりがそこに無いというだけでこんなにも欲望に従順な自分がいる。

浅ましい――!!

だけど毎日のように、バドに抱かれその存在を感じていたのだ。身体が彼を想って疼き出すのを抑える事など、シドには出来なかった。
「は・・・ぁっ・・・。」
火照りだす身体、服の前を開き、胸をはだける。
「ん・・あぁ・・・ぁ・・・!」
自分と瓜二つの兄に毎晩施された愛撫を自らの手で再現していく。
昂りだすソレにそっと手を沿え指を絡ませて、そのままゆっくりと動かし始める。
「やっ・・・あぁっ・・・兄・・さぁ・・っ!」
すぐ後ろにバドの吐息と気配が感じられるくらい生々しい快楽が波打ってくる。
バドの声、体温、全てを包み込んでくれるその存在が全て愛おしい・・・。
「あぁ・・・んっ・・・あ・・・ぁあっ。」
脳内でバドを想えば想うほど、シドの身体は快楽に溺れていく。
そのまま片手は己自身を扱きながら、もう片方の手を口元へ持って行き、二本の指でそっと唇に触れ、そのまま口内へ侵入させた。
「ん・・・んぁ・・・。」
瞳は閉じられ、ピチャピチャと淫らな音を響かせながら、シドは自分の指に唾液を絡ませる。
「はぁ・・・ぁっ・・。」
そしてベッドの上に仰向けになり、少し足を開かせて充分に濡らされた指を自分の固く閉じた秘所へとゆっくりと挿入させていく。
「んくっ・・・!」
ピクリと身体を震わせて、そのまま奥へと突き入れると、後ろの快感も得られ、更に身体は高まりだす。
もう、理性など残ってはいなかった。
羞恥心と浅ましさを踏みつけにして湧き上がってくる欲情は兄への狂おしいほどの想い。
閉じられた瞳からは、先ほどとは違う涙が零れ落ちてくる。
「ふ・・・あっあぁ・・・!にいさん・・・っ!」
びくびくと身体を仰け反らせ、白い身体を赤く染め、シドはバドを追い求めていた。
いないはずのバドがそこにいるかのような錯覚を覚える。熱く押し入ってくる彼自身、手を伸ばせば触れられるほど、抱きしめられるほど近くにいた兄。
今だけは・・・、幻の中の彼に抱かれてそのまま達したい・・・。――。
「ひぁっ・・・や・・っ!」
前と後ろの快楽で、シドの身体は大きく打ち震え、開放をの時を迎えていく。
「バ・・・ドッ・・・はぁっ・・・ぁあぁあああっ!」
白濁した自分の体液が飛び散る。指を引き抜きぐったりと身体をそのままに横たえ、荒い息を肩で吐く。
「バド・・・。」
いくら呼んでも彼の人には届かない。熱の余韻が残る身体を抱きしめてくれた腕も、髪を撫でるその手ももう二度と戻らないのだろうか・・・?――

荒い呼吸が何とか収まったシドはそのまま浴室へ向かった。覚醒してきた意識が嫌悪感を取り戻してきていたのだ。
こんなことをしても、何もならないのに――!!
カラカラと蛇口を捻り、冷水を頭から浴びる。先ほどまでの熱を洗い流すように・・・。
「・・・っく・・・っ。」
口元に手を当て、必死に声を塞ごうとするが、涙は遠慮を知らずに頬を伝い落ちる。
「兄さ・・・っ!」
壁に手をつき、膝から崩れ落ちる。

やっぱり無理だ。貴方に憎まれていることが私には耐えられない・・・!!
もう、あなた無しでは生きられない―――。
冷たく凍える身体とは裏腹に、心は今まで以上にバドを求めていた。
「うぅ・・・っく・・・ふ・・・。」
無常な水音が響く中、シドの心は以前にも増してバドへの思いに縛り付けられていくのを感じていた。



To Be Countenued・・・。




戻りますか?