Egoist Marionette Ⅰ
抱いても抱いても満たされないこの心。
俺はお前を愛している・・・だけどお前は?
「は・・・ぁあっ!!」
背中を仰け反らせてシドは喘ぐ。その白い喉にバドは唇を落とし、噛み付くように紅く刻印を散らす。
シド肩を押さえつけ、逃れることの出来ない律動を繰り返しながら、バドは自分の下で狂態を晒す双子の弟をその目で犯すように眺める。
「や・・っ・・・見ない・・・でぇ・・・っ。」
その視線に気づき、シドは兄の眼から逃れようと体を捩ろうとするが、バドはそれを許さず肩を押さえつけていた手を移動し、シドの指に絡ませる。
「ふ・・・ぅんん・・!」
そしてそのまま唇を塞がれ、バドの動きも一段と激しさを増し、快楽の悲鳴は口付けによって封じ込められた。そのまま舌を犯入させ、口内を遠慮なくまさぐり、シドの舌を捕らえ、淫らな音を奏でさせる。
「んんっ・・・ぅぁぁあぁぁあっ!!」
唇が離れ、細く濡れた糸が二人を儚く繋いで消えたとき、シドの体は快感に打ち震え、解放を迎えた。そしてその衝動で、バドもまたシドの中に欲望を全て注ぎ込んだ――。
情事が終わり、ぐったりと横たわる弟の髪を撫でながら、何かを思い出したように、バドはふっと立ち上がる。
「にいさん・・・?」
髪を撫でる心地よさに身を任せてたシドだったが、不意にそれが途切れ、突然何処かへ行こうとする兄に不安げな声をかける。
「心配するな・・・すぐ帰るから・・・。」
自らも行こうとして、体を起こすシドを制し、不安げな表情の弟の額に軽くキスを落とすと、バドは闇の向こうへと出かけていった――。
凛とする夜の外気は、火照った体に丁度良い。家から森を抜けたところにある、開けた丘の上にバドは立っていた。
――震えが止まらない・・・。――
それは寒さから来るものではなく、自分自身の問題だった。
長い間、憎んでいた双子の弟と和解し、共に暮らし始めたときは思ってもいなかった現実。血の繋がった弟を愛してしまい、そして己のものにしてしまったこと――。
そのことに対しての後ろめたさか?・・・・いや、違う・・・。
「俺は・・・・。」
言葉と共に吐き出される白い吐息。決して弟の前では見せられない自分の醜い心が、じわりじわりと思考を侵食していく。
シドに触れれば触れるほど、自分だけのものにしたい、どこにも行かせたくない、誰にも会わせたくない、ずっと自分だけを見てくれればこの上なく幸福だろうに――。そんな想いが日に日に強くなってきている。
だが、それはシドへの、あまりにも幼稚で残酷な倒錯した想いだった。そんなことをする権利はいくら兄弟であり、恋人であっても許されることではない。
――それでも俺は・・・。――
「兄さんっ!」
その時、突然背後から聞こえた聞き覚えのある声に、バドはびくりと体を震わす。後ろを振り返るまでも無く、きゅっと抱きつかれる。
「もうっ、風邪を引きますよ!」
振り返ると、マフラーを首に巻きつけたシドの姿。手にはバドの分のマフラーも握られている。長いこと外にいた、兄の首へ手際よくかけてやる。
と、その時急にバドの手がシドの手首をすばやく捕らえる。
「え?」
そして腰をも抱き寄せ、愛おしい弟にキスを贈る。
「ん・・・。」
突然の事に一瞬シドも驚くが、素直に口付けを受け入れていた。
だが、バドの手が、シドの首にかかり、マフラー越しにそのまま締め上げようと徐々に力を込められていくのを感じ、シドは驚きに体がすくむ。
「な・・・っ・・・にいさ・・・っ!?」
その力はふざけ半分では済まされないくらい強い。シドは、呆然としながら、それでも自らの命の危機に瀕していることを感じ、必死に兄に訴える。
「にい・・・さんっ・・・!」
何とか振りほどこうとバドの手首に手をかけ、懸命に首からはずそうとする。だが、兄の眼はすでにいつもの自分に向けられる優しい瞳では無かった。
まるで、昔の・・・、そう、自分が憎まれていた時に向けられていた憎悪と悲しみに満ちた瞳・・・・。
――兄さん・・・・、どう・・して・・・?――
「かはっ・・・・。」
シドの苦痛にゆがむ顔と声に、ようやくバドの瞳は焦点を戻す。
「あ・・・。」
我に返ると、目の前でゲホゲホと咳き込む弟と、たった今までの自分の恐ろしい行動が、繰り返し頭をよぎる。
――俺は・・・なんて事を・・・・!!――
「兄さっ・・・!」
背筋が凍りつくほど自分が恐ろしくなり、醜さをあてつけられたバドは、自分を呼ぶ声にも構わずにその場を走り去る。シドがかけてくれたマフラーがはらりと、うっすらと白く色づいた大地に舞い落ちた。
「にいさん・・・・。」
そこに一人取り残されたシドは、突然の出来事にただ混乱し、瞳から涙を溢れさせていた――。
To Be Countenued・・・
戻りますか?
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