crazy sweet actor


crazy sweet actor


「カット!」
あるホテルの一室、ダークレッド調の色彩の部屋に更にカスタマイズを施し、さながら地下牢の様な演出の撮影現場に、一瞬のちの静けさから、一間を置いて監督の声が現場に響く。
「お疲れ様でした。」
スタッフの一人が笑顔で駆け寄り、全裸のままベッドに横たわる双子に長めのガウンを手渡し去っていくと、ほっとため息を吐いて弟-シド-の方がまずベッドサイドに降り立つ。
「兄さん、終わりましたよ。」
起きてくださいと、今手渡されたガウンを羽織り、目を閉じて横たわったままの彼の身を軽く揺する。
しかし一向に起きようとしない兄に、本当に寝ているのでは無いのかと思いかけた時、いきなりかがんでいた自分の首に手を回され抱き寄せられる。
「うわ・・っ!」
一目もはばからず、そのままキスをされると後ろの方から『あ~あ、また始まったよ~。』と、ガチャガチャと機材を片付ける音に混じって聞こえて来た。
弟の唇を離してやると、してやったりと言いたげにバドはにんまりと笑い、むっくりと身体を起こす。
顔を赤くしながら、受け取っていたガウンを兄に手渡すシド。
「いや~、今回は別格に良かったよお二人さん!」
「二人とも別嬪に撮ったから、売れ行きは絶好調間違い無しだよ。」
声をかけてくる、ディレクターやスタッフに軽い会釈をして、二人は現場の部屋を後にし、控え室へと戻って行った。


淡い森林色を混ぜたような銀髪と、琥珀に近い透き通った夕日色の瞳の類稀な容姿を持つ美形双子は、カリスマ的AV男優である。
兄のバドはタチ専門であるに対し、弟のシドはネコ専門。
時として女優と仕事をする時もあるが、もっぱら彼等は同性相手の絡みを売りにしている。
一年前、二人一緒にこの業界にスカウトされ、断る理由も無いからと言って足を踏み入れたのが始まりだった。
元々、モデルとしても通用する程整った体系と顔立ちに加え、テクニックや絡みの時の表情も磨かれていき、今やこの界隈では知らぬものはいない位有名であった。
そして今回、同じ畑で仕事をしている二人が、初めての共演となったのである。
美形双子の禁断の愛・・・、愛し過ぎた故の狂気に駆られ、兄を自室の地下に幽閉し、その身を思う様貪る弟・・・。
と、言う設定の下の内容を収めた作品は、マニアだけではなく、一般層・・・、特に夢見がちな乙女達にも受け入れられるのではと思う程の出来となった。

この業界にはタブーと言う境界線がほとんど見えない。
だからこの仕事を持ちかけられた時、二人は互いに顔を見合わせ苦笑こそはしたものの、引き受けたわけである。
それ以上にこの二人は、他人が入り込めないほど仲が良いと言う事も知れ渡っており、それがこの企画をよこした最もたる理由であるのだろう。
お互い違う現場で仕事をしていても、互いに教えあっているのか、早く仕事が終わった方が、片割れの仕事現場に迎えに来ている事はしょっちゅうである。
特にバドの方は、撮影が終わった弟に対して、人目を憚らずにキスをしたり抱きしめたり・・・、それに対し周囲は“弟命のブラコン兄さん”との二つ名をバドに付けているくらいである。
しかもほぼ毎回、されている側のシドのほうが恥かしげに顔を赤くして俯いてしまうものだから、ますますバドのシドの溺愛っぷりは周りに浸透していくのだった。


控え室に戻るまでの廊下、明日は撮影も入っていないため、久しぶりにゆっくり兄と過ごそうとワクワクしていたシドだったが、一寸先を歩くバドは無口で早足に歩いて行く。
声をかけようにも、どこか刺々しい雰囲気を醸し出す背中に、シドは少し気後れしていた。
プライベートでは実は互いに愛し合っている関係の二人だが、それを仕事に持ち込むほどプロ意識が欠けているわけではない。
最も、バドの過剰なスキンシップはオフィシャルでは公開出来ない関係だけども、変によそよそしくてもおかしいだろう、と言う事で、俺にとってはこれが自然なんだよと、以前人前でのキスやハグに対して訴えたところ、 あっけらかんと返されてしまったのだが。

もしかして、乗り気じゃなかったのかな・・・?

二人とも同じ仕事をしているのだから、何も後ろめたい事など無い。
しかし現にバドは何故か機嫌が悪いのだ。
それは、単に恋人としてでなく、仕事上の相方としての自分との仕事内容が気に入らなかったのかもしれない・・・。

そうぐるぐると一人で考えながら兄の後を歩いていたシドだったが、突然バドの足がピタリと止まる。
「?どうしたんです・・・っ!?」
そう問いかけた次の瞬間、彼は物凄い力でバドに腕を捕らわれて、近くにあった共同トイレの個室へと引きずり込まれていた。


「んっ!・・・んー!!」
何が何だか判らないまま、人気の無いトイレの狭い個室に押し込まれたかと思うと、バドも一緒に入ってきて、後ろ手で鍵をかけて、シドの身体を白い壁に押し付けていきなりキスを仕掛けだす。
それは先ほどの仕事中のとは比べ物にならない――、すなわちプライベート用の其れだった。
誰が来るか判らない公共の場で・・・・!と、焦る心とは裏腹に、シドの身体は長く深く甘いそれによって慣らされた熱を持ち始める。
「ん・・・っ、ぅ・・・。」
頭の芯まで溶かされそうな痺れるキスにすっかり抵抗を奪われたシドは、角度を変えて侵入を始めてきたバドの舌先を素直に受け入れ、己の舌先と絡め合わせる。
密閉しきった狭い空間に、互いの唾液を絡めあう音だけが耳に入ってくる。
ようや唇を離した時、二人の間を細く儚い濡糸が繋ぎ、それが消えても尚、二人は互いを見つめている。
「上手くなったもんだな。」
最初に口を開いたのはバドの方だった。
くいっと、弟の顎に手をかけて若干背の高い自分の方に視線を合わせるように上向かせるとシドはまんざらでもなさそうに微笑んだ。
「一応私もプロですから・・・。」
そう言って甘えるように両手を兄の首に回すと、顎にかけられていた手が取り払われて、更に身体を密着させるように腰を引き寄せられながら、バドの顔が耳元に移動する。
「あんなもぬけの人形の様に、ただ横たわって居ただけじゃ、俺は満足出来無いな・・・。」
甘い掠れを含んだ声が耳に入り込んで、内部が犯される感触にシドはぴくん・・っと身体を捩らせる。
要するに、バドは自室に着くのを待てずに欲情してしまったと言うのだ。
シドの返事を待たずに・・、いや、もうばれているだろう、下に下りているうちの片方の手は、逃れる事が出来ない様に強く押さえ付けられ、もう一方の手は下腹部を弄りだす。
「あぁっ・・!」
身に纏っている、手触りの良いシルク素材の長めのガウンは、やすやすとバドの侵入を裾野から許し、既に立ち上がり始めているシド自身を捉え、刺激が送り込まれる。
その手から、無意識に逃れようとシドはバドの肩を必死に押し返そうとするが、快感に誘われ始めているその身体では無意味な抵抗だった。
「やぁ・・・っん・・・、あぁっ・・。」
「この口や手で・・・、お前に触れられなければ意味が無いんだ。」
再び耳元で殺し文句を囁かれて、顔中い赤味が広がったシドの耳を甘噛みしながら、下肢に加える愛撫を一層強めていく。
「ん・・・っ、やぁ・・・あ・・っ、兄さ・・・!」
大きい兄の手の中に、自身から先走りの液を少しずつ滴らせながら、シドの足から力が抜け落ち、今にも崩れ落ちそうにガクガクと震えだす。
それを見たバドは、一度自身を弄ぶのを中断し、蓋の閉じた様式の便座の上に腰を下ろす。
「おいで・・・、シド・・。」
力の抜けた身体をどうにか持ち直させ、言われるがままに兄の元へと移動する。
その上に座っているバドの顔が、丁度シドの腰の位置にある。
「そのガウンの裾を広げて見せろ・・・。」
やんわりと・・・、しかし有無を言わさない命令に、シドはおずおずと両手で裾野を持ち、そそり立つ欲望を兄に見せ付ける。
「や・・、も・・許して・・?」
間近で自身を直視されている羞恥に、シドは耐え切れずに懇願するが、返事の代わりにまた腰を強く引き寄せられた。
「ああぁっ・・!」
そして今度は生温かい濡れた口内にて欲望を包み込まれて、シドの身体は大きく反り返る。
「はぁ・・っ・・んっ・・・。」
手で根元を支える様に扱かれて、軽く歯を立てられながら深く浅く銜え込まれ、先端を舌先で弄くられる。
「や・・・っ・・・あ・・・っ、あぁあっ・・・!」
裾を持つ手が震え出し、今度こそ本当に立っていられなくなる位、欲望と快楽は促進されていく。
身悶え始めるシドを更に追い込むべく、バドは先ほどシドの先走りの液で濡らした指を後ろへと持って行き、その奥まった入り口を軽く指先でこじ開け、二~三度浅い出入りを繰り返すと、一気に侵入を開始した。
「ひ・・・、ぁあああ・・っ!」
ギリギリに張り詰められていた快楽の琴線が、その刺激によってぷっつりと切れたシドは大きく身体を震わせながら達し、熱い欲望を兄の口内へと解放していた。

「ん・・・。」
熱を解放し、ぐったりとしたシドの身体を反転させ、個室のドアに手を付く体勢を取らせると、その上からバドが覆いかぶさるようにして、秘所を押し広げていった。
「あぅ・・っ・・。」
長い指が双丘を割って、一本、二本・・・と奥まった部分に銜え込ませていく中、バドはシドの身に纏うガウンに手をかけて床に落とし、しなやかにしなっていく背中に唇を這わせ、なめ上げた。
「ひぁ・・・っ。」
鍵のかけられた個室のドアに力が加わり、内側からギシギシと軋みだす。
ゾクリとする感触がシドの背中を突き抜けていくと同時に、先ほど熱を開放したばかりだと言うのに、再び自身が頭をもたげ始めてくる。
背中から首筋に辿り着いたバドの唇が、肩から後ろにサラリと流されている髪を一房掴み口付けすると、更に項にも朱い刻印を散らす。
「ぁ・・・、にぃ・・さぁ・・・」
後ろに送り込まれるダイレクトな刺激と、散らされていく刻印の細やかな愛撫に、シドの白い身体は薄桃色に染まっている。
汗ばみながら、後ろを振り向き、涙目で訴えるように見上げられて、バドもそろそろ押えが効かないことを感じていた。
「ひぃ・・・っ!」
三本にまで増えていた指をズルリ・・・と引き抜かれたかと思うと、間髪居れずに兄自身の熱い先端が宛がわれ、一気に貫かれる。
散々貪りつくした身体の最深部まで、己の欲望を呑み込ませて行くと、バドはシドの腰をがっしりと固定して、激しく動き出した。
「あぁ・・っ!んぁ・・っ、あぁあぁ・・っ!」
既に個々が誰が来るか判らない場所だと言うことも忘れて、シドは歓喜にのたうつ甘い悲鳴を惜しみなくあげ始める。
そんなシドの旋律に聞惚れながら、バドは腰を支えていた手を前に回し、濡れそぼっているシド自身を握り締め、再び強弱をつけていたぶりだす。
「やぁ・・っあっ・・、だめぇ・・、兄さ・・っ!」
頭を振りながら、涙を零れさせて訴える弟を無視し、バドは更に前と後ろの刺激を強めていく。
白いドアに額と手を押付けて泣きじゃくりながら喘ぐシドの顎を捉え、後ろを振り向かせて唇を重ね合わせながら、二人は互いに登り詰めて行った。
「んぅっ!ん・・んんーっ・・・!」
「ッ・・!」
甘い悲鳴がバドの口内に吸収されていきながら、シドはバドの手の中で達し、バドもまた熱く収縮した内部に、熱い白濁を注ぎ込んだ――。


「・・・やっぱり兄さんには敵いませんね・・・。」
兄の運転する帰りの車の中、助手席に座ったシドがため息混じりに苦笑する。
「そんな事は無いぞ?」
安全運転を心がけながら、前方はしっかり見て、弟の言葉を打ち消した。
丁度赤信号に引っ掛かった為、一番前で停車する。
「どうしてですか?」
散々良いようにされた気恥ずかしさから、こちらを見つめてくる兄の視線をさりげなく避けてシドは問いかけた。
そんな様子が可愛くて堪らないとばかりに、バドは笑いながら、こう一言。

「俺を場所を選んでられないほど、その気にさせる奴はお前しかいないからな。」

一瞬間・・・。
その次には、見事に茹ダコの様に赤くなったシドの顔を上向かせ、身を乗り出してその唇に口付けるバドの姿があった。


後方の車が、信号が青になってもいつまでも動き出さない彼の車に、クラクションを鳴らし始めるまで二人はそうしていたのだった。




帰ります。