白く咲き、仄かに赤く色づいて散っていく彼の花――。
その精霊は、人間の青年に想い焦がれて人の姿に成り代わり、唯一つの愛を成就させようとした――。
遙か昔から伝わる、月見草の物語――・・・・。
夜 想 曲
-白 き 誓 い の 園 で・・・-
月夜の空を微かに割くように、一条の月明かりが花弁舞う臥所の上にもつれ合う彼等の上に降り注ぐ。
「ん・・・。」
シドの身体の上に倒れこんだバドは、熱に浮かされたように、同じ造りのはずでありながら自分とは違う、ずっと綺麗だと思える夕日色の瞳を見つめながら、その穢れなき唇に己のそれをそっと重ねた。
「ん・・・っ、ん・・・」
触れ合うだけの口付けだったが、バドが顔の角度を変えて、静かにシドの唇を割って探るように舌を差し入れると、シドもまた侵入してきたバドの舌に応える為に舌をそっと絡め始める。
「んっ・・・ふ・・・ぅ」
さらさらと月見草と共に、夜風にたなびく兄の後ろ髪に指を絡めながらも、ギュ・・・っとその背中に両手を回すシド。
目の前の人の、熱、姿、存在がトクトクとこの手に伝って感じられるほどに近くに居ることの喜びと嬉しさと愛おしさで、胸が締め付けられる・・・。
「シド・・・。」
口付けを解いて、微かな銀を帯びた、細く濡れた絹糸が、花霞みへと消えていく中、バドの唇が模るのは、何者にも変えがたい想い人の名前。
「バ・・・ド・・・。」
そしてまたシドも、万感の思いを込めて、彼の名前を濡れたその唇でそっと紡ぎだす。
仄白く、全てを幻の様に溶かしていく月光を背に受けならも尚、その輪郭はぼやけることなく、逞しく強くあり続ける兄の頬に金の指輪が煌めく白い手を添えて、シドはほんのりと頬を赤く染めて微笑んだ。
そんな彼の手をそっと取りながら、バドも優しく微笑み返しながら、今しがた誓いを込めた指輪の在る大きな手を、シドのはだけさせた白い胸へと忍び込ませていく。
「は・・っ、ん・・・。」
月の光に晒されて、儚く照らされた身体。
その胸に小さくも赤く色づく実に指先で触れてそっと摘むと、切なげに吐息を漏らし、ぴくんと身体を震わす弟にバドの中にある欲情は静かに燃え上がっていく。
「んっ、・・・あぁ・・・っ!」
自分の頬にあった手を肩に回すように導きながら、バドの顔はもう一つの実を啄ばむ為にゆっくりと下りて行く。
軽く歯を立てて舌で転がしながら触れ続けてやると、白い肌は段々と欲情に焦がれ始める。
甘く疼くような愛撫に焦れてきたのか、シドの腰が微かに揺れ始めているのを見て取れたバドは、薄い肉付きの下胸部から、わき腹、腹へと小さな朱い華を散らしながら、そそり立ち始めている自身に衣服越しに唇で触れてやる。
「あぁっ!」
待ちわびた刺激と、布を隔てて与えられるもどかしさにシドは掠れた甘い声をあげる。
だがバドは素知らぬ顔で、ズボンの上から自身に舌を這わせては軽く銜え込む様に歯を立てて、更にシドの中に熱を孕ませていく。
「や、だ・・・っ、にいさ・・・!」
上半身を僅かに起こして、立てた両膝の間に居る兄に、潤んだ瞳で懇願するも、バドは意地悪な笑みを浮かべているだけでそこから先に進んではくれない。
「どうして欲しい?」
その笑みに相応しい声でたずねる兄に、シドの頬はかぁ・・っと火照っていく。
そんな弟の反応に、バドはくく・・・っと喉を鳴らして笑う。
きっと恥かしさに耐え切れられず、その瞳から涙を零して無言の要求をする弟に根負けして・・・と言う図式が彼の頭に浮んでいた。
現に、弟は恥じらいを含んだ視線を下に落として、きゅぅ・・・っと下唇を噛み締めている。
「・・・て・・・。」
「何だ?」
今日は思っていたよりも早いおねだりが来たな・・・。まぁ、今日はある意味特別だし・・・・。
と、この時点では余裕で構えていたバドだったが・・・。
「・・・て、・・・さい・・・。」
「聞こえない・・・。」
「来て・・・下さい・・・。」
「は!?」
全く予想外の反応に、思わずぽかんとして身を起こし上げるバドに、シドは俯きながらもはっきりとした声でもう一度言った。
「来て・・・。」
「な・・っ、おい;・・・っ!」
しなだれかかるようにバドの首にするりと両腕を回して、今度はシドから口付けだす。
妖艶に誘いかける様な、弟から与えられる口付けに捕らわれながらも、バドはシドの意思を汲み取って、膝立つ彼の下肢を覆う衣を取り払い、腰を抱くように後ろを探る。
「うぅん・・・っ!」
何の滑走油も無いまま侵入されたソコは、痛いほどにバドの指に食いついてくる。
きつく瞳を閉じ、苦しそうにくぐもる声が耳に届いたバドは動きを止めるが、シドは息を荒げながらも、ふるふると首を横に振る。
「大丈・・夫、だから・・・つづけて・・・」
「シド・・・。」
だがそれでも躊躇するバドの耳に、シドは口寄せて甘い息を吹き込むように囁いた。
「痛みも・・・苦しみも・・・、あなたのくれる物ならば・・・、私は全て欲しいから・・・。」
その言葉に、熱を集束したバドの下半身は、ずくん・・・と重くなる。
それと同時、シドの両手がバドの衣服にかかり、ゆっくりと剥いで行きながら露になっていく、喉元から首筋、鎖骨へと唇を落としていく。
飛びそうになる理性をギリギリで保ちながら、バドの指は二本、三本へと増えて行き、痛まないようにと念入りに道を押し広げていく。
「んぅ・・、あぁ、あ・・っ」
艶やかに鳴く弟の様子に、これならそろそろ大丈夫だろうと、内部の指を引き抜いて自身を取り出して先端を宛がう為に、彼の身体を横たえようとしたところ、シドはそっと手で制した。
「?・・・!っくぅ・・・っ」
勃ち上がった自身を、そのままの向かい合う体勢で取り込む為にゆっくりと腰を下ろし呑み込んで行くシドに、バドは驚きを禁じ得なかった。
そしてその際の自身を締め付ける内部の熱さに、ギュッと片目を閉じて僅かに息を乱す。
「んぁ・・っ、あぁあ・・・っ!」
そして兄を全て体内に取り込んだシドも、はあはあと息を荒げて、ぐったりと身を持たせかけている。
そんなシドの身体をぐい・・・と抱き寄せて、優しく背を撫でたり、頬や鼻先に軽いキスを繰り返しながら、息が鎮まるまで待つ。
「んっ・・・、も・・・へいき・・・。」
しっとりと汗ばみながらも、柔らかく笑いかける弟に、バドは下から深い口付けを与えてやる。
「う・・・ん、んむ・・・!」
徐々に激しさを増す口付けを交わしながら、初めはゆっくりと、だが段々と強く突き上げていくと、その清かな肌は、悦びに花開いていく。
その姿はまるで、散る間際の月見草の如く・・・。
そう思った時に、バドの心の中に例えようのない焦燥感が湧き上がって来る。
溜まらずにシドの身体を押し倒し、がむしゃらに自身を突き入れて腰を押し進めていくと、弟の声と表情に、微かな苦悶の色が混じりだす。
は・・・っと、我に返ったバドが口を開きかけた瞬間、シドの指が優しく唇に触れた。
「だいじょうぶ・・・って、言ったでしょ・・・?」
私は何処にも行かないし、あなたを置いて先にも逝かない・・・。
それに、あなたがくれる物ならば私はすべて受け入れる・・・。
だから・・・、もう・・・、そんな顔しないで・・・。
その一言と、優しい微笑みに込められた想いを感じ取ったバドは、泣きたくなるような愛おしさを込めてシドを抱きしめて、再び繋ぎ合う為に動き始める。
「ん・・っ、あ・・・っあぁっ!にいさんっ・・・!」
満月の光は段々と薄くなり始め、咲乱れている月見草がはらはらと散り逝き始める中、二人の身体は一つに溶け合う。
これ以上無いほど結ばれていても、それでも尚繋がろうと、バドは弟の唇に何度目かの口付けを落として貪り、シドは兄の腰に足を絡めてその腕に力を込めて背中へ滑らせる。
「んっ・・、んぁっ・・・!ぁあぁあっ!!」
「ぅ・・・っシド・・・ッ!」
絡めあった舌が解けた時、バド自身がシドの最奥部を突き刺した事によって、びくびくとシドは自身から熱を迸らせて達し、バドは弟の中へ粟立つ熱を全て解放して行った――。
夜明け前の白む空の下、今年最後の月見草は、静かに散り朽ちていった。
その中で誓いの輝きを湛えた指輪の手を結び合って眠る二人。
その寝顔は、冷たく凍える雪の上に重なり合っていたあの日とは全く異なる物だった。
引き離され、憎まれ、傷つけあう別離を果たした聖戦が彼等の前世だとすれば、今この時、この瞬間さえも幸せになる事を約束された来世の時間なのだろう・・・。
人の姿へと身を変えた、花の精霊の恋は、愛した夫の手に手折られる事によって、その命を散らした。
だが、二人の魂は巡り巡った来世で邂逅を果たし、その時代で幸せに暮らしたという、月見草の昔語りの如く――・・・。
使用音楽:陰陽座『臥龍點睛』“月花”
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