愛情円満華の膳~年の初めの莫迦番~



愛 情 円 満 華 の 膳

~年 の 初 め の 莫 迦 番~


「はぁ~・・・。」
森の中に立てられた簡素な木造の小屋の扉がきぃ・・と開き、主である二人が帰宅して来て、静かだった家の内部は微かに騒がしくなる。
「凄い人ごみでしたものね。」
家に着くなり、疲れたように大きく息を吐き出す双子の兄であり、伴侶であるバドの後ろから入ってきた弟のシドは、彼のは追っていた外套を静かに脱がせながら、パンパンと軽く叩いて帰りしなに降られた雪を払い落として、 玄関脇にあった着衣がけにそれを掛けた。
「あぁ、サンキュ。」
すっかり良妻ぶりが板についてきた弟にバドは微笑みつつ、斜め後ろに振りかえりながら、シドの立ち姿を堪能する。
「??何です?」
いつの間にか、じーっと見つめられている事に気づいたシドが、うん?と言った感じで小首を傾げると、後頭部に結い上げられた髪の飾りの為に挿されている簪が、しゃらんと音を奏でた。
「いや・・・そそるな・・・。」
「!もう・・・っ!!」
いつまで経っても賛辞に慣れないように初々しく顔を赤く染めるシドを、にまにましながら眺めるバド。
そんなシドが身に纏っている物は、日本の伝統文化の代表である着物・・・しかも振り袖というやつであった。


そう・・・、彼等は新春と言う事で、オーディーン像へと参拝しに行って来たのである。
古今東西年始からの神への挨拶と言うのは万国共通の事で、年明けから二日目、ワルハラ宮から離れて暮らしているとは言え、神への信仰心は無くなった訳ではないので、例に漏れず二人も遠い道程をかけ初詣へと赴いたのだった。
シドが身にまとう振袖・・・・、全体的に淡い色で統一された着物と、黒い肌着と、濃い色合いの固い帯とフワフワとした手触りの紫色の帯紐、髪を結う飾り紐と簪は、年末の位置の買出しの際、バドが目に留めたものであり、一応中古品という事もあって 値段も手ごろだった為、すかさず買い叩いた物だった。
無論、財布の事情を扱うシドは最初は断ったのだが、折角二人で暮らすようになり初めて行く参拝に、これを着て行って欲しいとバドにせがまれて、ついには折れたと言ういきさつもあった。

『いいだろう?俺の為にこれを着て行って欲しいんだ・・。』
『兄さん・・・。』
キラキラキラ・・・×∞

と言う、人でごった返す道の真ん中で、そんなやり取りを目の当たりに見せ付けられた露店先の親父は、『いやぁ~、買い物だけでここまで浸れる人たちを見たのは初めてですよ~。』と後々に語り、尚且つ独り身の冷たい年末の風が身に凍みたと言うのは、また別の話であった・・・。


「今日はお疲れ様でした。今何か淹れて来ますね。」
とにかくそんなこんなで、人人人の洪水の中でもみくちゃになりながらも、今年も夫婦円満で居られますようにと願を掛けて来たのかは言わずもがな、疲れた様子で居間兼寝室のベッドの上にどさっと腰を降ろす旦那様に、何か飲み物をと言う事でシドはそのままの姿で台所へと入っていった。
「・・・・・・・。」
その後ろ姿をバドはじっと目で追っていた。
先ほどのそそる発言は、冗談めかして言ったのだが、あながちそうでもない。
普段飽く事無く身体を合わせ続けているものの、今日の晴れ着姿は格別に美味しそうだ。
しかも普段髪を下ろしている為に滅多に見る機会が無いシドのうなじ・・・・、そして、少し後ろに引かれている着物の襟元が何とも言えない色香を醸し出している。
「・・・・・・・・・・・・・。」
ごくり。
こみ上げてくる生唾を飲み込んだバドは、やがて無言ですくっと立ち上がり、シドに気づかれないように静かに台所へと入って行く。
抜き足差し足忍び足・・・・、背後から近づいてくる兄の邪な気配に気づく事無く、シドは丁度食器棚からグラスを取り出している最中だった。
「わ・・・っ!」
不意にぎゅっと後ろから抱きつかれ、思わずガラス製の器を取り落としそうになったが、ぎりぎりのところでそれは免れた。
「もう!、危ないじゃ・・・・っ!?ひゃっ」
やんわりと嗜めようとしたところで、シドは急にうなじに這わされた舌にびくんっと身体を竦めた。
「ちょ・・・っ、なに・・っ、ぁっ!」
バドの行動に驚き、身体を引き離そうとしても、彼の片腕は腰、もう片方は着物の合わせに置かれ、がっしりと抱きすくめられる形になっているため、それはちょっとやそっとのことでは緩みそうになかった。
加えて、手の中で置き場のないグラスを落とさないように両腕でぐっと握り締めている為、尚の事逃れることの出来ないバドの舌の動きに身を晒す形になる。
「や・・・!こんなとこ・・・っ、あぁっ」
高く結い上げた髪の、若干ほつれている襟足を、不意に外された片手で摘まれて、軽く引っ張られながら、止む事のないうなじへの愛撫にシドはみるみるうちに下半身に熱が集中して行くのを感じた。
「だめだ・・・・、もう我慢できねぇ・・・。」
うなじを這っていた舌と唇が、首筋に移動しながら朱く儚い鬼灯を散らし、既に薄紅に染まりつつある耳元に辿り着き低い声で囁きながら、ぱく、とそのまま食んでいく。
「や、ん・・・んぐ・・・」
そして襟足を弄んでいた指二本は、色っぽい声を上げ続けている口内へ犯入し、シドが咽ない程度にやんわりと出し入れを繰り返す。
腰に回されたままの手は、シドの震える手の中で持て余されていたグラスを受け取って、手近にある食卓の椅子の上に後ろ手で戻すと、前結びになっている帯紐を解かすために動き出す。
「んぅ・・・っ、ん」
一番感じるはずの性感帯にまだ触れられても居ないのに、シドの欲情する性はどんどん高ぶりを覚え始めている。
やわやわとしたバドの愛撫に焦れてきたのか、口内を出入れする指にねっとりとした舌使いで絡み付けてくるのを認めたバドは、くく・・・っと喉の奥で声を漏らしほくそ笑む。
耳元での笑いに、更に顔を火照らせるシドは、水場のシンクの縁に、抵抗を諦めた両腕を着いて、せり上がって行く快感の小波に耐える。
トスン・・・・と、解かれた帯紐と、いつの間にか緩められた帯が床に落ち、はら・・・と着物の前合わせがはだけると、バドの指が口内から引き抜かれたと同時、そのまま彼はしゃがみ込む。
「えっ・・・?やぁあっ」
突如、着物の裾から顔を入られて、秘所を押し広げられ、熱い吐息と舌先と、たっぷりと自分の唾液で濡らされた指を犯入させられて行く感触に、シドはびくびくと身体をしならせながらしなだれた声を上げた。
「やぁ・・・んっ、ああっ!」
まだ腕に通させられたままの、袂に桃色の雪の如く模様が描かれた袖が、がくがくと両腕が震える度に微かに揺れ動き、清かな肌にやんわりとした刺激を加えて行く。
指と舌と両方で慣らされて行くことで、まだ触れられていないシド自身が絶頂を訴え始めているのを、薄暗がりの中で認めたバドは、更に追い込むべく舌先でわざとらしく音を立てながら、指先はシドの柔らかく熱い肉壁の敏感な箇所を攻め立ててやる。
「ひ・・・あ、あぁあーっ・・・!」
背中を反らせ高い嬌声を上げながら、バドの指と舌をきゅう・・と締め付けながら、シドは自身からびくびくと白濁を迸らせていた。
「や・・、ひど・・・こんな・・・っ!」
張り詰めていた糸が切れるように、ずるずると崩れ落ちそうになるシドの身体を、後ろから抱きとめたバドは、僅かに顔を横向かせ、頬を伝う涙を舐め取って行く。
「お前にも責任はあるんだぜ?」
そう言いながらにやりと笑いながら、バドは反論する間も与えずに、シドの身体をひょいっと着物ごと抱え上げ、先ほどグラスを置いた椅子の真向かいにある食卓の上に移動させる。
そのまま仰向けに寝かせると、ふわり・・・とはだけた着物が褥の代わりになり、シドの下に広がっていた。
「こんな美味しそうなお前を見せ付けられて、俺が我慢できると思うなよ?」
「そんなの・・っ!」
反論しようと口を開きかけるシドの唇をすかさずバドの唇が覆い隠して行く。
「ふ・・・っ・・ん、んーーーっ!!」
くちゅ、ちゅ・・・と舌を絡ませられていく間、バドはシドの両脚を押し曲げるようにして抱え上げると、既に自らも限界まで張り詰めた自身をゆっくりとシドの内部に押し込んで行く。
「ん、んん・・・っ、あぁあ・・っ!」
身体の下に着物が敷かれているとは言え、固く背中に当たるテーブルの感触に掻き立てられた羞恥と、それでも内部から与えられる快楽とで涙を零しながら戦慄くシドの姿を堪能しながら、バドはすっぽりと入った自身で弟の内部を更に満たして行く。
「ああっ!ぁあっん・・・っ、にい、さ・・・っ!」
ギッギッ、ギシッと音をたてる臨時の寝台の上に、羽織ったままの着物姿のまま両腕を伸ばし、首に絡み付けてくるシドの耳元に、バドは上がる熱い息のまま、吐息を吹き込むように囁きかける。
「好き、だよ・・・、シド・・・。」
「はぁっ・・ぁ、っ・・・・わ、たしも・・っ!」
すっかり振り乱れてほどけてしまった髪を散らばすように頭を振りながら、それでも尚も自分を強く自分を求めてぎゅうっと、両腕に力を込めてしがみ付く弟を心底愛おしいと思いながら、バドはシドの両脚を更に高く抱え上げて、更に奥の奥まで繋がるように激しく突き上げて行く。
「や・・・ぁあぁぁっ!だめ・・・ぇ・・・ああぁーっ」
「く・・はっ・・・シドッ・・・!」
咽び泣きながら、二つの身体に狭まれたシド自身は二度目の快楽を吐き出し、バドもまたたっぷりと弟の中へ、自らの精を注ぎいれたのだった。


その翌日・・・・。
「ん・・・・・。」
すっかり朝日は昇り窓から差し込む寝台のシーツに包まっていたシドは、チュンチュンチュン・・・と鳥のさえずりの中で目が覚めた。
あのあとお互いにタガが外れ、舞台を寝台に移し何回か致したが、シドの覚えている限りは三回目位までで、その後ぷっつりと意識が途絶えて眠ってしまったらしい。
「・・・・だる・・・・。」
身体を起こそうとしても、文字通り腰砕けで起き上がれずにもう少しこのまま心地良いまどろみに身を任せようかと、うつらうつら考えていたとき、かたんと言う物音と、それと同時いい匂いが台所から漂い鼻腔をくすぐられた。
「あ・・・。」
そうだ、そろそろ起きて朝食を作らないと・・・と思い直し、手近にあったシャツを羽織り、気だるさの残る身体を起こし上げたその時、バドが台所から顔を出した。
「あ、おはよ、シド。」
「すみません、今・・・。」
「いいから。」
普段シドが愛用しているエプロンを身につけたバドは、もう一度台所に引っ込んでから、湯気立つマグカップを持って来た。
「これ飲んでな。まだ少し休んでろ。今、飯作っているから・・・。」
「・・・・・・・・。」
「?何だ?」
淹れ立てのお茶が入っている白いカップを受け取りながら、くす・・・・と笑みを漏らす弟に、バドは不思議そうな表情を浮かべた。
「いえ・・・、至れり尽くせりだなぁと思ってw」
「・・・滅相もありません;原因は俺ですので;」
そう言いながら、少ししょぼくれる兄に、シドはますますくすくすと笑い声を立てる。
「どうか今年も宜しくお願い致しますね?バド兄さんw」
そう言いながら小首を傾げて見上げてくる半裸姿の弟に、俺は今年もこうしてオトされていくんだろうなぁと思ったかどうかはひとまず置いておいて。
「こちらこそ宜しくな。シド・・・。」
くしゃくしゃと下ろされた髪をかき混ぜるようにして撫で付けると、シドは嬉しそうに目を細める。


今日もアスガルドは大晴天。
キラキラと煌めく銀世界の中の森で暮らす双子の今年一年のスタートは、極めて幸先良好であった――。



基調音楽:グルグル映畫館“異形の宴”より『大問題!されど快晴。』



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