永遠をここに捧ぐ・・・。~Love over again~



永 遠 を こ こ に 捧 ぐ・・・。
Love over again



互いに互いの唇だけを求め、貪りながら、バドは弟の身体を先程よりもきつく強く抱きしめると、シドの身は微かにひくり・・・と震えたが、それも一瞬の事で、目の前にある手に入れた兄の身体にそっと手を回して行く。
「ぅ・・・ん」
ただ触れるだけの淡く優しいキスは、息が続くまで続けられて、一度名残惜しげに二人は唇を離す。
若干呼吸を乱された様子で二人はお互いを見つめあうが、それでもぴったりと寄り添う姿はそのままだった。
「シド・・・。」
バドの静かに弟の名を呼ぶ声は、静寂に満ちて尚暗く感じさせる部屋の中で鮮やかに色を持ちその耳に届く。
そしてシドもまた、呼ばれた声に呼応して、まだ潤む瞳で兄を見上げ、寝台に腰をかけている体勢を僅かに崩して行く。
そのための衣擦れの音さえも、暗がりの部屋の中でしっかりとした形を持ち、何時もよりはっきりと耳に響く事で、シドの中・・そしてバドの中に眠っていて、つい先ほど目覚めたばかりの欲求を更に強く呼び覚ます。
この手に触れたいと希ったのはお互いが望んだ事で、しかしそれでもその先に進む行為によってもたらされる恐怖が無いのかといえばそれは嘘になる。
道徳的に外れてしまうことの怖れと、求め合った先の自分達の見えない未来。
破滅的な結末と、降り注ぐ幸福に辿り着けるかどうか、紙一重の枝分かれの路で立ち尽くしているバドの心情はシドも判っていた。
だけどこの気持ちに歯止めをかけることによって、何も知らないふりをして上辺だけの仲の良い双子の兄弟としてこの先を過ごしていかなければならない事が一番無理なのだと言うことを二人は理解していた。
だからこそ拒絶される恐怖を乗り越えて彼らはお互いに想いを打ち明けたのだし、そのことを微塵も後悔を覚えていない。
抱く事と抱かれる事の大きな違いを察し、その堂々巡りになりそうなループに僅かな差で決着を付けたのはシドのほうだった。
無意識のうちにか、不安そうに顔をしかめていた兄の頬に、そっと両手で包み込むと清廉な顔に似合う微笑を浮べてまるで子守唄の様な優しい声音でそっと囁く。
「貴方と一緒なら、怖くなんかありません・・・。」
感じる罪の意識はきっと自分を組み敷く彼のほうが大きいのだから、せめて自分は全てを受け入れる・・・。
一瞬、大きく目を見開いたバドだが、その静かな声で囁かれた言葉によって、今まで蹲っていた得体の知れない闇を取り払い、そして目の前に居る弟への愛おしさを募らせていく。
乗り切らなくてはならない壁を、二人が手を取り合って乗り越えたことによって、これから始まろうとする時の流れのスタートラインに立った彼らは、ようやく次の一歩を踏み出す事に成功する。
「シド・・・、俺のシド・・・・・。」
「愛しています・・・・。私の、バド・・・。」
そっと寝台に弟の身体を横たわらせて、身にまとう肌触りの良い夜着をするすると脱がせて行くバドの目の前で、段々と露になって行く白い身体。
「っあ・・・」
か細い声を上げて瞳を閉じたまま、ひくんと僅かに跳ね上がるシドの裸身にバドは首筋に唇を落として行き、新雪の如き肌に朱い泡華を咲かせて行く。
「っ・・・んっ、ぁ」
そのまま鎖骨へ胸へと下りて行くと、その白さを強調させるように紅く色づく小さな突起に辿り着いて、そのまま口に含む。
「あ・・あ・・ぁ・・っ」
ほんの少し軽く噛まれただけで痺れて行く感覚が走り抜けて行く。
そのまま舌で転がされながら、もう一方の胸も添えられた指先で摘まれ捏ね繰られながら、指と指の間に挟みこまれて転がされていく。
「にいさ・・・ぁあっ」
疼くようなそれは今まで体験した事のない未知なる感覚で、それが実の兄に施されている真実をシドは自分の中に位置づけようと、乱れ始めてくる息でバドを呼んでいた。
そしてバドも、だんだんと高ぶり始める己の欲求が一体誰に向けられている物なのかを、心の奥底で見えない何かに向って恐れている自分にそれを実感させる為に弟を呼ぶ。
「シド・・・・。」
灯り既に吹き消えており、室内は窓の外に振る白い雪の発光と、それに乗り掛かる銀の月光が窓枠の影を溶かし差し込むだけで、そして僅かにそれに包まれる二人の裸身と漏れていく吐息まじりに名前を呼ぶ声だけが、今この世界を彩る全てだった。
「あぁっ」
丹念に送り込まれた胸の愛撫で、高ぶり始めたシドの性にバドの手が下りて行き、触れられるとシドは目前に再び在るバドの肩にぎゅう・・っとしがみ付いていた。
「シド・・・。」
そんなシドの様子から、微かに感じている不安とか、初めての感覚への羞恥といった感情を取り除こうとバドは弟の名前を耳元でそっと囁いてそこにも軽く口付ける。
「大丈夫だから・・・。」
「あぁ・・っ、んぅっ・・!」
そう言いながら、ゆっくりと手を動かして行くバドは、必死に喘ぎをかみ殺そうとするシドの唇に口付けると、舌先で僅かにこじ開けて侵入して行く。
「ぅ・・んん、・・・んっ!」
触れられて居る自身に絡まる指先と、唇を割って入ってきた兄の舌先に絡め取られて行く己の舌。
それによって段々と高められていく快楽の波。
全て初めて与えられるはずなのに、こうしてすんなりとこの身体に吸収されていくのは、この人に与えられているものだから・・・・。
閉じられているシドの瞳から流れ落ちる一筋の涙は、愛されたいと願った人に愛されているという歓喜の表れのものだった。
「んっ・・・んぅぅんーーっ!」
そしてその悦びはシドの全身を駆け巡って、情欲の証であるそれはバドの手の中に溢れ出て行く。
「はあ・・っぁ・・は・・・っ」
長い長い口付けと相乗効果で、どっと押し寄せてくる倦怠感に肩で息を吐くシドの両脚を僅かに広げたバドは、弟の秘所に今しがた吐き出された精を塗りこめ、それを滑走油の変わりに指を一本押し進めて行く。
「ひっ・・!」
覚悟はしていたが、その異物感に息を飲んだシドの手が、痛いほどに肩を掴まれた事で、バドは止めようかと一度動きを止めたが、シドはふるふると頭を振った。
「やめ・・ないで・・・。」
「シド・・・?」
「大丈夫・・・ですから・・・、どうか、このまま・・・。」
続けて・・、と、絶え絶えの息で訴えかけるシドに、バドは狂おしいほどの想いを新たに感じた。
「・・・・判った・・・・。」
それでも、弟が出来るだけ痛みを覚えないようにと、額に、しっとりと潤んだ夕日色の瞳の目尻に、頬にと触れるだけの口付けを落としながら、きつく締め付けてくる弟の内部に入り込み、ゆっくり探って行く。
「っ、ぁあ・・・!?」
「シド・・?」
今までにひっきりなしに苦痛の声を上げていたシドが、打って変わってひくんと身体を震わせたことを見逃さずに、バドはもう一度その奥まった箇所の肉壁に触れてやる。
「あぁっ・・・ぁ・・」
今度は間違いなく、感じ始めていくシドの姿を見て取れたバドは、先ほどとより強く悦部に触れ続けて行く。
「あぁ・・ぁんっ!・・・ぁ・・・にぃさ・・・っ」
「ここ?」
直接的な質問の問いかけに、瞬時にかぁっと耳まで赤くなった弟が、それでもこくんと頷いたのを見て、くすりと笑いかけながら、もっと感じさせてやろうと執拗なほどにそこを攻め立ててやる。
「や・・あぁっ!」
そして無意識のうちに、指を引き抜こうとすると、シドの秘部が名残惜しげにきゅう・・・と締め付けるのを苦笑しながら、バドは一本・・、二本と指を増やしながら再び突き入れて行く。
「あ・・・あ・・・兄さん・・・っ」
指先で施されていく悦びに、シドは両手を精一杯バドに向けて差し伸べるとバドは、肌理細やかでいて少し冷たい弟の片手を取り、その手の甲に口付けた。
「・・・・大丈夫か・・・?」
「はい・・・。」
「辛かったら・・・。」
「そんなことは決してあり得ません・・・。」
言葉を遮ってにこりと微笑むその顔は、与えられるもの全てを受け止める為に、バドにだけ向けられた汚れのない美しいもの。
その笑顔を真正面から受け止められると言う幸福感に酔いしれながら、バドは紅く濡れる唇に啄ばむだけのキスをして、両脚を抱え上げながらゆっくりと弟の中に入っていった。
「――――っっ!!」
しかし指とは比べ物にならないバドの性に、シドは悲鳴を上げる事も忘れて、頭上のシーツを掴んでいた。
バドの方も、シドの肉壁の収縮と熱さに我を忘れそうになるものの、あまりにも苦痛そうなシドを見て、弟の中から自身を引き抜こうとするが。
「いいっ・・、から・・・!だいじょ・・・ぶだから・・・!」
先ほど以上に絶え絶えの息で絶えながら、戦慄く唇から漏れる声。
それでも未だ逡巡するバドの背中にするり回されて、ぎゅっと抱きしめられた両腕の温もりがシドの意志を象徴していた。
「シ・・ド・・!」
万感の想いを込めて弟を呼びながら、出来るだけ彼の負担を軽くしようと、ひくひくと痙攣の様に圧縮してくる肉壁に合わせてゆっくりゆっくりと入り込んで行く。
強く両腕で自分を抱きとめたまま、苦痛の呼吸を繰り返すシドの、淡緑色を含む銀髪を優しく梳きながら、その頬に手を添えて、その時を待った。
「はぁ、はぁ・・・っ!あぁーっ」
一度収まった呼吸のまま、こくんと頷いたシドの様子を見計らって、バドは先ほど見つけた悦部を先端で刺激して行くのと同時、堪えてきた欲情を弟の中で放つ為に動き始めた。
「あぁっ・・ぁ!バド・・・っ、にい・・さん・・!」
うわごとの様に繰り返される、弟の甘く悦びにのたうつ声で名前を呼ばることで、更にバドの欲情は煽られて行く。
「シド・・っ!愛・・・してるっ、・・・愛してる!」
使い古された陳腐なだけの言葉を、何よりも信じられなかった言葉を今、自分は素直に口に出せる事。
そしてそれは他でもない彼の前だからこそ言える事実である事。
兄弟だから双子だからと言う闇への恐れなんかよりも、大事なものが何か判ったから。
「わたし・・も・・っ、・・・んぁ・・・っ、私も・・・っぁあっ!」
切れ切れに交わされる改めて誓い合う告白の中、打ち寄せてくる快楽にシドは頭を振りながら、二度味わう絶頂を迎えるため登りつめて行く。
「あいして・・・っ、ぅあっ!・・・っあぁあーーっ」
「シド・・・っ!く、ぅ・・・っ」
一際奥まで貫いたバド自身が、シドの悦部を強く刺激した衝動で、シドの性はその熱を再び解放し、バドもまた目も眩むような白い快感に襲われて、弟の最も深い場所にその熱を解き放っていった――。


気だるいままで裸身を横たえて、バドはシドの頭の下に自分の腕を差し入れて、向かい合う形でその身体を抱きしめていた。
既にあどけない顔で、すやすやと眠りに落ちている弟の、幸せそうでいて無邪気な顔を夜が明けるまでずっと見ていたいと思うが、どうやら緩やかに襲い掛かる睡魔のせいでそれは叶いそうになかった。
でも、今夜を逃がしても、時間はいくらでも在るのだ。
これからずっと離れずに生きて行くのだから・・・。
「シド・・・・。」
「・・・・ん・・・・。」
寝入っているはずのシドの唇から漏れた寝息に、一瞬起こしたかな?と思うバドだが、それはどうやらタイミングが合っただけの相槌だったようだ。
それでも、これからも目の前の弟にしか見せない優しい微笑を浮かべて、そんな彼の閉じられた目蓋の上に優しくキスをする。
「もう、決して離しはしない・・・。」
「・・・・ん・・・・。」
「・・・・本当に寝てんのか?」
今度の問いかけには答えずに、また深い眠りに入ったシドの顔を覗き込もうとしたが、本格的に襲い掛かる睡魔にそれを諦める代わりに、うっすらと開かれる唇に、今晩だけでも幾度となく交わしたキスを贈る。



兄弟だから、諦めかけた想い。
双子として生まれたからこそ舐め続けた辛酸。

だけどそれ等は全て、こうなる為に必要な事だったのだと今だから思える。

きっとこの先に罪の意識に苛まされる事があろうとも、それでも彼らは互いを守り抜くだろう――・・・。




永遠に失ったはずの存在を、永遠に添い遂げて行く相手に変えた彼らのお互いに捧げられた純粋で透明な愛は、永遠に色あせない形なのだから――・・・・・。








BGM:ゴスペラーズ“永遠に”





before story・・・・告白



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