真夏の色の白い空は、四角い窓にはめ込まれて区切られているものだと思っていて、手を伸ばしてもそれは自分の中には収まる事のない、まるで焦がれている彼のようだとずっと思っていた。
だから今もこの空の下で暮らす日々は、現実感なんてまるでなくて、ずっと私が見続けている夢の中の物語かと思うほど甘い幸福に満たされている。
ふと時折我に返って、それが怖くなるほどに――・・・。
White Heaven Garden
幸せそうに見えますか・・・・?
そう、悪戯っぽく戦慄いたシドの甘く柔らかい唇を吸い上げるため、バドもまた自分の唇をそっと重ね合わせると、弟はうっとりとした様子で瞳を閉じて、少し荒れていても尚白い綺麗な指先を兄の髪に絡ませながら両腕をその首に回した。
「ん・・・。」
バドもまたシドの腰に両手を掛けてするりと回すと、白いその綺麗な表情が段々と薄紅に上気しつつ吐息がかる甘い声に誘われるように、舌先でペロリと優しくその唇を舐め上げて、角度を変えながら侵入を試みようとそっとこじ開けながら舌先を絡めて行く。
「ん、ふ・・・。」
静かにホースから流れ出る水は、土の間の溝を伝って流れ出て、まるで春を泳ぐ小川の様に、立ったまま家に入るのも忘れてお互いを求め続ける双子の足元を微かに掠めるように濡らして行く。
その音とは対照的に、くちゅ・・ちゅ・・と、ほのかな水音が互いの耳にリアルに深く響くと、シドはびくりと少しだけ身体を震わせたけれど、それは恐怖や拒絶から来るそれではなく、今この時も彼を想って恋焦がれていて、そんな彼に抱かれるという際限のない歓びから湧き上がる静かな興奮の表れだった。
「シド・・・・。」
口付けを解いて瞳を潤ませながら熱っぽく弟の名前を呼ぶバドの後ろに広がる、白く近くにまで降りてきている夏色の空。
「バド・・・。」
手を伸ばしてその頬に触れれば、その体温を直に感じられるだけの距離。
呼びたくてたまらなかった名前を呼べば優しく微笑んでくれるその笑顔。
でもそれはまるで、昔、貴族の館で見上げ続けていた区切られれた四角の向こうの空の様につかめるはずの無いと諦めていた存在。
「・・んっ・・」
不意にその身体を軽く立て抱きに持ち上げられ、家に入るのももどかしくて、丁度裏庭になる部分に大きく茂っている青々とした樹の幹に移動してその身体を優しく押付けられる。
そしてそのままバドは、濡れた自分に抱きついてきた、シドの透けた服の上から赤く色を滲み出す胸の突起を、花を摘むような優しい手つきでそっと摘んだ。
「ぁ・・・、んっ」
急に与えられた甘い刺激に、シドは切なげに瞳を閉じて、ひくん・・・と身体を竦ませた。
「ふぁ・・はっ・・ぁ」
更に反対の突起を唇を寄せて啄ばまれだされて、濡れた肌とシャツが擦れる刺激に、敏感になリ始めたシドは無意識のうちに微かに腰を揺らしだす。
それでも、せめて中に入りましょうと諫める余裕も理由も無いままで、そのまま兄に身体を預け続けていると、その動きに合わせるようにしてバドの手がシドの中心部に下りて来る。
「あぁっ」
甘やかなその声を途切れさせる事なく、布越しから軽く円を描く様にその熱を確かめるように撫でさすって、穿いているパンツと下着を脱がせて下ろして行き、束縛を解かれたシド自身を解放する為に直に触れてゆっくりと扱いてやる。
「ああっ・・あー・・・っ」
扱かれるたびに熱く撓っていくシドの性を、今度は啄ばんでいた胸から移動させた唇で追い上げようとして、しゃがんで片足を軽く肩に引っ掛けるようにして持ち上げて先端を吸い上げてやると、背中から快楽がビクビクと身体を突き上げてきて、頭を振った拍子に被っていた麦藁帽子は静かに木陰の土の上に滑り落ちていった。
「ん・・ふっ・・ん。」
静かすぎる森の中、自分の欲望を舐め上げる音が直に響いてくる羞恥心からか、無意識のうちに唇を噛んで声を押さえつけようとする弟を、バドは容赦ないように攻め立ててやる。
「もっと・・俺に見せて・・・?」
足と足の間から、上目遣いで悪戯っ子の様な眼差しで訴えかける兄の視線とその声に更に真っ赤に頬を染めたシドは、気恥ずかしげに瞳をぎゅうっと瞑ってやり過ごそうとする。
が、バドはそれならば・・と、大きく反り返って達そうとする弟の性の根元をきつく強く握りこんで、そのまますくっと立ち上がる。
「やぁ・・っん!」
途端に熱を解放したく、疼く様に身を竦ませて涙に目尻をためて懇願する様に吐息をシドのその顎を捉えて、じぃっとその艶めかしい表情を見つめてやる。
「あぁ・・ッ、も・・っ、」
「イキたい?」
「・・・っ・・・。」
その耳元で囁きかけられてくすぐられる低く甘いその声に、理性を焼ききられてこくんと頷くシドに満足そうに微笑んだバドは、その艶やかに濡れる朱い唇にまだ口付けを落しながら、手の中で熱く昂ぶっている弟自身を追い上げていく。
「んぅ・・っ・んんー・・・っ!」
無意識にまた頭を振ろうとした、弟の後頭部を強く押さえつけて口付けを施すバドのその手の中に、シドは迸る熱を全て解放していった。
「にいさ・・っ、ぁあっ・・にいさん・・っ!」
「シド・・っ」
バドは弟の愛欲に塗れたその手で、彼の後ろの細道をまさぐり始め、シドは兄の昂ぶりだすその足の間の性を高めだそうとして、懸命にソレを愛撫していく。
その最中二人は何かに取り付かれたようにお互いの名前を呼び続ける。
・・・・こんな至福の時間にそれ以外一体何を叫べと言うのだろうか?
「・・ぅ・・く・・っシ、ド・・・っ!」
ピッタリと身体を密着させた状態で、たまらなさそうな表情を見せるバドに、シドは少しだけくすり・・と笑って、何時も兄がするようにして頭を微かにずらして首筋に唇を寄せて舌を這わせる。
「・・っは・・よせ・・っ」
低く漏れる甘い声にたまらなくなって、思わずきつく朱印を散らすとまた掠れた色気を含む声を上げた。
「・・・かわいい・・・・。」
いつものお返しとばかりに耳元で囁きかけてやると、その刺激に反応するようにして身体を震わす・・と同時、後ろを弄っているバドの指がその細やかな愛撫に促進されたかのようにずぶりと、シドの奥に抉られる。
「っん・・・!」
与え合う快楽の大きさに思わず達してしまいそうになる二人だが、やっぱりそれは互いに熱を分かち合った衝撃が良いに決まっている。
「・・・シド・・・。」
「・・・にいさん・・・・。」
うっとりとした恍惚に浮かされる表情のままの二人は、いくら与え合っても足りないほどの口付けを交わすために、また唇を押付けあって貪りあう。
「ぁ・・ぁああーっ・・!」
固い樹の幹に背中を押付けられて、目一杯に両脚を抱え上げられ、ぐっと腰を押付けられて硬く熱い兄を受け止める体勢は、決してシドにとっては楽ではない。
だけども向かい合ったままで愛しい人から与えられる熱とその存在と全てを真正面から受け止めて感じられる事の出来る体位。
「はぁ・・っ・・あ・・ぅん・・っ」
汗ばむ体に密着する兄と、その向こうに見ゆるは真っ白な空。
現実味の無いような果てなく続く白い空の下にある今この時の自分達は、きっとこの空が墜ちてきたら簡単に飲み込まれて潰えてしまいそうなほどちっぽけなものかもしれないけれど。
「ん・・っは・・ぁう・・!」
はあはあと乱れていた呼吸が一旦収まるまでそのままで兄を感じつつ、そしてゆっくりと揺さ振られ始める。
真っ白く・・まるでこの夏色の空の様に染まり始める思考の中、それでも目の前に居る、届かなくて諦めてそれでも欲しくてたまらなかった兄を二度と手離さない様にと、縋るように甘えるようにどこか祈りに似た想いを両手に込めて、更に強く強くしがみ付く。
「ん・・ぁあっ・・!にいさ・・にい、さんっ・・・!」
ずっと傍にいても飽く事無く抱き合っていても、繋がっていられる間は短くて、少しでも長い間弟の中に居たく想っていても、耳元に響く自分の名前だけを呼ぶ、理性のとんだその声にいつも官能を刺激されてその動きは早さを増していく。
抱え上げた両足は宙を蹴り上げるように痙攣していき、自分だけを求める甘い甘い嬌声はバドの猛る自身を更に煽り、シドの中でその硬さと大きさはますます増していく。
「シド・・っ、シド!」
この声が枯れてしまえども、何度呼んでも飽き足らないほどに、弟の名前を熱く切ない響きで薄紅に染まるその耳元に吹き込んでやると、それに連動するようにまたきつくその内部は縮小してバド自身を締め上げていく。
「にいさ・・・・、ぁあ・・っ、愛してるっ・・・!」
「俺・・・もだ・・っ!」
だから・・・、
もうどこにも行かせない――!
その声がどちらが発したものか、はては声帯を突き抜けて表に出たのか――。
それは衝撃によって、一瞬焼ききれた思考に直に響いただけで、それを認識する前に二人はその後に訪れた大きな波にうねるようにして快楽の波にさらわれていった。
「・・・シド・・シド・・・。」
「ん・・ぁ?」
ぺちぺちと軽く頬を叩かれる震動で、シドはくったりとして閉じていた瞳をうっすらと開ける。
「・・・大丈夫・・か?;」
「///えぇ・・・。」
あまりの気持ちよさに一瞬うっかり気をやってしまったシドに、手加減なしの愛情表現にばつが悪そうに俯くバド。
脱ぎ散らかして、すっかり水浸しになった服を身に着けて、すぐ目の前にある我が家に入っていこうとしたと同時、丁度タイミングよくゴロゴロと乳白色の空が鳴り出して、二人の愛の時間が終わるのを待っていたかのごとくに、ザァーーーっと音を立てて雨を降らし始める。
「・・・折角水撒いたばかりなのに・・・;」
「・・・どうせなら雨が降るまで待てばよかったなぁ・・・。」
少ししょんぼりとしながら雨を見上げるシドとそれとは対極の表情で白い雨空を見上げながらバドの漏らした一言に、この双子の確固たる違いが顕著に表れる。
「今何か言いました?!」
「いーや、何も?」
にまにまと確信めいた笑みに、情事の後をぶり返したかのように真っ赤に顔を染めて頬を膨らませてもう知らない!とばかりにそっぽを向くシドだったが、不意に出しっぱなしにしている蛇口の水と、すっかり作り上げていた昼食の存在を思い出して、慌てて兄の手を引いて家の中へと駆け込んでいく。
一体どちらが夢の中の出来事かと問われれば、多分今の暮らしの方が、ひと夏の夢の中の出来事じゃないかと勘繰ってしまう。
四角く区切られた館の窓から、白い空をただただ眺めていた頃と、白い空を見上げる間も無く生きるためだけに野山を走り回っていたあの頃と。
それでもその二つの頃はどんなに消したくても確かに起こっていた過去で、今の現実感の無いような幸せな暮らしを得る為に必要だった時間で。
他人から見れば、平坦で何も無い退屈な日常かもしれないけれど、これが彼らの望んだ幸せな夢。
醒める事のない、手付かずの砂の城の様な楽園に広がる白い空は、今度こそ彼らの時間が誰かの手によって壊される事の無い様に、この季節だけでも彼らを守るようにして幻惑の白夜の腕を今日も広げていた――・・・。
BGM:COCCO『ザンサイアン』より「夏色」
戻ります。
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