これは罪なきアナタへ捧ぐ私からの・・・・。
ワルハラ宮の回廊にて、初めての邂逅を果たしている、この世界でたった二人きりの双子の兄弟。
既に瀕死の状態の意識が飛びかけている、弟であるミザルの光の神闘士であるシドのその声帯を突ききらない声、唇だけ動かす声なき言葉は、影であるアルコルの神闘士である兄のバドの耳に静かに届き始めていた。
あの日から・・・、そう幼き頃の何も知らないと思っていたあのときからずっとシドは自分の事を忘れた事など無かったと言う、敵の体を挟んで告げられていく真実に、バドの背筋を冷たい感覚が走り抜けていく。
ならば・・・と、からからに乾ききっている唇からそう紡ごうとしても、言葉など出るはずも無く。
ならばお前はやはりあの時も――・・・?!
そうだとすれば何とおぞましい事なのかと、バドは目の前の弟に潰えかけていた怒りと絶望を燃やしつつ、その身体ごとと彼が望むがままにしてやろうとして手を翳した。
だが、“それ”が例え本当に真実だとしても、バドにはこの目の前に居る誰よりも憎んでいた弟を撃つ事など出来ない事を既に覚っていた。
じゃ無ければ、“あの時”にとっくに殺せていたはずなのだから。
彼が希う通り、“あの時”の時間に、後ろからの無防備な状態で掻き抱いている最中に、その仰け反って自分を受け入れていたそのしなやかな白い首筋を掻っ切って、鮮血を噴出さされば良かったはずなのだから。
あぁ・・・、何て・・・。
気がつかないフリを決め込んでいた俺も、何も知らないフリを続けて俺を受け入れていたお前も何て罪穢れ、そして愚かしい存在なのか・・・。
an executor
「あ・・っ、はぁっ・・・」
薄暗く灯の灯る、闇の支配する時間、宛がわれた自室で一人思いに耽って自分の欲望を吐き出すための独り芝居を繰り返す弟の何度目かの夜を、バドは背後から視続けていた。
来るべき聖戦の為に、ミザルの影として生きる事を余儀なくされたバドは、憎しみながらもその心に巣食う野望を叶える為だと自身に言い聞かせて、日常は勿論、プライベートの空間ですらも一定の距離を保って、それこそ月に照らされる場所に出来る影の様に、光である弟の背後の傍に付き従っていた。
その双眸に映るのは、今居る自分の真正面に位置する執務机の椅子に座り、誰かを想い慕い、独り自慰に耽る誰よりも憎む弟のあられもない姿。
男としてなら当然として持つ欲求とその解消方法なのだが、バドにしてみれば、自分と全く同じような姿形でありながらも、全く違うと言っていいほど・・・聖人君子や天使と言った類ではないけれど・・・、そういった俗物の欲望には縁遠いのだと、普段から見続けていたシドのあまりのギャップに最初は驚いていたのだが、段々とそれを蔑みながら見守る内、自分自身を煽っているのではないかと邪妄するほどに日を重ねるごとに、その姿は妖艶で。
当然の事ながら正面に回っては見れないのだが、恐らくその白いすらりとした両脚は、程よい大きさの執務椅子の上にM字に広げて、猛り立つ自身に己が手と指を絡ませながら、たった一人で届かない想いを吐き出すためのその乱れた行為はまるで自分にも当てはまるようで・・・。
「ん・・・っ・・!」
そんな狂態を最も憎まれている半身に曝け出しているなどとは微塵も思わずに、シドは甘い押し殺した吐息交じりの声を唇から漏らして、ビクビクと体を撓らせていき絶頂を追いかけ始めている。
背後からじっと覗いていたその夜毎の秘め事に、少なからずバドは興奮していたのも事実だった。
いくら憎んでいるとは言えどもバドから見たシドは、自分と違って大事に大事に蝶よ花よと育てられた甲斐あってか、同じ姿とは言え清廉さに包まれて、素直に綺麗で美しく思える存在で。
その行為を浅ましいと内心なじりながらも、そんな手の届かない綺麗な存在を引きずり堕として征服して、汚して汚して汚しつくして貪ってやりたいと思うのは男としては当然の願望だが、それをしてしまうのは即ち、影としての己を曝け出す事は間違いなかった。
それこそ本当に叶う事の無い事であり、そうすることで自らの身の破滅を招く事は十二分に承知していたから、バドはその身体に、少なくとも孕んだ欲望は自らで処理をしていた。
だが、それは本当にギリギリで保たれていた均衡でしかなかった。
「・・あ、・・いしてますっ・・・!」
「っ・・・!」
何時もと違う、シドが仰け反らせた身体のままに発した一言が、今まで募り募っていたと言うよりも、無意識のうちに押さえ込んできたありとあらゆる欲望がバドの中で弾け飛んで、渦になって支配していく。
気がつけば・・と言うか、まるで思考と肉体が切り離されたように、それでも足音は立てないでそっと殺したいはずの弟のすぐ傍にまで忍び寄り、その白い身体を後ろから手を伸ばして捕らえていた。
一瞬驚いたように息を呑む音が聞こえ身を竦ませるのが判ったが、それに構わず弟を無理に立たせ、上半身をきちんと整理整頓されている机の上にうつ伏せに組み敷いた。
「ぁ」
誰・・・と、聞き返される前にその視界を近くにあった布で覆い、抵抗される前にその両手を難なく捕らえて後ろ手で一度捕らえ、纏っていた白い一枚のシャツを手首の辺りで縛るようにして脱がしてぐるぐると無防備に巻きつける。
どうせこいつは聖闘士達との戦いによって、俺の為の捨て駒と言う名の生贄に捧げられるのだ。
ならばせめてそこまで想い慕う相手に抱く報われない想いとやらを、その身体にだけでも成就させてやろうではないか。
それに同じ男に組み敷かれたなどと、この潔癖なお坊ちゃんが周りに漏らすはずも無い。
「んっ・・!」
手首に手繰りこませたシャツの上から、爪が食い込むほどに強く片手をそこに食い込ませている痛みを訴えるような声に煽られるまま、そのしなやかな白い裸体に半端に脱がされかけたままのシャツの裾に隠された下肢を覗き込む為にしゃがみ込んで、それをめくり上げてまじまじと覗き込んでやる。
立たせた時に微かに開いた両脚の向こうに見える、弟の性は熱く震えながら高々と持ち上がっている。
きっとその先端からは先ほど自分の手で弄繰り回した甲斐あってか、透明な先走りの蜜が滲み出ているのだろう。
その証拠にその根元を飾る二つの珠もここから見て判るほどに大きく膨張していて、まるで清らかな聖母のようなシドの隠された淫らな欲望の象徴が、ここから見てもくっきりと表れて伝わってくる。
「やぁ・・・っ」
ソコに注ぐ視線で達しそうな弟を見届けてやりたいのも山々なのだが、そうしている間にもシドは自分の手を振りほどこうとしてか、必死に身を捩っており、無意識かまるで焦れたような掠れた声に、じっと見つめていたバドは我に返る。
目隠しをされているとは言え、この清かな弟の顔がこれから与えてやっていく屈辱にどれほど淫らに歪んでいくのかを正面から見れないのを心底残念だと感じながらも、バドはぐい・・っと空いている片手の親指と人差し指にて肉付きの薄い形のいい臀部を開いてやると、ソコはまるでバドに見られることによって意志を持つかの様にして、ひくりと震えてまるで誘うようにして収縮を繰り返している。
「・・・・・・・。」
ごくり・・・と無意識のうちに生唾を呑む音がやけに大きく耳に響く。
そうすることが本当に自然の様に、吸い寄せられるようにして唇を落としていき、まず受け入れさせる為に、唾液で狭く窄まるソコを濡らしていきながら、解していく為にぬる・・っと舌を突き入れてやると、熱く柔らかい肉壁が突然の闖入者を拒むようにきゅぅ・・っとバドの舌を締め上げ始める。
「あぁっ・・!」
その瞬間に、抵抗を忘れるようにしてびくんと身体を竦ませたシドの甘い声がバドの耳に響くと、躊躇う間も無く奥へ奥へと・・・夜毎想う誰かに触れて欲しくてたまらないであろう場所を、これから己が奪って蹂躙してやる為にゆっくりと開かせていく。
「・・っ、ぁあ・・・っ」
むず痒い様な、それとも柔らかいとは言え異物への挿入に対しての不快感を催しているのか、どっちとも付かない声を上げながら、シドの身体の本能的な震えが押さえつけたバドの手に伝ってくる。
犯入させた舌全体で、熱くひくつく肉壁を舐め回す様に動かしてやると、ソコはもう敵意を解いたかのように・・むしろ歓迎をするように解れて行って丁度良い締め付けに変わり始めると、バドは舌を一度引き抜いて、第二段階である己が体の一部分に切り替えた。
「や・・っ、あぁあっ!」
遮られた暗闇の視界の中、柔らかく内部を犯していた舌が引き抜かれて突如長い筋張る二本の指をソコに入れられた瞬間に張り詰めていた意図が途切れるように、そそり立つシド自身が熱を解放する瞬間を、バドは余す事無く見つめていた。
その時、たった今突き入れたばかりの指が、更に熱くキツク締め上げていく感覚にバドは例えよう無い恍惚感を覚えていく。
例え愛情から来る行為ではなくとも、この熱く狭い内部に自分自身を入れればどれだけ気持ちがいいのだろうか・・・?
この何よりも憎らしく殺したい弟を、自身が齎すその熱の元に支配できる快楽はいか程の物だろうか・・・・・・!
そう考えるだけでずくずくと重くなっていき逸る下半身を押さえ込みながらも、すくっと立ち上がり片手をシドの背中に当てて上体を押さえつけながら、未だ狭いシドの内部に突き立てている指を半回転させながら、深く深く、腸壁にまで届くほどに銜え込ませていく。
「ひ・・ぁあっ・・!」
唾液だけの滑走油だけで、ひたすら労わる事もしないでソコを弄っていて度に漏れ堕ちていく内部に入る指が齎す音と苦痛に満ちた弟の声とが混じる卑猥な奏でに、半ば意識が飛びかけているバドはねっとりとした動きでもって弟を開発していく。
「あ、あ・・・ぁあ・・っ」
びくびくと身体を震わせながらも、もう一切の抵抗をしない彼を見ると、暗闇の視界の中で己の齎す性戯が想い慕う誰かに抱かれているという変換と言う名の諦めを認めたのだろうか?
本当はもう、このまま開ききっていないこの部分に昂ぶった自身を埋めていっても良かったのだが、いくらここまで感じ始めているとは言え、質量も形も何倍もある男を捻じ込んでいくにはまだ苦痛の方が上回るだろう。
いや、それよりももっとこの聖母の様で、罪穢れも知らないような弟をまだ自分の手によってこの底無しの肉欲に溺れさせて善がらせてやりたい。
奥へと突き入れていく事によって更に突き上げ始めてきたらしい新たな快楽に、すっかり抵抗する気も失せたこの弟に、最後の末期に好いた者とは正反対のこの俺の存在を、その身体の奥底にまで叩きこませてやりたかった。
「は・・ん・・っ」
吐息の様なその声が、もうすっかりと苦痛を取り去って悦を滲ませているのが判る。
先ほど見つけたばかりの最奥のスポットを三本にまで増えた指でひっきりなしに攻め立てて行くと、過敏なほどに熱くなる肉壁が滲ます粘液がぬちゃぬちゃと湿った音を突いていく度に響かせる。
「ぁ・・っ」
締め付けるだけだったソコは、まるで女の様に花開くように解かれつつあり、指を引き抜こうとするとそうはさせまいと銜え込んだままで、それでも完全に引き抜くと物足りなさそうなシドの声と共に名残惜しそうにひくついた。
「もぅ・・、ゆる、して・・・。」
はぁはぁと為すがままになっていたシドが初めて漏らす哀願に、バドの張り詰めていた嗜虐思考がいよいよ持って鎌首をもたげ始める。
押さえ込んでいた背中の上からその手を退かして、強くその双丘を両手で掴みあげ、ぐっと押し広げるとバドはその散々嬲っていたソコに、同じように熱く硬い先端の切っ先を宛がう。
「はっ・・ぁあっ・・、あぁーっ」
待ちわびた自身で持って、開かせてくわえ込ませて犯していくその部分は、やはり初めて男を受け入れる事によって、先ほどまでとはうって変わっての強い拒絶を示しており、その激痛を訴える引き攣る声を上げてシドは自由になった上半身を仰け反らせた。
だが、犯入しているバド自身もそのあまりのきつさに痛みを覚えるほどで殆ど無意識のうちに前に伸ばしたその手で、また硬く勃ち上がり始めている弟自身に触れていく。
「は・・ぁ、ん・・っ」
根元を扱きながら、先端の敏感な粘膜を指先で刺激してやる事によって齎された快楽が、僅かながらにも痛みを紛らわす事が出来たのか、再度締め付けるだけになった熱い肉壁はゆっくりゆっくりと道を示し始めた。
「あ・・・・っは・・ぅっ」
シドの唇から漏れる声が再び甘くなり始めて、狭くきついながらも根元まですっぽりと埋め終えて荒い息を整えるバドに、ある種の懐かしさがこみ上げてくる。
それは無理矢理に奪ったとは言え、分かち合う肉の熱さもって、この光を引きずり落としたと言うそれよりももっと・・・、まるで溶けて交じり合うような錯覚。
それはまるで母の胎内に還ったかのような、もう記憶にも無い緩やかな波のようで・・・。
「・・・っ!」
そう思った時に、バドは今自分を埋めているこの存在と双子だったと言う事を思い出した。
それは忘れていたとかそういうのではなくて、憎しみに狂うとかそうだとか言う以前に、この目の前で合わない呼吸を整える弟は、もうずっと前から・・・、それこそ生まれる前ですらもずっと一つの存在だったのだ。
それを、俺以外の誰かを想う・・だと。
その代わりに体だけでも成就させる・・だと?
冗談ではない――!!
倒錯していく感情、それを矛盾と呼ぶ前にバドはひたすらその内部に埋め込んだ自身で、ただただ弟への執着を込めて強く穿ち始める。
「あっ、ぅああっ・・ぁああ!」
ようやく整えた呼吸がまたその激しいほどの動きで掻き乱されて行く。
自由になった上半身はまたもや力なくその机の上に投げ出されていて、見下ろすままの眼帯を撒きつかされた横顔は薄紅に染まり、濡れた唇はそれを表すような声音でいて。
これは・・・、この存在は・・・。
「はっ・・んっんん・・っ!」
ぐっぐ・・っと腰を押付けながら、バドは戦慄くシドの上体を起し上げながら、その芳しい紅色の唇に己の唇を重ね合わせ、その色に相応しいほどに甘い甘い味のする口内に舌を絡めていきながらシドを追い込んで行く。
「んんっ、ぅん・・っ!」
上も下も繋がったままで、ぬるりと前に回されたままの手で弟自身を弄繰り回しながら最奥の部分を突いて行くと、シドの身体は段々と快楽を臨んで行き、そうする事によってバドもまた甘美な熱に取り込まれていく。
痺れていく思考と、締め上げていく熱。
艶めかしく歪む表情も、そのしなやかに俺をくわえ込む白い身体も全て――!
これは俺だけのものだ――!!
「・・・・――っ!、ぁあっ、あー・・・っ!」
弾け飛んでいく欲望と共に、湧き上がる独占欲のまま、バドは文字通り弟の全てに自分だけを叩きこませて行き、その最も深い部分に熱い情欲を注ぎ込む。
そしてシドもまたその衝動で大きくバドの腕の中で仰け反って自身から生温かい性をあふれ出させていき、そのまま意識を手離していったのだった。
「・・・・・。」
犯して汚したかったはずの弟の中から、自身を引き抜いて、自分が貪った証をふき取ってやる。
シドが一体誰を想っていたのか、最後に聞こえた気がするその声が何を示していたのか・・・、それはどうだっていいことだった。
これは一夜限りの夢・・・なのだから。
後はそう、来るべき聖戦で全てが明らかになって、そしてその時はシドが俺の手によって倒される時なのだから。
一つの存在だと正しく認識しても、交わる事の無い運命は変えられる事の無い事実、なのだから。
瞳を覆う拘束をそっと取り払い、ふと閉じられた瞳にの上にバドは何の気も無いままに触れるか触れないかだけの口付けを落とした。
「お前を殺すのは・・・。」
この俺だ・・・。
そう弟に囁いた言葉をそのまま自分に言い聞かせるように・・・。
BGM:シド『御手紙』
戻ります。
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