雪 色 夜 音
「・・・ごめ・・・っ、シド・・」
息を荒げながらバドは、悔しさとせつなさとを抱えた表情で、快楽を今しがた刻みあい、そしてその熱を分かち合おうと横たえた双子の弟の肩にとさりと遣る瀬無さそうに頭を預ける。
「いいえ・・・。」
兄を受け入れようとして微かに広げていた脚を一度閉ざしてその身を起こすと、柔らかく伸びている同じ色の髪に指を絡ませてギュッとその頭を抱え込む。
母親が我が子を想う愛情と、恋人を想う愛情に満ちた慈愛を込めて。
「く・・っそ・・・!」
溜息とも吐息とも取れる悔しさに満ちた声。
たった一言に込められた兄の思いを汲み取って、シドは自分の身にしがみ付いて首にするりと腕を回すバドを少しでも安心させるように・・・そして傷つけないように背中を軽く撫でながら、じ・・っと普段は強い眼差しを宿すが今は潤む瞳で顔を伏せる兄を同じ色のそれで見つめ返す。
「・・・にいさん・・・。」
兄が自分に対して抱いている感情・・・それはこの刺すほどに冷たい季節になれば暴れだす傷痕。
こんな静かに雪が降りしきる夜は、轟々と暴れまわる雪の夜よりももう既に過去でしかない筈の記憶が暴き立てられるには相応しく、お互いに身を寄せ合って肌と肌の境界線を越えて交わりあって、裂ける前の傷を舐めあうように庇いあうも、抱え込んだものがあまりにも重過ぎるのか、時折コントロールが効かなくなる。
特にバドにとっては、どうしようもない古傷の上に更なる新たな・・・・自分をこの腕の中で失った痛み・・・と言う焼き鏝を押されたも同然なのだ。
だからシドはただただ兄を包み込むようにして抱かれるし、バドもまたそうすることで少しは癒されているのかと思っていたのだが、
それが身体の無反応として表れたのは、今回は相当に重症なのだろうか。
「・・・バド・・。」
男としてこれ以上に無い屈辱と己に対しての申し訳なさに、何とか落ち着こうとして息を整えようとする兄の、さらりと左目を隠す前髪に指を滑らせ、その頬にそっと掌を添える。
一瞬それを厭うかのようにひくりと身体を震わせた彼に対し、これ以上怯えさせない様にしつつも、背をあやすようにしてさすっていたのに効果があったのか、落ち着くように戻って来た呼吸をする顔を上げた兄の瞳を優しく捉えた一瞬後、静かに瞳を閉じてこちらから唇を重ね合わせていく。
「ん・・・っ」
鼻にかかる甘く低い・・・珍しく兄のあげる声音に、耳が痺れるような甘美な疼きを覚えながら、上からそっと与えていた口付けを変化させながら少しずつ少しずつ兄の膝に乗るようにして体勢を入れ替えて行く。
「ふ・・っ、ぅ・・ん・・・」
そっとそっと・・・、今にも壊れてしまいそうな兄の心を包む羽根の様な柔らかな抱擁と口付け。
かつて初めて結ばれる以前の頃、こうして交わる事に対しとてつもない嫌悪感を抱いていた行いに知らず知らずに怯えていた自分を、安心させるように与えてくれた彼の抱擁と口付けに、何よりも自分はこの兄を愛していて、何を引き換えにしても惜しくないと実感したあの夜の想い出。
「ん・・は・・ぁ。」
先ほどまでに怯えた幼子の如くに震えていた、強く背中に回していたバドの手がそっと上に上がり、自分の髪に触れておずおずと後頭部に埋められていくのを感じ取ったシドは、そっと何時も兄がそうするように、自分から舌先で唇をこじ開けて歯列をなぞると、その温かい口内の中へとそれを侵入させていく。
「ん・・ん、ん」
上から入り込んだ弟の熱くて柔らかい舌を下から絡め付けていくごとに交わっていく微熱。
すべて交じり合って蕩かせていく蜜月が再び満ち始めていく。
そのまま・・・段々ともう一度高まっていく熱のままに舌を絡み合わせたままでシドはゆっくりと兄の身体をそっと横たえ始めその上に跨る格好となる。
「っ・・?シド・・・?」
そっと舌と唇が離れて、煌銀糸がお互いを繋いで儚く揺らめいて消える中、ようやくいつも通りの表情を戻したバドが、怪訝そうに弟を見上げて問いかける様に名を呼ぶと、シドはふわりと聖母の様な笑みを清廉な顔に湛えながら、逞しくあってもどこか線の細さをにおわせる首筋に唇を落として吸い上げる。
「んっ」
甘い掠れ声を押さえつけつつも、ちょっと待て;と言わんばかりの視線にシドはくすりと苦笑するが、それはどこまでも白い穢れの無い雪・・・いや、穢れを知り尽くしていても尚綺麗であり続ける天使の様なそれで、また真っ直ぐに兄の瞳を捉え出す。
「だいじょうぶ・・・、怯えないで・・・?」
言葉少なに、自らが下になるのか!?;とびくついていた事を一瞬で覚られて、う・・っと言葉に詰まったバドだが、シドのどこまでも自分にだけは甘やかな声とその表情に、ふわりと先ほどまで感じていた不安をそっと掌で包まれていく感覚を覚えだす。
「今夜は・・私が貴方を温めさせてくださいな?」
軽く小首を傾げられながらの潤む瞳で強請られる仕草は、バドの最も弱い行為でありそれが何時もと違うニュアンスを含んでいるなら尚更の事。
「・・・あぁ・・・。」
そう返事をする間も、まるで子猫の様に耳たぶに唇を寄せて食んでくるシドの頭を一度抱きしめた後に、そっと引き離すようにしてから、再び施していく口付けにほんのりと灯りだす夜の篝火。
「ん・・、く・・ぁ・・っ」
くちゅ、ぴちゃぴちゅ・・と苦しげな声を必死に押し殺しながら、それでも一度朽ちた熱をもう一度甦らせようとする弟の奉仕に、バドもまた堪えきれずに低く呻く。
白い石膏で完璧にまで模られえたかのような五指で、先ほどはどうしても機能しなかった自身をそっと握られそして扱かれつつ、綺麗な紅い二片の花弁の様な唇で、先端を吸い上げられていくごとに走り抜けていく甘い甘い悦び。
「ん・・っ・・ぅ、く・・・シド・・・っ」
どうしても高まらなかった熱が、ゆるゆると最愛の者によって高められていく興奮にバドは思わず、頬を上気させながらそれでも恥じらいが見え隠れしているシドの表情をそっと朝焼けと黄昏が混じる色の瞳で捕らえながら、その頼りない絹糸の様な髪に指を絡ませながら軽く力を込める。
「ん・・んぅ・・っ」
思わず腰で穿ちたくなる衝動を懸命に堪えつつ、貪欲に貪るような自身の愛撫と根元を飾る膨らみに手を伸ばされて揉みしだかれていく感触に、バドのギリギリにまで引き絞られた理性は徐々に弾け出す。
「シ・・ド・・っ、もぅ・・っ、も・・・!」
言葉にならない途切れる懇願に、シドは一度口を離すものの、ううんと首を横に振って、びくびくと充分なほどの膨張を見せるバド自身にまた口寄せて、根元から裏まで丁寧に舌先を這わせて舐め上げていく。
「っ!くぅ・・・・っん」
このまま吐き出してしまいそうな衝動を堪えようとして、シドの頭を引き離そうとするも、全てを駆使して施される奉仕に翻弄されていっかな力は込められない。
「だめですよ・・・?」
それでも下肢から聞こえる声はあくまでもバドに安らぎを与えるもので。
「ん・・っ、こんやは・・、私があなたを・・・っ、満たすのだから・・・っ」
途切れ途切れの声で囁かれながら、刺激を高めて動かされる弟の口内と舌先と指と手によって、バドはついに堪えきれずに切なげに瞳を閉じながら、シドの口中にその熱を解き放っていく。
「んんっ、んぅ!」
「は・・・っ・・はぁ・・・、シド・・・。」
勢い良く放たれた兄の精を受け止めて、苦しそうに顔を歪めるものの喉を鳴らして嚥下しながら、バツの悪そうに顔を上げて微笑むシドにバドは堪えきれない愛おしさに駆られながら、そっとその裸体を抱き寄せるように引き倒すと、先ほどの奉仕によっていつも自分が彼に与えているであろう快楽を思い出してか、そそり立っているシド自身に手を伸ばしていく。
「あっ・・・!」
途端に兄の上でびくんと身を震わせるシドにバドは、根元から先端にかけて指を滑らせて行き、トロトロと先端を弄るたびに零れ出る蜜を掬い上げ、時間が経ち固く閉じてしまっているであろう秘所に持っていって下から手を差し込んで、指を突き込んで開かせていく。
「あ・・んっ、にいさ・・っ!」
「今度は俺の番だな?」
くくっと喉を鳴らしてにやりと笑う兄にシドは顔を赤らめつつも、何時もの不敵な彼のその表情にひどく心安らいでいく。
「えぇ・・っ、ぁ・・んっ」
熱く蕩けるほどに柔らかい内部の肉癖が、兄の一本また一本と増やして突き込んで行く指をきゅうきゅうと収縮して締め付けながら呑み込んで行く中、シドの唇は兄の鎖骨に落とされて朱華を散らしており、そのまま広い胸板に辿り着くと、何時もそうされる様にバドの濃い色を醸し出す突起を軽く啄ばみながらそのまま吸い上げる。
「ん・・、くすぐったいよ・・・・っ、シド」
一瞬だけ未知なる感覚に身じろいだ震えが、ひくひくと蠢く体内に挿入を繰り返す指にまで伝わって行き、それが更にシドの内部に得も言わぬ悦楽を与える事となる。
「あぁあ・・っ」
指先が強く触れて抉ったスポットに、大きくびくんと跳ね上がる弟の姿を見つめながら、バドはそっと一度指を引き抜いて腰を抱いていた手で持ってその顎を捉えて今度はこちらから口付けを与えながら、体内を充分に潤わせて開かせていた三本の指を引き出しながら、先ほど入り込みたかった場所へと今度こそ熱を放つため、弟の腰を掴んでゆっくりゆっくりと自身に触れ合わせる為にその身体を下ろして埋めていく。
「ん、んんー・・っ、ぁっ、ああぁっ!」
唇を離した途端に一際高い嬌声と共に、バドの腹に生温かいシドの精が飛び散って行く中、今度はシドがバドの肩を借りるようにして耳まで真っ赤になった顔を預けながら荒い息を吐き出し続けていた。
「何だ?まだ最後まで入りきって無ぇのに?」
「だ・・、って・・・っ!あ・・ぁ」
先ほど散々気持ちよくしてくれた礼だと言わんばかりに、腰にまわしていた両手の内の片方は前に回されて熱を吐き出したばかりの自身に触れられ、唇はぷっくりと朱色に芯を通して咲いている突起を含んでちゅく・・っと音を立てながら激しい位に嬲り始められる。
「あ・・あ・・っ!そんな・・っ、ぁっ・・」
達ったばかりの敏感な身体にとっては、強すぎるほどの兄の礼参りと共に、秘所もゆるゆると解けていきながら、再度バド自身を咥え込むのを再開していく。
「はぁ・・・んっ、ぁ・・ああっ」
「シド・・・・。」
熱っぽく耳元で囁きかけられて、本能的に目尻から零れ落ちる涙を舐めとられてから頬に優しく唇を辿らされていく細やかな愛撫に、改めて締め付けられるほどの愛おしさがシドの胸に灯りだす。
「に・・さん・・・、好き・・・」
「おれも・・・・好きだよ・・・。」
繋がりあって抱き合う互いに、直に伝わる相手の熱と肌の温もり。
ただ互いの瞳に映るのは、何よりも愛しい者の生身の姿。
その現実を確かめ合う為に、何度も何度も交し合っても足りないほどの口付けをもう一度交わしながら、突上げていく兄と共にもう一度達そうと、弟もしがみ付きながらも自ら身を揺り動かしていくごとに生み出されていく歓喜。
寂しさとか不安を紛らわせる為に体を重ねていればいつまで経っても報われる事無い空しさ。
ただ愛しい者の全てを受け止めて手に入れたい、それを感じあうための心があってからこそのこの行為に喜びを見出せるのだと言う事を。
こんなにもシドは己を想っていてくれて、自分も何よりも弟を大切に想えているのに、何故過去に捕らわれて潰えてしまうと思えたのだろう?
その過去があってこそ、自分達は再会できて今こうして触れることが出来ると言うのに・・・。
「んん・・・ぁ、あぁっ!・・も・・・だめ・・ぇ・・・っ」
「あぁ・・おれ、も・・・っ」
背中を大きく仰け反らせていくシドの腰を、逃れられないように更に強く落として行きながら、最奥を強く突上げていくと、もう一度放出されていく弟の精と共に連動して締め付けて行く内部に、バドは再びその深い部分にまで己の熱を解き放って達った。
「情けなかったな・・俺・・・;」
横たわって向かい合って、いつも通りに弟の身体を抱きしめながら、髪の毛をくしゃりとかき混ぜながらつぶやいたバドに、シドはそっと微笑んで、その顔を覗き込みながら言った。
「うぅん・・ぜんぜん・・・。」
そして手を伸ばして、もう一度兄の頭をその胸に閉じ込めるようにして頭をかき抱きながら、幼子にそうするようにして髪をそっと撫で始める。
「どんなあなたでも、あなたでしょう・・・?」
それに・・と、かき上げた髪に隠れていた耳元でまた、くすぐるような吐息交じりの声に、先ほどまでの機能停止は何だったんだと思う程に、また熱がぶり返しそうになる兄を知ってか知らずか、そっと言葉を紡いでいく。
「情けない兄さんはとっても素直で可愛いですしv」
「な・・っ///!このっ」
兄をからかうなっ!と反論するバドを押さえ込むようにして抱くその腕の力は緩む事はなく、更には額に口付けをそっと落としていく。
「ふふ・・・//」
「~~っ///」
それでもこうして子ども扱いされるのはたまには・・、本当にたまになら良いかなと思いながらも、今日はとことん甘えてやろうと、シドの胸に頭を擦りつけて弟の抱き枕と化すバド。
白い雪にどうしても纏わり憑く消えない過去の記憶は、お互いに向き合っていくのならばずっと根付いていく事実。
それでも一緒に歩いていけるのならば、冷たいだけだと思っていた雪が臥所となれば、意外に温かく感じる外気と同じで、それは必要不可欠な絆となるのかも知れない。
どんなに身を裂かれるほどの寂しさに見舞われようとも、互いに支えあっていこうと想える程に大切な二人ならばそう想える日も遠くは無いかも知れない――・・・。
BGM:NANA staring MIKANAKAZIMA「一色」「EYES FOR THE MOON」
before story
戻ります。
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