M e r v e i l l e s
ほ ん の 少 し の 不 思 議 な 時 間。
冷たい外気が直に肌に突き刺さる、冷やりとした冬の朝。
珍しく今朝は雪は止んでおり、分厚い灰色の雲で覆われている日の光が、恵みの雨の様に晴れた青い空から柔らかく照り付けている。
「ん・・・、シド・・・。」
清潔な白いシーツに、生れたままの姿で包まりながらバドは、隣で一緒に眠りについている、温かい熱を持つ、愛しい伴侶の名前を掠れ声でそっと呼びながら、抱きしめようと手を伸ばす。
だがしかし、手を伸ばした先にはうっすらとした温もりだけが残っており、その身体は無く平面だったシーツが広がるのみで、もうだいぶ前には起き出しているという証拠を物語っている。
「・・・?珍しいな・・・。」
いつもならば早く起きるのはこちらなのに、・・・・毎夜毎晩可愛がりすぎて腰が立たなくなるほどに泣かせて、それは勿論昨晩も・・・と、そこまで思い返していかがわしい笑みを模りながら、たまには朝寝坊しても良いかなと、ぬくぬくとまた毛布を引き寄せて、緩やかな波の様に押し寄せる睡魔に任せてもう少しだけ・・・と、ぐるりと寝返りを打とうとする。
ぼすっ、ぼすん
「・・・?なんだぁ?」
と寝返りを打とうとした瞬間、小さな重みの衝撃が二つほど腹の上に乗りかかり、バドはうっすらと目を開く。
「父上起きてください!」
「親父、もう飯の時間だぞ!」
ゆすゆすと揺り起こされながら、耳元で騒いで響く二人の男の子の声。
どっちもどこかで聞いたことのある、高い声とそれに反して少し低いそれ・・・いや、そんなことよりも何か恐ろしい単語を耳にしたような気がして、バドはがばっと跳ね起きる。
「もう、父上ったら・・・、ちゃんと下着位身につけて寝て下さいって何時も言っているでしょう?」
そう言って口を尖らせる、年の頃は十歳前後の、くるくるとした大きめな夕日色の瞳を持ち、ペールグリーンのツンツンとした短めの髪を立たせて、形の良い額を見せている・・・何処かで出会ったどころじゃない、身に覚えのありすぎる面影を持つ男の子と。
「そんな年頃の娘みたいな事言うなよ・・・・、親父だって母さんとまだまだラブラブ真っ盛りなんだしさ・・・。」
そんな彼を宥めるように、軽くこつんと頭に手を乗せてくしゃくしゃと髪を撫ぜて笑いかける男のこの方は、少しだけ前髪を長く垂らして左目を僅かに隠す・・・、隣の男の子と瓜二つ・・・どころじゃなく、昔の自分そのものだと言う事実に、バドはさー・・・っと顔から血の気が引いていた。
「な・・っ、なっ・・・おまえら・・は・・・」
ラブラブだと下着を脱ぎ散らかして寝るんですか!?と食って掛かる弟似の子供にバカだなぁ・・、口で言うよりも実践した方が良いかな?と確信的笑みを浮かべてにじり寄る自分似の子供の境を口をパクパクさせながら指を指し示して言ったり来たりさせているバドそっちのけで、幼い双子は自分達の世界を築き上げている。
「バカなこと言ってないで。早くお父さん起こして来てって言ってるのに。」
そんな爽やかな朝に似つかわしくない、悪夢の様な時間の真っ只中に居るバドを、正気に戻したのは聞き違えようの無い愛しいその人の声にバドもはっと正気づく。
「はーい。」
「ゴメンなさいお母さん。」
・・・・・・・・・・・・・・・え?
その軽やかに響いた声の方がした方を、仔双子二人が振り向いて、寝室兼ダイニングへと駆け寄って行くのに釣られて振り向くバドの視線の先には、木材質のテーブルに質素ながらもささやかな四人分の朝食と椅子。
バドのほうから見て後ろ向きに隣り合って座った二人の子供の頭を慈しむ様に撫でるのは、真っ白なエプロンを私服の上に付けて、長く綺麗に伸びた襟足を、自分が贈った革紐で緩く束ねた愛しい双子の弟のシド。
ちょっと待て・・・・?
何だ?何がどうなっていやがるんだ?:
ぐるぐると混乱にかく乱される頭をバドは抱え込みながらゆっくりと、この状況と過去の自身の経歴を整理していく。
確かに、俺も人並みの女性経験はある。
だけど避妊は一応気をつけてはいたし、第一近年は後腐れの無い女としか関係していなかった筈。
第一この場所は、誰にも何も言っては居ないし、敏感に小宇宙を感じられる者ですらも判らないほど辺鄙な場所なのだから、まずあのころの関係した女達にこの場所が割れるはずは無い。
そもそもシドを“母親”だと言ったよな・・?
お母さんって・・・・、そりゃ確かにシドは可愛くて綺麗で従順で慎み深くて母性をかね添えた、俺の中でのファムファタールだとしても、あれでもれっきとした同性だ。
何時、あんな子供二人の母親になったって言うんだよ・・・。
「お父さん?早く食べて下さいな。」
片付かないでしょう・・・と、追い討ちをかけるようなシドの言葉に、考えのまとまりきらないバドの耳には、ピシリと瀬戸物が割れる音が聞こえてきた。
「シド、お前までそんなじょうだ・・・ん・・・。」
と、言いかけたバドだが、二人の子供に示しがつかないでしょうという言いながら、下着は穿いたものの、未だに何も身に付けていないで居るバドの着替えをベッドの下の引き出しから見繕って取り出しながら、着せ替え始めるシドの甲斐甲斐しい姿に、・・・云、そんなに悪くは無いかvと、減っていたHPケージが最大値まで復活したバドは、袖を通すために肩に手を回すシドをぐっと引き寄せて、白く滑らかな肌を持つ頬にちゅっと音を立てて口付ける。
「も・・ぅ!子供達の前で・・・っ」
そんなこと・・・と、口ごもりながら照れて真っ赤になるシドに、バドはまだ釈然とはしないものの、こちらを振り返ろうとしているシド似の子供に、まだお前には早いから見るなと牽制している自分似の子供に複雑な思いを堪えつつも、お早う・・・と声をかけて、くしゃりとやや猫っ毛の自分達と同じ色の髪の毛をかき混ぜて朝食の席に着いたのだった。
「なぁシド・・・・。」
「はい?」
二人の子供達が学び舎に出かけ、二人きりになった愛の巣で、バドは恐る恐る隣で洗物をしているシドに声をかける。
凍えそうなほど冷たい水で食器を洗うシドの綺麗な白い手は、痛々しいほどにあかぎれているが、そんなことは顔にださないで、うん?といった調子で見上げてくる弟に、バドは改めて彼への想いに胸を締め付けられる。
だからこそ先ほどの・・・・、自分を父と、そして彼を母と呼ぶあの子供達は一体何者なのか・・・、本当に自分の不手際で出来てしまった子供を押付けられたのだとすれば、共に苦労をすると一緒に生きて行こうと付いてきてくれた彼に対する最大の裏切り行為であるが故、はっきりと白黒をつけなければと言う事で、バドは勇気を振り絞り単刀直入に切り出した。
「さっきの子供二人・・・、誰・・・だっけ?」
しかしそれでも、あまりシリアスにならない様に、張り詰める心を振り切るようにして少しだけバツの悪そうな笑みを浮かべて聞き出したが、それは杞憂だといわんばかりにシドはあっさりと切り返す。
「何言ってるんですか?私と貴方の子供達ですよ。」
「・・・・はい?」
「もう!まだ寝ぼけてるんですか?!連れ添って一体何年になると思ってるんです。」
・・・・いや、何年って言うか・・・、俺等まだ二十代前半だよなぁ?
あんなでかい子供が居るにはどう計算したってあり得ないだろうが!
いやそれよりも・・・、どうやって生んだんだお前!?
声に出さない声が、先ほどようやく収まったと思った頭痛と共に、混乱の真っ只中に再び突き落とされたバドに、シドはカタンと最後の一枚だった食器を冷水を溜めている桶に一度沈めると、隣で食器を拭いていたバドにぎゅっとしがみ付く。
「シド・・・?ん・・・っ」
冷たい両手を温めて欲しいと言わんばかりに頬を包み込まれて、一瞬ぞくりと身体を震わせたバドだったが、ぎゅっとしがみ付きながら仕掛けられる口付けに、押し当てられる唇から伝わる熱にバドは反射的にその細身の身体をしっかりと抱きしめる。
あ、そうか。これはシドのお誘いの一つだ。
子供が欲しい=じゃあ作ってみようかと言う恋の駆け引きだ。
さっきまで一緒にいた子供は・・・、きっと迷い子だ、迷い子。
先ほど、こんな辺鄙な森の中に一般人が来られるわけは無いと自身で立てた仮説を、一瞬にして頭からたたき出したバドは、目の前に迫るデザートを頂くことに専念しようとした、のだが。
「シ・・・、ん、?わ・・・!」
髪から香る匂いに酔いしれていたバドだったが、突然キッチンの壁に身体を押付けられたかと思うと、口付けを解いてにっこりと笑いかけるシドに、何かしら薄ら寒いものを感じ取った。
「シド・・・?;」
「ねぇ・・・、あの子達を産んだあと、もう一人作るなら・・って約束覚えていますよね?」
ますます濃くなっていくその笑みと、心なしか段々と込められていく力と、ぐっと下肢にかかる手の感触にバドの悪寒にも似た警鐘は一気に確信に近づいていく。
「い、やぁ・・・;そんなこと言ったっけか?・・はは・・・・。」
出産の現場にすら立ち会った記憶すらないのにそんな約束をした覚えは金輪際身に覚えに無いバドは、シドのその壮艶な笑みから逃れようと、視線をあさってのほうに向けながら、何とかこの流れを変えようと足掻くが、それは無駄でしかなかった。
「言いましたよね?“次の子は俺が産んでやるから”って。」
!?
「丁度あの子達も手がかからなくなった事だし・・・そろそろ・・・いいでしょう?」
知らん知らん知らん!!
俺は知らんぞそんなこと!!
にじり寄ってくるピンチから身を交わそうとするが、不思議なほど声も身体も動かないまま、バドは引き攣った表情を貼り付けたまま、迫り来る愛しい君にしっかりと押さえつけられる。
「愛してますよ、あなた・・・。」
甘美な声と表情とその台詞とは裏腹に、今正に喰われ様としているバドの声鳴き叫びは、閑静な森の中ばさばさと落ちる雪と爽やかな小鳥のさえずりに紛れて誰にも届か無かった――・・・。
「・・・さん・・・、にいさん・・・」
「うーん・・ん・・・?あ、れ・・シド?」
「大丈夫ですか?」
随分うなされていましたよ?と、心配げに見下ろしてくるシドは、白を基調とした礼服姿で、段々と覚醒してくる自分の姿もよくよく見て見ると、前は肌蹴られて緩められてはいるものの白の下地に黒をワンポイントにした肌触りの良い同じデザインの礼服を身に纏っていた。
「あ・・れ、俺・・・?」
「もう、覚えていないんですかっ?あんなに祝い酒を飲めば酔うのは当たり前ですよ?」
ベッドサイドに備えられている銀色の水差しを取り、コップに並々と水を注いで、起き上がれますか?と問われてゆっくりと身体を起こされて手渡される水をごくりと飲み干しながら、バドは記憶を辿っていく。
階下から聞こえてくるのは、無数の人々のさざめきと華やかな楽師達が奏でる音楽。
今日は名家の跡取り息子二人が成人として認められた日で、階下のパーティーホールは、めでたいお披露目の席に招かれた人たちの喧騒に満ちている。
まだぐらぐらする頭をしゃっきりさせようと、ゴクンと飲み干した冷たい水が喉を潤すと、先ほど見ていた夢と酔いに満ちていた思考をゆっくりとほぐしていく。
「まだ気持ち悪いですか・・・・?」
コップを持ったまま俯いているバドを、シドはベッド脇にしゃがみ込み心配そうに見上げる。
そんな双子の弟に何も声をかけられず、バドはじっと一点を見つめたままでいた。
ついに来てしまった成人の日。
お互い、融通の利かない大人として、跡取りとその補佐として歩むことになるこれからの日々。
この名家と呼ばれた家を存続させる為に、それ相応の家柄の令嬢を娶らされるのはもう遠い未来ではない事は必至だった。
「兄さん・・・。」
そろそろ戻らないと行けないとは言っても、酔いがまだ蝕んでいるのか、呼びかけに応じないで、虚ろのままでいるバドを放って行く訳に行かず、そっと額に触れようとして伸ばされる弟のその手をバドは無意識のまま絡め取ってそのまま口付けた。
「え・・っ」
「シド・・・・。」
綺麗な指に唇を丁寧に這わせていくバドの行動に、抵抗する事も忘れたかのように呆然としているシドを、今度はそのまま強く抱き寄せると、その同じだけの背丈と少しだけ華奢なその身体は、しっかりと兄の胸の中に捕らえられて飛び込む形となる。
「どうしたのですかっ!?・・にいさんっ・・。」
「・・・シド・・・・。」
バドの脳裏には、つい先ほど見た夢がプレイバックされていた。
寝覚めはともかくとして、数歳年を重ねた自分とこの双子の弟・・・、そしてその間に出来た二人の子供・・・。
同性同士で授けられる子供と言う辺り、本当に夢だとしか言いようが無いが、今よりもずっと質素でささやかで慎ましやかだが、ずっと賑やかで温かい素朴な愛に満ちた平々凡々とした暮らし。
それこそ、どんな価値ある宝と引き換えにしても、手に入る事は決してない、夢の中の夢物語。
「・・・本当に変ですよ?兄さん・・・。」
さほど驚いた様子も無い様に、膝と膝の間に膝立ちになるような形で、シドは急に甘えるようにして自分を抱き寄せた兄の後頭部にそっと手を回し、あやすように髪に指を絡ませていく。
今夜のこの誕生日パーティーが、これから先の自分達の分岐点になるのはシドも十二分に判っていたし、今更騒ぎ立てることのことでもないと、自身に言い聞かせていた。
バドに、そして近いうちに自分にも愛の無い政略に満ちた形式上の伴侶を宛がわれようとも、“双子”と言う確かで切っても切ることは誰にも出来ない・・、しかしこの胸の中に巣食う想いを成就させるにはあまりにも思い呪いの鎖であるこの絆だけさえあれば構わないと。
「・・・兄さん・・・・。」
全ての理に背く、ギリギリ一歩手前の二人が交わすことが出来る唯一の手段で、秘めた気持ちをせめて酌交わそうと、シドはしがみ付いてくるバドをあやしていた手を両頬に添えなおすと、瞳を閉じて兄を安心させるという建前の口付けをそっと交わしていく。
「・・・・・。」
バドの目はうつろに開かれたままだったが、与えられる口付けから・・・、それこそ何も知らず気づかなかった幼き日から繰り返し与え、与えられてきた口付けだけでは、もう抑えきれない感情を持て余す自分に気がついてしまっていた。
それは果たして、酔いのせいか、成人を迎えた節目か、先に見た儚き夢物語のいずれか・・・否、それら全てが一緒くたに入り混じって結ばれてしまったが故の昂ぶり。
「・・っえ・・・!?」
交わしていく精一杯の想いの口付けに無言のまま、表情すら変えずに応えていた兄の両手が、不意にシドの背中から腰に滑り降りていき、ぐ・・っと、その下肢に押付けられる感触に、シドは引き攣れた声と驚きに目を見開く。
「な・・に、・・にいさ・・・っ」
唯一兄を受け入れる事のできる部位に当たる、硬くなるその象徴に、シドは不意に本能的に沸く怖れから反射的に逃れようと身を捩ろうとしたが、その動きを逆手に取られ、そのまま柔らかい寝台の上に押し倒される。
真剣な眼差しで見下ろしてくる兄の瞳は、しっかりと焦点が定まり、ただ一人の愛しい者を真っ直ぐに見つめている。
「・・・シド・・・・。」
熱っぽく呼ぶその声に、シドはただ真っ直ぐにその視線を受け止める事しか出来ないでいた。
どうしようもない。
どうしたって結ばれる運命には無い人を互いに愛してしまっていた事を、お互いにずっと気づいていたけれど、気づかないふりをして無邪気を装って傍にいた。
身体だけ繋がっても、無理に弟を汚しても兄に禁忌を犯させても、どうなっても契ることは出来ない二人。
だけど・・・、欲しい。
無邪気ままの子供時代はもう幕を下ろしてしまい、今夜この時しかもう許される時間は訪れない。
「・・・・・しようか・・・・。」
精一杯余裕を装って絞り出したバドの声に、組み敷かれたシドは動揺を抑えつつも、蝋燭の炎の様に瞳を大きく揺らめかせるが、そんな弟を奪うと同時、満たして行く様に口付けを与えていく。
「ん・・っ・・・・、っ」
たどたどしくだが、唇の角度を変えていくたびに絡まって行く二人の舌が小さく生々しい水音を奏でていくのを耳にしながら、ぎゅっと掴んでいる兄の肌蹴られた衣服を掴んでいるシドの震える両手は、交わすキスの甘さと苦さに酔いしれるようにして力をなくしていく。
「ふ・・ぁ、に・・さ・・・っ」
最初で最後になるこの口付けに、息すら奪われそうになりながら、離れていく唇を名残惜しく感じながらも、シドは少し息を切らせながら、弱々しくだがにこりと笑みを浮かべる。
「えぇ・・・、しましょう?」
す・・っと頬に伸ばされるその手が持つ・・・、何度と泣く間近で感じ取ってきた温もりに触れられるのすら最後になるかもしれないと思う程、バドの胸に泣き出したくなる程に突き上げてくる焦燥と想い。
「・・・最後まで逃げるなよ?」
「そんなこと・・言わせませんから・・・。」
軽口を互いに笑いながら交し合っても、これから致す行為に本能的な怯えを垣間見せる弟を、バドは同じような怯えをかき消すようにゆったりと抱きしめながらそっと首筋にキスを落としながら、そっとシドの身体を開き始めていく。
言葉に出さずとも二人は理解していた。
これは未来へ繋ぐための行為ではなく、決別に向かうための物だと。
ただ、一時でも身も心も繋がりあったという誓いを立てる為の、一夜限りの契りだと。
「あ・・っん、は・・っぁ・・!にぃさ・・っ」
「・・つらい・・か?」
指と唇とで愛撫を重ねながら奥まった部位を開かせて、そしてシドもそんな兄を受け入れる為に大きく広げた脚に割り込ませるバドの背中に両手を回して、結合する衝撃に必死に耐えている。
そんな苦しそうなシドに、バドはそれでも根元まで入り込んだ自身を引き抜こうとするが、シドはぎゅっと唇を噛み締めながらもうぅんと、首を横に振る。
「やめ、ないで・・・っ、もっと・・中・・まで・・っ!」
「シ・・ド・・っ!」
ぐいぐいと締め付けてくる弟の内部のあまりの心地良い熱と締め付けに、バドはそのまま欲情任せに揺さ振りたい衝動に駆られるが、まだ苦しそうに辛そうに息を吐くシドの気を紛らわせようと、汗ばむ額に頬に、耳に、そして唇にキスを与え、鎮まったところを見計らって、先ほど見つけた悦楽のスポットをゆっくりゆっくりと突き始める。
「あっ・・んぁ・・ぁあ・・っ」
痛みに打ち震えていたシドの様子が一転し、先ほど指で開かせていた時よりも素直に示し始めた反応に、バドはその甘い声を途切れさせる事無く焦らす事無くその一点を攻める為に動きを徐々に早めていく。
「あっ・・、あぁっ・・・にいさんっ、にいさ・・!」
「シド・・、俺たち・・今、結ばれてるんだよ・・・。」
この一夜・・一瞬だけでも身も心も満たされる儀式に与えられていく歓喜に、涙を零しながら身体を反応させていくシドの耳元で甘やかに囁くと、弟は更に頬を上気させてぎゅっと瞳を閉じてしまう。
「そ、んな・・っ、はず、かしぃ・・っぁっ」
身をくねらせて、ずり上がりそうになる身体をしっかりと捕らえなおして、シドの芯を通して立ち上がる胸の性感帯を唇で摘み上げながら食み、濡れそぼちながら勃ち上がり震える中心部にあるその性の根元を掌で握りながら上下に動かして、蜜を滴らせる先端を指先で弄りながら、もう一度味わいつくすかのように愛撫を重ねていく。
「やぁ・・だめっ、こんな・・っあぁあっ」
兄の全てで触れられて、弄られて、そして与えられる後ろからの未知なる快楽に便乗して、最初で最後の解放に向かわされる幾重にも重なり合うその刺激に、シドは悲鳴とも悦びとも付かぬ甘く切ない声で啼き続ける。
「シドっ・・俺は・・、お前の、ものだ・・っ!」
たった一夜の交わりであっても、これから違う道を歩んで行こうとも、愛しているのは、ずっと想いつづけるのは血の近しい彼しかいない。
「あぁっ・・、私も・・っ!あなたを・・・ずっ、とっ・・ぁあっ」
一夜の華の様に儚いその身体に、今一瞬でも全て溺れて行く様に、最奥へ最奥へと貫いて行くその動きに、シドは腕だけではなく両脚すらも兄に絡ませて、二度と離さないかのごとくしっかりとしがみ付いていく。
「あぁ・・っ、く、る・・・っ、何か・・っああぁ・・・っ!」
ひっきりなしに双子の下でぎしぎしと音を立てていたベッドが一際大きく軋んだと同時、シドが仰け反りながら、触れられていた兄の手の中に熱く精を迸らせていくのと便乗し、バドもその体内に弟を愛したという熱い証を吐き出していく。
「はぁ・・、は・・、にぃ・・さん・・・。」
掠れた声で自分を呼ぶシドの表情をもう一度瞳に焼き付けようとしても、一度忘れてしまっていた現実に蝕まれるその前に、バドは繋がったまま弟の身体の上に突っ伏してそのまま意識を混濁の睡魔に澱ませていく。
――・・・さん・・。
この声が聞こえなくなって目が覚めるころは、もう元には戻れない・・・。
――・・・兄さん・・・。
ならいっそ、このまま起きなければ、いい・・・のに・・・。
「に・い・さ・ん!!」
「ぐぇっ!」
と、そのとき勢い良く腹の上に乗り掛かれた衝撃に、バドは潰されたカエルの様な声を上げて反射的に跳ね起きた。
「何時まで寝てるんですかっ!もうお昼ですよっ?」
「シ・・ド・・って、あれ?」
思わず辺りを見回すと、ここは木造の小屋でもなければ、自分達が生まれ育ったと思われる部屋でもない、ワルハラ宮の宛がわれた自分達の部屋で、よくよく見ると陽も高く昇っていて気持ちの良さそうなほどきらきらした光を降り注がせていた。
「いくら新年の休みとは言え、長寝しすぎじゃないですか?」
「新年・・・・?」
と言うことは、あれは全部初夢・・・だったのか;
「何か・・・・、複雑なうなされ方してましたけど・・・・・?」
ぎしりと・・とりあえず圧し掛かったままの身体を一度下ろさせると、シドはベッドサイドに腰を掛け直して興味深そうにバドを覗き込む。
「・・・教えない。」
「え・・・。」
「兄を下敷きにする様な不届きな弟には教えてやらん。」
ふいっと、そっぽを向く兄に、だっていつまで経っても起きないから仕方なく・・・!と慌てふためいて言い訳をするシドを横目に見て、必死に笑いを堪えているバド。
子供達に囲まれて幸せになる夢と、お互いを想って身を引く夢。
どちらも在り得ない事柄であって、叶って欲しい事柄は十二分に詰め込まれても、二人の絆を思い知らされた夢でもあって――・・・・。
「まぁ・・、強いて言うなら・・・。」
ふと、反らしていた視線をシドに戻して、両手でその身体をしっかりと包み込んで抱き寄せて、ちゅっと頬に口付けをして、一瞬呆けた隙を付いて先ほど自分がされたようにシドの身体を反転させるとその上に圧し掛かる。
「お前の事をもの凄ーく愛していると確信できた夢・・かな?」
「///////(真っ赤)」
何言ってるんですかっ!と圧し掛かる兄の胸を両手で叩く弟の手を取って、軽く押さえつけると今度は唇に触れるだけの口付けを贈り、そのまま覆いかぶさるように抱きしめる。
「まぁ・・その、末永く宜しく・・・な。」
「・・・・・・こちらこそ・・・・。」
結局はこうやって抱きしめ合ってその匂いに包まれるだけで、至福を感じてしまうほど互いを愛している双子。
家族は作れないまでも、そして二度と離れていく事は無いにしても、今年もまた近しくも愛しい者の傍にいられる事の感謝と、そして二度と道を違えない誓いを新たに立てながら、二人は今年最初の抱擁を静かに繰り返し続けていた。
戻ります。
|