耳元をくすぐるような、しかし規則正しく鼓動を打つ双子の弟の心音は、通常も高い体温よりも熱くだるい身体を鎮めていくかのように心地良く、耳に届き全身に回っていく。
生まれて間も無くこの身体を抱いたのは、誰にでも平等に冷たい大地であって、自分達を生んだ両親はおろか、この最も近しい者の温もりにすら触れられずに居て、それから今の今までの二十年間ようやくこの手に触れている現実を迎えるまで、
過去の自分が抱いていた憎しみは、こうして触れたくて仕方が無かった、傍に居たくてしょうがなかったのにそれが叶う事無いことだと言う喪失感と哀しみをすり替えていくしかなかったのだろうと、まだ少しだけ茹だっている思考の中で不意に思った。
ハグ・キス・ミー
-be pleased with・・・-
「シド・・・。シド・・・・・。」
「はい、兄さん・・・・。」
ここに居ますよ・・・と、自分と同じようで違う優しい声を上から降らせる弟とのかっちりと止められている服の上からその胸に、喉を鳴らして甘えるような大猫の様に頭をこすり付けて来る兄の意外にも柔らかい髪をシドは優しい手つきのままで梳き続けながら、もう一方の手では自分よりも逞しい肩に手を置いて、包み込むような緩やかなリズムを刻む子守唄を口ずさむように柔らかに撫でつづけている。
“母親かと思ったんだ・・・・・。”
朦朧と浮かされた熱の合間に先ほど浅い眠りの中で夢で感じた何よりも愛おしい者のあまりにも優しさに満ちた気配に、見も知らぬ母親へと置き換え、感じたままに言葉を放った自分にシドは拗ねるでもむくれるでもなく、ただ有るがままに真剣に受け止めながらもこうして存在、形、温もり、その全てをただ己のためだけに向けて慈しんでくれるという事実に例えようの無い歓びがバドを包み込んでいく。
だけども現在、兄弟でありながらも母親の様な優しさを持ちながらもこの者と自分自身の関係は道徳心全てを飛び越えた“恋人”であること、こんなに密着している身体と、時折芳しく漏れて自分の髪にかかる小さく息をする感触、そしてそれら全てが“シド”と言う存在を持って自身の中にゆっくりと浸透して行く様な感覚に、もとよりこの弟に対しては自制を手離してしまいやすく、何よりも、今この熱のおかげですでに皆無に等しいのもあって、バドの本能はシドが欲しいと訴え始めていた。
「・・・・シド・・・・。」
少し喉も痛めたのか、低くかすれたその声に、ベッドサイドへと持って来たお気に入りの座り心地の良い椅子丸椅子に腰を掛けているシドは依然自分の胸元に頭を預けた形の兄のそれに、もう離してもいいのかな?と解釈して、少しずつその抱いていた両腕の拘束を緩めようとしたが。
「あっ・・・?!」
不意にバドのシドの腰に擦り寄る為に甘える為に回されていた両腕が解かれて、かっちりと止められているシャツに両手がかかったかと思うと、それを肌蹴させて露にさせるシドの白い滑らかな胸の上を飾る、小さく鮮やかに色づくその突起に、下から果実を含むようにして絡め取られてシドは疼くような感覚に息を飲む。
「あ、・・やぁ・・・っん」
何を・・・と制止の言葉もままならない程、兄は無心でシドの身体をかき抱きながらその突起を強く吸い上げて、時には小さく甘噛みながら、ちゅく・・と音を立ててまた舐められて、バドの頭を引き離そうとしているシドの手はいっかな力が込められずに緩くその髪に指を絡ませて頭をかき抱くばかりだった。
「あ、んっ・・に・・ぃさっ・・・」
通常よりも高すぎている体温を鎮める様にその腕の中に抱いていた兄により、自らもまた上昇していく熱と昂ぶらせられて行く身体。ゆっくりゆっくりと注がれ始めていく快楽に小刻みに身を震わせる、ベッドサイドに居るシドの身体をバドのその腕は今度は恋人として捉えて、ぐいっとベッドの上へと引き倒しにかかる。
「あ・・・」
バドの身体の上に跨る形になったシドは、じぃ・・・・っと下から何かを訴えかけるように見上げてくる、熱のせいか少し瞳を潤ませて幼く見える兄の視線に絡め取られてしまい、何も言えずに顔を赤らめたままそのままの格好で静止する。
「・・・シド・・・。」
そんな弟の何時になっても可愛らしい仕草に、バドは求めるがまま、シドの身体の下にある己の腕を伸ばしてそのままぎゅっと抱きしめながら、彼の形の良い耳元へと唇を寄せてそっと名前を紡ぐ。
耳たぶに軽く指を這わせられてなぞられて、そっと囁かれるその声音と色のあまりの心地良い響きに、シドはそれだけで自身の中心に熱が集束していくのを感じ、甘い吐息を漏らす。
「ふぁ・・っ」
ずるい人・・・。
たった一言だけ、この字を呼ぶだけで自身の全てを支配して、抵抗らしい抵抗すらも奪われてしまう唯一の人。
そして全てを差し出してもこの人を手放したくなく、全てを与えられて自分を捕らえつづけて欲しいと願う、たった一人の想い人にシドは同じ色の照りだす夕日色の瞳を合わせ、少しだけ恥かしそうに微笑んで小さくこくんと頷いて、しっとりと薄紅に艶めいた口唇を兄のそれに重ね合わせてゆく。
「んっ・・ん、ん・・」
横たわる兄の薄い肉付きの口唇が微かに開き、まずはシドと口付けで更に深く繋がろうと、熱く濡れた舌先が弟の口内に入り込むと、シドもまた兄に答え始める為に舌全体を絡ませながら交わりの奏でを響かせ始める。
「ん・・っ、ああっ」
二つの口唇が離れたと同時、煌銀糸が二人の微かな距離を繋いで消えていく中、バドは少しだけ頭をずらし、先ほど片側の突起の愛撫で尖った反対側のそれを同じように吸い上げ始める。
「んっ・・く、ぅ・・ん」
決して強すぎる快楽ではなく、やわやわとした刺激を少しずつ与えられるもどかしさに、無意識のうちに腰を揺らめかすシドに気づき、バドはくすりと笑みを浮かべると、その可愛らしく戦慄いている口唇に二本の指を縦に這わせた。
「は・・ん・・」
その口唇に軽く小刻みを加えられて、シドの最も感じる部分と奥まる部位が更に疼き、差し出されたその僅かにささくれた指を愛おしそうに口に含み、ちゅぅ・・と音を立てながら深く浅く咥え込んで自らの唾液で濡らして行く。
「そう・・ちゃんと濡らさないとな・・。」
喉の奥で含み笑いながらの兄の声に、かぁっと顔を赤らめる弟の、滑りの為に更に敏感になった胸の突起を今度は指先で軽く弾いては指と指の間に挟み摘んでいき、もう一方のその手はくぐもった声を滴らせているシドの口内で緩やかに動かされていく。
自分の身体の上で瞳を閉じかけて、時折切なげにうっすら開かせて恍惚とした表情の弟に酔い痴れていく中、シドもまた本能的にバドを求めてその猛り始めた中心部に、兄だけを守りどこまでも優しく慈しむ綺麗な手を下ろし始めていた。
「っ、シド・・っ、イイ子だ・・っ」
すでに汗ばみ始めて居る簡素な寝巻きのズボンを取り払い、自分のその手で段々と露にしていく兄自身に優しく指を絡ませて、硬くなり始めている根元を握りこんで昂ぶらせていくシドと目が合い、にこりと微笑むその表情にバドは快楽と愛しさに胸を焦されていく。
「あぅっ・・んっ」
充分に濡れた指を音を立てさせて引き抜くと、先ほどまで胸を弄っていたその手は弟の待ちわびて熱を持つ自身へと、そしてその指は下から差し入れて形の良い双丘を開いてゆっくりとその体内へと突き入れていく。
「あぁっあ・・んっ」
解き放たれた弟の口から再び甘い声が零れ落ちていき、それに見合うように蕩けていく表情と休む事無く下肢に伝えられていく快楽に、バドは熱の為に奪われていく理性に任せて弟を傷つけないように・・としても、その艶やかな声と表情と施されていく愛撫に煽られていき、知らずその悦楽を更に倍にして返そうと、より一層シドを乱れさせていく。
「あ、あぁっ、ん・・、にい、さ・・っ」
段々と絶頂を訴えてそり立っていく根元を扱きながら、びくびくと震えだす先端に指先を突き立てて食い込ませていくのと同時、収縮を繰り返す部位に突きこんで内部に触れている指先から伝わっていく肉壁の痙攣と熱に、バドは充足感に満たされ始めていく。
先ほどは聖母の様に自分を包み込んでくれていた弟が、今は恋人として自分を受け入れるようにと懸命に自らの性を昂ぶらせて行く最中に、段々と上り詰めているのがありありと取れる。
色っぽく艶やかで、そして切なげに啼いているシドに、バドもまた荒い息を漏らしながらも、もう一度・・何度も与えて与えられても飽き足らない口付けを求め、それを促すように瞳を閉じて下から強請るようにして顔を微かに突き出すと、シドもそれに応じる為にもう一度口付けをその口唇に落としていく。
「んっ・・んん・・っ!」
口唇と口唇が重なり合ったその瞬間に、シドは兄の指をその部位できつく締め付けながらその手の中に熱を、そしてバドも弟の手の中に一度その性を熱く滾らせて解放させて行く。
「・・・熱はどうしたんですか?」
二人同時に絶頂に達し、しばらく荒い息を整えている中、先に回復した兄の手が背中をさすりだすのと同時、はっと我に帰ったシドは顔を真っ赤にさせて俯きながら今更な問いを投げかける。
「あぁ・・・・。」
そんな恥じらいながら問いかけてくる弟が可愛くて仕方が無いという様子で、頭をくしゃりと撫でるように包み込みながら、一瞬だけの触れる口付けを与えた後にっこりと笑う。
「お前の献身的な介護のおかげかすっかりなv」
「・・・・莫迦・・・・・・。」
視線を合わせられずに、本当に手のかかる子供みたいです・・・と照れ隠しに呟くシドの身体をそっと抱きしめながらバドはゆっくりと身体を起こした。
「子供がこんな事するか・・・。」
「っ、あぁあ・・っ!」
にやりと唇の端を吊り上げて笑いながらの兄の言葉に、思わず唖然となった弟に暇を与えずに、向かい合う形でバドはシドの中へと入り込んでいく。
「あぁっ、は・・ぁあっ・・」
突如感じた生々しくも強く感じる兄の熱に、強くその肩に両手を回してしがみ付くシドをバドは落ち着かせる為にその背中を撫でさすっていく。
「シド・・・。」
「んっ・・あっ・・・、にいさ、ん・・・・!」
その続きの言葉を言わずとも、彼の求めるものが判っているバドはゆっくりとシドの身体を揺さ振り始めていく。
「あぁっ、あんっ・・・、あっあ・・っ!」
奥深くまで交わる淫らな注挿の音にひどい羞恥心を覚えながらも、内部から伝わってくる自分を求めてくる為に穿たれていく兄の振動。
首筋に舌先を這わせられて強く吸い上げられていく朱華を散らされて、それが更に全体に散らばっていく感覚と相俟って、シドの瞳からは涙が零れ落ちていく。
自分は同性で・・・、忌まれていた兄を追い込む存在でしかなかった双子の弟で、それはもう違えよう無い事実であって・・・・。
それでも、この人はこんなに自分を求めている。求められている事が直に強く伝わってくる。
家族で有りながら恋人としての強い愛着を剥き出して彼を求める自分を愚かしく思うより、今はもっと喜びのほうが湧きだって来る。
生れてきて良かった・・・・。巡り会えてよかった――・・・・・。
繋がりあう事で分かち合いながら全身を巡る、シドはバドの身体にしっかりと足を絡ませながら、バドはシドの身体を強く抱きしめて穿ちながら、その快楽に上り詰めていく。
「にいさ・・ぁあっ、バ、ド・・っ、にい、さん・・っ」
「シドっ・・・・、シ、ド・・、シド・・・・っ!」
しあわせです・・・。
あいしている――・・・・。
万感の愛しさを込めながら、二人互いの名前を呼び続けながら、シドは深く貫かれることで背筋を仰け反らせてその悦びの証を吐き出し、バドもまたその衝動できつく締め付けられた弟の内部へと身も心も充分に満たされたと言う証の熱を吐き出し、同時に達していった。
「・・・本当にもう大丈夫なんですか?」
「・・・・・・・・・。」
相変わらず手狭な・・そろそろ買い替え時の寝台の上に二人揃って寝転がり、ぎゅっと抱き込まれる感覚に幸福感を覚えつつも、まだ少しだけ高い体温だと感じたシドは、今度は弟として兄に訊ねるものの、返事の代わりに帰って来たのは安らかな寝息だった。
「・・・・・本当、何でこうヘンな所で・・・・。」
子供っぽいんでしょうか・・・?
誰にともなく一人呟いた言葉だが、熟睡していても弟の一句一語は確実に聞こえているのではないかと言うタイミングで、否定するように更にきつく抱きしめられる。
「しょうがない人・・・・。」
過去の自分にとっては諦めたくなくて、ずっと一緒に生きて行きたいとそればかりを願っていた遠い遠い存在のたった一人の兄。
今の自分にとっては大切な恋人で・・・・。
だけどどんなに願っていても新たに家庭は築いていけない事、ふとした瞬間で蘇る過去の痛みを呼びさます存在でもあって・・・。
とりあえずは・・・、と、シドは兄の優しい拘束をあえて解きながら起こさないように静かに身を起こして、朱い花弁を散らした素肌の上に手触りの良い素材の部屋着を身に付ける。
そして脱ぎ捨ててしまったバドの新しい寝巻きを備え付けられているクローゼットの中から取り出しながら、丁度良い温度に浸そうとタオルも取り出していく。
その間バドはシドによって大き目の枕を抱え込まされたまま、温かくする為に毛布を被った状態だが、相変わらずすやすやと寝息を立てている。
シドが母親であるなら、バドは父親にするにはまだ少しだけ幼く、やんちゃな盛りの子供の様に幼げだが、それでもずっと過去の痛みですら手に手をとって乗越えて行きたいと覚悟を決めて、残りの一生を捧げようと誓い合った最愛の伴侶同士であるのは本人達が良く判っていることであった。
BGM:NOIX『Kiss me』
戻ります。
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