キョウアイ・・・。

キョウアイ・・・。

愛していた・・・。いや、今でも変わることなく愛している・・・。
だから許せなかった。俺の元を去ることなど・・・。


誰も立ち寄ることの無い深い森の中にポツリと在る、一軒の小屋。そこにバドは暮らしていた・・・。
一日の仕事を終えて、自宅に戻ってくると、家で待つその者に微笑んで、優しく口付けを交わす。
「今、帰ったよシド・・・。」
だが、その者はその口付けに答えることは無く、ただそこに居るだけだった。
それでも自分を見る、その虚ろな瞳を見つめながらバドは満足そうに微笑んだ。
バドの両手が持つその者-シド-は、すでにこの世の者では無かった。


先の聖戦が終わり、命を落とした神闘士達はオーディーンの加護により、再び命を与えられた。
そして、運命に翻弄された、双子の兄弟である、バドとシドはその後和解し、ワルハラ宮内の暮らしでその溝を修復していった。
だが、生まれて間も無く引き離された二人は、いつしか人として愛し合う仲となっていった。
誰にも知られてはならない、禁じられた愛。
だが、二人は互いを求め、快楽を貪りあい、幸せな日々を送っていた。


あの日までは・・・。


その夜、バドはシドの部屋で、深夜を過ぎても戻らないシドの身を案じ、待ち続けていた。
やがて、キィ・・・と、ドアの軋む音が聞こえ、ようやくシドが戻ってきた。
『遅かったな?』
待ちきれないとばかりに、ベッドから立ち上がり、その身体を包み込もうとする・・・が、シドはやんわりとその手を振りほどいた。
『・・・シド?』
『・・・ゴメンなさい、今日はちょっと疲れていて・・・。』
そう言って申し訳なさそうに微笑むシドを見て、バドは無理強いはせず、その日は大人しく自室へと引き上げた。

様子がおかしいとは感づいていた。だが、シドは何も言ってくれない。
その原因を知ったのは、三日後の夜の事だった。

『シド!本当なのか!?』
その夜、部屋を訪ねてきたシドの身体を掴み、バドは問い詰めた。
明朝、ワルハラの近衛隊はアスガルドよりはるか西の地に不穏な空気が流れているため、視察のため遠征するという。
近衛隊副官であるシドも当然ながら任務に携わる事になる。
だが、バドは近衛隊に属しておらず、その遠征にはついて行く事は出来ない。
『ゴメンなさい・・・。』
身体を痛いほど掴まれたシドは、視線を合わせずに謝罪した。
遠征となれば、一日や二日で帰ってくることは出来ない。しかし、私情は挟んでなど居られない。
バドもシドもそれは充分判っていた。
だが、次のシドの言葉で、彼の心は何かに取り憑かれた。
『いつ帰って来れるか判らない・・・最悪の場合、戦争になるかも知れない・・・。だけど、そうならないように するのが私達の役目ですから。』
そう言って微笑んで、バドの手から抜け出し、後ろを振り向いたその一瞬を彼は逃さなかった。

ざしゅ・・・っ!

『え・・・?』
何が起こったのか判らない様な顔で、シドはこちらを振り返る。
白い首筋は、ぱっくりと裂けて、一瞬間を置いて鮮血が噴水のように飛び散っている。
シドの瞳には、鋭く伸びた長い爪を自分の血で染めた兄の姿が映っていた。
『に・・・さん・・?』
そのままスローモーションのように、床に倒れこむシドの姿をバドは冷静に見つめていた。
どくどくとあふれ出る血が、冷たい床に広がっていく。
『ど・・・ぅ・・・して?』
血液と共にあふれ出る涙。
そんな弟の身体を仰向けにして、まだ息のあるシドの血に染まった首を今度はその手で締め上げていく。
『か・・っは・・・っ!?』
段々霞んでいくその視界には、すでに自分の愛した兄の姿はどこにも無く、瞳に狂気の色を宿らせた、知らない人間が 映っていた。
『ぁ・・・。』
そのままガクリと、身体の力は抜け落ち、後はただ重い静寂だけがその場を包んでいた。



『は・・・っ、はぁ・・・っ。はぁっ・・・!』
荒い息を吐きながら、血にまみれたその手で、事切れたシドの身体を抱き上げる。
首筋に唇を這わせながら、その溢れ出る血を啜り飲むと、甘美な快感が身体を突き抜けた。
『シド・・・。』
服を剥ぎ取り、青白く染まっていく白い肌に、そのまま唇を落とし、きつく吸い上げていく。
そして、身体の奥深くをその指と唇で開いて行き、己の猛ったモノをその秘部へとあてがい、 貫いていった。
『はぁ・・・っ。』
段々と死後硬直が始まる前に、バドはいつもするように、シドの身体を抱きしめ、その半開きの唇にキスを落とし、舌を侵入させる。
だらりとして、反応を示さない舌をそれでも無理に絡め取りながら、ゆっくりと律動を開始する。
『愛している・・・シド・・・。』
熱っぽい声でシドの耳元でそう囁きながら、動きを早めていく。
段々と冷たくなっていく、意識のないシドの身体は、バドが貫くたびに人形のように揺れ動くだけで、 それでも見開かれた目は、悲哀を含んだ表情でバドの顔を見上げ続けている。
『どうして、そんな顔をするんだ?』
青白い顔に血まみれの手を添えながら、優しくバドは問うた。もちろん、答えは帰ってこない。
『お前が悪いんだよ・・・?』
そう言い、くすくすと・・・まるで子供のような笑顔で語りかける。
『俺から離れようとするから・・・、勝手に死にに行くような真似をするから。』
ならばいっそこの手で葬った方がマシだ。
そう言い放ったバドは既に正気を保てて居なかった。
やがてバドはシドの体内に白濁した熱い欲望を吐き散らした。



夜が明ける前に、バドはシドの身体を抱え、ワルハラ宮を後にした。
自分の小宇宙を限りなく押さえ、それでも保存のためにシドの身体は凍気で包み込み。
辿り着いた一軒の小屋を、自分とシドの新たなる生活の場とした。

ゴトン
重い音を響かせて、シドの首が胴から切断される。
それをそっと拾い上げて、半ば閉じかけた瞳にムっとしなが、無理矢理ピンでこじ開ける。
『俺だけを見ていろ・・・。』
そして、仕上げに腐らないために、薄い凍気を首全体に散りばめる。
その首が見つめる前で、バドはシドの身体をバラバラに解体していった。
腕、足、手、胴・・・。部屋の中は惨状と化していく。
砕け散る白い骨は、かき集め、小瓶の中に収めていく。
やがて解体し終えたその身体の一部一部を、自らに取り込むため、バドは愛おしそうにそれらを 時間をかけて食して行ったのだった・・・。
『お前は・・・いつも感じてくると、すぐにこの腕で俺の背中にしがみ付いてたよな?』
そう語りかけながら・・・。

これは、狂った愛の果てか・・・。
それとも、凶〃しい哀しみの結果なのか・・・。
全てはバドのみぞ知る事であった・・・。




戻られますか?