haughty delicate










周りから見える彼の事をふと考えてみる。
誰に対しても平等で品位公正、名門の家の跡取り息子と言う事を差し引いても人々の信頼を集めるに相応しく、粗を探しても見つけるほうが難しいであろう。
しかしそれは本来の彼の姿ではなかった。仕事である時間とプライベートの時間である程度は違って当然なのだが、彼の場合はそうではなく。
ずっと彼は被っていたのだ、『副官』としての仮面を、この地で禁忌とされている双子の兄へ対する思慕を隠すために。

それは今、あの忌々しい聖戦が終わり、傍らに待ち望んだ彼の兄が歩み寄ってくれたことで更に重々しくプロテクトをかけた物として、同じようにずっと古くからある一人の少女を思い続けている、仮面を被る男と語り合う時間を共用していた。


プライベートでは数少なかった親友同士、平和になったこの時にその器をぶち壊し、文字通り身体と身体で語り合うというそれで。




haughty delicate




「んっ、ぐぅ・・んぅ。」
「っ、は・・・、シド・・・っ!」
広い間取のこの部屋に置かれている家具たちは年季は入るが、それでも豪奢さは失われていないものばかりで、中央に位置する執務机とその椅子・・・の隣の革張りのソファも、微かに鳴るスプリングは古いものだが、古ければ古いほど味の出る代物だった。
もうすぐ初夏になるアスガルドの日差しが、そのソファを中心にして大きく間取られたぴかぴかに磨かれた窓の外から入り込み、そしてその外は、休憩時間と言うこともあってか、ワルハラ宮に勤める人間達のたわいの無い話し声や笑い声、時折遠くからも鳥のさえずりが聞こえてくる。
その外からは、今、陽の光で照らされたソファの上で足を大きく広げた男の股間に顔を埋めて必死に奉仕している双子の兄とその悪友と思しき人物の声も聞こえており、その手の動き、舌使いは苛立ちを込めたように激しくなっていくが、それが尚更ジークフリートにとっての快楽を促進していく。
「うっ、お・・ぅっ!」
柔らかい猫の毛の様な淡い緑青がかる銀の髪を掴んで、その口内に放出しようとしたのだが、その一瞬後にシドは顔を自分から顔をずらし、ジークフリートの欲望の残骸を飲み込もうとはせず、結果としてその端整な白い肌の顔がその情欲の名残に濡れる事となる。
「・・・・・そんなにあいつのことがいいのか。」
まるで嫉妬心からついて出たようなそれだが、ジークフリートにとっては男としての本能・・・それかもしくは自分の性癖か・・・、欲望を口腔内とは言え内部で出したかったための言葉。
「・・・・・・・・。」
その問いに対してシドは何も答えず、視線で答えを出そうともしないで、自分にとっての背後にある窓を一瞬ちらりと見やっただけで、身にまとったままの薄手の白いシャツの裾で、顔に飛び散ったそれを拭いながら、若干は口に入ったらしい荷苦味のする彼の欲望の残骸を少し顔をしかめて喉の奥へと押しやった。
執務室であるこの部屋からは、出入口の扉からはこのソファーは後ろ向きになるように配置されているので、万が一誰かが入ってきても、身を隠すなり何なりとして少しはごまかせるのだが、シドが気にしているのはその部分ではなく。
「・・・お前の要望だっただろう?」
今すぐ抱け、さぁ押し倒せ。そう言わんばかりに窓の外からヤツの気配を感じただけで、飛び掛ってきたのはお前の方だろう?
それでも念には念を押して、出入口の扉には鍵を閉め、その窓にはくだけない程度にシドの凍気の小宇宙を応用したもので、透き通った窓の内側から霜を貼り付けたため、外から見える確立は低いのだが、あまりに昂ぶった声を出せば見つかるのは目に見えていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
相変わらず言葉には答えないままで、蹲っていた身体をすっと起こし上げるシドに、ジークフリートは少し息を吐いてソファの上に横たわると、そのまま彼の身体はまだ起ち上がったままの自身を咥えこむ為に静かに降りて行く。
「っ・・、んんっ、っ」
ずぶりと言う結合する音が、シドのその部分から聞こえてくる。先ほどの口腔奉仕の際に自分で広げていたのか、ジークフリートも突きこんだ自身に微かな抵抗の痛みはあったもの、そう感じたのは一瞬の事で、あとはすんなりと自身の先端がシドの最奥にあるスポットに擦れ始めていく。
「くぅ、ん・・・んっ、んぁ・・・!」
苦しそうに息を継ぐシドにジークフリートは少しだけ間を置くが、そんな気遣いは無用だと言わんばかりに、唇を噛み締めたままのある種の人間にとってはそそられる表情のまま動き出すシドに、再び快楽だけが生まれていく。
本気で想う人間が他に、しかもすぐ傍に居るのに・・・とは言ってもジークフリートの想う彼女は今はこの近くには居ないのだが・・・・、その気持ちを吐き出す勇気が無い者同士が傷を舐めあうこの行動から生み出される後ろ向き悦楽に打ち震えるこの男はまるで。
「・・・身請けされた、娼婦のようだな・・・・。」
「っ、・・・」
今にも泣き出しそうな顔を見せて、そういう対象ではない男の性を、ずぶずぶと柔らかく成熟したその内部に受け入れては熱を、快楽を見出して腰を振る。
何時も見せる彼とは違う、弱々しさすら感じられるその表情から、ジークフリートの中の征服欲は段々と高まり始めていき、その細い腰を掴みあげては最奥を穿つ振動を早めていく。
「はっ・・・な、にをっ、ん、ぁ・・・っ」
この時間の中、初めてジークフリートの言葉に喘ぎ以外の言葉で声を出すシド。それでも表情は身体の中で突き上げて行くジークフリート自身により昂ぶりに満ちたものだったが。
「そんなっ・・ぁ、上等、な・・・・っんっ!」
突き上げられる振動に邪魔をされて上手く話せずに居るが、ジークフリートも彼の言いたい事は良く判っていたので、それもそうだと自分の言葉を打ち消して、折角競りあがってきた征服欲を削がない様にと、段々と律動を激しくしていく。
「んんっ、あっ!そうっ・・も、っと・・・!」
――わたしを、悦ばせて、みろ・・・!

そう、まるであの聖戦の折りの様な黒く染まった聖巫女の様に、怜悧な眼差しを取り戻しながら見下ろしてくるシドに、ジークフリートはふわりと沸き立ったような匂いに少しだけ眩暈を覚える。
官能的、魅惑的・・・・ではなくて、もっと・・・・反吐の出そうな類のそれに。
全くもって似ても似つかない、それこそ先ほどシドが言いかけたように、そんな上等な関係などではない、棒と穴があるからそれを擦り付けているだけのけだもの同士の交尾にも満たない悪意だらけの戯れ。
はっきり言ってしまえば、それさえあれば顔なんてものも必要は無い。
なのに・・・・、目の前の相手は時折お互いに想う人の面影をどことはいえないがチラつかせていく“親友”で・・・。

「あぁっ、あんっ、あああ、っ」
腰を突き動かすだけじゃ物足りないのか、上に乗りかかる腰を掴んでは揺ら揺らと揺す振りだした為に、肉壁全てが擦りあげられていく感覚に、シドは抗う事が出来ずに固く閉ざしていたはずの唇から甘い声を上げ始める。
「かわいい、じゃないか・・・」
汗ばむ身体、額に張り付く柔らかいウェーブのかかる前髪から覗くどこか人を喰った笑みを浮かべながら告げられる言葉に、シドははっとして息を飲み込む。
そんな必死に再び声を押さえ込もうとする彼に、彼女を想う気持ちとは裏腹の欲望を目の前で啼き始めているシドに本格的にぶつけ始めようと、騎乗位から体制を入れ替えて彼を下に組み敷いた。
「っ、・・・あっ、あぁあっ!あ、んぁっ」
両足を広げて自分の肩に乗せて腰を軽く浮かせて、マジックミラーと化した窓の外に居るヤツの気配を敏感に感じ取りながらのこの行為に、更なる興奮を覚えてひくつきだす奥まった悦部を容赦なく突き続けるとシドは先ほどとはうって変わってひっきりなしに啼き始めた。
「こう、して・・っ、お前、は・・・っ」

実の兄に抱かれたがっているのだろう――?
こうして激しく、雄のプライドすらもずたずたに引き裂かれる程、ぐちゃぐちゃに内部を肉棒で突き込まれて、どろどろに引っ掻き回すように奪っていって欲しいんだろお前は。

「っ、調子っに・・っ、あんっ、あっああっ!」
組敷かれるだけでは飽き足らずの彼の口から出る責めに、シドはギリッと目を吊り上げても、そのダークオレンジ色の瞳は例え身体だけだとしても本能的に流れてくる涙で潤んでいく。
それに相俟って自らの下で開かれていると言うこと、上気していく頬、いやらしく肌蹴ている白いシャツの下から覗く肌は薄桃に染まりだす身体に、ジークフリートはひっきりなしにその奥を貫き続けていく。

傲慢な行為、傲慢な肉欲解消相手。
強い苛立ちばかりを相手にぶつけることで得られる快楽。

ぎしぎしと古いスプリングが大きく軋み啼く淫徳の密室の外を行き交う人々。
一度パリンとその窓ガラスが割れれば、もう隠し立てする事も出来ない。
本当に好きな者達の傍にいることもできず、そしてこの関係もすっぱりと後腐れなく・・・・。


「んっ、ああっあ・・っ!・・ぃ、さ・・・!」
「っく、ぁっ・・・、っ・・・さ、ま!」

啼け!
啼いて啼いて、啼き喚いて吐き出してしまえ!!
いっそ外に聞こえるように、お前の想うヤツにその汚い姿を見せ付けるように。
ふざけるな、地獄へ堕ちるのは一人だけじゃ済まさない!
その時はお前も道連れだ――!!

一度も、自分でも触れることも無く、ジークフリートにも触れられることの無かったシド自身は、今日は紛れも無く彼に齎された言葉と突かれ続けた刺激だけでその絶頂を吐き出し、ジークフリートはシドの足を更に高く突き上げてその衝動で更にきつく締め付けられたその内部に、今日初めてはちきれんばかりにその欲望を注ぎいれていった。


「一回出したきりで御終いか・・・。」
ごぽりと音を立てて、そのぐったりと横たわったままの自分の中から自身を引き抜いたジークフリートに先ほどの礼だと言わんばかりに辛辣に言葉を投げつける。
「一度で何回もシタイと思えるような相手にはお前は役不足だ。」
それに・・・・、とジークフリートはソファに寝転がったままのシドには目もくれずに身支度を整えながら、備え付けられている柱時計を指し示す。
「休憩時間は御終いだ。この後には訓練も控えている。」
そう言いながら、一度洗面所へと姿を消し水で濡らしたタオルと乾いたタオルを手に持ち、それらを投げて寄越すと冷やりとした感触が、シドの肌に触れて一瞬びくりと身体を震わせる。
「さっさと後始末して来い、適当に理由はつけておく。」
「・・・あぁ。」
くるりと後ろも振り向かず、一人先行くジークフリートにシドは気だるげに身体を起こしながら、不快気に鼻を鳴らす。
「・・・・何が娼婦だ・・・・。」
ヘタレのくせに。
こんな客人、情交の最中に殺してやるしそれに・・・・。
身体の上に落ちたタオルで情痕を拭い始めながら一人悔しそうに呟く。
「余計な気を回すなと何時も言ってるのに・・・・。」

伝説の勇者と同じ名前に相応しいジークフリート。
誰よりも強く、何よりも気高く、忠誠心に厚く信頼を一身に集めるその男の薄汚い情欲。
綺麗な感情をかき集めてそれを凝縮したままで彼女を想い、取り残された醜い肉欲を私はこの身を持って知っているのだ――。

醜い部分の素顔を曝しあっている内に、互いに段々と見出し始める純粋な傲慢。
壊した筈の関係から、また新たに生まれ始めだそうとする新たな感情に、シドは慌てて頭を振るものの、それでも心に残るしこりはまだ消えそうにも無く。


窓の外からの喧騒はひっそりと静まり返り、差し込んでくるその陽の光は内側にこびり付く彼の感情の様な霜をただ静かに密やかにゆっくりゆっくりと融かし始めていたのだった。


















BGM:NAIL『Delicate』












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