香がり恋


「・・・・・・・・・・・。」
無造作に自室のベッドに置かれた恋人の衣服から漂う、身に覚えの無い香にシドは眉根を寄せる。
あの人にはきっと似合うであろうそのあっさりとした匂いの香水、しかしそれは自分が持っている物ではなく。
「・・・・・兄さん・・・・・。」
ポツリと零した自分の声が、今は勤務で居ないバドに届く事無く、空しくからっぽの部屋の中に響き、それが箱庭の様な部屋に静かに反響して自分の耳に届いた時、何度目かの雫を滴らせた。




香 が り 恋




その匂いに気がついたのは・・・・もう何日か前のこと。
いつも通りに夜毎兄に求められて、惜しげなくその身を曝け出して愛されていた時、ふわりと鼻腔に届いた香。
匂いに敏感・・・と言うよりも兄のことに対して敏感になっている自分にとって、その甘くも無い匂いは他から見れば彼の野生的な魅力を更に引き出してくれるスパイスになるのだが、シドにとってみればそれは一気に不安の引き金となって心の中に押し寄せる。
「?シ、ド・・・・」
甘い低く掠れた声で、自分の中に入り込み、熱く激しく挿入を繰り返す兄自身を感じ取り幸せに想っていた時間はその時から途切れだす。
「に、ぃさ・・んっ!」
気になりだしてしまえばもう後には退けない感情。
でも決して口に出してはいえない性格。
たかが匂い、たかが身に覚えの無い兄の香、たったそれだけの事でこんなにも掻き乱されて行く心が・・・・。
だけど、今、この自分の中に入り込んでいる兄の性は自分を想って猛っていて、そして繋がりを求めているのだと言う事も真実で。
「あぁっ・・!あ、にい・・さっ・・・!」
だけど心と身体は別物で、興奮すれば愛など無くても行為は行うことが出来る事を知ってしまっていて、愛イコールの行動、身も心も結ばれるための手段だと思い込むことが出来るほどもう自分は純粋ではなく。
鼻梁の中に纏わり付くその匂いを気に留めないために、シドは自分自身昂ぶり出すその声で沸きあがってくる猜疑心を消しながら、この日は心は満たされること無く、ただ兄の突き上げに本能的に身体だけが答えて絶頂へと達していった。

自分の中に吐き出されるバドの精と自分から吐き零した精の生々しい臭い・・・、それでもその匂いだけは決してシドの中に消えることは無く、ずっと重く心に圧し掛かっていくこととなり、シドはその夜から兄に請われることを、否それ自体を避けるようにわざと夜遅くまで仕事を残すように、そして夜勤を進んで買って出る日々を送るようになっていた。



そんな日々が続いていたある晩に、二人だけの愛の部屋の中にシドは一人ぽつんと佇んで、どうしてたったこれっぽちの事でこんなに落ち込むのかと、潤みだす瞳から溢れる涙を拭う事無くその寝台の上にある兄の寝巻きに腕を伸ばしそっと抱きかかえる。
大好きな兄の匂いが掻き消えるほどに沁み込まされたその匂い、忌々しい筈のそれを嫉妬に駆られてその手に抱く服を引き裂く事などそれこそお門違いの感情だ。
彼も男だ。そしてこの関係は決して世間に顔向けなど出来ない偏った想いで・・・。
ましてや自分は彼の子種を受け止めてもそれを実らすことなど出来ない身体であり、尚且つ彼を長い間追い込む事しか出来なかった双子の片割れで・・・。

「心なんて・・所詮はまがい物なのか・・・。」

そう口に出したことで更に押し寄せてくる負の感情。
そして自嘲する。
本心を押し隠し、周りを欺き、それでようやく最後の最期、あの瞬間に兄の心に居座らんとした自分が一体何をほざく?
真っ直ぐで偽り無い、その心を弄んだも同然の自分が、一体何故あの人を責められる?
そうしてそこまで思いを巡らせてしまう自分の醜さに気が付き、シドは更に清廉な顔を歪めて声を押し殺して涙を流す。
卑しい、汚い、そして浅ましい。
乞われる兄の誘いを振り切って、自分の殻にしか閉じこもる事のできない自身の弱さ、意地汚さ・・・そしてバドへ募る想い。
心変わりをすることを責めることなど出来る筈も無い。
ならばいっそ思い切って聞いてみて、そしてその上で兄を送り出した上で密かに想い続ければ良いと思うのに、そんな事をすることなど出来ないほど、もう捕らわれてしまって・・・・。

「っ・・・!」
すでに陽は落ち部屋は薄暗くなる中、不意に背後から伸ばされた両腕に絡め取られ、シドはびくりと身を竦ませる。
「どういうつもりだ・・・・?」
気配を押し殺してそっと傍に寄った、彼の何日ぶりかのその両の腕の優しき束縛、そして耳元で囁かれるその低い声が、後ろを見ることなど出来ずにいるシドに、そして一人で泣いていた彼に沸々とした怒りが含まれているということがありありと聞いて取れた。
「シド・・・。」
後ろから抱く身体を無理矢理に反転させて自分のほうに向きなおさせるものの、シドの鼻梁にまたあの匂いが届きだして、身を捩ってその優しく甘い、残酷な両腕から抜け出そうとする。
「いや、っ、いやだっ・・・!」
「っ!」
本気で逃げ出そうとする弟に、バドはギリッと唇を噛み締めて力任せに捉えていた身体を、自分が脱ぎ捨てていた服を抱いたままの彼の身体をそのまま寝台へと押し倒す。
「っ・・ぅ、っ・・くっ・・・!」
見下ろされる視界の中で、隠し立てする事も出来ず押さえつけられたまま、堪えきれずぼろぼろと涙を零すシド、その心はもう自己嫌悪でいっぱいになっている。
もう駄目だ。
もう呆れられた、見捨てられる。
そんな感情がぐるぐると巡りつつも、兄の前で押さえつけてきた気持ちが迸るのを遮るのは、その真っ直ぐな視線の前では無理な話だった。
「なんで、お前は・・・っ!」
しかし自分の体の上に乗りかかるバドの声が、不意に悲痛混じりになり、急に泣き出した弟に怯む様子も無いままで、組み敷いたままの微かに身体を震わせて涙を流すシドの身体をぎゅっと抱きしめる。
「どうしてそこまで溜めこむんだっ!」
彼の苛立ちの理由・・・、それは自分の夜の誘いを断られ続けたことでも、それを避けていたことでもなく、何かを聞きたくても自分自身で片を悪い方へと結論付けて、一人で溜め込んで居たこと。
一人で溜め込み続けた挙句のあの最期・・、判ってやれなかったことを悔恨する彼の腕の中で抱き上げた弟の零れ散っていった命・・・・、その過去が今でもバドの胸に重く圧し掛かっていて、それを自覚するだけで軋みだすほど忌々しく残る悔恨。
だからその心を、感じたままに言葉にして聞かせて欲しいと思うのにと、優しい抱擁と、その心を吐露するような兄の声。
シドがくん・・っとかぎつけたその香は、香水のそれではなく、優しく逞しく心地良い兄自身が持つその匂い。
抱いていた兄の衣服から両手を離し、おずおずとその首に両腕を回し、ぎゅっと抱きしめ返すと、バドもまた更にきつくきつく自分よりも若干細身の身体をきつく窒息せんばかりに抱き返す。
「ごめん・・、なさい・・・・。」
まだ涙が混じるその声でバドに告げると、首筋に頭を小さく横に振るバドの長く伸びた髪がさらさらと掠めていく。
「疑っていた・・んです・・・。あなたが・・・・。」
心変わりしてしまったのではないのかと、その覚えの無い香がしみこんでいて・・・。
そう、正直に自分の気持ちを告げると、バドはがばっと顔を起こす。
「そんなはず無いだろう!」
そしてその小さく震えている唇に自分のそれを荒々しく重ね合わせる。
「ふっ・・ん・、・・っ。」
舌先を据われ軽くその歯で噛まれて、ちゅくっと音を立てて絡め合わされる熱い感情を込められた口付けに、シドはきつく瞳を閉じる。
伝えられる彼の自分への想い。
身体だけでなく、身も心も満たされる口付け。それを心が離れたままで施せるほど兄は器用ではなく。
「っ、俺も・・・、ゴメン・・・・。」
そんなに不安にさせてしまうほど、馬鹿馬鹿しい理由だと思って隠していた自分にも非があったと、バドは口付けを解き、もうシドが逃げる素振りを見せないことを確認すると、そっと押し倒していた身体を起こし上げて、寝台の上に二人並んで座る形になり、じっと見上げてくるシドを宥めるようにその腰に、安心させるように、そして逃げ出さないようにと腕を回していく。
「その、な・・・。」
言いづらそうに淀むその言葉の続きを待つシドのその表情に不安の翳りをこれ以上昇らせないようにと、覚悟を決める。
「気になっていたんだ・・・・、その・・・。」



加齢臭が・・・・。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

その沈黙は、根雪よりも深いものだと第三者がはたから見ればそう語れるほど重く長く立ち込める。
「・・・・・・え?」
「だからっ、体臭消しのためだその香水は!俺だって男だし好きな奴の前では格好付けたいんだよっ!」
弟の呆気に取られた表情に、あまりにもあまりな自身の理由を吐き出して、くそっ、笑うなら笑え!と言わんばかりに顔を赤く染めるバド。
「それで・・・、お前を不安にさせてりゃ世話無いな・・・。」
そしてそのまま頭を抱え込むように俯く兄に、シドの表情は見る見るうちに綻んでいく。
「そんなこと・・・、気にしませんのに・・・。」
そして今度はシドの方が兄の方に身体を傾けてその姿勢のままの兄を抱きしめていくと、バドもまた安堵の証の様にもう一度その腕の中にシドの身体を捉えていく。
鼻をくすぐっていくその匂い、それは兄のすべての中の一部であって、欠けてはならぬほどに愛しいもので。
「それにあなたが気にしなければならないなら、私だって・・・。」
私だって男なんだし・・・・と、気になり始めたらとことん止まらないのもまた弟の性格であり、そっと抱擁する腕を解かせようと身を捩ったのだが。
「お前は良いんだよ。」
俺は気にならないし、きっとお前はそのままで、年を重ねるほど良い匂いが増していくのだから・・・。
「・・・・・・。」
それこそ兄の思い込みだと・・・、むしろそんなに夢を見られても;と、冗談なんだか本気なんだか判らずに真剣に困りはしたものの、とりあえずは見る見る薄紅に染まっていく顔を隠そうとして俯かせたまま、抱擁を繰り返す。

どのくらいそうしていたのか・・・、その間にも互いの間を見えない匂いが鼻をくすぐっていく心地良さに、鼓動がとくんとくんと伝っていく中、抱き合っていたその身体を求めて寝台に横たえたのは果たしてどちらが先だったか・・・。
「全部・・・。」
か細く途切れそうに紡ぐ弟の薄いが形の良い唇から漏れる言葉すら、彩香に満ちていく錯覚を覚えながら、バドはその長く筋張る指をそれにそっとなぞらせる。
「全部ひっくるめてお前を愛している・・・・・。」
「っ・・・」
愛していると言う免罪符の言葉を避けるように、行動で示す兄が滅多に口に出さない告白の洗礼を受けたシドは、白磁の肌に喜びの薄紅を昇らせて、そしてうっとりとしたように目を閉じるのを見届けて、バドは芳醇で可憐な香を放つ弟の白い泉の様な身体に溺れ始める為に、ゆっくりと開かせていく。


「んっ・・あぁっ・・!」
ぴちゃぴちゃと音を立てられて、自分が弱く感じやすい部分を舐り上げられて、それでも、そう易々と達せられないように絶頂の波をはぐらかされながら、愛撫を送り込んでくるバドの頭部を、シドは知らずにかき抱く。
「に、さ・・、もぅ・・・っ」
切なげに吐息を零しながら、伝わってくる快楽に小刻みに身体を震わせながら、無意識のうちに閉じようとする太股の内側を優しくこじ開けながら、先端から溢れ出てくる弟の透明な蜜の匂いを感じ取りながらバドは、頭を更に下にずらしながら、ひくひくと誘うように開きかけている蕾に唇を寄せる。
「あぁ・・、や、やぁ・・・っ」
ぐっと長い指で開かされながら、柔らかくも熱い舌先を付き込まれて行くゆるゆるとした衝動から逃れようとしてシドは腰をくねらすが、寝台の真っ白に波打つシーツがシドの背中を受け止めながらも優しく絡みつくようにして退行を拒んでいく。
「あっ、んぁ・・やぁ・・っ!」
舌先と一緒に付き込まれて行く長い指に内部を激しくかき回されながら、そそり立っている自身を激しく扱かれて、避けていた期間にバドに触れられたいと押さえつけていた欲望は、他でもない兄のその手や唇によっていとも容易く解放を迎えさせられてしまう。
「あっ・・あ・・・っ」
肌の上にどくどくと迸っていく白い精を、内壁を弄りながら顔を上げた兄が、舌を伸ばして舐め取る様を見せ付けられて、ますます顔が紅潮していくのが判る。
「そ、んな・・、だめ・・・っ!」
「何で?」
肉壁の固くなりつつあるポイントを探り当ててそこを重点的に解していくと、びくびくと跳ね上がっていく弟の表情を伺いながら滑らかな肌を味わうように舌先と一緒に唇を落とし愛しい彼の放った精を一滴残らず舐め干すと、その刺激で反応を示している白い胸の上で赤く尖っている突起も愛撫しようと唇を覆いかぶせて行く。
「だ・・って・・、ぁ・・っ、きたな・・ぃ、し・・」
「何言ってるんだよ?」
何を今更と言うような、半分脱力したように顔を上げたバドの視線を受けて、シドはしまった!と言うようなバツの悪そうな表情になって、ふっと顔を逸らすが、それを辞さない様にバドの手が頬を包みこむ。
「そういう意味じゃないよ?」
「?・・・っ、あぁっ!」
指を引き抜かれて、熱く滾った兄自身の切っ先を宛がわれて無意識のうちに痛みを恐れるように身を固くするシドだったが、あまりにも優しく蕩けそうなバドの声が鎮痛剤の様に働いた事で、ゆっくりと入ってくる兄を感じ入っていく。
「そうやってお前は・・何でもかんでも抱え込みやがって・・・・。」
「だ・・って、だって・・・・!」
「お前を、どれだけ大好きなのか・・・・、まだ判ってもらえねぇのかな・・・?」
「っ、ぁ・・・!」
少し俯き加減になって見下ろしてくる兄の切なげな声と表情を目の当たりにして、顔がほてっていくのを自覚したシドは、きゅ・・と下唇を噛み締めるが、それでもそんなことは無いとふるふる・・と小刻みに横に振るのを見届けたバドは小さく笑みを浮かべた後、腕を軽く伸ばし、シーツと弟の身体に手を差し入れてそのまま抱え起こした。
「あぁっ」
途端、奥まで入って来た兄を更に別の角度で受け入れることになったシドは、その腕の中でびくびくと仰け反りながらも、しがみ付いたままの腕は決して解れずにその首の後ろで組み合わさったまま。
「もっと・・自惚れて・・貰いたいものだが・・・っ」
「あ・・っ、はぁ・・っん・・・っあぁ・・・!」
片手は背中に労るように宛がわれ、もう一方の手は腰に回されながら、それでも全身全霊の快楽を弟に味あわせたく思いながら動いてくる兄の髪から漂ってくる汗とシャンプーの香に包まれながら、シドはバドの耳元で切なげに声を漏らしていく。
自分の前で格好を付けたいと、照れたように言い捨てたバドの匂いを消していた香水よりも、生々しいほどに感じ取れる、自分を抱くその体から漂う匂いの方がとてもとても落ち着くし、そして愛おしい。
「わ、たしも・・っ、あぁ・・っあ、好き・・・・、ぁあっ!」

――・・・・・大好き。
自惚れる余裕すらないほど、あなたが、好き・・・・。
交わっていく水音と共に鼻腔を突いていく生々しい臭いであっても、それでも、最愛の者と睦み合える喜びの生み出すものなれば。
「んっ、ぁ・・ぁ・・ぁんんっ!」
溺れていく快楽の中に潜む本心から溢れ出るその声を、ようやくの思いで紡ぎだしたシドの唇に、俺も好きだから・・と囁きながら返事以上の想いを込めて口付けていくバドの舌先に口内の舌を絡め取られ、心と身体がこれ以上にない程近づいて混ざり合った瞬間に、シドはどくん・・と兄の身体に、そしてバドは弟の中にそれぞれの、白く熱い想いの丈を迸らせていった。

「・・・・・・・・・・・・。」
ぬくぬくと温かいベッドで寄り添いながら丸まって眠る虎の様に、くっ付きあって横たわる情事後の双子。
先ほど行為を終えて、汗もうっすらと引いていっても、何でだろうか・・シドの体からは甘い匂いが漂ってくる。
「・・・・美味しそう。」
「え?」
じゅるり・・と言う涎のすする音を聞いた気がして、思わず後ずさろうとするシドだが、すぐ後ろは壁であることを思い出す前に、兄によってぎゅっと抱き寄せられる事で些細な攻防はあっけなく終わった。
「いや、そうじゃなくて・・・・・、何か本当に美味そうな匂いがするんだよお前。」
「・・・・そうですか?」
すん・・と自分の腕を鼻先に持っていくが、別段バドの言うような匂いは感じられない。
「・・・別に何の匂いもしませんけどねぇ?」
「じゃ、俺だけに判るように発されているのかな?」
もそもそと毛布の中で動きながら、ぎゅっと抱きしめた腕をそのままで、頬にキスを落とされながら、軽く耳たぶを噛まれてぴくんと微かに身体を震わすシド。
「あ・・・っ、」
ぐっとこれ以上ない程近づくことによって、シドの鼻腔にもまた兄の少し汗で湿った髪からふわりとした香が届く。
「私だって・・っん・・兄さんの飾らない匂いが・・・好きなんですけど・・・・。」
「え?」
ぴたりと動きを止めてきょとんとしたバドに、シドはたった今のお返しと言わんばかりに両頬に手を添えながらその鼻先に優しく唇で触れる。
「私だって・・兄さんの全部が好きなんです・・・・。」
見も知らぬ匂いに触れただけで、思い込んで嫉妬を焦すほど兄の全てを愛しているのだと。
「だから・・・えっと・・・・・拘ることは悪い事ではないですが・・・その・・・・・。」
またもや顔を赤らめて俯いたシドに、バドは大体弟が何を言いたいのかを察して、頬に添えられたままの手をそっと取り、指先に軽く口付けを落とす。
「判ったよ・・・。お前を不安にさせるような物を身につけないから・・・・。」
可愛らしい束縛に、ますますその腕の中に弟を閉じ込めながら、だから今度、一緒に街に降りてお前が俺に似合う香を見立てて欲しいと耳元で告げると、シドは小さくはい・・と答えてそして強く兄の身体にしがみ付いた。







果たして、犬も虎も喰わない程の胸焼けがする程の互いの想い愛から発展した二人だけの深刻なすれ違いは、そのままベッドの上で繰り広げられた仲直り(?)でようやく解決に向かった。
折りしも世間はバレンタインに浮き足立つ最中で、例外なくラブラブな双子は、今年はチョコレートの変わりにそれぞれ各々に似合う香がするアロマキャンドルを交換して、夜毎自分が選んだ恋人の匂いに包まれながら幸せな夜の時間を過ごしていたのだが、 探究心溢れる漢心を強く持つ双子の兄は、自分の好きな弟の香をもっと具体的に再現する為に、シドの入浴した後の風呂の残り湯を多少失敬して保存していた現場を運悪く当人に発見され、今度は怯えたように、またしばらく避けられたと言う後日談ははっきり言ってどうでも良いのであまり詳しくは語らない事とする・・・・。






戻ります。