想同胞



彼を招いたのは別に理由なんて無かった。
強いてあげるとするならば、きっとただぶち壊したかっただけだ。

一向に関係の進展しない、もどかしい甘酸っぱい初恋の続きを満喫している彼と、もうそんなまっさらな気持ちになど到底戻れない私と彼との、隙間の無いカゴの中に彼を押し込めれば、どれだけその頑丈なようで脆いそれが砕け散るか。

それを見定めたい・・・・・。そう、きっとただそれだけの――・・・・・・。



想 同 胞



「は・・っあぁっ!」
漏れ落ちる吐息とともに吐き出される、向かい合ったまま貫かれている彼の後ろをその指がゆるゆると刺激を加えていくと、最初は躊躇っていたジークフリートは締め付けられる快楽と相俟って、シドの中でますますその硬さを増し続けていく。
「なる、ほどなっ・・・!少しだけ・・・・・お前の気持ちが・・・・。」
判るような気がすると、耳元に口寄せられ囁かれたその声に、今日は目隠しをするように促されて、それでもそのままシドを揺さ振っているジークフリートのその言葉に、シドはくすりと笑みを零した。
だがそれは自嘲の様な・・・・お前などに何が判るというのかと言う蔑みを含んでいたのだが、生憎今は目に見えない彼がそれを覚る事は無く、そしてその潤んでいく禍々しい朝焼けの色が混じる両の瞳が虚ろである事、顔を動かす事無く逞しい青年からつい・・・と視線だけを動かしていき、気配を消して呆然と扉の前で立ち尽くす侵入者である彼を捉えていることなど同様に気が付く事は無く。

貪るように私の身体に刻印を散らす為に唇を落とすこの男。
痕を付けられるのはあらぬ誤解を招かれるので、いつもならばそれを自重しろと告げるのだが今日は・・・違う。
その何者をも、弱者を守り強者を挫く筈のその両掌は、今は私の腰をぐいぐいと掴んで押付けながら、私の中で無様にそそり立つ自身を捻じ込みながら腰をひっきりなしに動かしている。
今日は私の要望で、目を塞がれているからか、それとも初めて後穴への刺激と私に包まれる刺激からか、いつもならば訓練で研ぎ澄まされている筈の人一倍気配に敏感で、背後からの攻撃を仕掛けても弾き返すほどの強靭な肉体に相応しい精神は、その肉体を情交により半分支配されている事で微塵も働いていないようで。
(・・・・・・・・・・っ、・・・っ!)
もう一人の対等でいたいはずの“友人”の前でこんな本性を曝け出して曝け出されている、互いの姿が可笑しくて、また知らず知らずに笑みが浮んでくる。
「あ・・ああっ!・・ジーク・・・っ、もっと・・・っ」


さぁ・・・・・。
君のその目には・・・・どんな淫獣に映っているのだろうかな・・・・・・?


段々と絶頂に登り詰めていく為に乱れていくジークフリートに、その婀娜声をたっぷりと聞かせながら見せ付けるようにして、何者をも包み込む、だがどこか危うげな色も含む陽の色の瞳は真っ直ぐに、その一番星の輝きの影に隠れ、二番煎じの光しか瞬かせる事の無い・・・・メラクの守護星を持つ褐色の肌をした友人に向けられていた。



(何を・・・しているんだ!)
そう、ハーゲンは叫ぼうとしていてもそれはままならず、ただ立ち尽くすばかりだった。
今日は確か、数日後に控えている宮廷内のホワイト・ナイトを祝いながら、新たな年に向けて今年一年の実りを感謝する為に催されるパーティーの細かな打ち合わせを、ジークフリートとシドと自分を交えて、会議と言う名の軽い飲み会をこの部屋で行うと、そうシドから伝え聞いていたのに。
目の前にて行われているこの狂態は一体何なのか?

この部屋へ向かう廊下の中、夜も更けていて静まり返る宮内で足音を潜めながらも歩く足取りは軽かった。
今年はどの様な趣向で行こうかとか、恒例に行われるラストダンスにて、拙いながらもその手をとってくるくると可憐な蝶の様に舞いながら、花の様な笑みを浮かべてくる愛らしい妹姫の姿を想い浮かべては消えていきつつも、また明日もきっとそんな彼女の傍に居て慕うことの出来ることを約束されたこの日常に深く感謝しながら、この夜遅くの勤務に勤しもうとしていた。
以前まで、そんな日常に退屈を感じていなかったのかと問われれば、きっとすぐに言葉は返せなかった。でも今は違う。
聖戦で、白鳥座の聖闘士に彼女を奪われたと、そう思い込みその拳を彼女に向け、そしてそのまま逝ってしまったあの時の悔恨は、今でも思い出すたびにそのときの自分を殺してしまいたいとすら思う。
何の変哲の無い日常の一つ、その一つが今夜もまた静かに終焉を迎えていき、そして朝の光とともに始まる新たな一日がとても愛おしいものだと長くアスガルドに居たのに始めて知った気がしたし、それがずっと今度こそ続いていくのだとそう信じて疑わなかった・・・筈なのに。
『はっ、あっ・・あぁっ!』
――・・・・は?
辿り着いた、指定された部屋の前に辿り着いた際に不意に聞こえて来るベッドの軋み音に一瞬頭の中が真っ白になる。
そして一定の間を置いて更に聞こえてきたその声に、聞き間違えかと一瞬パニックに陥った、のだが。
みると部屋の扉は微かに開かれており、その中から零れてくる微かな灯りに目が離せなくなる。
どんなに純粋にフレア様を想い慕っていても自分だって男だ。そういうことに興味を持たないわけではない。
それ以上に、生々しく聞こえてきたその声が、シドだと言うことを覚っていらぬ好奇心を抱いたのもまた事実だった。
あのシドが・・・・・、何時も上品に優しく微笑んでいて、名門貴族の出身であっても訳隔てなく接する、それでも浮いた噂一つ立てない温厚で綺麗な令息が、一体誰をここへ引っ張り込んで、自分とジークフリートを呼んだ事も忘れて行為に耽るほど夢中になっている相手が誰であるのかと気になって、そっと扉を開けてみた。
(・・・・?っ!?)
目の前に繰り広げられる情交、しかし相手は女などではなく。
「あっ、ああっ・・・ジーク、フ、リートっ・・・」
その呼び出した当事者の一人と睦み合っているその光景に、慌ててあげそうになった声をすんでのところで押し屈めた。
とっさに気配を消して、その場に居る事を悟られない様にしてそのまま踵を返そうとしても、目の前の絡み合いはハーゲンにとって強烈過ぎて逆に目を離さずに居た。
目隠しをされたジークフリートが、シドをきつく抱きしめたまま胡座を書いた膝の上に乗せて激しくその身体を揺さ振り続けており、嬌声を上げて身悶えしながらもシドは、ジークフリートの肩に顎を乗せる形で、背中に回しているその手を更に下へと滑らせて引き締まった臀部の割れ目辺りに二本の指を割り込ませてなにやら小刻みに動かしている。
(今ならば・・・引き返せ・・・・?!)
お互いに夢中になっているためか、自分の存在に気が付いた様子は無く、ならば答えは簡単で引き返そうと踵を返そうとしたそのとき、ハーゲンは自分の両足が緩やかに痺れていくのを感じ、はっと下方に目を落とし、そして愕然とした。
煌びやかな氷の結晶が足に絡みついている。そしてゆるゆると下がっていく気温。
(こ・・れは・・・!)
シドが得意とする氷縛術で、戦いの際には意識を失った相手を雪の華を散らしてそのまま凍りつかせてその棺の中で緩やかに命の灯火を消していく、その技の応用が自分にかけられている。
反射的に顔を上げるその先には、ジークフリートになすがままになっていたはずの、背中に回していた筈の両手のうち片手が胸元の辺りに掲げられ、その細い指先が丁度自分の方向へと向けられており、快楽で自我が効かずにいたはずの顔がこちらを向いている。
(っ!?)
幾度と無く接してきた中で、こんな表情は見たことはないと、ハーゲンの全身に戦慄が駆け巡った。
口元だけは優しく笑みを模っていたが、快楽に上気する瞳には一切感情が篭っていない。
皆が慕う優秀な副官としてでも、友人として向けられるそれでもなく、まるで邪気の無い子供のような残酷な悪戯を仕掛けるようなそんな笑み。
声を出してはいけない、そして動いてもいけないと、ハーゲンは本能的に感じ取る。
足だけが氷縛されていき、身の動きを封じられた訳でもない、ここで思い切り目の前の友人達の痴態を罵る事だって出来るのに、それはしてはならぬと、ハーゲンの最も奥深い意識が警鐘を発する。
(っ・・・・、)
そうしてしまえば、先ほどまで、つい一瞬前まで思い描いていたフレアと過ごせる筈であろう日常が、この夜を境にもう来なくなると、このままやり過ごせば何も知らないふりをすれば、また何時もの日常に戻れる筈だと頑なに本能が訴えかける。
ただやり過ごせ、気配を消して見ない様にすればと思い込んでいても、何故このような行動を取るのか、元々今夜の集会の号令をかけたのがシドだったことを思い出し、これが確信的に仕組まれた事なのではないかと、その考えに思い至った時、ハーゲンの三白眼の青い冷たい炎の様な瞳は更に吊り上がり、雌豹の様にしなやかに身をそらせて絶頂へと登り詰めていくシドを睨め付けていた。



あぁ・・・・・・・。
予想通りの反応に、曝されるその目線にシドは思わず改めて快楽を感じ荒げる息と交えて、甘い感嘆の息を吐く。
お互い大切な友だったはずの二人が、その関係を壊す行為にしか思えず、それを罵倒する事も出来ずに立ち尽くしていても、そのクールサファイアの色はまだ自我を保っていて、まるでその辺にぶちまけられた汚物でも見るような、そんな視線がたまらないよ・・・ハーゲン。

そう、それはまるであの人のようで・・・・。
今はとても優しくて、傍に居てくれて近しくて遠い存在だけど、確かに私の影として宿命つけられて、輝く事すら赦されずにひたすらにもがき続けて、それでも一切の憎しみを注ぐ事を惜しまなかった、あの頃のあの人の視線に。

でもね・・・・、本当は知っているんだよ?
君は何時もジークフリートに言い知れないコンプレックスを抱え込んでいる事を。
伝説の英雄の字に恥じない程の誇り高き人物、若くして誉れのある近衛隊隊長にして、この国の最高位である聖なる巫女に忠誠を誓って守護しているその彼女から絶対的な信頼を寄せている正に勇者と褒めそやされるたびに、心無い比較に苛まされてきた事を。
君は君で努力して築き上げた地位はあれども、近くに居れば居るほど無関係な筈の無関心な他人の発する何気なく無責任な言葉に苛立っていたのでしょう?
同じようにたかが部外者でしかない他人の目に曝されてきたからこそ判る、“同類”の匂い。
だから・・君が何時かどんな形であれ、彼を支配したがっている事、ねじ伏せたく思っているその本性は、事実その闇に曝されてきたからこそ判る闇に慣れ親しんだからこそ。
「ぅっ、シ・・・・ド!もぅ・・・っ」
締め上げていけば、その彫像の様な身体も血肉の通った身体に戻るように俗世の男と何ら変わりない。
中に入って刺激している後穴も、もう充分に快楽を得ることが出来るみたいで、ある一定部分を擦ると気持ちよさに反応して、ますます私の中で硬く熱く滾っていく。
「シ・・、んぅっ?!」
「黙ってて・・・・・。」
不意に引き抜かれた指に違和感を覚えて、上げようとしたその声を封じるようにその唇に不意打ちの口付けを与えて、もう今この男は完全に無防備で。
ちらりと横目で伺えば、ハーゲンの視線はシドからもうとっくに外れており、ただその雄の光を宿し始めた目線でジークフリートを見据えていた。

――・・・・・機は熟したり。

角度を変えて口付けを施しながら、塞がっていた方の指をハーゲンの影になる部分で軽くパチンと鳴らすと、その足元の氷縛はいとも容易くぱらぱらと解け落ちる。
『・・・・・・・・・・・・。』
軽くなった足元とは裏腹に、目の前の男に口付けを与えながら、まるで妖女の様な物言いの流し目がハーゲンの身体に絡みつき、ゆっくりゆっくりと二人の居る寝台へと近づいていくたび、彼の脳裏の中に何故か、自分を裏切った恋人を殺せと命を下す、かの戦乙女の面影が過ぎっていった。







――背中を向けた不死身の勇者は・・・・・。
「あっ!ぐあぁっ・・ああぁっ!?」
突如後を貫かれていく激痛に、今までシドを組み敷いた時とは真逆の絶叫にも似た悲鳴がジークフリートの唇から紡がれだす。
「な・・ん、これ・・はっ!?ぐ、あ、あぁっ!!」
――味方であったはずの者の裏切りにより・・・・・・・。
シドによって引き倒されて、対面座位の姿勢から正常位になってそのまま攻め立てていた筈のジークフリートの背後から圧し掛かるのは、浅黒い肌を持つ、潔癖で純粋で、ただ一人の操を立てたはずの荒くれ馬。

「シ、ド・・・・こ、れは・・・・・っ!?」

―――・・・・・その命、散らしていく・・・・・。


初めて他人の中に入ることによる本能的嫌悪感を露にしつつも、苦痛にゆがみながらもその味に酔い痴れ始めるその表情・・・。
熱血で真っ直ぐだった筈の君は、妹姫の純粋な想いの裏に、こんなに深い感情を押し殺していたんだね。
「あっ、はぁっ・・・あぁっ!いいっ、い、い・・・・・っ!」
二人分の密着した身体が、下に居る私にかけられていく。
君が彼を陵辱していけばしていくほど、こっちは更に気持ちよくなっていく。
思った通りだ。君は、私と・・・・同じ・・・・。
間に挟まれて、その腕をシドの顔の横に付いて苦しそうにシーツを掴みながら、四つに這いながら背後から犯されていくジークフリート越しにサファイアブルーとダークオレンジの瞳が交差する、が、しかしハーゲンは一瞬でシドから視線を逸らし、視界を塞がれていて自分が動くたびに呻き続けるジークフリートをどこか熱の篭る目で見下ろしていた。
「くぅっ、ぁっ、ああっ!」
情けない声を抑えようとするも、突かれ続けられると否応無しに声は上がり、噛み締めていた唇は血を滲ませながらあっけなく緩んで行き、再び苦悶の声を上げていくジークフリートに、シドは慈悲の篭った腕でその柔らかい曲線を描き、脂汗を吸い込み始めている髪の毛ごとその頭を、まるで母の様に抱き寄せた。

良かったね・・・・・。君は敵わないこの男を、今この時こうしてねじ伏せる事が出来たんだよ・・・・。

「シドっ・・・シ、ドッ!!」
初めての経験で、ただ突き動かす事しか知らないハーゲンに、二人を絶頂に向かわせることなどできるはずはなく、そして懇願を求めてくるこの愛人に情けを覚えたシドは、軽く溜息を吐きながら、その腰に足を絡めて身体を微かに動かして、中に入っているジークフリート自身の先端を自分の悦楽を最も感じ取るスポットに宛がってそして自らも腰を揺らす。
「あぁっ!いぃよ・・・・、ここに・・ッ!」
来て――・・・!

二人ともっ!


擦られる事で自らも快楽を得て、ぎゅっとその部分が引き絞られると同時、慣れ親しんだその衝動でまずジークフリートが達し、その際の締め付けでハーゲンもその熱を解放しようとした・・が、その際不意に我に返った彼はその内部から自身を引き抜き、その精はジークフリートの背中に飛び散っていき、そして下に居るシドの顔をも濡らして達ったのだった。





お、れは・・・・、何てことを・・・・・!!
一度持った熱を解放してしまえば、冷えていく頭の中は急速に冷静になり、うつ伏せに突っ伏したまま気を失ったジークフリートと、その下に重なり合うようにぐったりとするシドの姿を見て、狼狽するハーゲン。
このまま逃げ出したい気持ちに駆られるが、それでもなしてしまった事の罪深さを認めることをせずに逃げ出せば、自分はただの下衆だと奮い立たせ、とりあえずその汚してしまった身体を綺麗にしようと、身を起こして立ち上がりベッド脇に下りようとしたそんな彼の腕を、同じように失神していたと思っていたもう一人の人形の様に投げ出されていた白い腕がすっと伸びて、その指が絡みつく。
「っ!?」
そのあまりにも冷やりとした熱、さっきまで二人の男の身体を受け止めていて散々啼いていたとは思えない程の冷たさに、思わず飛びのくハーゲンに、シドは無邪気に小首を傾げて見上げてくる。
「軽蔑した?私たちの事・・・・。」
そうして向けられてくる表情は、不特定多数に見せるような、どこか張り付いた能面のようだと今ならば思う、そんな笑みだった。
そうだ、元はといえばこいつが・・・・・。
「あ、たりまえだ!!どうしてこんな・・・・っ!」
深く沈んだジークフリートの意識を浮上させないように、低く押さえ込んだが、それでも怒気を露にして荒げる声。
言ってやりたいことは山ほどある。
こんな事は非常識だ。ジークにはヒルダ様が居るのに・・・・・、そう思う反面、ならば自分はどうなんだ?俺はフレア様を・・・なのに何故こいつを・・・・。
「っ!!」
そんな事がグルグルと頭を駆け巡っていく中、ハーゲンはこの時に、自分が愛していた筈の少女と続く穏やかな日常への道のりから自分が足を踏み外してしまった事を自覚してしまい、ベッド脇に脱力したように座り込んで自分の頭を抱え込んだ。

なんてことを・・・・なんて、ことを・・・・!!

「別に大したことじゃないよ。」
しかしそんな自分に降ってきたその声は、あくまでも穏やかでありそしてまるで天の救いの様な声にも聞こえ、思わず顔を上げると、シドはぐったりと伸びきっているジークフリートの身体を気だるげに押しのけて、脇に跳ね除けていた白い薄手のブランケットにとりあえず身を包み、すとりとその素足をハーゲンの前に降ろした。
その姿はまるで、一輪の芳醇な匂いを放つ白い百合の様でもありながら、触るもの全てを傷つける白薔薇の様でもあり、罪を罪とも思わない羽衣を纏った天女の様でもあり、へたり込んでいるハーゲンの前に自らも膝をついて、シーツの端側で、彼が放った先ほどの名残を拭いさると、そっと耳元に唇を寄せる。
「それが君の隠された本音だったのでしょう?」
「ちがっ、それ・・はっ・・・!」
そういう問題ではない。一人の人間の意志を無視して、ただ欲望の赴くままにその身体を傷つけた、そのことに今は心を砕いていると言うのに・・・なのに目の前のこの人物はどうしてこんなにも平然としていれられるのか・・・・・・?
思わず寒気を覚えて身を引いたハーゲンだが、身支度もそこそこだった下腹部に指先を伸ばされて、その興奮を思い出したかのようにビクリと身体を震わせる彼自身を取り出して身を屈めてその口に咥え込んだ。
「ぁくっ!」
あまりにも狭い体内で、むしろ性的な快楽よりも、“自分よりも優れている”ジークフリートを組み敷いたというそのことだけで上り詰めたハーゲン自身は、今度は目の前に居るしたたかな愛の女神の操る口技と手官に翻弄されていく。
「くっ、ぁ・・っ!やめ・・ッぁ!」
しかしそう言っても、むくむくと起き上がり熱を持ち始める自身、しかし口ではあくまで拒絶を繰り返す彼。
「そう・・・・っ、んっ・・・、そんな、ものなんだよ・・・・っ」
心と身体を一致させられない関係。自分とジークフリートもそうだし、口ではどんなに綺麗事を並べてみても、もう彼は行動に移してしまったから、何を言ったってそれは身体に事実として刻み込まれている。
「壊したく、ないのでしょうっ・・・?」
今の生活を、日常を。明日起こりうるであろう、大切な彼女とのささやかな思い出を刻んでいく幸せだと思い返せる時間を。
舌先でなぞるだけの口には、もうすっかり奥深くまでハーゲン自身を飲み込み始め、茎を支えていただけの手は、根元を飾る二つの膨らみを揉みしだきながら、取り出され竿をも掴んで扱き始めていく。
「くあっ、ぁ・・・っ!」
先ほどのジークフリートほどではないが、自分の口から漏れるその声に嫌悪感を覚えて必死に口を塞ごうとしても、ぴちゃぴちゃと猫が水を舐める様な音が、この閉じられた狂った空間に響き渡り、ますます頭の中が痺れていく。
「お、まえは・・・っ」
「ん・・く・・っな、に?」
座り込んだまま、微かに両膝を立てて僅かに広げられている足の間に入り込み、刺激する手と口を休めぬままで、上目遣いでハーゲンを見上げながら、段々と手の動きを早めつつ先端部に辿らせた唇でわざとにソコを軽く噛むと、電流の走ったかのように身体を震わせながら次に続く言葉を待った。
「誰彼かまわずに・・・・こん、な・・・っくぅ、ぁぁっ」
そのあとの言葉に続くのは、今一度の絶頂を訴える声、そして二度目に吐き出される精は今度はシドの喉の奥深くに吐き出されていく。
濃ゆく、喉の奥に絡みつくその熱を音を立てて、いかにも余裕を持ったふりをしてどうにか飲下しながら、もう一度火照ってきた身体には邪魔になって、纏っていたシーツをするりと脱ぎ落としてその素肌を露にする。
「・・・・・・っ」
今初めて間近で見るシドの肌に、ハーゲンは思わず息を飲んだ。
男にしては些かそそりすぎるほど突き抜けるほど白い肌だが、どこか卑猥な薄桃色にすら染まっているかのように見える。
均整は取れているが細身の身体につく筋肉肉は必要最低限しか付いておらず、どこか華奢な印象すら与えて、それは平凡な女など霞んでしまうほどに妖しく艶めかしい雰囲気に中てられるであろう。

――・・・・きっと、彼女もこんな肌をしているのだろうか・・・・?

不意に頭に浮んだ少女に、ハーゲンはその自分の今際の感情にぞっとして慌てて頭を振ろうとしたその前に、こちらの心を読めているのではないのかと言うタイミングで、シドは座り込んだままでいるハーゲンの肩に両腕を回し、そしてたった今しがた放たれて内部に残留するジークフリートの精を掻き落とさんばかりに、熱を放っても尚硬いままのハーゲン自身を自分自身の中に導いていく。
「くっ、ぁ、は・・・っ!」
先ほどは感じ入る暇もなかった、熱くて狭い肉壁だが得も言わぬ柔らかさに先端から全体にかけて包み込まれながら絡みついて離れない、その中。
自分の身体を労る・・・むしろ逆に痛めつけるかのようにして、自分の肩にしがみ付きながらひっきりなしに腰を動かして根元まで咥え込んでは声を上げながら、自分もまたもう一度絶頂を味わおうと熱くそそり立つ自分自身の先端を、ハーゲンの腹に擦り付けて快楽を得ようと貪っている。
「あっ、んぁ・・ぁあっ!あ・・っ」
抑え様ともせずにただ本能の赴くままに声を上げて、動けば動くほど締上げていくシドの内部。
ジークフリートを犯し、貫いた時とはまた全く違う種類の熱。
むしろ今、雄として支配しているのは自分の筈なのに、まるで自分が組み敷かれて支配されている倒錯した快楽に見舞われながら、ハーゲンは自分の身体を後ろ手について支えるのに精一杯だったが、それを逃がすまいとしてシドはますますその白い裸体を傾けてくる。
「誰、かれ・・・んぁっ!構わないわけじゃないっ・・ぁあっ」
「っ、ぁ・・っ、?」
喘ぎと吐息混じりに放たれる声に、一瞬何のことかと捩っていた身を止めたハーゲンだが、その隙を付いたのか、まるで白蛇の様な両腕が肩から首に回されていき、先ほどジークフリートと交わっていた時と同様の体勢にするべく、ハーゲンの身体を挟み込むようにして開かれて投げ出されていたマネキンの様な両脚は一度伸ばされた後、その腰に組み、回されようとしていく。
「っやめ・・・ッ!」
これ以上は駄目だ。俺は、おれ、は・・・・・!

抱きつこうとする自分を引き離そうとするハーゲンに、シドはあぁ・・・と改めて思う。
この人物も一緒だと。
一人の男として思うのはかの妹姫であり、雄として意識していたのは横に転がるあの勇者であり・・・・自分ではないのだ。
そしてあの人も、昔はそうであっても今はもう、自分を近くに見てくれてなど居ないし、隣の男はもはや言うまでもないこと。

どいつもこいつも同じだ、一緒だ。狢だ。
「うぁっ、あ?!」
せめて身体だけを密着させる事を避けたがるハーゲンの抵抗を逆手にとって、一瞬にして体勢をひっくり返す。
上に乗りかかったシドの、悠然としたその身体は、さっきまでは薄暗い室内の中では薄桃色にすら見えていたのに、今は冷たく冴え冴えと輝く月光の様に見えて、それがハーゲンに更に戦慄を覚えさせる。
「おなじ、ものしか・・・ぁっ、わからないし・・・・・!興味もない、っぁんっ!」
夢遊病者の様な虚ろな目をして、中断された律動をもう一度開始しながらも、密着される事を拒んだに過ぎないハーゲン自身はそんなシドの様子に萎える様子は無く、その先端は一番感じる部分に一点を定めながら貫いていた。
「ぁんっ!あぁっ、あ、あ・・・・んっ!」
シドが悦を得るたびに、打ち震えるたびにハーゲン自身もまた同じように擦れて行きながら、肉壁に包まれながらも締め付けられて更に大きくなっていくのをもう止められないでいる。
「っ、く・・・ぁっ・んんっ!」
シドのその婀娜な表情を見る間も無く、自分に降りかかる快楽を味わうだけで精一杯なハーゲンはその顔を切なげに歪めて、時にきつく瞳を閉じてはいたが、不意にその切れ長の瞳の視界の端に見え隠れするものに気が付いた。
それは、窓の外を風に乗って凪いで行く雪が、脆弱な月明かりに照らされて室内にその影を躍らせているのに過ぎなかったのだが、それはまるでシドの背中から毟り取られて散っていく、白い無数の羽根の様に何故か彼の目には映っていた。
「シ、ド・・・?」
そして淫の気を放ちながら、それに浮かされてどこか余裕の笑みを浮かべてさえいたと思っていた表情は、どこか痛々しく、その滴り落ちる汗は血の涙ではないのかと思わせる、錯覚。



壊せない――・・・。
綺麗な人――・・・・・。
大切な――・・・・・・。

だから・・・・、自分と同じものを――・・・・・・・・・!!



リフレインしていく先ほどのシドが発した言葉の羅列が頭を駆け巡っていくが、それらの意味を求める前にハーゲンが絶頂を迎えたほうが先で、今度はシドのその中に己の熱を吐き出そうとびくびくと打ち震える。
「あっ、ああああ!・・・・・・ぁ、んんっ・・・・!」
その刹那のシドの声が、何か誰かを呼んだような気がしたが、堪えきれずに自分の腹部に吐き出されていくシドの精の生温かさと、自分がシドの奥深くにきっと何も残せない精を吐き出していくのを、なすがままに組み敷かれてぼんやりと天上を見上げ続けていた。






「これで・・・・君も私に身体を奪われたのだから、何も言う事はないでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「大丈夫。誰にも言いませんよ。勿論・・・・・。」
二度起こったその出来事に、呆然とするハーゲンに、二度その体内に男を受け入れて、その生々しさを感じさせないほど飄々として身支度を整えているシドの声に、ようやく脳内に思考が流れ始める。
「ここで未だに気を失っているこれにも、ちゃんと誤魔化しておきますから。」
「・・・・・・・・・なぁ、お前もしかして・・・・・・。」
「はい?」
先ほど感じ取ったある種の予感を告げようとシドの顔を見るが、それはもう今後の自分には係わり合いのない事だと、決して笑っていないシドの視線がそう語っていて、ふとその目を逸らした。
「それで良いんですよ・・・・・・・。君はちょっと違っている事は判っていたのに。」
「シド・・・・今夜の事は・・・・・・・。」
「忘れなさい、もう終わったことですから。」
まだ湧き上がってくる、彼らを犯した自分。だが、それは自分が何とかするしもう済んだことだから思い出すこともないと、きつく言い含められて、ハーゲンはその部屋を後にする。
バタンと閉じられた部屋の中、痛々しく裂けているジークフリートのその部分にあらかじめに持って来ていた、自分がかつて使っていたそれ専用の薬を指に取り、そしてソコへ塗りたくっていく。





「ある意味で相思相愛・・・・だったんだね。」
「最も君は気づいてさえいないのだろうけど・・・・・そういう鈍感な所が多分・・・・・。」
あの人に・・・・・・。





結局彼は彼と壊れてなど行かなかった。
どの籠も結局は壊れなかった。

ただ、自分と彼の押し込められていた籠が一瞬だけいびつに歪んだだけで、それがまたいびつに戻った・・・・ただそれだけのことだった。






BGM:MHCu/イロクイ




戻ります。