がやがやと騒がしい下界の街並みは、禁欲的に彩られた神に一方的な愛情を押付けられた女王巫女が君臨する頂に建つ神殿よりもよほど血肉の通った人間らしい喧騒に溢れかえっている。
白く冬の夜が長く支配するこの国も、何も無垢で夢見る紳士淑女達ばかりが暮らしている訳ではなく、それなりに欲望を渦まいている人間達を集める・・・所謂『春街』の存在がある。
人間の抱え込む闇に近い欲望は、押さえつければ押さえつける程、抑圧されれば一気に吹き出す物であり、清廉潔癖な彼女を崇拝するものとしては眉をしかめてはいたが、ごくごく一部のトップに立つ人間は、その彼女こそが抑圧された欲望の末に暴走している事を知っていたので、その存在を真っ向から否定する事はなく、それどころかこうした夜のざわめきに紛れて忍んでやってくる者も居る。
今、道行く彼らもある程度思う様の権力は持つものの、どうにも出来ない気持ちを抱えたまま夜の闇すら優しく思える程、深い煮え切らない欲望を抱え込む放浪人の一握りであった。
katharsis masquerade
白く分厚いトレンチコートに身を包み、長く曲線を描く髪はサイドを残して項できつく縛られている青年は、頭半個分低くゆったりとした身体の線を曖昧に強調する黒いコートを纏う“彼女”に見立てた彼の肩を抱きながら、人の手によって掻き分けられてはいたが、寒さの果てに残っていた雪を氷に変化させている路を静かに歩いている。
二人の横に並ぶ間の距離は一定の間隔が常に保たれており、“彼女”役の彼の腕が長身の青年の腕に絡んだり手を繋いだりすることは無く、当の青年もそんな“彼女”を咎めるでもなし、奇妙な均整の取れた沈黙が二人の周りを包み込み、それが却って往来を行く人々の好奇の目を無視することが出来、煩わしい思いをする事無く、目的の場所へと易々と二人を足を運ばせていた。
「それなりに・・と言った所かな?」
レンズの幅がシャープなダークブルーレンズのサングラス越しのスカイブルーの瞳が、この時初めてとなりに居る“彼女”を見つめたが、目深に被った黒いシルクハットの影にある、普段は温厚で在りながら、自分に対してはどこか獰猛な光の宿るダークオレンジの瞳は隣の男を一瞥する事無く、さっさと用を済ませてしまえと言わんばかりに、並居るモーテルの中から、その中の上と言う姿に変装してきたとは言え漂う高潔な雰囲気には似合わない、崩れかかったその建物の中に入るぞと言わんばかりに顎をしゃくる。
「いらっしゃいませ・・・。」
血と汗水を流してこの建物を建てた館主が、そのご挨拶にも無言を決め込んだ二人に憤慨する事無くそれどころか下卑た笑いを浮かべながら、彼らから手渡された利用料金よりも多額な金額を受け取って、何時もの部屋へと案内する。
彼らの詳しい身分は知らないが、その高貴な佇まいから発せられる好奇な香を嗅ぎたいのは山々だが、この閉ざされた国でそれなりに暮らしていくには腹の膨らまないスキャンダルよりも、等価交換、場合によっては手元に残る金の方が大事であり、そしてそんな財を落としてくれるこの二人の奇妙な客は今や、この古ぼけた裏路地よりも更に暗い場所に建つモーテルの主人にとっては立派な常連になっていた。
そんな彼らが決まって取る部屋は、この館の精一杯の上質な豪奢な一室・・・ではなく、崩れかけた壁に囲まれた、狭い部屋にスプリングの抜かれたパイプベッドが置かれている、貧しい下賎のものが一夜の春を売り買いするに相応しい程の最下層の部屋だった。
「では、ごゆっくりと・・・・。」
キヒヒヒと卑しい笑いを浮かべながらも、手に入れた金を見ながら、一体どの様な者達なのかと思うと同時、部屋代をケチってまで愛を交し合いたいのか?搾り取れるだけ搾り取るにしては金づるにするにはちょっと役不足だなと好き勝手な事を考えながら、軋む廊下を渡って踵を返していったが、それこそ彼らにとっては好都合な解釈であろう。
「さて・・・。」
冷たく固いベッドの横の床に無造作にコートを脱ぎ捨てて、サングラスを外した青年-ジークフリート-が、貴婦人に見立てた彼を下から温くぬめる様な視線で見据えていく。
「今宵のあなたは、どの様な香が致すのかな・・・?」
「あなたの望むような甘い蜜を滴らせることなどないと言うのは確実ですが?」
声を聞けば女などとは程遠い、れっきとした男の物であるが、身体つきだけ見ると選ぶ服とそして着こなしによっては、筋肉はある程度は付いているものの、遠目から見れば全体的に細身のその身体は華奢な身体つきの貴婦人と見立てることも出来、そして元々上流階級として育ってきた事も相俟り、10云年、そして今も尚仮面劇を演じてきた彼-シド-にとって見れば形だけ女に成りすます事など何事も無いようなことだった。
最もこんな一方的にプライドを踏みにじられている行為に見えるが、最初からそんなものを互いにへし折って結んだ関係の二人にとっては今更の事であるし、少々欲望を吐き出すにしてもマンネリを感じていたのもあってか、ここしばらく解消方法を模索していた。
勤めている宮殿のありとあらゆる場所から喰らい合う事から始まり、それでも尚心の飢えは限りなく増長していき、次はリスクを犯す事になるかもしれないというスリルを味わうことへと移行していき、このモーテルに辿り着き、そして今は・・・。
「あ・・・っ!」
この場でゆっくりと脱いで行けと言うジークフリートの視線に少し反発するように焦らすようにコートをまずは脱ぎ捨てて、その中身が露になる。
太股にスリットの入ったブラックロングワンピース、その合間から零れ落ちる白い肌を半分以上覆い隠す赤黒い花々が一面に咲く模様を施されたタイツが、余計に隠された彼の色気を誘っている。
それで?ここでこのまま致しましょうか??と言うようなシドの無言の悪戯半分、もう半分は苛立つような視線に答える事無くジークフリートは立ち上がったまま彼の身体を抱きすくめる。
普段滅多に身に付けることの無い、貴婦人ご愛用のそれよりも、夜の蝶が纏うに相応しい刺激臭が強い香水がジークフリートの中の雄をあおり始めていく。
「そ、んなに、この格好が気に入りましたか・・っぁっ」
黙れと言わんばかりに強く引き寄せられ、立ち上がったままでスリットを捲りあげられガーターベルトを装着した下着を破かれんばかりの勢いでずり下ろされ、シドのれっきとした性別を象徴するソレを口に含みだしていく。
「っ、んっあ・・くぅっん!」
「お前の方こそ、何時もより・・っこらえ性が無いのではないか?」
「んっ、うる、さい・・・っ!」
蜜が滲み出始めている先端を舐め上げられながら、守るべきものが決まっている大きなその手で根元を扱きあげられ、がくがくと力が抜けていく両脚を屈服しないようにどうにか持ちこたえながら、シドの並みの女よりも細く麗しい両手は、ジークフリートのまとめている髪の毛に、言葉とは裏腹に、押さえつけるようにその爪を食い込ませていく。
「こんな格好をして、・・っちょっと咥え込んだだけで敏感に反応する・・っ」
「うるさ・・っあ、あ・・っ!」
「服装の趣味までに、口出しした覚えは無いがな・・・っ!それはあいつの好みかあいつに対してのあてつけか?」
「ちがっ、ああっあああっ!!」
きつく瞳を閉じながらじゅるじゅると音をわざとに立てられながら強く吸い上げられて、扱かれていく手の動きに合わせて放出されていく白濁を止めることはできず、否定もままならないままシドは、目の前のこの男になす術も無い欲望を委ねて達く。
がくんと崩れ落ちそうになる身体を許さないようにその手が再びシドの胸に宛がわれて向かい合う形で抱き起こされる。
まるで酔いが回った貴婦人をエスコートするかのような動きに、ぼうっと霞むシドはその手を振り払う事は出来ないまま、気が付けばベッドサイドに腰を掛けさせられている。
「っ・・・!」
今夜はジークフリートの好きなようにさせる為にこのような女装をしてきたが、お互いの関係はどちらが尊でも卑でも無いのにも関わらず、突然達せられた事とまるっきりそのような扱いをされた事が癪に触ったシドは、つま先を持ち上げて唇を寄せてきたジークフリートの顔を振り払うように軽く蹴り上げる様に動かす。
「おっと。」
しかしそれすらも見切られて、そのタイツに包まれたつま先は再び彼の掌の上に乗せられ、今度はシドの口を挟む間を与えずにその足先に口付けを落とす。
「っちょ・・!」
突然そんな事をされるなどとは予想も付かないまま、シドは長年付き合ってきた彼の知られざる深淵を覗き込んだような気がして思わず足を引きかけるが、今度はそれを拒絶する様に強く掴まれた挙句、黒と赤の色彩の布により却って浮彫りになっているラインを舌先でなぞられていく。
「や・・ぁ、ま・・って・・・っ!」
早急に与えられた一度目の絶頂で敏感にさせられたシドの身体は、脱がされないタイツ越しに与えられるジークフリートの舌先から段々と粟立ち始め、その肌は火照り花を再びほのめかし始める。
「ひっ、や・・っ、ぁっ!」
ジークフリートの舌が触れるだけでは飽き足らず、時折全体を使ってシドの肌を隔てられている布越しに愛撫するように押し当てられ、かと思えば僅かに開かせた太股に愛おしむように口付けを落としながら、先ほど捲り上げたスリットの中に今度は手を差し入れ始めてくる。
「うぁっ」
帰りのことも考えてか、破かないまでもスリットの切れ目を更に深くする勢いで、既に下着を脱がされてはいても、服を着たままで息を荒げている自身をもう一度その手で握りこむと、途端びくびくと反応を示しながら支えを欲するように一つに縛った髪にしがみ付こうとするシドの身体を強制的に抱き寄せた。
「はぁっ、ぅ、ああっあっ」
抱き寄せついでに中途半端に腰を浮かせた体勢を取らせる為に、ノースリーブからすらりと伸びる両腕を自分の首に絡ませると、スリットの中に入り込んだ手が下から回り込むようにして切なげに涙を零すように蠢く卑猥な蕾みを解し始めていく。
「んくっ、あああっ」
「こんなに乱れるお前も・・悪くは無いかな・・・?」
「ふぁっ、あっあ・・・っ」
「昼間は淑女の如く、そして夜は娼婦の如く・・・か。男にとっては最高の理想の女性像ではあるな。最も奴にとっては、可愛らしい理想の弟像から抜け出せないでいる様だが。」
「・・だ、まれっ・・・!」
快楽に溺れ始める体であっても普段穏やかな瞳を鋭く尖らせて低く呻く声、硬くそそり立つ自身の先端からとろとろと零れだす苦い蜜、一つしか通ずる場所の無い悦楽を味わえる入り口。
それらが女には居ない身体の構造だと物語っていても、ジークフリートはシドの色濃く匂い立つ妖香に当てられている自分を自覚して、心をかき回される自分に苛立つように、前と後ろを激しく掻き乱していく。
「ああっ、ま、た・・く、る・・・ぅ、ぁっあ・・・!」
腰を半分浮かせた状態のまま、入り口あたりで行ったり来たりしているジークフリートの指をもっと深く咥え込んで絶頂に達する為に、ベッドサイドの上にそのまま腰を下ろそうとするシドを、しかしジークフリートは阻止するように、根元を強く戒めながら、三本の指を一気にズルリと引き抜き、力の入りきらずに居る膝のシドを強引にその場に立ち上がらせると、再びその身体を自分の胸の中に預けさせる。
「ふっ、く・・・・っ!」
達せさせられる事をせき止められたシドは、思わず潤んだ瞳で目の前の男を見上げるが、その仕草すらジークフリートの中で強引に眠らされざるを得なかった雄を目覚めさせていく。
「本当に・・・淫らな貴婦人だ・・・・。」
「や、かま、しぃ・・っ!」
隠された性癖をここまで暴かれる事に抵抗は無きにしろ、くどく婦女扱いされる事が癪に障ったシドは、厚い胸板に両手を宛がって軽く押してその身体から脱出を試みようとするが、前に触れられる手がそれを許さずにいる。
「は、やく・・脱がせ・・・っ!」
「果せのままに・・・。」
それどころかシドの片手を逆手にとって、自分の猛り始める自身に触れさせて、その手がジッパーを下ろし始めたのを確認すると、ジークフリートは熱く湿っていて、どこか安心したような吐息を吐き出しながら、交わるためには邪魔にしかならないドレスを剥ぎ取る為に、背中のファスナーを一気に引き下ろしていく。
それと同時、もどかしげにドレスと同じ素材で出来ている伸縮の効かない細い袖から両腕を引き抜きながら、忙しなく脱いでいくシドの簡易的ストリップを見届けると、後に残るのは、腰周りのガーターベルトとガータータイツ。
倒錯的なその姿に魅入られたかのように、ジークフリートはシド自身を戒めているその手を一度緩めて、待ちわびた絶頂を与えてやり、嬌声をあげてぐったりとしたシドの身体をそのまま固いベッドの上に押し倒すと、同じ様に服を脱ぎ捨ててガータータイツの両足を押し広げて持ち上げると、その間に身体を割り込ませて一気に貫き始めていく。
「あっ、あ・・あぁーっ・・!」
安っぽい宿に相応しく、灯りなどは存在しない薄暗い部屋を照らすのは、申し訳程度についている窓から入り込む外の毒々しい街灯。
腰を動かされるたび、内部にジークフリートを誘う度に、夢から冷めた様な奇妙な現実感が一気に戻ってくる。
「あっ、はっ、ぁ、ぅ・・くぅ、んっ!」
服を着る前の自分達は、関係性はともかく、一人の男と女として見られていたのに、たかが服を脱いだだけで、自分と彼の関係を取り戻す。
それがどこか悔しくて、やるせない気持ちを煽るように、持ち上げられている両脚に纏わり付くガータータイツが目に入り、やたら心が掻き毟られる。
「っ、シ、ド・・?!」
震えながら差し伸ばされる両手が、自主的に後頭部に宛がわれたかと思うと、そのままぐっと引っ張られジークフリートの唇は意図せずにシドの唇を奪う形になる。
「ん、ぐ・・く・・!」
くちゅ、ぴちゅ・・と舌の交わる音が、肌を打ちつける音と粘膜と自身が擦れる音に交じりながら聞こえて来る。
何時もならば唇だけは綺麗なままでいたいという、シドの唯一の操を律儀にも守ってきたのだが、それをまさか彼の手によって壊されるとは思いもしなかった。
時折齎される奉仕によって舌使いの良し悪しはは知っていたが、舌を使ったキスとなると始めてであるジークフリートは、貪るように侵入してくるシドの舌に押されながらも、負けじとぬめるそれを自分のそれに絡めていく。
蕩かされていく、想い。
絡めあうたびに、霞んでいく互いに想う唯一人の面影。
「っ、とまってる・・・っ!」
「っ、ぇ・・あ・・・」
良くも悪くも堅実なジークフリートは、突如唇を離したシドに指摘されて、初めてのキスで夢中になりつつあり、律動が止まっている事に気が付いて、一気にバツの悪そうな顔になる。
その瞬間に何時もの彼ならば興ざめしたように顔をしかめるのだが、しかしシドは、ゆっくりとジークフリートの首から両手を外し、そして内部に入っている彼自身を軸にしながら、器用にもうつ伏せに体勢をひっくり返す。
「んっ、あ・・っああっ・・いい、よ・・っいっきに・・・っ」
一時の戯れ遊びに飽きたような、気紛れな彼に戻ったことに密かに安堵の息を知れずに吐きながら、ジークフリートは後背位となって、先端が擦れる角度が変わり、小刻みに悶えながらつづけて・・と訴える彼の細腰を掴みあげると、手加減なしに行為を再開する。
「あっ、あああっ、あんっ、あぅ・・あっんっ」
行き場の無くなった両手が、ベッドボードのパイプに絡みつくが、それすらもままならずに崩れ落ちていき、目の前に広がるシーツの海ですら安易に掴めず、溺れ始めていく。
ほんの少しだけ心地良いと思ったキスを強制的に中断された苛立ちを知らずぶつけるかのように、腰を動かしながらジークフリートの両手は、シドの薄く肉付いた胸に回される。
「ひっ、ぅあ・ああっ」
「こちらも・・鮮やかに咲いているご様子で・・・」
「ば、か・・も・・、やめ・・っ、ああ!」
ぎりっと抓るように突起を摘まれた次には、優しく指先で撫でられながら指腹で押しつぶされ、そして突起を挟まれたまま胸板を揉みしだかれる。
「やっ、あ、あ、あ・・あああっ」
「本当に・・お前が・・・――ならば・・・っ!」
強く感じる性感帯をまさぐられ、そして片手は自身に触れられながら扱かれ、内部はそれらの刺激によって窄まるごとに、ジークフリートの自身も膨張しそのまま熱い白濁が注ぎ込まれる中、シドは唇の端から透明な糸を滴らせながら、何度目かのオルガズムを迎えさせられていく。
「・・・・。」
行きは良くても帰りは酷く気が滅入るのを隠せずに、緩慢とした動きで一足早くシャワーを浴びたシドが、情事後の一服も酒も酌交わす事無く、入れ替わりでジークフリートが湯を使っている間に例の衣服を身につけていく。
別に悪ふざけでも何でもなかったのだが、いざ吐き出すものを全て吐き出すと、幾ら男女兼用でとは言え、あからさまな形の衣服にむしろ滑稽さを覚えて自嘲が浮かび上がる。
それでも、衣服を調達するにももう普通のマーケット街は終わっているし、明日も普通に勤務がある。
例え二人が非番であっても一緒に朝帰りする所を見られて、互いの想い人にいらぬ誤解を与えたくは無いので、外泊は御免被りたいので結局この服のまま帰るしかない。
愛し合う仲ではない、何度もそう確認しあって、お互い慰めにもならない苛立ちをぶつけるための暴力的な行為。
今日だってたかが服装を変えただけで、中身は何も変わりはしない・・と思うのに。
「なんで・・・。」
思わず唇に指を宛がい、そして最後にジークフリートが嘯いた言葉を懸命に思い出そうとするが、それを認めてしまうことひどく怖くて、また頭を振ってその考えを追い出した。
「今日はどうかしていただけだ・・・。」
彼がまだ上がって来ない事を確認して、自分を納得させるように言い聞かせる。
欲求不満の解消とはいえ、ここまでめかしこんで来たのも、女扱いされる事で少しだけ近づきたくて口付けを交わしたのも。
・・・・本当に女であれば、今よりも違う関係を築けたのかもしれないと言う期待を正面から抱かれている時に一瞬思ってしまい、体勢を入れ替えた事も・・・・全部。
ふと湯の音が止まり、一瞬の静寂が訪れる。
ジークフリートが上がって来て、着替えを終えて、別の想い人が映るスカイブルーの瞳がまた曇ったレンズ越しにすら自分が映ることが無いまま、隣り合って帰路に着く頃には。
このわけの判らない涙も止まってくれる事だろう・・・・。
重い黒衣のドレスを纏いながらも、後から溢れる涙を一気に枯れつくすように、必死に唇を噛み締めながらシドは、帽子を更に深く被りながら、ジークフリートがこのままシャワールームから出てこないことをただひたすらに祈っていた。
BGM:きらら(神無布教より)/新興宗教楽団NoGod
戻ります。
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