呪恋が成就する甘美な悪夢の花園にて
黝(あおぐろ)く濁った空の下に広がるは、青く妖しい釣鐘の花達が群れなす園だった。生温かい風がそこに吹く度に花弁がざぁ、と空に舞う。まるでここから解放してくれと嘆く死者の魂の抵抗のように。
この花園以外に生命に満ち溢れたものは何もない。植物も、鳥も、空気さえも淀んだ箱庭。だが、そんな禍々しいほどの美しい花園におあつらえ向きのように聳え立つ、枯れた一本の樹から伸ばされた枝の下にて動く影が二つあった。
永い時の中、朽ちることも新たに実りをもたらすことも出来ず、いい加減に死の安らぎを与えてほしいと願わう罪人のように伸ばされた枝からは、さながら絞首刑を執行するかのごとく薄紫の柔らかな布が垂れ下がっており、そこに一人の咎人が繋がれていた。
「んっ、…!んぅぅ…!!」
逆位置の吊し人の如く両手首を拘束されている青年は、ペールグリーンの髪を乱しながら身悶えている。
「くぁ、ああっあ」
元は上等な生地で作られた軽やかな夜着であった青年の衣服は、見るも無残に切り裂かれていた。まるで獣の鋭い爪で無数に引き裂かれたかのように。
「あっ、あああっ」
しかし青年の雪のように艶麗な肌には一筋の傷はついておらず、それどころか辛うじて胸にまとわりついている生地に隠された両方の尖りは既に何者かに散々に舐られ弄られたのか、ツンと緋に染まり濡れた生地を押し上げている。
「や、ぁ、あ、あぁ…!」
はあはあと荒い息を吐く青年の背後にその何者の姿はあった。胸だけではなく下肢も散々嬲られたのか彼の中心部は、こちらもどうやら無事だったらしい衣服の裾を持ち上げていて、その先端からはとめどなく涙を溢れさせている。
「あぁ、あ、やめ…っ」
そんな吊るし人を嘲笑うかのように、雪のように純白で躯よりも冷たい籠手に覆われた腕が花園に沈んでいた青年の片脚を、秘めやかに罵倒するようにゆっくりと持ち上げた。
「ひぃ、い、あ…っ、ああっ!」
その脚を持ち上げたまま背後の鎧を纏う者はもう片方の手を伸ばし、布地の下で蜜を零し滲んでいる裾ごと青年の欲望の象徴を握りしめ思いきり扱き立てた。
「ああっ、あ、あっん、あああ…!」
荒々しく根元から茎にかけて扱き上げられながら、鋭く伸びた爪…恐らくはこれで夜着を引き裂いたのであろう…で布越しに先端を抉られ、予期せぬ刺激に大きく青年の身体は跳ねあがった。吐精感を一時押し込められ、そしてまた再開される手淫に、辛うじて身体を支えている脚は知らずがくがくと震えだす。
「あぅ…、ん…っ」
不意に、背後の執行人の手が根元から外され、花園に埋まっていた青年のもう片方の足を持ち上げるため膝裏にかかった。
「や、やめ…っ」
その途端、生々しい臭いを散らすように吹き付けた風がまた新たに釣鐘状の青き花弁を散らしていく。

大きく広げられた青年の両脚。
その奥まった付け根に咲くは、誰も、見ることも知ることもなかった秘められた想い。

そんな、吊るし人の太ももに咲いている”それ”を認めた執行人は背後で軽薄な笑みを浮かべながら、夜着を引き裂いたのと同じ鋭さを持った爪で思いきりその箇所に爪を立てた。
「あっ、あ、あああああっ…!」
散々に昂ぶらされていた青年の身体は、思いもよらない場所へ与えられた鋭い痛みすら快楽と捉えて大きく跳ね、絶頂へと上り詰めていく。
「は、ぁ、ん、ぁあ…」
欲望を吐き出しても尚硬さの残る彼のソレは、快楽の名残を惜しむようにトロトロと蜜を噴き零し、裏側と太ももを汚しながら、数滴糸を引いて釣鐘の園へと滴っていった。

『──……』
この時、吊し人の彼は背後の執行人の熱い吐息を初めて耳元で感じた。そして何言かを呟くのも。
「ぇ…?な、にを…」
だけど彼には何も聞こえない。与えられるのは快楽と痛みであって言葉などかけられる資格などないのは判っているのに…。

判って、いる…?

頭をよぎった己の考えに青年ははたと気が付く。
(私は彼を…、彼に…)
ああ、何だろう。何か、大切なことを忘れて…

「ひ、あ゛、が…ぁ…!?」
余計な詮索をする余裕などあるのかと言わんばかりに、虚ろとなる夕日の色の瞳に死者の群れを葬列するかのような花の群れを映していた青年の後孔に、何の前触れもなく灼熱の剛直が突き刺された。
「い゛、あ、ぁ、ぐ、あ゛、あ゛ぁ…っ!」
排泄以外に用を為さないその秘所を無理やりに犯される激痛に、吊し人の瞳は大きく見開かれ、途切れた喘ぎを放っている唇の端からは唾液が静かに顎を伝って地面に落ちる。
「ひぃ、あっ、あ、がっ、あああああ!」
完全に裂けてしまった後孔は血の滑りによって執行人の欲望をまざまざと受け入れて行き、どくどくと生々しいまでに脈打つ楔が奥へ奥へと誘っていく。

「があ゛、いあ゛…! ××! やめ゛てぇ…!」

──!?
今、自分は、誰を──…!?

両脚をさらに高く持ち上げられ、玩具のようにがくがく身体を揺さぶられながら埋没した肉の兇器によって中を抉られていくのを、青年はただ茫然としたまま受け止めるだけだった。
そんな彼の反応をつまらなく感じたのか、背後の執行人は青年の捉えていた片脚を乱暴に下ろし、萎えかけている自身に手を回して荒々しく扱き立てる。
「ひぃ、…んあっ、ああああっ!」
不意打ちの刺激に強張っていた身体が緩んだ隙を見計らうように、一気に執行人の雄は青年の最奥部をめがけて侵入し、そこにある敏感な部分を重点的に攻め立てはじめた。
「あ゛ぁうっ! いあっ、あ゛!そこはやだ、やめ、あっ、ああ゛っ! ああああ!」
ガクガクと、花園に飲み込まれた軸足が揺れて、感じる場所を攻め立てられて知らず腰も揺れる。もっともっとその内なる欲望を思い知らせるためか、執行人は自身を飲み込ませながら青年の脚を更に開かせようと、グッと持ち上げにかかった。
「あっ…!?」
微妙に突き上げられる角度が変わり、ビクッと身体を震わせた青年の視界の端に不意に映った鮮やかな青。それはこの花園のくすんだ違う色彩であり、何より己の太ももに彫り付けられた物だった。

──…そうだ、これは…。

「あっ、ああ゛っ! ああ゛あ゛あ! もう、も、だめ、ぇ…っ」
頭の中でちかちかと点滅する記憶を掘り起こす暇もなく、絶頂を迎え入れるようにと執行人の動きはだんだんと激しさを増していく。
「ぃく…あ゛ぁ、いく…ぅ、ぁ、あああ゛ああ゛あーーー!」
味わった激痛以上の快楽によって身も心も浸食されている青年は、聡明な顔をだらしなく歪ませてのけ反りながら、底の見えない欲情の沼へと沈められていく。
息をするのも忘れる位の絶頂の余韻に浸る間もなく再び再開される律動に喘ぎ啼く青年の耳元に、先ほどとは違う冷たい吐息がかかる。
「ひ…っ!?」
一瞬身をすくませた青年の耳に、初めて自分を凌辱している者の声が届いた。


『決してお前を赦さない』
『お前はここで朽ちて逝け』
『一生かかって俺に償え』


呪詛めいた言葉が脳に届くその前に、再び沈められていく快楽に、青年は身体をのけ反らせながら甲高く啼き続けた。



アスガルドの中枢であるワルハラ宮。その地下にある礼拝堂にポツンと置かれた一つの蓋の空いた棺に寄り添う影が一つあった。
ペールグリーンの髪を無造作に立たせた青年-バド-が見下ろしている夕陽色の瞳に映るのは、棺の中で眠る美しい一人の青年であり、彼のたった一人の双子の弟のシドであった。
「シド…」
バンテージに巻かれた腕を伸ばし、シドの冷たい頬に触れるバドは悲痛に顔を歪ませながら頬から手を離し、やはり氷のように冷たくなっている半身の手をそっと持ち上げる。
「皆…先の戦いで散っていった神闘士達は再び戻って来たというのに、何故お前は目覚めない…?」
そのまま口づけた後、バドは棺の中へ静かに身体を傾けていく。白い装束を身に付けて眠る弟の胸に耳を当てると微かに聞こえてくる心音に、今日も青年は安堵し、そして目覚めない事実に絶望する。

「早く…、戻って来い」
──…そして、俺に償わせてほしい。

何の罪もないお前を憎むことでしかやり過ごすことのできなかった己の弱さを。
叶わないと思っていた再びの生を、全てをお前に捧げる。
だからどうか共に歩くことを許してほしい。

ゆっくりと瞳を閉じながら、兄は今日もシドの頼りない心音を子守歌にして眠りに落ちる。そんな双子を嘲笑うかのように礼拝堂に入り込んだ隙間風が散らしたのは、青い、棺に敷き詰められている糸沙参の花弁だった。


彼は知らない。
シドは未だ目覚めることのない死の世界の花園で、過去の己の亡霊に憑りつかれていることを。
長い間巣食いつづけた兄からの憎しみは予想以上に弟の心の深い部分に根付き、彼への贖罪のためその場所に留まり続けることを選んでしまったことを。
そして、棺の中に眠るシドの死に装束に包まれた内腿には、兄への罪悪感の他に拗らせてしまった想いから自ら彫り付けた、糸沙参の刺青が密かに刻まれているということを。


──……冷たい糸沙参の花園は、終わらない私の罪の処刑場。
そこに私は誓います。

例え私の罪が赦されようとも、私はあなたに服従し、その隷(しもべ)となることを──…。


BGM:地獄の季節(ALI PROJECT)
13年前に書いた、バドシドクラスタさんから貰ったイラストを元にして書いた小説をリメイクした物。イラストを見た瞬間とてつもなくエロくて、一気に頭が滾ったことを思いだしながら書いてました\(^0^)/
流石に載せられないのでとりあえずざっと説明だけすると、

糸沙参の花園で拘束されて、背後から神闘衣着用の兄に襲われてるシド
糸沙参の花言葉(要ググる先生)

こんなイラストを貰ってはいそうですかと引き下がれるほどの自重作用など、この頃から無きに等しいものだったんですね(^ω^)
ここを見ているかどうかは判りませんが、その節は本当にありがとうございました<(__)>
(2018/04/08)

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