欠損恋愛
姿形は同じなはずなのに、こんなにも欲情が止まらない。

「あっ…、は、ぁ、んんっ!」
息を荒げて弟を穿つ傍らにそんなことをバドは考えた。
あえかな嬌声を上げ淫らに身をよじらせても尚、それでも快楽に溺れまいとギリギリの淵で己を律する半身の姿は、こうなってから特に己とは違うと改めて思わされる。
「っ、にぃ、さん…っ!あ、ああっ…!」
掠れた声で自分を呼ばれて、どくり、と弟の内部に入り込んでいる自身が昂ぶるのが判る。
こんなにも弟が欲しい、この熱いくらいの体温を今度こそ命尽きるまでずっと感じていたいと、シーツに縫い止めている手すらも深く深く結ばれたいと希う感情から、バドはシドの滑らかな指先に、己のささくれ立ち荒れた指先を絡めていく。
「ああぁ、いぃ…っ!も、ぅ…あっ、あああ…!」
己の下で一際甲高い声が絶頂を伝えてきたのと同時、こちらも共に上り詰めるようにと内部が促してくるかのように蠕動する弟の胎内に、矢も盾もたまらずにバドはその欲望を吐き散らしていった。

乱れた息を整える傍らで、茫洋とした夕陽色の瞳のままシドはそっとバドに手を伸ばす。影武者として取って代わろうとしていた頃は全く同じ姿だが、身も心も和解した今は、十年前に邂逅したころの姿を意識的にするようになった下ろされている双子の兄の自分より少し硬質な髪に指を絡ませながら、唇を開いた。
「あなたと私は欠け落ちた欠片に恋をしているのやもしれない」
不意に響くその言葉にバドは特に驚かない。何故なら自分も先ほどまで同じ事を考えていたからだ。
「姿形は同じでも、生きてきた道は余りにも違いすぎるからな」
くしゃりとバドもまた自分よりも幾分柔らかなペールグリーンの髪に触れながら言う。先回りして言葉を紡げば、心の弱い部分を抉られたかのようにシドの顔が哀しげに歪むのが見て取れた。
「事実は事実だ。気に病むことはない」
悲愴ながらも今し方終えたばかりの情事の燠火を再燃させるようなその表情を目の当たりにしたバドは、自制の意味も込めて弟のその顔を止めさせるためにそう言った。
どうしようもないくらいに惹かれる。自分と同じ姿なのにも関わらず。
その本質的な理由が、同じ血を分けた兄弟でありながら全く違う生を歩んできたことで培われた性質に惹かれているならば酷く納得できる。周りから見れば姿形は似ていて当然だ。だが中身は全く違う。双子だからこそ互いの個を強く意識しそこに惹かれて止まないのだとバドは割り切っている。
だからこそそれをうまく割りきれずに悶々と苦しむシドを見ていじらしいと思うのと同時、それどころか、絶えず自分との関係に頭を悩ませている姿は、どうしようもないほどほの暗い愉悦を覚える。

俺という存在を欠け落として生きてきた、そのツケを弟は今支払っているのだ。
お前という存在を欠け落とせずに、悶え、憎んできたかつての俺と同じように。

憎んでなどいない、それでも切り離すことなどできない歪んだ恋情。
それでも弟を愛してることを示すため、もう二度と表に出すまいと誓ったこの薄暗い感情は、半身と暮らしていく上で幾度となく掻き立てられるだろうことを承知の上で、バドは欠け落とせない欠片の象徴に口付けを落としていったのだった。

以前にこのツイートを見てラダミーで書いたのですが、同時進行でバドシドも書いていたことをふと思い出し、アレンジしてみました。
当家のバドシドは確かにお互いを想い合っているけれど、真の意味で対等ではないと思ってます。シドは憎まれていた長い間の分まで罪悪感に駆られることになるし、バドもまだシドに対して蟠りを持っていることを自覚して、それが居たたまれなく感じる時がある。そんな双子が好きです(歪みすぎ)
(2018/04/24)

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