~No pains No gains~



~No pains No gains~





重苦しい建物の中の不気味に静まり返った薄暗い廊下に、二つの靴音が鳴り響く。
まるで闇の中の回廊を思わせるような、長い廊下をバドは歩いていた。
先に行くのはこの国の軍服を着た若者。
何を話すでもなく、ただ重苦しい沈黙だけが辺りを包んでいた。
その中で、バドは双子の弟-シド-の事を思い浮かべていた。



平和だった祖国が戦乱に巻き込まれたのはもうずい分昔の事。
一定の年齢に達した男達は、国を守る為の“駒”として否応無く軍隊に入れられ、人を殺す事を叩き込まれて敵地へと送り込まれていく。

“敵を人間と思うな、祖国に仇なす者は皆殺しだ。”

彼と弟も例外ではなく、そう教え込まれ戦場に放り込まれた。
自分はともかくとして、シドは幼い頃から心優しく、人どころか虫一匹すら殺せない性格だった。
そんな彼が何を基準として“正義”と謳うのか、その線引きもうやむやな戦場に放り出され、同じ人間をその手で殺していく姿・・・。


敵地に赴き、初めて人を殺した時の弟の様子を、バドは今でもはっきり覚えている。
野営地で食事を摂る時間になっても現れず、バドは彼の分も持ち捜しに行った。
陣を取っている場所から歩く事数分、祖国とは違い、緑があふれるこの国の生い茂る森の中の大きな樹木の下に力が抜けてへたり込んでいるシドの姿を見つけた。
気配を隠そうともせずに近づいて行っても弟は一向に気づかなかった。
いや、気づけなかったのだ。
軍人としてはいささか不似合いな、上品な雰囲気を醸し出している端正な顔立ち。
その顔を青ざめさせ、両手で自らを抱きこむようにうずくまり、カタカタカタ・・・と身体を小刻みに震わしていた。
その痛々しい様にバドは駆け寄り、思わずその身体を抱きしめていた。
『あ・・・兄さん?』
突如現れた温もりに、初めて兄がそばに来ていたのだと悟った彼は、その顔に無理矢理笑みを作り兄に向ける。
そんな弟の姿に、バドは更に胸が痛んだ。
可愛い弟。
ずっと一緒に育ってきた、自分と同じ姿の半身。
そんなシドに対し、バドは思春期を迎えた頃からか、持ってはいけない感情を抱いている事を自覚していた。
勿論この気持ちはシドに伝える事など出来るはずがないのも判っていた。
だから幸いにも同じ戦地に配属された時、バドはせめて兄としてそばにいて守ってやりたいと誓っていた。
『ありがとう・・・もう、大丈夫ですから・・・。』
そう言って、す・・・っと静かに兄の胸を手で押しやりその腕から抜け出すと、ようやくその顔に落ち着きを取り戻し、はにかむように微笑んだ。
その顔を見ながら、バドはそうか・・・と呟き、自分と同じ淡く緑がかった銀色の髪をサラサラと撫でてやる。

何時どうなるかわからないこの戦場で、弟を残しては逝けない。
かといって弟が先に自分を置いて逝く事も耐えられない・・・。
その狭間でバドは一人苦悶していた。


しかし、二人が戦場で死ぬ前に戦いは終了した。祖国が完全降伏し、祖国の為に戦った彼等を見限り、戦犯として敵国に引き渡す事で。


捕虜収容所に連れて行かれ、仲間と共に牢に連行されながら、バドはシドの姿だけを追っていた。
シドもまた必死な表情で、バドの姿を見つめていたが、無常にも彼らは引き離され、別々の牢屋に入れられる事となった。
遣る瀬無さと怒り、そして絶望・・・、牢の中で仲間達がそれに満ちた声を上げる中、バドはシドのことだけを思っていた。
戦場は確かに死と隣り合わせだった。
でもそばにいることが出来たなら、その危険から弟を守る事も、その温もりを感じる事もできたのだ。
しかしこうして引き離されて、顔も姿も、ましてや声すら聞こえない状況の中、一体どうして彼を守れると言うのだろうか・・・?

だが、ある夜、十数人押し込まれた牢の中の角まった奥に座っていたバドは、石壁に身体を持たせかけていた。
『シド・・・。』
彼の名をそれとなく呼ぶと、隣の牢からか、かすかに声が聞こえてくる。
同じ造りの牢が隣にも設けられているのか・・・と、ぼんやりとした意識の中で思い、そのまま眠ってしまおうかと思ったその時。
『兄さん・・・?』
かすかにだが、聞き違えるはずの無い声が耳にはっきりと届いた。
一気に目が覚め、もう一度弟の名を呼んでやると、やはりか細い声で自分の名を呼ぶシドの声が返ってきた。
『そこに居るのか・・?シド・・・。』
しかし声だけでは、その存在を確かめるにはあまりにも不確定すぎた。
何とかしてもっと、はっきりした方法で弟とやり取りできる手立ては無いかと思慮を張り巡らせる。
そして・・・。
コンコン・・・
「シド・・・判るか?」
軽く壁を叩きながら小さく彼の名を呼んでやる。
すると・・・。
コンコンコン・・・
「ハイ、判ります・・・。兄さん・・・。」
数秒もせずに返ってきた声と音。


仲間が一人一人連れ出され、そして二度と戻ってくる事のない中、互いの安否を知らせる唯一の手段が、二人のほんの心休まる一時だった。
だが、いずれはこうして自分も連れ出され、弟を置いていく、また逆に置いていかれる時が来るだろう・・・。
その時が来たのならば、せめて潔く軍人として死のう・・・。
シドも判ってくれるだろう・・・。

そして彼が最後の一人になり、ついにその時が訪れたのだった。



長く歩かされたその先に、処刑場としては不釣合いな白い扉が見えてきた。
(許せ・・・シド。)
昨夜のやり取りからして、多分自分がシドよりも先に連れ出されたのであろう。
看守の手によって、死への扉が開かれていくのを目の当たりにしたバドは、取り残される事となったシドへ想いを馳せる。

しかし。

目の前の光景にバドは自分の目を疑った。
四角形の様なスペースが取られた部屋は、金網が張られており、その向こうにいる大勢のこの国の軍隊の人間。
立ち尽くすバドを無理にその部屋に押し込むと、その扉は重い音をたてて閉じられた。
ガヤガヤと騒ぎ立てる外野の声、それを聞かないようにしてバドはどうにか気持ちを落ち着かせ、状況を飲み込もうとする。
こうして公開処刑されるのか?いや、それにしてはこの狭いスペース内には処刑道具の類は一切見当たらない。
考えを廻らせていると、再びあの重い扉が開かれて、その先に視線を移した時、バドは今度こそ自分の目を疑った。
自分と同じく、看守に付き添われこの部屋に入って来、固まったように動けずにいるのは紛れも無い自分の弟だった。
「シ・・・ド・・・?」
シドの到着により、金網の向こうにいる外野の声は一層高まり、下品な笑い声や口笛がそこかしこから聞こえてくる。
絞り出すようなバドの声は、それらにかき消されたため、届いたかどうかは定かではないが、シドはゆっくりと視線をこちらに移し、そして大きく瞳を見開いた。
慌てて自分の下に駆け寄ろうとするシドに、看守は後ろ手を捕らえそれを阻止し、バドもまた同じく付き添われていた看守にその手を戒められる事となった。
「く・・・っそ!おい!一体何のつもりだ!?」
まるで理解出来ない状況に、バドは後ろにいる看守に食って掛かる。
まさかここで二人同時に見せしめとして殺すというのか?
すると看守のうちの一人が、薄気味の悪い笑みを顔に貼り付け、こう言ってのけた。
「アスガルドの捕虜達もお前等が最後だ・・・。俺等も、毎日毎日血生臭い仕事でストレスが溜まっていてねぇ・・・。
一つくらい娯楽があっても罰は当たらないと思ってな・・・。」
と、その時不意に戒めを解かれ、バドの身体は部屋の中央に押しやられる。
するとシドのほうも同様に、その身体を解放されたため、自然と二人は互いの体温を感じる事となる。
長い間、離れていた互いの温もりを感じようと、先に腕を伸ばし目の前の身体を抱きよせたのはバドの方だった。
その感覚にシドもまた、僅かに高いバドの顔を潤む瞳で見上げてくる。
そんな二人の様子を、唇の端を持ち上げて笑う二人の看守と、金網の向こうの人間達。
くくく・・・と喉の奥で笑いながら、その看守はこれ以上無いほどおぞましい要求を突きつけてきた。
「この場でお前等二人、愛し合って欲しいだけだ。」
「な・・・っ!?」
その一言に二人は言葉を失い、その場に凍りついた。
「稀に見る美形双子のショータイム・・・。これ以上ない余興だよ・・・。」
その言葉に耐え難いほどの怒りが、バドの心を突き上げていく。
だが、それよりも早く、シドはバドの身体から身を離し、その看守に掴みかかっていた。
「シド!」
しかし、そんな制止の言葉も、耳障りなオーディエンスの声にかき消され、シドの拳がその顔面に殴打を見舞おうとしたその時。
「下手に抵抗しない方が身のためだぞ・・・?」
シドの動きが止まった。見ると彼の額には銃口が突きつけられており、バドは弾かれたように駆け寄り、力が抜け僅かに後ろに倒れこもうとしていたシドの身体を支えてやる。
「俺達だけじゃない。ここにいる奴等は全員武器所持済みだ。下手に抵抗すればこの場で消す。だが、俺等を満足させられれば生かしておいてやってもいいがな・・・。」
どの道お前等に選択肢は無い・・・とせせら笑う看守の言葉に、シドは身を震わせている。
しかしそんなシドとは裏腹に、バドは心を決めた。

断じて死に怖気づいたからではない。そんなものはとうの昔に投げ捨てている。
ずっと触れたかった弟。
このまま生きていれば、想いを打ち明ける事も出来ずに黙って死んでいくだけ。
ならば・・・。
今まで押さえつけてきた気持ちの引き金を引かれたバドは、シドの身体を僅かに抱き寄せた。
「判った・・・。」
その言葉にシドは驚きに満ちた表情で後ろを振り向いた。
そんな彼の顎を捕らえ、ずっと触れたかった唇にキスを落としていく。
下卑た笑いと歓声が沸きあがる中、看守達も満足したように、金網の両脇にある扉から、自らも観客になる為外野へと降りていった。



「ん・・・っ」
寸分違わぬはずなのに、自分よりも温かくて柔らかく感じる唇をゆっくりと舌先でこじ開けていくと、シドはギュ・・・っとバドの軍服を掴んでその口付けを受け入れている。
その様子に、内心軽蔑されて抵抗されると思っていたバドは驚きつつも、押えが効かなくなっている欲望をどうにか押さえつけながら、シドの舌を捕らえ絡ませていく。
「ふ・・・ぅんん・・・っ。」
息苦しそうなくぐもった声がシドの口から漏れ、その顎には僅かにこぼれだしている唾液が伝っている。
閉じていた瞳を開けると、目の前の弟は潤んだ瞳でどこか誘うような眼差しで自分を見つめていた。
その様にますます欲情を煽られたバドは、口付けはそのままでシドの軍服に手をかけ、白すぎるその肌を露にしていく。
男にしてはそそり過ぎるほど透けるほど白い肌。
必死に欲情を抑えながら、唇を離したバドはシドの耳元へ顔を移動させると、その耳を啄ばむ・・・ふりをしてそっと囁いた。
『嫌か・・・?』
もし本気でシドが嫌であったなら、懐に隠し持っている自害用の短刀で、奴等に抵抗することも不可能ではない。
それによって命を落とす事になっても、シドと共に逝く事が出来るのなら本望だ。
相変わらず煩く喚きたてている奴等の侮蔑の眼差しや下品な声は、潔癖なシドには耐え切れない屈辱だろう。

止められるのなら今しかない。

だが、シドは弱々しくだがはっきりと頭を横に振り、吐息交じりの声で小さく・・・、だが、はっきりと言い切った。
『大丈夫・・・です・・・。だから・・・。』
続けて・・・と、唇だけで告げたシドの言葉に、バドの保っていた理性は今度こそ崩壊する。
そのまま耳たぶを啄ばみ始めると腕の中の身体はピクン・・・と跳ね上がる。
切なげに漏れる吐息にあてられながら、耳から首筋、鎖骨へと唇を落として行き、欲情をそそるその白い肌に、朱い所有の花弁を散らしていく。
「んんっ・・・!」
下唇を噛み締め、声を必死に押し殺しているシドの頬は、屈辱のそれだけではない紅色に染まり始め、またその身体も同様だった。
バドはゆっくりと床に腰を下ろし、その膝の上にシドの身体を乗せる形をとった。
そして向かい合う形で、バドはシドの旨に唇を滑らせて行き、白い素肌に映える鮮やかに色づいている突起を口に含んだ。
「っ・・ぁ・・・っ!」
舌先で転がしては軽く押しつぶし、または甘噛みする。
初めて体験するであろう、痺れるような快楽を感じているシドは、切なげに眉をひそめて震えながらバドの首に手を回ししがみ付いてきた。
その手が回されたと同時に、バドの手もその幾分か華奢な身体を支えるように抱き込んだ。
「もっと声出せよ!!」
だが、不特定多数の・・・しかも敵方の人間の舐めるような視線と下卑た歓声が、シドを現実へと引きずり戻すのか、瞳に溜まっていた水分が涙となり頬を伝っていく。
そんなシドを見上げたバドは、はだけさせたままだった彼の軍服を全て脱がし、冷たく硬い床へ敷き、その上に身体を横たえてやった。
『シド・・・大丈夫だ・・・。俺だけを見ていろ・・・。』
優しく押し倒した身体の上に覆いかぶさり、シドの視線の先に自分の頭を持ってきて、唇だけで言葉を紡ぐ。
それを読んだシドは、潤む瞳を静かに閉じ、かすかに微笑んでこくんと頷いた。
それを見届けたバドは、先ほどの愛撫で起ち上がり始めたシド自身に手を伸ばし、布越しからそっと触れてやる。
「あ・・・っ」
今度は素直に外に放たれた声を耳にした外野達は、ますます二人を嘲り笑ったが、それに構わずバドはシドのベルトに手をかけ布を取り払い、今度は直に触れてやる。
「あぁ・・・っん・・・!」
自身を上下に擦り上げていくと、白い身体はますます色づきを強め、ビクビクと跳ね上がる。
先端を指で弄ってやると、トロトロと先走る液が零れ出していき、見下ろしているその顔には明らかに快楽にかき乱され始めていた。
そんなシドを、もっと乱れさせたい、感じさせてやりたいと言う情欲に突き動かされたバドは、シド自身に刺激を送り込む手はそのままで、少しだけ脚を広げさせ、その中心部に 頭をずらし、完全に起ち上がったソレを口に含んだ。
「やぁあ・・・っ!」
不意に、視界から姿を消した兄に不審を抱き、僅かに上半身を起こした状態のシドが悲鳴をあげて、その愛撫から逃れようと身を捩るが、バドの手がその下肢を押さえ込み、そのまま 刺激は送られ続ける。
「はぁ・・・っあ・・・ん、あぁ・・・っ」
先端を唇で吸い上げながら、舌先で刺激を加え、根元を手で強く扱いていくと、しなだれた声をあげながら、身体を仰け反らせていく。
「んっ・・・あ・・っあぁあああ・・・っ!」
段々と口の中で膨張していくソレを、そのまま責め立ててやると一際高い声をあげて大きく身体を震わせながら、シドは初めての絶頂に達していた。
相変わらず卑しい言葉で二人をなじる外野達。だが、すでに二人の耳にはそんなものは聞こえてなどいなかった。

口の中に出された弟の欲望を全て飲み下すと、そのまま閉ざされた最後の秘所に唇を押し当てて唾液でその周辺を湿らせていく。
「ぅあ・・・っ!」
突然訪れた、予想もしていなかった部位への侵入により、快楽の余韻で力の抜けていたシドの身体は再び覚醒し始める。
「んぅぅ・・・っ」
生暖かく柔らかい異物と、長い指が押し入ってくる感覚に一瞬身を固くしたが、抵抗はしなかった。
途中まで挿入していた舌を引き抜き、指はそのままで柔らかい内壁を探っていくと、ある一定の場所を擦りあげる。
「あっ・・・」
ヒクンと身体を震わせ、苦痛に呻いていたシドの様子が変わる。
「は・・ぁあ・・ん・・」
そこを焦らすことなく責め立てると、甘い声をあげながら無意識の内に腰を揺らしだすシドに、バドは指を一本・・・二本・・・三本と銜えこませ、道を押し広げていくと、不意にシドの手が伸ばされ、バドの頬に添えられる。
「兄・・・さん・・・。来て・・・。」
その甘く掠れた声に、すでに限界を感じ始めていたバドの下半身がドクンと重くなる。
「ん・・・。」
それでも逸る気持ちを抑えながら、バドはシドの中から指を引き抜き、己自身を取り出すと、シドも自ずと脚を大きく広げた。
外野達はまだ何かを喚いているが、もうそんなのはどうでも良かった。
先ほどまで押し広げていた秘所に先端を宛がうと、シドもまたバドの背に手を回し、ギュっとしがみ付いてきた。
「力・・・抜け・・。」
耳元で囁きかけ、こくんと頷いたのを確認したように、バドはシドの中に押し入っていった。
「―――ッッ!!」
初めて訪れる激痛にシドは言葉にならない声をあげながら、更にきつくバドにしがみ付いてくる。
「シド・・・。」
何度目かの涙を瞳に溜め、それでも自分を見つめてくるシドに改めて愛おしさを感じながら、痛みを紛らわす為に、薄く開かれ、荒い呼吸を繰り返す 唇に幾度目のキスを落とす。
全て収まりきり、少し呼吸が落ち着いたシドは、バドの唇から離れ、真っ直ぐに彼の瞳を見つめ、そして今まで秘めてきた想いを解き放った。
「ずっと・・・好きでした・・・。貴方が・・・。」
その言葉に、バドは一瞬大きく目を見開き、しかしすぐに優しい微笑みを浮かべて、いつかのようにその頭を軽く撫でながら、自らもまた本心を解放した。
「俺も・・・お前を愛している・・・シド・・・。」
ようやく全て結ばれた二人は、満ち足りた思いで見つめ合い再び口付けを交わした。

口付けを交わしながら、バドはかつての苦悶の答えをここでようやく見つけ出す事が出来た。
失う恐怖と、先立つ恐怖・・・。その答えを・・・。
今なら迷わずに言える。
『シド・・・。』
耳元に再び唇を寄せて、導き出した想いの答えを彼に告げた。
『死ぬときは一緒だ。』
その言葉を聞き届けたシドは、それが何を意味するのか悟り、こくんと頷いた。

「ん・・・っあぁ・・っ あぅ・・・っ!」
ゆっくりと律動を開始すると、バドの下で乱れていくシドの表情は、多少の苦痛の色が伺えたものの、それでも快楽に浮かされた、これ以上なく美しいものだった。
汗ばみ、妖艶な身体を押さえつけて、目じりに溜まった涙を唇で掬い上げながら、段々と腰の動きを早めていく。
シドもまた嬌声をあげながら、兄に応えていく。
目の前で展開される予想以上のショーに、外野は手を叩いて喜ぶものもいれば、やはり下品な罵声と笑いを投げつける者もいる。
しかし、誰もがこの舞台の終わりが近づいている事を信じて疑わなかった。
そんな奴等を横目で伺うと、バドはシドの瞳を見つめ、シドもまた兄の瞳を見ながら頭を縦に振る。
白く細い線のシドの首筋をバドは両手でそっと包み込み、そしてそのまま締め上げた。
一斉にどよめく外野達。
しかしそれには一向に構わず、バドはシドの首に込める力を緩めず、ますます強く圧迫していった。
シドはそんな兄の行為を為すがままに受け入れている。
ひくん・・・と身体は震わせたが、その表情は苦痛よりも恍惚感に満ちており、やがて命が途絶える刹那、シドは唇だけを動かし兄に告げた。
『先に逝きます・・・だから・・・貴方も・・・。』
そこでシドの身体からは一切の力が抜け落ち、その際の締め付けで、バドは弟の体内にたっぷりとその欲望を注ぎ込んでいた。



一瞬クリアになった思考が、耳障りな声で覚醒していく。
すっかりその存在を忘れていた外野達のざわめきを耳にしながら、バドは皮肉げに薄笑いを浮かべる。
「ざまぁ見やがれ・・・。」
慌てて金網の向こうからかけてくる看守を視界の端で確認したバドは、今しがた自らの手で殺めた愛しい弟の顔を見つめ、その頬に手を添えた。
「今すぐ逝くからな・・・シド・・・。」
そして隠し持っていた短刀を懐から取り出し、その本来の使用目的の為に一気に自らの喉を突いた。
鮮血が、繋がったままの温もりを失い始めたシドの身体に飛び散っていった。
そしてそのままバドの身体はシドの上に覆いかぶさっていく。


不快なざわめきも怒号も、今度こそ二人の耳に届く事は無く、彼らはようやく互いだけしか必要としない場所へと旅立った。



戻りますか?