大問題!されど晴れれば無問題


大問題!されど晴れれば無問題




「・・・・・・・・はぁ・・・・・。」
年の初めに相応しく、珍しく真っ青に晴れ上がった空の真ん中にはお天道様が陽光を惜しみなく燦々と純白の雪に降らせ、気温も中々良好だった。
普段その雪の多さに閉じこもっているアスガルドの民達も、新たな年の始まりと言う事で、沢山の人がオーディーン像への参拝に来ていた。
無論、その分近衛隊に所属している、かつての神闘士達はその警備に当たって何時も以上に大忙しだったが、日本で言う三が日のいずれか、ローテーションで休みを組み、ある者はのんびりと、ある者は遠乗りを、ある者は里帰りをしたり、またある者は書斎に閉じこもって本の虫になったりと、それぞれ有意義に過ごしていた。
そして、冒頭で盛大な溜息を着いたこの青年-バド-は、黒のダッフルコートに合わせて黒い形のいい帽子を被り、首元にモスグリーンのマフラーを巻いて、ワルハラ宮の正門前に立っていた。
明らかに人待ちの様子だが、その割にはしっかりとめかし込んでいて、別段に招かれざる人間と一緒に出かける格好には見えない。
が、彼の表情はどこか憂鬱そうな影を落とし、それでもそこから立ち去ろうとせずに静かに待ち続けていた。
待つこと数分後、彼の待ち人は、綺麗に着飾った姿で目の前に現れた。



「お待たせしました・・・。」
「・・あぁ・・・っ!?」
ひょっこりと現れたのは、彼の双子の弟にして愛しい想い人の見事に東洋の伝統美を着こなした眼福ご馳走様と言うべき麗しき立ち姿。
襟元に毛皮をあしらった少し濃い目の桃色の羽織りに、その下には更に薄い色の着物。
同じ造りでありながら、若干華奢に見える身体の腰の部分には濃くくすんだ藍色の帯が巻かれ、普段立てられている同じ色の淡銀色の髪は下ろされて、後ろ髪は頭頂部辺りに団子状に纏め上げられ、そこには丁寧にかんざしと、着物と同じ色彩の飾り紐で結い上げられている。
「・・・・・・//////」
「慣れない格好に手間取っちゃって・・・。」
はにかむシドの言葉も、どこ吹く風で、すっかり魅入ってしまった兄貴だが、次の瞬間に聞こえて来た声に、現実に戻らざるを得なくなった。
「シド~、これ歩きづらいよ~~;」
少年らしさの残る声で、シドの後ろから現れた、同じように東洋の国の伝統服・・・濃い青を布に滲ませたかのごとくの着物と黒い袴姿と、長く伸びた銀の髪を濃厚色の紫の飾り紐で束ねた、狼少年ことフェンリルが、親であり家族である青銀の巨狼を伴ってやって来た。
「フェンリル、しばらくの辛抱だから、ね?」
「そう言ってもさ~、足も何か違和感あるし・・・。」
出かけ始める前から、窮屈そうに顔をしかめるフェンリルを苦笑しながら嗜めるシドと、それをほのぼのと見守っているギングの和から外れたところで、バドは見えないところで何度目かの溜息を吐いた。



そもそもどうしてこんなことになったのか?
ただ、三が日の間に同じ日に休みを取って、そのときにオーディーン像への参拝に行こうと話していた所、たまたま通りかかったフェンリルが参拝って何だ?と会話に入ってきたので、教育係のシドがそれを事細かに教えていたところ、そう言えば今年の干支は戌年だったなと言い出して、じゃあさその参拝とやらにギングも連れてっていいか?と話題が飛んで、あれよあれよと言う内に、バドの口も挟む間も無く気が付いたら決定していた・・・らしい。
その際、フェンリルの、
「でも・・・、俺も行って良いのか?折角シドとバド兄弟水入らずで・・・」
と、以前どこかで聞いたことのある台詞回しに、シドの持ち前の母性本能が擽られ、
「良いに決まっているだろう!?ねぇ、兄さん・・?」
と、これまた確信犯的にバドを落とすスキルが発動し、完膚なまでに叩きのめされた・・・そうだ。
そして、アスガルドの町中に最近出来たという、輸入品のリサイクル店に強制連行され、日本からの輸入品でいて、中古にしては丈夫な作りな着物を購入したと言う事であった。
最もバドの方は、普段通りで別に良いとは言え、シドとフェンリルが着物巡りをしている間、コブ付きとは言え折角のデートなのだから、それなりに見栄えのする服を選んでいた・・・・との事だった。



そしてここまで綺麗に晴れ上がる空の下、やっぱり二人きりの逢引の未練もまだ残っていたのか、年相応にはしゃぐフェンリルに袖を引っ張られて慌てて歩き出す伴侶の姿に、バドは脱力しながら後を着いて行く。
その姿は、たまの休日に気乗りしない家族サービスを強要される、すすけた親父の様だったと第三者が見たらそう語るであろう程、バドは気落ちしていた。
「バド~、何してるんだよ?折角の休みなのに暗いな~。」
・・・・・誰のせいだ。(微怒)・・・・

もはや怒りも湧き上がる気力も無く、それでも人狼の傍らに居る己の恋人との折角の時間なので、不機嫌モードをそろそろ解除しようと、バドは無言でそちらに歩みだした。
「にしても、この靴滑るなぁ・・・。」
「そうだねぇ・・・。フェンリル、転ばないようにね?」
「ん。」
そう言いつつ、ぎゅっとシドの手を取る狼少年の行動に、解除しようとしていた怒りスキルがパロメーターをぶっちぎり、もはや制御機能は使用不可能となる寸前・・・・。
「わッ・・・!」
思わずフェンリルの手を握ったまま滑り、前に転びそうになるシドの姿が目に入り、バドは高速の勢いで移動し、シドの身体を支えてやる。
「大丈夫か?危なっかしいな見ていると・・・。」
「す、すみません・・・。」
子供の前だと、どうにも恋人同士の顔になれないのはシドも同じで、支えられた時にぶつけた鼻を空いている手で押さえながら、赤らむ顔を隠そうとしている。
「・・・・・ほら・・・。」
「え?」
あくまでも兄として・・・と言うように、もう少し抱きしめたかった身体を自分の胸から引き離すと、その代わりついと左腕をくの字がたに曲げて、シドのほうに突き出す。
「そっちの空いてる手、俺の腕に絡ませとけ。それでバランス取れるだろ?」
少しぶっきらぼうに聞こえるのは、不機嫌よりも、シドの何時もと違う姿を間近に見れたことによる照れも入っているようだ。
その様子を、若干面白くなさそうに眺めているフェンリルだが、ギングの『早く行こうぜや』と言いたげな、クーンと言う鳴き声に、夫婦とその子供は我に返る。
「じゃぁ、出発~♪」
「ハイハイ(苦笑)」
無邪気な息子の声に、元気すぎるのもどうかなと眉を下げて苦笑しながら、しっかりと頼りにするように夫に腕を絡ませる奥様と、自分の腕に絡みつく腕の感触から、おおっぴらに妻といちゃつけなくて、悶々とした表情で背を向けて歩く旦那様。
三者三様の思いの中、アスガルドの新しい年の空に浮ぶ太陽と、大きなオーディーン像は今年もひがな一日民達を見守っていくのであった――。



戻ります。