Love travel~にわか逃避行~












塗装されていない道なりを、ガゴガゴガゴガゴと不穏な音を立てながら滑走する一台の自転車は、さながら下手なアトラクションよりもずっとスリル満点。


Love travel
に わ か 逃 避 行

「ににににいいさんんーっ!;」
二人乗りの自転車の後ろに乗るシドが、不安なのか不慣れなのか、先頭でハンドルを取っている兄の腰に振り落とされないようにしっかりと腕を回し、びゅんびゅんと風を切る音と、加速するスピードに舌を噛まないように声をかける。
「あまりしゃべるなよー!!」
後ろを振り返るのも命取りとばかりに、真剣と命がけの紙一重の必死な表情で山道を奔走する自転車のブレーキを小刻みにかけていくバド。

デザインよりも頑丈さを重視して、タダ同然の値段で行きつけの市のオヤジからもらったと言う一台の自転車。
一昔前の物だろうか?後輪部分には銀色の腰掛が備え付けられており、多少傷んではいるものの、手を加えれば動くだろうと言う事で、ギーギーと耳障りな音を響かせながら持ち帰ってきた兄に、シドは何に使うのか?と訊ねると、これで二人でどこかに行かないか?との事。
いつも兄と旦那の両立を兼ねているバドが、働きから帰って来てから二人だけで暮らすこの家でのんびりと過ごすのが好きなシド・・・弟兼妻・・・だが、外出・・・・もっぱらデートを兼ねた市への買出しだが・・・も勿論嬉しい訳で。
どうせなら、雪も段々融け始めたこの時期、二人乗りのサイクリングピクニックをしてみたいと言う兄にシドは一・二も無く賛成したのだが。

「もしかして私、降りた方が良くないですか?;」
兄を先頭・シドが後ろ、やっぱり付いていた前カゴに、早く起きて二人で作った昼食が詰め込まれたバスケットを入れて出発して小一時間、一人乗りよりはどうしても重くなるペダルを力いっぱい漕ぎながら、平坦な道を走り続けていたまでは良かったが、段々と登りに差し掛かってくるとかかって来る力もどうしても大きくなる。
必死に歯を食いしばりながらペダルを漕ぎ続けるバドの姿はどう見ても、ラブラブデェトを楽しんでいると言うよりも、何かの山中修行か合宿訓練の類ではないかとシドは危惧して、跨っている荷台から降りようとしたが。
「全ッ然!大したこと無ぇから!!」
・・・・大したことありそうですけど?
無理に後ろを振り向いた兄の表情は、汗だくで顔全体に≪大変です≫と書いてあるようなもので、もしかして私が冬の内に太ったのかも・・・;と新たな危惧感を感じるシド。
「・・・・・;」
途端に無言になり、微々たる距離ずつだが走り続けてる自転車からそっと降り様とバドの腰にまわした手を緩めようとした時。
「ぅえっ!?」
途端に緩やかだった上り坂から急な勾配の下り坂道に変化して、今までの遅れを取り戻さんとばかりに一気に加速していく自転車。
「わわぁああ!!」
「しっかりつかまってろーーーっ;!!」
幸いにも、出かけ間際にタイヤの空気圧は点検してあったので、途中でパンクして二次災害を引き起こすと言う事態にはならなかったが、正面から風を受けて半分涙目になりながら、先ほどの躊躇はどこへやら、ぎゅーっと振り落とされない様に兄旦那の腰にしがみ付く弟妻。
窒息する位にしがみ付かれながら、残念ながらそれを今は堪能している場合ではないバドは、ふらふらとあっちこっちに行こうとする先端部分を調整しながら転倒しないように命がけだ。



これはいまだ嘗て無い死闘だ・・・!



彼等が同時にそう思ったか思わなかったかは定かではないが、タイヤが大破する事無く、自転車は二人の体重を支えたまま下り坂を急降下していった。



「大分寿命が縮まりましたよ;」
とりあえず、日が真上に差し掛かってきた時間、苦戦は辛くも勝利した双子は、あぜ道を下って広間になっている部分で自転車を止めて、ランチタイムを取った。
草原を敷物にしたかったのだが、恐らく山の中なので雪の融けていない部分もあったら困ると言う事で持参した
ピクニックシートを敷きながら、バスケットの昼食・・・山道の奔走で若干メタメタになった中身はきっとロシアンルーレット状態な・・・を食べながらシドは苦笑交じりに言った。
「俺もお前に力いっぱい締め上げられて別の意味で死にそうになったがな♪」
「んなっ;!///」
水筒から温められた紅茶をとぷとぷと注ぎながら、その紙コップを手渡そうとしたシドが危なく取り落とそうとするところだが、バドはそれを難なくキャッチする。
「危ないだろ?」
ん?・・・と、向かいに座っている兄のにやりと浮かべる、どこか人の悪そうな笑み。
「・・・・誰のせいですか・・・///」
そんな憎まれ口も、春の陽気に当てられて・・・とは言い訳の如くに赤く染まっていく頬で説得力は皆無に等しくなる。
「ホントお前って・・・。」
真っ赤と言うよりも桃色と形容した方が正しいかもしれない両頬に両手を添えて、じっと額と額を触れ合わせる様に弟の目を覗き込むバド。
「見てて飽きないよな♪」
「へ・・・?」
思わず間の抜けた返事を返すシドを尻目に頬から手を離し、若干切り口がでこぼこしている一口サイズのタマゴサンドを口に放り込むバドを見ながら、今言われた意味を必死に考え込んでいる弟。
「・・・んな真剣に考えるなよ。」
何て言うか、もう結構長く暮らしているのに、やることはやりつくしたのに、ここまで天然ゆえの初々しい反応を返す弟妻だからこそ、未だにこの愛情を褪せさせないんだろうなと旦那な兄は苦笑しながらしみじみ思う。
「俺もお前にベタ惚れだって事を言ってるんだよv」
・・・・あ、茹ダコになった・・・。

「・・・も、もう、この話は終わらせましょう///ホラ、食べちゃって下さい!」
「・・・・はい;」
一瞬後に、少しは熱が引いたのか、あたふたと慌てふためきながらランチタイムの続きを促す弟に、悪ふざけが過ぎたバドもその熱が飛び火したのかの様に赤くなりながら、食事を進めていく。
でもそれは決して気まずくなる事は無いのであって、今までの時間を取り戻そうと築き上げた絆・・・兄弟であり恋人でありそして夫婦とも言える、ある種特別の様な関係の彼等だから保てるバランスなのである。

「帰りは私が運転していってもいいですか?」
午後の睡を誘ういい風が吹いてきて、野原に広げられたシートの上でごろんと横になる兄に膝を貸しながら、シドは彼の髪に指を絡ませながら問いかける。
「・・・良いけどあまり突き上げてくれるなよ?」
「・・・努力します。」
兄のその揶揄に気づいているのかいないのか。
くすくすと笑いながらそれでもいたずら半分で、うとうとするバドの鼻を軽くきゅっと摘んでみてその反応を見守る弟も、やはりからかわれっぱなしでは無い様で。

「好き?」
「大好き・・・。」
「じゃあ、愛してる?」
「愛してるよ・・・・。」


外聞も無く、正に自分達の庭の如くくつろぎながら愛を語り合う双子鴛夫婦に自然達はあくまでも優しく、天候はいっかな崩れる素振りを見せる事無く、日没の最後までお出かけ日和の空模様と穏やかな気候だった。



戻ります。