37.2℃。
貴方と交わっている時に、ふと頭に浮ぶ数字。
「にい、さ・・っ!」
同じ位の体格なのに、その逞しい身体に組み敷かれて私の内部に貴方が入ってくる熱さに身じろぐ時に湧き上がる独占欲。
お互いに熱を放出する一歩直前に、私の中にもしも体内宇宙があったら今よりもっと繋ぎとめて置けるのにと思うのは、身も心も未だにちゃんと貴方のモノになっていないからだろうか――・・・?
人 工 生 命 受 傷 媒 体
「何かお前、熱くないか?」
行為が終わった後に、ぎゅっときつく抱きしめられながら二人ひとつの寝所に包まる。
向かい合う形でピッタリと抱き合う姿はそれで一つの生き物みたいで、どうあがいても何も生み出せない身体の構造で生れてしまった私にとっては、肌を重ね合わせるのと同じほど・・もしかしたらそれ以上に彼の存在を確かめられる手段なのかも知れない。
「そう・・ですか?」
「あぁ、何か熱っぽいとか気だるいとか感じないか?」
つい・・と、汗ばむ額に触れられた掌は、同じ位の大きさなのに確かに私とは違う軌跡を歩んできたことを物語るもので、さっきまで力強く私を抱いて、そして今は私を慈しむ。
「いいえ?別に・・・。」
「あまりハメを外すなよ?」
俺がジークフリートに怒鳴られる・・・と苦笑する兄に、ハメを外させているのはどちらですかとこちらも苦笑交じりで返すと、今度は困ったように笑う彼。
「それでも俺はお前に触れられずに居られないんだ・・・。」
優しく囁かれる言葉に耳元が痺れていく。
その声音と比例する程に、額に触れられていた手は優しい動きで再び腕ごとに私の肩に回されて、また何時ものように密着する形で収まる。
自分の頭をその広い胸に預けると多分私の胸打つリズムと同じ間隔で、バドの心臓は鼓動を打っている。
同じ命を分け与えて生れた存在の双子の兄弟と交わしていく長い長い夜の時間。
幸せだと心底思うと同時、引き換えにしたはずの世間への後ろめたさとか、周囲からの祝福を受け入れられない事実とか、心の底に押し込めていた負の思考がじわりじわりと滲み出る。
「・・・にいさん・・・・。」
「・・何?」
「・・・・・・・・愛してますよ。」
「?・・・・俺もだよ・・・・。」
あいしていると・・・。
その一言だけで貴方を独占出来てすべて満たされていると頑なに信じ込んでいたのに、何で今はこんなにもこの言葉は同時に空しさも植えつけていくのだろう?
同じ顔。
同じ遺伝子。
同じ機能を持つ生態。
貴方と異なった部分なんて何も無い身体で、貴方を手に入れられたことにどうして今はこんなにも満足できないのだろう――・・・?
同じだからこそ、私たちは出会えて、惹かれあってそして結ばれた。
その事実が、どうしてこうもじれったくて切ないのだろう――・・・?
うつらうつらと眠りに落ちかけている貴方は、こんな時でも雄々しくて包容力溢れる仕草で私を抱きしめたまま離そうとはしない。
「たったこれだけの生命しか持たない私に・・・。」
彼の身体に回していた片手を、自分の腹に持って来て触れてみても、何も生み出せないこの身体は、どんなに熱を孕んでも、まだ内部に存在する貴方の熱の名残を結びつけるだけの温床があるはずもなく・・・。
言われてからしばらくして覚醒し始めた身体の微熱が、段々と強い発熱となって身体中から零れ始めていく。
彼にうつしてはいけないと思いつつ、離れようとしてもその腕の力は思いのほか強くて離れられずに・・・。
もしも、この身体に貴方の名残を残しておける機能があって、この中に貴方を解き放つ事が出来たら、貴方は。
「ずっと触れ続けてくれますか・・・?」
焦がれていく兄への想いと相乗して、何も遺せない己の身体に溶けて行かない微熱を恨めしく思いながら、そっと瞳を閉じた目尻から一筋の涙を流しながら、シドは静かに眠りに落ちていった――・・・。
戻ります。
|