旅の途中の午後~Apres Midi~ 「あ・・・。」 その両端の歩道に植え込まれた街路樹達の枝からは、麗かな季節の訪れの証明である、色取り取りの花の蕾が膨らみかけており、道行く人達の心に彩を付けていく。 その木々の手前の位置に、数人が腰掛けられるベンチが何台か並べて設置されており、緋色の髪の異邦人は、その上に座る青みがかった黒髪の、かつての戦友の姿を目に留めた。 上からの視線に気が付いた、この国の人間である眉間に傷を持つ少年は、この来訪者の顔を見上げて、ふ・・・・っと静かに微笑んだ。 「・・・・久しぶりだな、ミーメよ・・・。」 「・・・・・そう、だな。フェニックス・・・。」 一瞬間が空いた後、一輝から言葉を投げかけられたミーメは、ふわり・・と微笑むことによって、思いもがけない再会の嬉しさを表した。 「しかしまさかこんな場所で出会うとは思わなかったな・・・。」 「それは俺とて同じだ、ミーメ。大体の事は女神から聞き及んでいる。」 立ち話もなんだからと言うことで、ミーメは一輝の隣に腰をかける。 「あぁ、私達はオーディーンとヒルダ様の祈りによって再び命を与えられた。そして今はこうして当ても無い旅に出ている・・・。」 「そうか・・・。」 「アンドロメダは元気か?」 「ああ・・・。」 日差しを和らげる為に木陰に設置されたベンチに座り、積もる話をし続ける二人。 そこは公園内を闊歩する人達にとっては見つけにくい場所にあり、誰の邪魔も入ることの無いまま、他愛ない時間を過ごすことが出来る。 「ところで・・・。」 「ん?」 不意に会話が途切れたところで、一輝はミーメの腕に抱く竪琴に目線を送る。 「あぁ、これか・・・。」 注がれていた視線の対象物に、ミーメも目をやり、そして苦笑する。 かつての聖戦で、彼はこの竪琴の奏でる必殺技で、目の前にいる男を傷つけた。 しかし死の間際に、心を通わすことの出来る友となり、今こうして再会の時間を過ごしている中、この竪琴は彼にとって複雑な思いを抱く物なのかも知れない。 「・・・何か奏でてくれないか?」 「え?」 しかし、一輝の一言は、そんなミーメの予想をあっさりと裏切った。 一瞬面食らったような顔をするミーメに、一輝は柄にも無い・・・と言いたげな表情で、ふいっと横を向いてしまう。 「久方ぶりの再会を祝して・・・と言う理由では駄目か?」 「・・・・ふっ・・・。」 不意に、故郷にいる親友の姿がミーメの頭を過ぎっていく。 まぁ、彼にとっても、目の前のこの男は戦友でもあり、そして同時に“兄”でもあるから、被るところはあって然りなのかもしれないな・・・。 急にくす・・・っと笑みを漏らしたミーメに、一輝は不思議そうな顔をするが、何でもない・・・と、軽く首を横に振り、竪琴を持ち直し弦に指を添えた彼の演奏に集中すべく耳を傾ける。 ミーメの奏でる音色が生み出したかのような柔らかな風に乗って、優しい調べは、この場に居る麗かな昼下がりを楽しむ人々の耳に届いていく。 不思議な魔法をかけられた人々は、その音色の源であるミーメと一輝を見つけて、一人、また一人とその周りに集まってくる。 瞳を閉じて、熱心に心を篭めてその曲を奏でる演奏者と、膝の上に頬杖を付きその横顔を見つめながら聴き入る客人。 その様子に、集まった人達はこの曲が誰に捧げられている物なのかを見て悟ったが、それでもほんの一欠けらでも幸福な曲を聴けたことへの感謝を表して、演奏終了後にミーメに惜しみない拍手と気持ちを手送った。 「え・・・っと・・・。」 「照れるな照れるな、受け取っておけ。」 小さなコンサート会場になった公園には、止む事の無い拍手喝采と歓声。 一輝も元来の少年らしい笑みを浮かべながら、パチパチと手を叩いている。 「え・・・、では・・・お言葉に甘えましてもう一曲・・・。」 照れて薄紅に染まった顔のミーメの宣誓に、更に大きく上がる人々の歓喜の声。 石畳の上に散らばる花弁の上に屯する無数の鳩達は、平和の象徴である白い羽根を一斉に広げ、バサバサと羽音を立てて飛び立っていった――・・・。 |