この世の中に永遠と言うものがあるのならば、それは憎しみと美化された記憶のみ。
それも繰り返し繰り返し・・・人の細胞の生まれ変わりは大体7~8年が限界とされるため美しく清らかな君の姿は段々と劣化されて再生されるノイズがかった映像になっていく。
それでも、あの日あの時初めて出逢った君は・・・・、今ならばきっとそうだと言われれば納得出来るほど、鮮烈な稲妻の如く激しく僕の心を貫いて焦して逝った。
あの日からの僕はそう、まるで君に――・・・・。
insensibl"x"nslave
「・・・・・・・・・・。」
ただ無言のまま朝を淡々とした朝を迎えて、粗末な造りのベッドの上に横たえていた身体を起こし、床に足を着くと、日課となった墓参りに行く為に寝床兼居間の食卓に無造作に掛けてある、長年かけて使い込んでいる外套を手にとって身支度を調えようとする。
「ケツの青いガキじゃあるまいし・・・。」
今の気分は最低最悪。
どちらかと言うと前向きで努力をする負けず嫌いな人種だった己は、今は過去の業罪を悔やむ心はあるとしても、ずっとあの時の夢を繰り返し見るのはイラつき以外の何者でもなかった。
「ちぃっ・・・。」
アスガルドを襲った聖戦からもうどのくらい経過するのだろうか・・・?そんなものも面倒臭いために日付を指折って数える事も止めて、影としての宿命を負った俺はそのまま光の躯を抱いたまま行方をくらまして、かつて自分が暮らしていた村に近い、廃屋となった小屋の中でひっそりと息を潜めて暮らしている。
あの時間の自分とはもう決別する思いで。
操られていたとは言え、影としての烙印を押した聖巫女にも、その聖巫女の変貌に胸を痛めても尚、希望を求めて聖闘士に縋り、その代償として最も近しく愛していた者を失った妹姫もあの聖戦にかかった息を全部そぎ落とすため。
肉親憎悪を滾らせて、見せ付けられた真実と後悔。それを殺意に変えて勝負を居どみ散っていった緋色の髪と薄紅の瞳を持つ紅の戦士と酷似していた状況は、それは生と死の相反する世界に隔てられ、俺はそのまま生の世界にしがみ付いている。
そのまま昇華されて逝った彼は・・勇者の御子は、今頃天上の世界で愛情を求めた父親に再会できているのだろうか・・・?
そして、言うに言えなかった想いも全部余す事無く伝えられているのだろうか・・・?
“にい、さ、ん・・・”
壊れたレコードの様に再生される繰り返される夢の中で、お前は何時もあの最後の瞬間の姿のままで俺を呼んでいる。
蒼白なほどに青ざめた顔、零れ落ちる生命と死の翼に包まれつつある光の鎧に包まれた四肢。
俺は何時も、拳を携えたまま一歩も動けなかったあの時のままの姿でお前の姿を見つめている。
焔の色の潤む瞳に俺を映すお前を見るたびに、俺は何時もあの出会いを思い出してはその胸に憎しみを焦し、味わわされた屈辱を噛み締めて撃とうとしても結果は判りきった事だった。
なぁ・・・。
お前は俺にどうして欲しいんだ?
俺は今こうして、お前のそばに居るじゃないか。
俺は俺のしたい様にしているだけだけど、それでもお前に出来る事は限られているからそれをしたいと俺は望んだんだ。
それをこうして繰り返し俺の中に出てきて、代えようも出来ない過去の現実を見せ付けて、あわよくばあの最初に出逢った俺の人生最大の後悔を歩ませるきっかけとなる映像まで織り交ぜて。
結局の所、俺はお前にとって何なんだ?
「・・・・・・・・許せないのかな・・・?」
静かにそっと手折った白く可憐な鈴が幾つも連なっているかのような野の花を、この冷たい土の中に眠る弟に奉げ、白く伸びる息を吐きながら、十字に組み合わせたうっすらと積もる雪を軽く払う。
「お前も俺も、結局はなぁんにも変わってなんかいないんじゃないか・・・?」
根本的な和解をしないまま死が二人を別って、俺を置き去りにしたお前も、お前を殺そうとして憎み続けていた俺も、結局は互いを許せていないのかも知れない。
「だからあんな夢を繰り返して見せるんだよなお前」
まるで錆び付いた時計の様に解き放たれる事のない、起こってしまった過去ばかり見る俺。
そして出逢った頃の映像を見て、胸を掻き毟るほどの焦げ付かせる感情を何度も何度も味わって目覚める朝だってある。
「何だよ・・・ホント・・・。」
しゃがみながら、もう土の中に溶けて亡くなったお前に訊ねても、お前はまた返事の代わりに雪を降らせるようにしてあの夢ばかり見せるんだろう。
目の前が不意に歪んで、鼻の置くが詰まるようにキナ臭くなる。
「本当に、っ何なんだよ・・・っ」
何故自分が泣いているのか判る様な判らない様な・・否、泣いている事を認めたくなくて必死に天を仰いで雫を止めようとしても、鈍色の厚い雲からまるであの人でなしの老神の様に気紛れに顔を出した太陽に瞳を妬かれ、ぽつりと頬を伝って零れ落ちた一滴の先は添えてある鈴の花にちりんと落ちた。
あの頃の僕も、今の僕もきっとまだ幼すぎて繰り返してみる君の夢が齎す意味に気づけて居ないんだ。
君に哀しそうな顔をさせてしまっていた僕は、君の気持ちが信じられなくて君が僕を恨んでいると頑なに信じて疑わないんだ。
だからもっと優しい夢を見せて上げて。
そして早く気づかせてあげて。
劣化して再生される記憶の中でも、君が僕の中で鮮やかで在り続ける様に。
本当の意味で出逢えることに僕が希望を抱けるように・・・・。
――・・・・シド。
誰よりも君を愛している僕の心の底で眠る双子の兄より。
戻ります。
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