本来ならば誰よりも真っ直ぐで清く、力強く真っ白だったあなたの魂を憤怒の暗き色に染めたのは他でも無い私だった。 私を赦して欲しいなどと願わない。ただ私に出来る事。 「バ・・・、バドよ・・・、はやく・・・!」 さぁ、その幕はゆっくりと開かれた。 be without a rival 人の運命ほど、神の気紛れによって悪戯に紡がれているものは無いと私が悟ったのは十を数えた時からだった。 それまでは、心の底に押さえつけていた多少の飢餓感があったとしてもそれなりには満ち足りていた。 薄れていた意識の中であなたが言った言葉。 そう、私もあなたを知ることなく、と何度思っただろう。 あの時に出会ったあなたの真っ直ぐな心根を宿した瞳を、無理矢理に折り曲げさせて、その何も知らない心に憎しみを植えつけさせて、その肉体を限界までに痛めつけるようにして力を得たこと。 凍りついた湖から出でた冷たい雪原の色をした神闘衣を纏いながら、その心に闇色の雪を降らせるかのごとくに憎しみを募らせてその首を跳ねたく思っていたことも、背中に突き刺さるその視線が全部物語っていた。 それでもそ知らぬふりを続けて来た仮面生活を投棄てなかった理由。 最初から、この時代のこの国に生れた瞬間から遠い所に、人の力など及ばぬ運命の膝元に堕ちたあなたと私。 元は純白の羽根でありながら、たった一度の過ちによってその身を闇色の喪に窶して小さく啼いているカラスの様に、これ以上哭意に染まる本心をあなたに悟られて見せ付けるその前に・・・・・。 「あなたの憎しみは当然だ・・・・・。」 ・・・・・・・・・ 瞳を驚愕に見開いて、その目尻を吊り上げたあなたが、白い魔拳を構えてこの身ごと敵を打ち抜けばもう何も思い残すことは無い完璧な終幕。 さぁ早く・・・、その手で憎しみに干ばつされたその心をこの薄汚い穢れたこの存在を砕くことで潤して下さい・・・! だが、シドがあれ程望んでいた結末は訪れることは無かった。 次の瞬間シドの、光を失いつつある鈍色に染まるダークオレンジの瞳には、同じ角度の形の良い眉が哀しげに寄せられて、その口からは一つ息を漏らして長く伸ばしたその爪を元に戻し、力なくその拳を下ろしたと言う、もう一人の主役であるバドの予想外のアドリブが映し出されることによって。 「に・・ぃさん・・・。」 あんなにシュミレーションしたのに・・・・。 あぁ・・・、やはり・・・・・。 もう力が入らない。ずるずると崩れ落ちていく身体を支える術すら浮ばない・・・・・。 私はどこまでも神の気紛れに翻弄される運命なのだ・・・・・。 近づいてくるあなたの気配。沈殿していく意識は静かに泡沫に弾けていく――・・・。 どうしてこんな最期の最後で、あなたは私に期待を持たせることを・・・・。 バドがシドに駆け寄って、そのマントを翻しながらその傍に跪いたその瞬間、最期の一欠けに残っていたシドの意識は、穏やかな永久の睡りの泡沫に弾け飛んでいく――・・・・・。 だからシドは知る由も無かった。 “あなたと一緒に生きていたかった・・・・・。” 今際の最中、全ての憎しみが浄化されたバドの心の中に、何よりも彼が望んでいたその願いとなる温床が他でも無いシドの独白によって創られ、そしてその後もしんしんと募っていくことに・・・・。 手に入らぬならその身を砕かせると、捜し求めて乞い求めて居た双子の兄を待たずに先立った弟を想い涕する、生れたばかりの純粋で優しくも哀しい、儚い雪の様に――・・・・。 |