Brunch of devoted Brother




夏の白じむ夜明け頃から明け方にかけて、その顔色をあまり変えない空の変化を的確に見破るのは、幾ら慣れ親しんだ土地に住む者であっても至難の業である。
特に白夜の季節が訪れる頃・・・・・、殺人的暑さは無いにしろ、人々が本能を思いのままに開花させる解放感溢れる夏の宵。 ひっそりとした森の中に・・昔、名のある貴族が私有地として囲っている場所に、人との交流を避けるようにして建てられたこの家屋の住民たちも、森の木々の変化やその空の色から、元々本能が垂れ流しっぱなしだったが片割れが本格的にストッパーの壊れるままに愛と言う名の欲望を、毎夜毎晩、時間の境目が無い夜を通して愛しい伴侶に注ぎ込むと言う、正に酒池肉林の暮らしを過ごしていた。
傍から見ることが出来たら何たる羨ま・・・否、ふしだらな生活を送っていることだろうと、その様子を覗き見ることが出来たら涎と鼻血が入り混じり・・ではなくて、むしろその伴侶の身を案じる事となるほど、ここに暮らす仲の良すぎる鴛双子こと、兄バドは、弟兼伴侶のシドをこの夜も激しく求め、くったりとした彼を抱きしめて幸せに浸りながら睡りについていた。 そう、欲望的な体力が有り余るのは双子とは言えこの兄の方であり、何時も昼間は仕事に出て、その分の家事を分担するのは奥方宜しく弟のシドの方であり、朝が早いのは昼間働きに出かける兄の為に色々諸々とやら無ければならない事が多いシドなのである。
元々規律正しい暮らしを送ってきたのと、柔軟性もある彼だからこそしっかりと夜の勤めを果たしながら、翌朝きっちりとした時間に目が覚めて優しく兄を揺り起こすと言う、何とも主夫の鏡の様な彼だったが、いかんせん白夜のこの季節、時間と時間の境目が曖昧なためか、この翌朝目が覚めたのはとっくに太陽が眩いほど輝く時間であった。



Brunch of devoted Brother



「っ!もうこんな時間っ!!?」
白い柔らかい生地をベースにした、あまり派手すぎないカラフルな花模様が描かれたカーテンから差し込む日差しが閉じていたシドの目蓋を刺激して、寝ぼけ眼で目を擦りながら、枕元に置いてある時計を手に取りその時間を確認した彼は慌てて飛び起きる。
「兄さん、兄さん!起きてください!!」
「ん~?、何だシド・・。そうか、もう一回・・・・。」
「違いますってっ!///もう起きる時間」
「愛し合う時間は貴重だからなv足りないと言うんなら何度でも・・・。」
二人が丸まって眠るには丁度いいダブルベッドの上で、真剣に兄を起こそうとする弟の声も、惰眠と愛欲の虜と化したままの寝ぼけ兄には馬耳東風で、揺すり起こすシドの身体を再度抱きしめてことに及ぼうとしている。
こうなってしまったら、本気で朝から事に及びかねないのだと連れ添った時間の中で何度も身を持って経験しているシドは、自分が何時も使用している少し大きめの低反発の枕を手に取り、その身体を絡めとろうとしているバドの両腕の中に無造作に突っ込んだ。
するとシドの移り香がふんだんに沁みこむそれをまだ色んな意味で寝ぼけている兄はしっかりとそれをシドだと認識し、ぎゅっと包み込むと安心した子どもの様にまたしばらく夢の中へと旅たち始める。
むしろ逆効果なのではないのかと思われるのだが、ここで兄に捉えられて組み敷かれて朝の忙しい時間をロスするよりはずっと効果的なのだと言うのは、シドが編み出した苦肉の策。
その後は全ての準備が出来てから、バドもまた体内時計が大幅に遅れてることに気が付いてはっと飛び起きて、大慌ててで身支度を整えつつ、弟手ずからの料理を頬張る間もないために、朝食と昼食、二食分詰め込んだ愛情たっぷりの愛弟弁当を抱えつつ、それでも行ってきますのキスは強引に交わしてから出勤すると言うパターンである。
元々バドも規則正しい生活を送ってきたはずなのだが、本気で安らげる存在がそこに何時も居るためか、気が緩んでしまうこともしばしばあり、その度に気をつけようと心がけつつ、それでも夜毎に弟を美味しくいただく習慣は改める気は無いので、こうした失態を繰り返すのはしばしばだったが、求められることに関してはむしろ嬉しくさえ思うシドは少し釘は刺すにしろ、むしろ甘やかしすぎだろうと言う待遇を兄に与えていた。
だが今日は、連日の愛の営みと冒頭でも述べたとおり殺人的ではないにしろ毎日続く暑さのせいで少しだけばててしまっていたシドは、いつも通りのミッションを遂行することは出来なかった。
上手くまわらない頭の中で、とりあえず兄がそのあたりに脱がしてほっぽり出した自分の衣服を探すのも惜しく、新しくベッド下の引き出しから膝上だけのハーフパンツを取り出して身につけて、いまだ素肌を曝す上半身には幸運にもダイニングに出しっぱなしだった白いエプロンの存在を思い出し、そのまま羽織る。

バドが起きてくるまでが勝負の時間!
シドがきゅっと腰の後ろでエプロンの紐を締めると同時、どこからとも無くあるはずの無いゴングの音が聞こえてきた。


とりあえずは兄の腹に入れる物を作るのが先だと、キッチンへとダッシュし、備え付けられている食材収納庫から野菜やウインナー、そして卵を取り出す。
片手で卵を割り、容器に入れてしゃかしゃかとかき混ぜながらガスコンロに手を伸ばしフライパンと水を張り、昆布と煮干を入れた鍋を温める。
その間に砂糖とミルクと塩コショウと醤油を適度に要れ再度かき混ぜてから、植物性サラダ油を引いたその中にじゅうぅッと音を立てながら卵を入れ込んでいく。
全て入れ終わった後に蓋を閉め、弱火にしたガスコンロの傍らに、今度はまな板を敷いて取り出した野菜をざく切りに、ぐつぐつと沸き出したその中に放り込んで、再びさえ箸で煮干と昆布を取り出すと、食器入れの中に乾いていたお玉を取り出して、そこから味噌を適量に取り、熱くなったお湯の中にて立った今使った箸にてかき混ぜながら熔かしていき、一度火を止める。
そうこうしている内に丁度いい焼き具合になった卵を今度はヘラを手に取ってくるくると器用に・・・ここまで出来るようになっただけでも大した進歩だと言うのはバドの弁だが、それはとりあえず置いておくが・・・巻いていきその中心部を軽く押して、卵が出てこないのを確認して軽くポンポンと叩いて、皿の上に乗せる。 そして残りはタコ形、蟹形・・にする時間は無いので、ウィンナーに斜めに切り込みを入れて開けたフライパンの上に入れ、じゅうじゅうと音を立てながら火を通していく。

ちなみにこの献立が、本当にアスガルドにおいてメジャーなものなのかどうかはここでは詳しくは語らない。



「ん?」
そうしてシドが一人自分の為に朝の喧騒を戦っていると言う、食欲のそそる匂いが鼻腔を突いたところで初めてバドは目が覚める。
「シド?」
枕もとの時計を見る前に、まず最初に愛しむべき存在の弟を確かめるあたりすでにそれは習性と言うしかないのだが、そんな寝起き特有の兄の掠れ声を耳にして、姿を現したシドも同様である。
「あ、起きましたね!」
「っ!////」
そう言いながら片手にお玉を持ってキッチンから姿を現した弟の姿を見て、バドは一瞬で目が醒める。
バドの視界に映る弟の姿、偶然か必然か、上半身に直接身につけている白いエプロンの丈がギリギリまで彼の履いていたハーフパンツ全てを覆い隠しており、そこからすらりと伸びている艶めかしいほど白い両生脚。
「もう時間が無いのですから急いで支度を・・・・っ!?」
シドはそのままの姿勢で、真正面から生脚+エプロンのままで兄の視界に立ったまま急かす言葉を投げつけるが、その言葉は続けられることは無く。
朝からそんな卑猥な姿を見せつけられ、可愛らしく唇を尖らせているシドの表情が一瞬にしてぎょっとなったのに気が付いた時、バドは自分の鼻の下が何か生温かく濡れていることに気が付いた。
「兄さん、どうしたのですかっ!?」
本気で心配そうな顔をして駆け寄ってくる、エプロン+生脚姿の弟に、更に鼻の下を濡らすそれが量を増したことに気が付いたバドは、次の瞬間に今度は恍惚の夢の中へと沈んでいったのだった・・・・。


「ん・・・?」
ひやりと鼻に当てられたタオルの冷たさが心地良い。
揺らいでいた視界がまたゆっくりと戻っていったバドは、再びベッドの上に顔を横向けに横たわらされており、その頭を乗せていたのは、問題の格好をしたままの泣きそうな表情のままのシドのエプロンの上の膝、だった。
「ぶっっ!」
そのとき初めて自分が鼻血に咽びいていたのだと自覚したのと、それと同時にまたもや出血多量に陥る危険性がある状態なのを悟って、そのおいしすぎる姿の弟から離れようとするが。
「あ、まだ動いては・・・!」
「いや、そのっ!;もう大丈夫だし;」
慌てて自分の頭を押さえつけようとするシドだったが、これ以上その場所に居ると本気で文字通りに悩殺されて命を落としかねないとと悟ったバドは、勿体無いと言う本音をしっかりとしまいつつその場所から身体を起こす。
「それに、ほら、もう仕事に行かなきゃならねぇし」
「何を言ってらっしゃるんですかっ!?」
すでにうるうると瞳を潤ませて、キッチンに出来ているであろう愛弟弁当を取りに行こうとする当たり、ちゃっかりしていると言う概念は浮ばないであろうシドは、ぎゅうっとバドにエプロン姿のままひっしりと抱きつくようにしてその行動を諫めた。
「ちょ、ホントに大丈夫だからさ;」
だ か ら 離 し て く れ  頼 む か ら!;
朝からそんな姿の弟を目の当たりにして、うっかり昇天しかけたと言う、兄と言うか旦那としてのプライドを死守する為に、バドはシドの腕をやんわりとだが必死になって振りほどこうとするが、不意にシドの腕が小刻みに震えだす。
「シド?」
続いて聞こえてきた鼻の啜る音に、流石に無碍にすることは出来ずにバドは振り返り、極力シドのその身体を見ないようにしてその表情だけを目で追った。
「そんな・・・、体調不良を起こす程に疲れていたなんて・・・、何時も傍にいるのに気がつか無いなんて・・・っ!」
「・・・・・・。」
何か盛大な勘違いをしているシドに、バドは内心もの凄く複雑だが、本気で心配してすでに泣き出しているシドをとりあえず安心させるようにして、ポンポンと軽く頭を撫ぜる。
「シド。ゴメンな。本当大丈夫だからさ・・・・。」
自分の中の邪な欲望の引き起こした自業自得さを流石に口に出す気にはなれず、バドはとりあえず勿体無いけれどと、心の中で溜息を吐いて、ベッドの下の引き出しの中から自分には少し大きめなシャツを取り出して、エプロン姿のシドに羽織らせる。
「お前こそそんな格好で何時までもいたら風邪引くだろ?俺を心配するのはいいけど、お前も俺に心配かけんなよな?」
さっきまでのへたれた風体はどこへやら、すっかりとこちらのペースへと引き戻し、自分を命の危機に曝していた天然でいて魔性の仔兎妻の艶姿を包み隠す虎の皮を被った紳士な旦那様。
「兄さん・・・・・。」
ぎゅっと、兄の匂いに包まれているシャツを愛おしそうに両手で包み込みながら、取り乱してしまってごめんなさいと、こつんと座ったままでいる自分の胸に頭を預けてくる弟を今度は躊躇い無くぎゅっと抱きしめる兄。




と、しばらくそうして居たかったのだが、白夜であろうと夏であろうと時間は平等に過ぎていくもので・・・。

「∑;しまった!もう時間だーーっ!!」
「あ、兄さんっ、これ作ったからちゃんと食べて下さいねーーっ!!」
がばっと身体を引き離し、あたふたと慌てふためいて衣服を整えて飛び出していく兄旦那に、弟妻はとりあえずエプロンを外して兄の白いシャツ+ハーフパンツと言う少しだけ艶めかしさを残す姿でランチボックスに入れた二食を手渡す。
「おう!そんじゃ行ってくる。」
受け取った愛弟弁当を片手に挙げて、今日は本当に時間が無いからとうっかりと惑わされたシドの白い頬に軽くキスを落とすと、少しだけ不満そうになった弟の顔を見逃さず、その耳元で続きは今夜もしてやるからなvとそっと囁いて駆け出していく。

そんな兄に反論する暇もなく、、あんぐりと口を開けたまま顔を真っ赤に染めたシドは、いつもの様に行ってらっしゃいと片手をふるふると降り続ける事も忘れ、バドの後ろ姿が見えなくなってからようやく我に帰り、今日一日の家事に取り掛かり始めようと動き始めだす。

「それにしても・・・どうして鼻血なんか出したんだろう・・・・・?」
パタパタとはたきを掛けて、今度は床を雑巾掛けをしながら、頭にほっかむりの要領で巻いたバンダナを首の後ろに結んだシドが、少しだけ汗ばんだ自分の額を拭いながら、やっぱり暑いからかなぁと一人ごちる。

とりあえず・・・・、ふむ、と思案するように立ち上がったシドは、テーブルの上に置かれている、市街地へ買い物ついでに立ち寄る図書館で借りてきた料理ブックを手に取って眺めながらぱらぱらと捲るが、数秒しないうちにパタンと閉じて、もう一度テーブルの上に戻す。

「夏バテに効く料理が載っている本を借りてこよう。」
小悪魔的魅力を持ち何時もバドを惑わせて入るが、根はどこまでも兄旦那にとことん尽す奥ゆかしい本質を持つ新妻。
だが。
肝心な原因は未だに判っていない、筒抜けに天然系な部分が、某所にて彼を災難に追いやることになろうなどとは、勿論この場所の彼も気がつくことは無かったのだった。




戻ります。