「はい、ハーゲン。お誕生日おめでとうv」
花咲き乱れる翠織り成す夏の空、惜しげもなく陽の光も、恋人・・・になるには躊躇しつつある、それでも幸せそうな若い二人の下へ降り注ぎ、青い空はそんな二人を大らかに笑うかのごとく碧く澄み切っている。
「そ、そんなフレア様・・・なんと勿体無い・・・!」
手渡された包みを震えながら壊れ物を扱うように受け取る、褐色の肌の幼馴染をいたずらっぽそうな笑みで見上るフレアに、ハーゲンの心は、今日自分の生まれた頃の季節よりも更なる常夏パラダイスに到着していた。
柔らかな少し大きめな包みがフレア好みの可愛らしく淡い桃色の包装紙とディープピンクのリボンが四方からかけられている。
ほんの少しだけ、彼女がそういう作業に不慣れだと物語っている折り目が目に付くものの、長い間憧れ以上の感情を抱いてきたハーゲンにとってはそんなものは無問題。
幼い頃はこの花畑でお互いに花冠を交換し合い、そして時には指輪もセットにしてお互いに指にはめ合って、無邪気に結婚しましょうねvハーゲンvと惜しげもなく太陽の様な笑顔を見せながら言われたその発言に、褐色の肌、そして心が何度焼け焦げそうになりながら、めめめめめ滅相も御座いません、と頭を振りながら後ずさったか知れない。
幼い頃からこんな調子で、ハーゲンはフレアの従者であり騎士であり、己の立場を弁えようと何度も何度も言い聞かせながら、一線を引いてフレアに接していたが、フレアはそんな彼が立てる壁を軽々と飛び越えてずっと一緒にいれたらいいねと無邪気にハーゲンに囁きかけてはいたが、ここ数年、無垢な少女の純粋な願いは、ほんの少しだけ彩を変え始めてきた。
それは先の聖戦での二人のすれ違いが齎した爪痕が原因でもあったが、それは今は幼馴染以上でしかなかった彼らの関係を段々と高めていくきっかけでもあったから、それについては二人は贖罪を口に出す事は無かった・・と言うよりもフレアが顔を突き合わせるたびに土下座どころか切腹しそうな勢いのハーゲンに対し『これ以上謝ったら絶交ですわよ!!』と、きっぱりと断言したわけだが、フレアにとっては傷痕を舐めあうように謝られるよりも、こうして少しずつ関係を良好させて、もう二度と彼を失う過ちを犯さないようにする自分自身の戒めの意味も込めてのことだった。

そして聖戦の傷痕が少しずつ癒え始め、アスガルドも閉鎖的な王国などではなく、女神の支援を受けて徐々にだが本当の意味で平和で豊かな国になりつつなっていく最中で迎えた、大切な彼の誕生日。
「ねぇ、ハーゲン。この場で開けて見て?」
今まで一緒に祝ってきた中でもこれほど心の浮き立つバースデーは他に無いと、フレアは高鳴る胸を押さえながらも、まだ感激に浸っているハーゲンに幼い頃の花冠・花指輪の交換の様にすぐに彼に着けて欲しいと先を促す。
「え、あ・・はい。」
ハーゲンにしてみれば、ぜひ部屋に帰ってからゆっくりと彼女への想いに浸りながらその贈り物を三日三晩拝むように眺めたい気持ちはあったものの、基本的にはフレアのそうしたお願いには逆らう事は出来ないので、細心の注意を払いながら今しがたフレアがくれたまた一つ年と共に増えた宝物を広げていく。

はずだった。

「・・・・・・あの、フレア様・・・?」
「なぁに?ハーゲン?」
しかしそれまで幸せに浸っていたハーゲンが、フレアがくれた贈り物を見るや否や、先ほどの甘酸っぱいまでの浸りはどこへやら、普段は三白眼でフレア以外にはキツイ印象を与える目元は、今は誰がどう見ても点になっており、半開きの唇から思わずポカーンと発していそうなハーゲンをフレアはにこにこと先ほどと変わらない様子で見上げている。
彼の腕の中にある、今年の贈り物・・・それは、ミッドナイトブルーに染められた学生服上下、そしてドウランとブラックの眉墨が入っており、一目見ただけでは一体これを何に使うのか判らずに、未だにポカーン状態のハーゲンに、フレアはうっとりと・・・今までに無いくらいに夢見心地で語りだす。
「ふふ・・・コピーバンドの元ドラムスコなあなたも素敵だったけど、この方こそあなた以外に右に出る方なんていないわv」
「いや、あの…それはどちら様ですか?」
「この方よ!!」
そう言って、びしぃっと突き出すように差し出された一枚のブロマイド写真に写っていた者。


それを見たハーゲンは、今度こそ自分の両目が本気で吹っ飛ぶ感覚に襲われた。
そこに映っていたのは、むしろ自分の方がオリジナル?え、俺いつこんなに肌白くなった?眉毛がこんなに細くなった??つか、いつこんな写真撮らせたんだっけ・・?と見紛う一人のおかっぱ金髪のイケメンな若者が、ミッドナイトブルーの学ランに身を包み、顎に片手を添えたカメラ目線のキメッキメポーズで映っていた。

「女神から勧められて聴いてみたのv音楽も勿論素晴らしいですけど、こちらの方を見て胸が高鳴ったわ・・・v」

ああ、フレア様・・・!
お願いです、どうかこの先は仰らないで下さい。
あの聖戦の事をまだお恨みでしたら、今すぐに贖いますからどうか、あのころの様に純粋で清らかな・・・余計な知識が無かったころのあなたに戻って下さいぃぃぃぃ・・・・!!


「ね、ハーゲン。ぜひ着てみてv」
「・・・・・ハイ(涙)」
切々と心の中で咽び泣くハーゲンを余所に、目の前のフレアの瞳はは完っ璧に、ハーゲンを通じたそっくりさんへ向けてのハートマークが舞っている。
そんなフレアのたっての頼みを嫌とはもはや言えないほどに刷り込まれた今まで築き上げてきたこの立場を、この関係を、そして某聖域の連中をこの時ばかりはハーゲンは心底真剣に呪ったという。






前半:少年25秒/キボウ屋本舗
後半:大問題!されど快晴/グルグル映画館