「で…?」 「頼む、アイツの好きそうなもの片っ端から教えてくれ」 「あんた、切羽詰まった声で呼びだしておきながら、用件それかよぉおお」 ぱんっ、と両手を前に合わせて頭を下げる猗窩座に対し、ファミレスに呼びだされた妓夫太郎はどこまでも冷ややかな顔で彼を見る。 「…って言ってもなぁあ」 痩せの大食いのタイプの妓夫太郎は席に着くなりとりあえず目についたものを片っ端から注文し終え、”昔”は関わり合うことを避けていた、恩人の他称親友現恋人の相談に耳を傾けてやる。 「あの人、あんたの知ってる通り、物欲はないだろぉぉ」 「そうなんだよぉおお~…」 サーロインステーキセットと一緒に注文したサラダバーから持ってきたサラダとコーンスープとカレーをもりもり食べながら妓夫太郎がそう言えば、猗窩座もまた彼の口調を真似たように参ったと言わんばかりに頭を下げた。 「アイツ、何を聞いたって、俺といられればそれでいいとしか言わないんだ」 「…惚気かよおお」 「惚気じゃなくて事実なんだがなああああ」 「その喋り方止めろ。見ている方が混乱する」 「お前こそな、メタ発言は止めろ」 自分の分はコーヒーで済ませながら、やってきたサーロインステーキセットをものすごい勢いで食べていく妓夫太郎に流石アイツの養い子だとココだけの話猗窩座は思う。 「いや、本当に探りを入れても直接聞いても『猗窩座殿が一緒にいて誕生日おめでとうって言ってくれるだけでいいんだ』としか言わないんだ!!何だあいつ菩薩かよ知ってた!!」 「…まあ童磨さんがそう言うなら、あんたがプレゼントになったらどうだ?」 「あ?」 「全身ラッピングして”俺がプレゼントだ♡”とでも言えば、よろこぶんじゃねえかぁああ…たぶん」 「お前肩震えてるぞ思いっきり他人事だなコラ」 「他人事だからなぁあああ」 にやにや笑う元上弦の陸とそれを面白くなさそうに見る元上弦の参。 しかし周囲の人間から見ると、片や派手なピンクの髪のあどけない顔をした青年の恋バナに、片やどこか凄みを感じさせる雰囲気を持つ痩せぎすの青年が相談に乗っている構図にしか見えなかった。 ずいぶん奇妙な組み合わせだとは思いはしつつも、このご時世だ。意外な接点がある者同士がつるんでもなにもおかしくはないと、周囲の人間はそれぞれのコミュニティに戻っていき、それ以上の詮索は止めた。 そんな周囲の視線にはもちろん気づかずさして妓夫太郎からアドバイスらしいアドバイスを貰えずに、結局彼の妹のテイクアウトの分まで飯をおごらされる成果しか得られなかった猗窩座は、ブラブラと帰り道を歩いていた。 せっかく童磨の誕生日なのだから、彼の好きそうなものを見繕って贈りたい。そのためには周りくどい言葉ではなくキチンと尋ねたのだ。 すると返ってきた言葉は妓夫太郎に愚痴った通り、『猗窩座殿と一緒にいられるだけで充分だよ』とそれはそれは幸せそうに笑いながら言うのだ。 健気すぎるし嬉しく思わないわけではない。だがそれと同時、百年以上共にいたのにそんな言葉を本気で言わせる原因は自分にあるのだと罪悪感に胸が痛む。 (だからこそ、だ) 道すがらのショーウインドウを覗き込んだり、生活雑貨品を見てみたりしても、童磨が喜びそうな物はこれといって見つからない。 そもそも昔、彼は欲しがっていた感情以外のものは全て持っていた。地位も金も美貌も兼ね備えていた。しかもそれは他人から見れば喉から手が出るほど欲しい物だとしても、本人が心から欲しかったものではないのだから贈られても困ると言った心情だろう。 そこまで考えた時猗窩座の足がピタリと止まる。 「何を、しているんだろうかな…俺は…」 そう言いながら自嘲する。そんな童磨が唯一口にするほど心から欲しいものなんて最初から分かっていたではないか。 そうと決まれば後は腹を括るだけだと、猗窩座はきょろきょろとしながら目的の店を探索する。やがて見つかった店へと入っていった彼は目当ての物を見繕って当日に予約したついでに、もう一つ”ある物”を多目に貰えるように取り計らったのだった。 *** そんなわけで迎えた誕生日。 「童磨、誕生日おめでとう」 「あ、りがとう…?」 明らかに戸惑いを隠せないでいる恋人が、8㎝上から自分を見つめているのが分かる。 猗窩座は結局妓夫太郎の案を採用し、首にリボンを巻き、尚且つ手には青と黄色の蕾が付いた鉢植えを抱えていた。 「え、えーと」 さすがの童磨も狼狽える。嬉しくないわけではないが、あの猗窩座が首にリボンを巻いて立っていて誕生日おめでとうと言うこの状況は一体なんなのかと言う気持ちが先立ち素直に喜べない。 そんな童磨の疑問を解消すべく、色々と吹っ切れた猗窩座はきちんと恋人に種明かしをする。 「お前、俺と一緒にいられるのが嬉しいって言ってただろう?」 「あ、それで…」 なるほどねーと、理由が分かり納得したのと同時、自分のためにそんな仕掛けを施した猗窩座の気持ちが嬉しくてつい思わず顔がほころんでしまう。 「でもその鉢植えは?」 プレゼントは俺だというのならその鉢植えはオプションなのかな?と首を傾げた童磨に、猗窩座はふっと笑いかけながら更なる種明かしを続行する。 「ヒヤシンスだ。花言葉は”変わらぬ愛”、”お前となら幸せ”という意味を持つ」 「え…っ」 思わず童磨の顔がさっと赤らむ。猗窩座から毎日のように伝えられるまっすぐな愛の言葉は飄々と受け止めているように見えて、実は紡がれるたびに童磨の心を正確に射貫く。 「ついでに言えば俺の髪の色の花言葉は”お前しか見えない”。俺の瞳の色は”お前だけ見つめている”という意味だ」 「ちょ…っ」 そう、妓夫太郎にアドバイスを求めた帰り道、猗窩座が目に入ったのは花屋のポスターだった。 その日はちょうど求婚の日だったらしく、プロポーズに相応しい花を紹介していたのだが、奇しくも童磨が猗窩座の髪の色をブーゲンビリアに例えたこと、そして向日葵の色合いが自分の瞳に似ていることに気づいたため、そのままその花屋で恋人への贈り物に相応しい花を見繕ってもらったのだ。 ちなみに花束にせずに鉢植えにしたのは、以前童磨が『花はもらって嬉しいけれど、枯れたときにとても申し訳ない気持ちになるんだよなぁ…』と困った顔をしていたのを覚えていたからだ。そしてもう一つ、未だどこかふわふわとしている童磨を自分の下にがっつりと根付かせたいという猗窩座の愛の重さ…否…深さ故でもある。 「…誕生日、おめでとう。童磨」 「…猗窩座殿…」 「…生まれてきてくれて…俺と出会ってくれて…俺を覚えていてくれて、ありがとう」 感極まってしまいポロリと涙をこぼす猗窩座の目尻に童磨はそっと口づける。 いつも猗窩座がしてくれるように、唇で涙をぬぐう。 「…嬉しい、猗窩座殿…嬉しいよ…」 「本当か?」 「うん…、大好きな猗窩座殿が色んな意味を込めて、俺を想って選んでくれたんだもの…。嬉しくないわけがないのに…どうしよう…」 ────…嬉しすぎて、たまらなくて泣きたくなる。 今度は童磨の虹色の瞳からぽろぽろと涙が零れおちる。 お返しだと言わんばかりに、猗窩座は慣れた様子で童磨の目尻に唇を落とし、そのままちゅ、と吸い上げていく。 「ふふ、猗窩座殿は俺を泣き止ませるのがうまいなぁ」 「お前を何時も啼かせているからな」 にやりと笑う猗窩座の言わんとすることに思い当たった童磨は、もぅ助平なんだから…と少し頬を膨らませて苦笑する。 「このお花、大切に育てるからね?」 そっと猗窩座から受け取ったヒヤシンスの鉢植えをまるで宝物のように胸に抱き寄せた童磨を猗窩座がすかさず抱きしめる。 「もちろんだ…と言いたいところだが、俺も一緒に育てたいんだが、ダメか?」 身長が低いのを思いっきり利用して、ワザと強請りかける表情で見上げる猗窩座に、相変わらずずるいなぁと思いながら童磨は微笑みかける。 「ダメなわけないじゃないか…。猗窩座殿は本当に自分の魅力を最大限に利用するなぁ」 「お前を引き留めるためなら何だってするぞ」 ニヤリと笑う猗窩座に本当にこの人は…とホワホワした気持ちを抱きながら、リボンを巻いて共に自分といると言い切る男前で可愛い恋人からの祝いのキスと愛のカタチを童磨は幸せな気持ちで受け入れたのだった。 後日、猗窩座から妓夫太郎の下に『癪に障るがお前のアドバイスで童磨の誕生日を無事祝えた。これはほんの礼だ』という一文と共に、たくさん咲かせたヒヤシンスの生花が届く。折角だから食えるもん寄越せよなぁと妓夫太郎は思わないでもなかったが妹が殊の外喜んだので、まあいいかと思いながら世話をする日々を送っている。更に猗窩座からのプレゼントがきっかけでガーデニングから家庭菜園に目覚めた童磨から作り過ぎた野菜や果物のお裾分けが届くようになったため、謝花兄妹が野菜に不自由しない生活を送ることになるのはそれから約半年後のことだった。 ←どまとうめちゃん 元ネタ1:『童磨の誕生祝いに何を贈ればよいかわからず、足繁く店に通ったり周囲に相談したりといつになく必死な猗窩座 』推しカプシチュガチャより 元ネタ2:『花は好きだけど枯れた後の処分に困っているどまさんを見たことがあるので、花はめったに贈らない猗窩座殿。』こんな感じの二人くださいなより 座殿と妓夫太郎君のお話。この二人はやっぱりどまさんを巡って色々複雑な感情があると思うんですよね。 それでも妓夫太郎君は恩人であるどまさんがちゃんと向き合って座殿を選んだとなれば渋々ながら認めるとは思うんです♪ただし泣かせた場合はケツの毛までむしる勢いで取り立てに行く所存w ちなみにの話を思いついたのは確か1月下旬ごろで、1月27日が求婚の日であることを知り、求婚に贈る花を調べていたら「うちの座殿の髪や瞳のカラーリングってまさにどまさんに求婚するのにふさわしいじゃん!」ってなって書き殴っていましたw そこからガチャを回しまくって遊んでいたら、先述した三つのお題が出てきたので、これは今日にアップするほかないなと思い、密かに温め続けておりましたw しかし今のどまさんの場合、マジでお花を贈られるよりも野菜の種を送られた方がすごい喜びそうですし、何なら庭付きの古家や余っている土地もセットで贈ったらそれこそ大はしゃぎしそうな気がしますw 別に都内にこだわる必要もないんだよね。土地は余りまくっているところにはあるし値段も馬鹿高くないので、住んでたマンションは謝花兄妹に引き渡して猗窩童はサクッと自給自足生活ができる大地に移住して来ればいいと思うと、北の大地民のあかど馬鹿の私はそう思う次第ですw |