「これは…、今日は無理そうかなぁ…」 無情にも霙交じりの暴風雨に見舞われたお花見デート当日。童磨が窓の外を打ち付ける風と雨を見ながらぼんやりとぼやく。 「折角お弁当用意したんだけど…お昼と夕食に食べればいいよね」 前日から猗窩座と一緒に下拵えをして腕を振るって用意した、気合が入り過ぎるほどのお花見用のお弁当はテーブルの上に出しておいた重箱に詰め込む予定だったが、この天候なので無用の長物となってしまった。だがおうちデートに予定を変更しても、気分を変えるためには重箱に詰め込むのもいいかもしれないなぁという思いを抱きながら、童磨は未だ呆然としたまま窓の外を眺めている恋人に声をかけた。 「猗窩座殿ー、そろそろ現実を見ようよー」 「何故だどうして何故だ俺と童磨が屋外デートをするときに限って急に雨風が強くなる俺が何をした俺が雨男なのかこれも前世の報いなのか」 「うーん、前世云々関係ないと思うけどなぁ。春も秋ほどじゃないけれど天気が変わりやすいし」 寝間着のままソファの上で膝を抱えたまま毛布をかぶる猗窩座に童磨は苦笑しながら答えるが、彼の耳にはきっと届いていない。 そう、猗窩座がいうように童磨と共に屋外デートを計画すると、一週間予報ではバッチリ天気に問題はないはずなのに、なぜか前日にいきなり天候が変わるのだ。 十中八九それが原因で流れてしまった屋外デートも数知れず。なので二人のデートは必然的に室内で楽しめるタイプのものになっていった。 だが桜前線の到来により、仕事の行き帰りに歩いているうちに、思いっきり童磨とお花見をしたいという気持ちが猗窩座の胸にふつふつと湧き出てきた。 思い切って童磨にお花見デートを持ちかけたところ、猗窩座殿がやりたいなら俺は付き合うよと快諾してくれたので、当日晴れるようにと片っ端からネットで調べて晴れる方法を綿密に実践したが結果は御覧の通り。 もう自分たちは今生ではこういう星の下に生まれたのだと割り切ることも必要かもなと思考を切り替えた童磨は、あ、と声を上げてソファの上に乗りあげた。 「ね、猗窩座殿…」 「この不甲斐ない男に何の用だ…」 思いの外重症な恋人にさしもの童磨も苦笑する。 「お花見ならここでもできるぜ?」 「?」 「ほら、ここに鮮やかな”花”があるだろう?」 ひっかぶっていた毛布をはがせば、情熱的な意味を持つ花言葉のブーゲンビリア色の猗窩座の髪が露となった。ポカンとする猗窩座の髪に、柔らかなキスが落とされる。 「俺はこの”花”だけで十分だよ」 ちゅ、ちゅ、と髪からこめかみに、そして頬に。慈しみを込めて童磨は唇を落としていく。 「ん…っ」 そうして最後に口元へキスをしようとした童磨だが、重ね合わせる前に猗窩座によって塞がれる。 ざあざあ、びゅうびゅうといううるさいはずの雨風の音は、互いの舌を絡め合わせる音ととってかわっていく。 「…は…っ」 息が続くまで唇を重ね合わせていて、どちらからともなく息継ぎのために唇を離せば、つ…と煌めく銀糸が儚く二人を繋いで消える。 「お前ばかり花見をして不公平ではないか?」 とさり、と猗窩座が童磨の身体をゆったりとしたソファに押し倒す。いつもの調子が戻ってきた猗窩座の顔はニヤリ、と少しだけ悪どく笑っている。 「ふふ、そうだなぁ…。だったらまた…」 ────…俺に”花”を咲かせればいいんじゃないかい? 蠱惑的に動いた童磨の口唇から漏れ落ちた魅力的な提案に乗らない理由はないと言わんばかりに、猗窩座の手が童磨の衣服をゆっくりはいでいく。 露になっていく滑らかな肌は、うっすらと消えかけている”花”の名残がある。 「たくさん、”お花見”しようね、猗窩座殿……」 するりと童磨の手が猗窩座の”花”に触れて、そっと抱きしめる。その手の動きに倣うように猗窩座もまた雪原の如くの童磨の素肌に、淫靡で赤い”花”を咲かせていった。 |