「我慢しないで出せばいい」
そう言いながら猗窩座の掌が童磨の髪に優しく触れながら耳元で囁きかける。
「っ、でも…っ、ふ…ぅ」
「俺の前では全部さらけ出せばいい。むしろ曝け出してほしいんだ」
だめか? と小さくささめかれた童磨の身体がぴくりと震える。
こんなの、何度経験しても慣れない。たまにやってくるから、感覚がなかなかつかめないし質が悪い。
どうしても出したくて仕方がない。なのに、出せない。
「だめ、だよ…、出ない……んだ…」
「じゃあ、お前が出すまでずっとこうしてるから」
そう言いながら猗窩座の両腕が童磨の背中に回り、ぎゅっと抱きしめにかかる。
自分よりも小柄なはずなのに自分に触れるその腕はとても大きくて温かく感じてしまう。彼の肩に顔を乗せればぽんぽん、と優しく背中を撫ぜられて、出そうで出なかったそれがようやく彼の中から少しずつ決壊していった。
「ぅ……っ、ふ…~~っ!」
ポロポロ、ポロポロと、虹色の瞳からは熱い雫が押し出されていく。
「ようやく、泣けたな…」
ホッとしたような、満足げな猗窩座の声が耳に入り、童磨はますますぎゅっと彼にしがみつく。
「あかざどのが、泣かせたんだろう…?」
まるで鉛でも詰まっていたかのような心や胸が少しずつ解きほぐされていく。
加えて猗窩座の掌や腕、声から伝わる優しさや温かさがゆるやかに童磨の心のどろりとした部分を取り除いていく。
「そうだ、お前を色んな意味で泣かせることができるのは俺だけだからな」
「ふはっ、確かにそうだな」
ふとした瞬間、特に辛いことも悲しいこともないはずなのに、なぜか涙腺と胸が詰まったような感覚に襲われている童磨に猗窩座が気付いたのは、ひとえに愛の成せる業だった。
”昔”と比べて今は感情があるにせよ、どうしてこんな気持ちになるのかが分からないと、今にも泣き出しそうな顔をして戸惑う童磨の身体を抱き寄せてあやしながら、自分の胸で思い切り泣かせてやるのも、猗窩座の大切なルーティンの一つだ。
す、と猗窩座が童磨の目尻に唇を近づけて、その涙を吸い上げる。
「しょっぱい」
「うん、涙だもんそりゃね」
そう言いつつ、まるで甘露でも飲み干すように猗窩座はちゅ、ちゅ、と繰り返し童磨の目尻に口づける。
「くすぐったい」
「そりゃそうだろ」
笑いながらそう話す猗窩座に、そこでしゃべらないでと童磨も笑う。
「猗窩座殿はやっぱりすごいなぁ」
今度は童磨が猗窩座をぎゅっと抱きしめる。必然的に豊満で温かな胸に顔を埋める羽目になるので、これ幸いとその感触と役得をこっそり楽しむのも猗窩座の大切なルーティンの一つだった。
「何がだ?」
「俺の気持ちをあっという間に掬い上げてくれる術を知っている。そのたびに俺はまたあなたに気持ちを奪われていってしまっている」
俺はあなたに永遠に恋をしっぱなしだと頭上で笑う童磨に、猗窩座の胸は素直にぎゅんっと高鳴った。
きっとその笑みはとても綺麗で何度見ても見惚れるそれなのだろう。だけど今は顔を上げられない。こんな真っ赤で締まりのない顔を見せるのは格好がつかない。
「あかざどの」
だがそんな自分に追い打ちをかけるように、耳元で童磨が柔らかく名前を呼ぶ。
「今度は目尻じゃなくて別のところにキスしてほしい」
ちゅ、と耳元に唇を落としながら、そんなことを囁かれて何もしないのは無作法というものだ。
「どこに欲しいんだ?」
そっとその体を座っていたベッドに押し倒しながら、猗窩座は向日葵色の瞳に情欲を灯しながら問う。
我ながら現金だと思う。だが我欲もまた薄いところがある恋人から、そんな風に求められて断れる男がいたらお目にかかりたい。
「…頬に、唇に…、それから…」
────…あなたの望むところ、全部に。
一つずつ童磨の指がリクエストの箇所をたどっていく。最後にシャツにかけられた手をやんわりと止めて、猗窩座は童磨の服のボタンを一つずつ外し始めた。
「お安い御用だ」
「ふふ、期待してるよ」
あかざどの、という言葉はゆるやかに重ね合わされた唇の中へと吸い込まれていく。
涙に濡れている童磨の瞳はひとたび幸福の最中でゆっくりと閉じられ、その数分後には猗窩座にもたらされる歓びによって甘い涙で濡れそぼつことになる。
BGM:水色の涙(羅宇屋)
鬼時代の頃は出来ていたことが、人として生きる彼にとっては難しいけど、支えてくれる人がいるなら幸福だよねという話。
うちのどまさんは現パロでは割と感情が豊かな方なのですが、そうなると泣きそうなのに泣けないという感覚に戸惑うなぁと思いまして。
そんなどまさんを泣かせてあげるのは彼の涙を吸い上げると誓った座殿の役目だと改めて思います。
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