未だに俺はこの夢を見るとき、今度こそ永遠に目が覚めないのかもしれないと感じてしまう。
夢の中の俺はどこまでもどこまでも首のまんまで堕ちていく。あ、コレ、久しぶりだなぁなんて毎回夢に見るたび何故か感慨深く思いながら、ただただひたすらに堕ちていって。
その間、様々な声が聞こえた。
『あなた、何のために生まれてきたの?』
『とっととくたばれクソ野郎』
『嘘つき!』
『ああ、お許しください教祖様』
『お救い下さい教祖様』
『教祖様』
『教祖様』
記憶に新しい声やどこか懐かしい声を耳にするうち、俺は何もかもどうでも良くなってくる。
目覚めれば教祖としての俺がいて。
目覚めなければやることなすことすべて否定される俺がいて。
起きても起きなくても待つのは無限に続く生き地獄。
だって受け止めてくれた手がここにはない。
堕ち続けている中で閉じた目を開いて見渡して、どんなに待っていても、あなたの姿は影も形もなくて。
どこにいるの、猗窩座殿。
呼びかけたくても声は出ない。何度も何度もあなたの名前を呼ぼうとしても、擦れた息すら出てこなくて。
───…ああ、今度こそもうダメなのかなぁ。
落胆、諦め、投げやり、無気力感。
そうか、もうどうだっていいんだ。
大体俺には何もないし、そもそも俺という〝個〟は望まれなかったのだから。
「童磨」
「…ぁ、…」
「おはよう」
「ぅん、…ぉ、はよぅ」
この夢は何の前触れもなく唐突に終わる。、これが夢だと強く自覚することと『ああ、もうそろそろ終わるなぁ』と漠然とした感覚を持って夢から醒めるとよく聞くが、この夢に限っては本当に何の前触れもなく終わるのだ。
そして決まって猗窩座殿の顔を最初に見ることになる。その度に俺はああまた死に損なったとも思うし、あなたのところに戻ってこれたという安堵感を覚える。
「ごめん、寝坊した?」
「そんなことはない。俺が早く起きすぎただけだ」
「そっか…、朝、何食べたい?」
「朝トレついでに美味そうなパン屋があったからそこで買ってきたぞ」
少しがさりとした手が俺の頬に優しく触れながら、エコバックを持ちあげて笑う猗窩座殿を見て、心がほわりと温まる。
「ありがとう猗窩座殿」
「なんの。お安い御用だ」
笑いかけてくる無防備な顔。他愛のないやり取り。
これから先、もっともっとあなたと交わしていきたいと心から想う。
「ねぇ、猗窩座殿…」
「ん? おかずなら俺が作るからお前はもう少し寝てても」
たかが夢、されど夢。夢は今までの記憶を整理するために見せるものだと聞くから気にするだけ無駄なのだけども。
こちらを振り返った猗窩座殿のルームウェアの上着を思わずきゅっと掴みながら、自分でも情けないほどのか細い声で願ってしまった。
「…これからも、俺を目覚めさせる理由になって」
あなたの手がどこにもない、かつての記憶の中に俺が諦めてしまわないように。
聞こえていないと思っていた俺の声は耳ざとい猗窩座殿に聞こえてしまったのだろう。
彼によって息もできないほどきつく抱き留められたのはそれから刹那のことだった。
鬼時代ならともかく今生では感情が芽生えているどまさんなので、今まで感じてこなかった不安定な部分も感じることになって内心混乱すると思います。
ただそれをしっかり支えられるだけの力は座殿にはあると思います。こういう部分はめっちゃ強いと思う彼は。
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