2022年2月22日の猗窩童

「ん…?」
明け方、童磨は不意に息苦しさを覚えて目を醒ました。
仰向けに眠っている自分の上に何かが乗っている感覚。耳をすませばスースーと聞こえてくる寝息。
なんだろうなんだろうと軽く体を起こそうとするも、鎖骨の下までガッツリその何かに支配されてそれすらもままならない。なのでまずは視界から状況を把握しようとしっかり虹色の瞳を開けて見れば、まず飛び込んできたのは鮮やかなブーゲンビリアの髪の色。
「…あかざどの…」
思わず童磨は呆れたように名前を呼ぶ。自分の上に乗っかかってすやすやと眠る彼は、確か昨晩は残業だと言っていた。仕事上のトラブルがあり日付が変わる前に帰れるかどうかと切羽詰まった様子で電話をしてきたのだ。
LI〇Eでもよかったのにと思わなくもなかったが、お前の声を聞いて激務も乗り切れそうだと甘やかな声で言われて、思わず胸がほわりと温まった。
俺のことを待たなくていいから先に眠っていろと言われたのでお言葉に甘えて、いつもは二人で眠っているベッドに横たわったのが、日付を少し回った頃だった。
ここまで思い出した童磨は改めて自分の上にいる猗窩座をまじまじと観察する。
ブーゲンビリア色の髪に触れると辛うじて乾いてはいるがところどころ湿っている。そして一応寝間着は身に付けてはいるが身体の上には何もかかっていないので、もうほとんど無意識のうちに帰ってきてシャワーを浴びて寝室にやってきたところで精魂が尽きてしまったのだろう。
一応エアコンを入れているとはいえそのまま床で眠れば風邪ひくことは間違いない。疲れ切ってしまった身体を最後の最後まで引きずって効率的に温かいところを探し求めた結果が自分の体の上なのだろう。
一方的に肉布団にされてしまった感は否めないが怒ることでもない。むしろ疲れ果てていても自分がの身体が温かいと認識されるほど一緒にいたという事実にとくとくと温かなもので満たされている。
「…あかざどの、あかざどの、ごめん。どいて」
「んー…」
とはいってもきちんと布団で寝かせなければ疲れは取れない。一応今日は祝日だが休日出勤ということもあるので、朝食も用意しなければならない。だからどのみち猗窩座を自分の上から退かせる必要があるのだが、完全に寝入ってしまっている猗窩座はいやいやとむずがるように童磨の胸の上に頭を擦りつけた。
「ちょ、もぅ、あかざ殿…っ」
「んー、どぅまぁ…」
微かな猗窩座の声が聞こえてくる。童磨の位置からはまるで猫の耳のように寝癖が付いてしまった猗窩座の髪しか見えないが、声の調子からしてにへらと締まりのない表情をしているのだろう。いつもなら隣に眠っていてそんな表情も余すところなく観察できるのに、今日はそれがままならないのが少しつまらない。
「…俺、起きたいんだけど」
「んー…」
「朝ごはん、作りたいんだけど…」
「んんー…」
「あかざどのー?」
何か言うたびにコロコロと頭を童磨の胸に猗窩座は擦りつける。その姿はまるで退かせても退かせても自分がこうと決めた場所には意地でもキープする猫のようだ。
「…俺の可愛くてカッコいい猫さん。お願いだから顔を見せておくれ」
少しだけ揶揄い交じりにそう言えば、コロコロと動いていた猗窩座の頭がぴたりと止まる。
「…誰が猫だ…と言いたいところだが、そう言われてしまえば仕方がないな」
そう言いながら今まで寝ていたとは思えない勢いでばっと顔を上げた猗窩座は確かに数分前から起きていたと分かるそれだっだ。
「もぅ、きちんと布団をかけて寝ないと風邪ひいちゃうよ?」
童磨の手が猫の耳のように立ってしまっているブーゲンビリア色の髪を撫でつけるように触れれば、もっとやれと言わんばかりの表情で猗窩座は掌に頭を擦りつけてきた。
「心配ない、お前の身体は温かくて柔らかいからな」
ひとしきり童磨の掌に撫でられる心地よさを堪能したのか、ずい、と顔を近づけてきて、そのまま鼻先にちゅっと唇を落としてきた。
「ひゃっ」
唇にキスをされるのかと思っていただけに、意外なところにキスをされて思わず童磨は小さく悲鳴を上げる。その声を聞いた猗窩座は思わず向日葵色の瞳を驚きに見開いたが、すぐにニヤリと悪戯めいた表情に変わった。
「そうかそうか、お前はここが弱点なのか」
「ぁ、ぃゃ、ちょ…そこ、くすぐったぃってばぁ…」
前足を伸ばしたスフィンクス座りをした猫がまるで濡れた鼻先を押し付けるように、ちゅっちゅっと角度を変えて何度も何度も口づけてやる。時折舌先をちょいちょいと突き出してぺろりと舐めあげれば、未知なる感覚にかすかに身もだえる仕草がたまらない。
「も、これ以上はダメ…!」
ばっと顔の前にストップと降参の意味を込めた両手を突き出され、猗窩座は大人しく引き下がる。流石にこれ以上続行すれば朝から息子が元気になり、今度は童磨がネコになってにゃんにゃん可愛く鳴く未来が目に見えているからだ。
それはそれで美味しいが、今はもうちょっとだけ童磨の豊満な身体の温かさをじんわりと全身で体感したい気持ちの方が強い。
「ん、分かった。ただあともう少しだけこのままでいさせてくれないか?」
再び甘えるように猗窩座は童磨の胸に顔を埋めてお願いするようにすりすりと額を擦りつける。
「ん…っ、仕方ないなぁ。あと一時間だからね?」
随分と可愛らしいおねだりをする恋人の頼みを許可した童磨は、猗窩座の髪に手を添えてよしよしとゆっくり優しく撫でながら、背中も優しくさすってやる。
まるで猫を可愛がるような手つきに加え、あまりにも柔らかく温かく気持ちがよすぎる童磨の身体に猗窩座の意識は三秒も持たずに再び眠りへと落ちていく。
すやぁと寝入ってしまった猗窩座に本当に猫みたいだなぁと思いながらも、小さく聞こえてくる寝息に童磨の瞼もだんだんと微睡みに誘われて閉じられていく。

結局二人が起きたのは、窓の外から燦燦と日差しが入り込んでくる昼過ぎだった。
寝すぎて少しだるかったためブランチは簡単に済ませた猗窩座と童磨は、残りの休日の時間も猫のようにくっつきながら仲良く過ごしたのだった。

余談ではあるがこの日以降猗窩座は童磨の身体の上で眠ることが癖になり、残業で遅くなった時は必ずと言っていいほど彼の身体を布団にして、次の日の活力を養うこととなる。

 

BGM:Claudio The Worm(The Green Orbs)

座殿はむしろ猫と言うか豹な感じがしますw教祖様も猫というよりも大型犬っぽいですね。
ちなみにBGMは某有名ぬこ様チャンネルで使われているアレ一択です♪

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