猗窩童週間作品 - 1/2

3月20日

「付けすぎたから貰え」
そう言いながらあなたはやれやれと言った体で、たっぷりと付けすぎた白色ワセリンを俺の手にマッサージするように塗っていく。
もっぱら乾燥しやすい冬のお供は手ごろな値段で薬局で買える白色ワセリンチューブ(60g)だ。今までは容器に入っていた物を使っていたのだが、実は意外につける量を見誤りやすい。容器には『患部に薄く塗って下さい』と書いてあるのに猗窩座殿はたくさん塗った方が早く効果が出ると思っているのか、やたら滅多にたっぷりとすくって塗っていたけども、結局付けすぎたワセリンをティッシュで拭って捨てるのだからあまりにも勿体ない。
だからどうせ捨てるなら俺にも塗ってとお願いしたところ、一瞬ポカンとした表情を見せた後、もちろんだとも!と力強く了承され、指と指の間に至るまで隅々までワセリンを塗り込められた。余ったワセリンをもらうという口実だったのに猗窩座殿ときたら、何故か新たにワセリンを付け足してまで丁寧に手入れをされた俺の両手はその日一日やけにテラテラと光り輝いていたのを覚えている。
そんな事情もあって、ワセリンは50g容器のものではなくて使いやすいチューブにしてと猗窩座殿にお願いしたんだけど、やっぱりワセリンはたっぷり塗ってナンボと思っているのか、付けすぎたと言っては俺の手におすそ分けをしてハンドマッサージをしてくれるのだ。
確かに猗窩座殿の施術はとても気持ちがいい。両手を使って上下から挟み込んで温めるように触れながら手の甲を優しく撫でさすっては指を一本一本柔らかい力でさすって揉んで程良い力で圧迫してくれる。
あまりにも気持ちがよすぎてうとうとしてしまったり、猗窩座殿の触れ方があまりにも優しすぎるから、困ったことに俺は猗窩座殿がワセリンを付けすぎるのをひそかに期待してしまっているのだ。
うーん…、ワセリンを無駄にしないようにとチューブ入りのを買ったのにこれじゃあ本末転倒かなぁ。
そんなことを考えているうちに緩やかな睡魔が訪れてきて、気が付けば猗窩座殿の手に触れられながら俺は眠りに落ちていた。

***

「よし終わり…って、童磨?」
余ったワセリンのおすそ分けとハンドマッサージをするという口実で良いだけ童磨の手を堪能して手放すと、目の前の恋人はすぅすぅと気持ちよさそうに寝息を立てている。下がり気味の太眉はますます下がり綺麗なオパールの瞳は瞼に覆われて見えない。
しかしそれを補って余りあるほどに無防備で愛らしい寝顔を余すところなく眺められる特等席にいる俺はこの贅沢な時間を堪能することにした。

きっかけは単なる偶然だった。手荒れのしやすい季節、あまりにもぱっくりと手にひびが入るものだから、白色ワセリンを買ってきておおよそ百数年ぶりに見舞われた症状の部分に塗りたくっていた。しかし容器に入っているタイプは意外と多めにすくってしまう上、薄く塗るよりも厚く塗った方が傷口のコーティングになると思い、ひび割れの部分を中心に塗っていたら、エラいべたつきになりティッシュで拭っても収拾がつかない状態になった。
その様子を見るに見かねた童磨にどうせ捨てるなら俺にも塗ってとお願いされたのが運のつきはじめ。思う存分童磨に触れられる口実ができた俺はもちろんだとも!と声高らかに叫んで思う存分童磨の手に触れた。
元々きちんと手入れはしてある童磨の手は滑らかであるが筋張っていて、こう言っちゃなんだが意外に男らしいなと思った。だが抜群な手触りであることは変わりはない。何より外で恋人つなぎをしたり寝台の上で向かい合って手を繋ぐのとはまた違った趣がある。そんな風にいつまでも触れていたいと思う童磨の手の手触りを更に良くするために、余ったワセリンをあげるという最初の名目は綺麗さっぱり抜け落ちてしまい、付けすぎて後悔したはずのワセリンで童磨の手の手入れに勤しんでしまった。
『猗窩座殿のおかげで俺の手テッカテカだよ』と笑いながらかざした童磨の両手は確かに無駄に神々しいほどテラテラしていて、正直スマンかったと思っている。
なので後日童磨から、白色ワセリンを買うなら容器のものではなくチューブ物にして欲しいと言われたのだが、それは至極当然の意見だ。弁解しようもない。だが俺としてはその手に思う存分触れて手入れしたい。どうにか合法的に怪しまれずにワセリンを分け与えつつ童磨の手を手入れできるかを調べた結果、ハンドマッサージをするという方法に落ち着いた。
確かにこれなら無理なくワセリンを塗って手入れも手触りもキープできる。加えてハンドマッサージなら疲労回復を始めとした様々な健康促進も期待できるからやらない手はない。
なのでチューブ型容器を買った今でも患部にたっぷりワセリンを塗り、童磨におすそ分けをしてそのままハンドマッサージをするという流れが出来上がっていた。

ああ、こういう形で触れるのもやはりいいもんだなぁと心から思いながら、十分にこいつの寝顔を堪能した俺は今度は反対の童磨の手を取り、掌と手の甲を挟み込んでさすりながら、合谷のツボを程良く刺激し、指先を一本一本柔らかく揉み解して圧迫を繰り返していく。

”昔”は触れるどころか、腕や頭ごと振り払ってきた俺がこうして触れるのは何とも滑稽だと心のどこかで思わないでもない。
だがそれでも俺は童磨のそばに居たい。”昔”の分までコイツに触れたい、大事にしたいと心から思う。それだけだ。

両手のハンドマッサージを終えても起きる気配のない童磨の手を取りその指先にちゅっと軽いリップ音を立てて誓いの口づけを交わす。少しずつ前のめりになっていく童磨をきちんと休ませるためにダイニングチェアから立ち上がり、細心の注意を払ってゆっくりと姫抱きにする。
無防備で少しアホっぽいが変わらず綺麗な寝顔を晒す童磨の薄く開く唇を奪ってやろうかと思ったがそこは何とか踏み止まる。きちんとベッドに寝かせた後、髪を梳きながら思う存分キスをしてやろうと心に決めた俺は、愛すべき恋人と共に寝室へと向かったのだった。

 

元ネタ:お題ガチャ・推しCPでみたいシチュ
『17.出しすぎたから半分貰って下さいと、童磨の手をマッサージするようにハンドクリームを塗る猗窩座。童磨は気持ちいいなぁと気に入っているし、猗窩座も触れる口実ができるので気に入っている。』より

丁度このお題が出たとき、手荒れがひどかったためワセリンを塗りたくっていたのでスルスルと書けました。ハンドクリームとしてワセリンは大変優秀です。薬局に行けば必ずと言っていいほど買えますしね。
どまさんの指先って結構しなやかっぽいなと思ってましたが、当たり前といえば当たり前ですが男らしさもありますよねw
座殿はもちろんめっちゃ分厚くごつごつしてそうな指先なのですが、手先が器用なところがエモいと思います♪
その器用さでハンドマッサージとか色々やってあげてどまさんをある意味で極楽に行かせてあげたらいいなあ♡

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です