俺の手は氷の御手と言われるほどに温度がないに等しいらしい。多分これは生来のものなのだろう。あまりに冷たすぎて時々指先に血が通っていない感覚がしていて、戯れに手を握ってきた人達からは夏には重宝されたが、冬になると心配されてきた。
放っておくと取り返しのつかないことになるから病院へ行くように勧められるも、別に何の異常もなく健康そのもの。末端冷え性の可能性が高いけど別に生活に支障が出るほど困ってはいない。思うにこれは”昔”に駆使していた血鬼術の影響なのではないかと結論付け特に対策を講じずに今に至る。
だが猗窩座殿と再会して親友になって関係を育み恋人同士となって初めての冬。俺の手をぎこちなく取った猗窩座殿があまりにも体温を感じない俺の手にビクッとなったのを見て思わず胸にツキンとした感覚が走り、もう少しケアしておけば良かったかなあなんて気持ちが涌き出てくる。
「ごめんねぇ。俺の手、今はこんな感じなんだぁ」
出来るだけ深刻にならないようにそう伝えれば、こちらを見上げてくる猗窩座殿の真剣な向日葵色の瞳にかち合った。
ああ、猗窩座殿の手は温かいなぁ。
むしろ夏の日差しのように刺すくらいの熱さを感じる。俺が本当に氷の手だったら三秒もたずに溶けてしまうくらいに。
いっそこのまま溶けてしまえば気持ちがいいのかななんて考えていたら、ぐ、っと更に猗窩座殿が俺の手を強く引き寄せ、五指を指の間に絡めてくる、所謂恋人繋ぎをされた。
「謝る必要がどこにある?」
「え? だって冷たいだろう?」
手の温度から察するに、俺の手は多分尋常じゃないくらい冷たく感じるのだと思う。夏ならまだしも寒い時期に理由もなくわざわざ氷水に手を浸したい人はそうそういないだろう。
手袋を嵌めるにはまだ早いけれど、猗窩座殿が不愉快にならないならそうした方がいいなと思った俺の言葉を封じるように、猗窩座殿が言葉を繋げた。
「確かに冷たいがそれはお前のせいではないだろう? むしろ俺の手があったかくてよかった。お前を冷やさなくてすむし、こうして手を繋ぐ口実にもなる」
心底嬉しそうに笑いながら告げてくる猗窩座殿の顔を見て、一瞬ポカンとした後に、じわじわと心臓からほんのり温かいなにかが涌き出てくる。
ほわほわ
ふんわり
ふわふわ
ぽかぽか
そんなとりとめのないものだけど、感じていて不快なものではない。むしろ時間が経つにつれて緩やかに全身が包まれていく、そんな感覚のものだった。
「お? 少し指先が温まってきたぞ?」
「えぇ~? 本当に?」
「本当だとも。お前の頬もほんのり薄紅色に染まってきたしな」
桜餅みたいだぞと言われて、意識をすれば確かに頬が熱い。更に指先にも意識を向ければ、温度のなかった十本の指に少しずつ血の通ってくるような感覚に見舞われる。
「これから毎日毎日、季節を通じて手を繋いで、お前を温めてやるからな?」
いたずらっ子のように笑いながら、きゅうっと俺の指を温めてくれるように包み込む猗窩座殿の手の温かさ。来年の冬は俺に温もりを与えてくれた猗窩座殿にそれ返しながらも温かさを分かち合えればいいなと強く想いながら、そっと少しだけ温かくなった指先で彼の手を繋ぎ返した。
うわーーーー!めっちゃ好き――――!!猗窩童イチャコラしろーーーーーー!!と滾りながら書いた記憶があります\(^0^)/
どまさん、氷の技を使っていた名残で手が冷たいのも美味しいし、座殿はなんだか体温が高そうなイメージがありますねw
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