「猗窩座殿ってマッ○のパイ大好きだよねぇ」
仕事の帰りに猗窩座がお土産として買ってきてくれた桔○信○餅パイを手に持った童磨がしみじみと呟く。山梨県の銘菓である桔梗信玄餅をモチーフにし、パイで表現したという渾身のスイーツであり、二日前から発売されていた。
というのも○ックは「お手軽にちょっとした旅行気分を味わってほしい」というコンセプトから、日本のご当地名物とコラボした新作スイーツを発表している。この桔梗信玄餅のパイ以外にも、東京ばななのワッフルコーンや京都の辻利の抹茶をシェイクにしたラテなどがある。どれもこれも美味しそうだが真っ先に猗窩座が買ってきたのはやはりというかなんというか桔梗信玄餅のパイであった。
「好き……というかなんというか…」
パリパリとパッケージを開けてまくまくとパイを頬張っている猗窩座は童磨の言葉に少し微妙な顔をする。フィリングされた黒蜜ときな粉はとろりとした優しい甘さを舌先に伝えてきて、黒糖色に焼かれたさくさくのパイがまた絶妙なしょっぱさを演出し、それがさらに美味しさに拍車をかけている。
元々美味しいものが大好きな童磨は『うん、美味しい♪』と言いながら幸せそうに信玄餅パイを頬張っているが、やはり猗窩座は微妙な顔のままパイを口に運んでいた。
「うむ、確かに美味いが…別に大好きだというわけでもない」
「え? そうなの?? でもその割には新作が出たら色々食べているじゃないか」
童磨の言う通り猗窩座はマ○クから新作のパイが出るたびに注文して食べている。だが別に猗窩座は○ックのパイ愛好者だというわけではないという。では一体何故毎回期間限定のパイが発売されるたび買ってくるのかと首を傾げる童磨に、猗窩座はさくりと一口パイを齧ると、一瞬だけその豊満な胸をちらりと見つめた後呟いた。
「前にも言ったが、俺がこの店のパイを買うのは愛を謡っているからだ」
「へ?」
「去年のクリスマス…、出張だった俺がお前欠乏症に耐えかねて、愛はパイだというキャッチフレーズのパイを買ったっていうの覚えているか?」
「あ……、うん…」
覚えていないはずがない。元々記憶力が良いと自負している童磨にとって猗窩座との思い出は一時たりとも忘れたくない宝物のような時間なのだ。一瞬返事が遅れたのは忘れていたからではなく、あの後致した初めての夜の営みを思い出して顔が火照ってしまったからだ。
そんな童磨の表情に気づかない猗窩座ではなくくつくつと笑いながら言葉を続ける。
「あの時俺は本物の愛を感じるパイを知っているから満たされないと言ったが、それはお前が傍にいなかったからだ」
だから…と、ソファの隣に座る童磨の胸に頭をぽすりと預けながら甘えるようにぐりぐりと押し付けると、ひゃんっという甲高い鳴き声が上がる。
「だから愛の権化であるお前とこの店のパイを食べることで、お互いの愛と思い出と美味しさを共用しているんだと思う」
そのまま上目遣いでまっすぐに見つめてくる猗窩座に思わず童磨の胸がキュゥンと高鳴る。
何だろう。本当にこの人はいつも俺に温かく優しい気持ちを与えてくれる。
愛の権化だなんて、そんなのあなたも同じじゃないか。
「おっ、お前の心臓、ドクドク言っているぞ?」
「誰のせいだと思ってるんだい…」
もう本当にあなたって人はと蚊の鳴くような声で呟いて、食べかけの信玄餅パイを持ったまま俯いてしまった童磨の唇をすかさず猗窩座はチュッと奪う。
「っ~~~!」
「はは、可愛いな」
悪戯っ子のように笑う猗窩座によって再び深く口づけられながら、童磨は徐々にソファの海へと沈みこまされていく。
「んっ…あかざ、どの……、パイが」
おちちゃうという童磨の訴えを聞き届けた猗窩座が、すかさずガラスのローテーブルの上にパッケージにしまった信玄餅パイを置く。
「…キス、だけだからね?」
うるりと生理的な涙で潤んだ虹色に見つめられて、猗窩座は苦笑しながら善処するとだけ答え、信玄餅よりも甘く深いキスを愛してやまない恋人へと与えていった。
果たして食べかけの信玄餅二つが二人の胃袋の中にこの後すぐに収まることになるのか。
それは二人の愛の甘さと深さのみぞ知るといったところだろう。
記憶する限り五つくらいマッ〇のパイの話を書いてますが、別に〇ックの回し者ってわけじゃありませんw単に美味しいから毎シーズン食べているだけです。
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