惚れたもん負けなんて言葉をよく耳にするけども、何をもってして負けなんだろう?
「ねえ、猗窩座殿はどう思う?」
「どう思うって言ってもなぁ…」
隣に座る大好きな恋人の猗窩座殿に話題を振ると、彼は難しそうな顔をしてうーんと腕を組んで考え込む。
「俺は別にお前に負けたなんてことは全然思っていないからなぁ」
「へ?」
さらっと言われた猗窩座殿の言葉に一瞬脳みその理解が遅れた。
「え、それ本気で言ってる…?」
「へ?」
恐る恐るそう訊ねれば、向日葵色の綺麗な瞳をまん丸にしてポカンとなって俺を見つめてきた。
「いや、いやいやいやいやちょっと待て? どう考えたって俺の方がお前に惚れているぞ?」
少しだけムッとしたような表情で俺に詰め寄ってくる猗窩座殿の言葉を聞いて、流石に俺もはいそうですかと流すことはできない。
「え、ちょっと待って? 絶対に俺の方があなたを好きだよ?」
俺がそういうと猗窩座殿は聞き捨てならないと言わんばかりに柳眉を吊り上げて俺を睨みつける。
まるで〝昔〟によく見た表情。でも決定的に違うことは今の俺はよく分かる。それを俺に教えてくれたのは他でもない猗窩座殿でしょう?その度に俺の胸の中にどれだけ温かいものが降り注いでいるのかそしてどれだけあなたに惚れ直しているのかわからないなんて絶対に言わせない。
「おま…っ! そういうところが俺を惚れ直させているということがなぜわからんのだ!」
顔を真っ赤にして八重歯を剝きながら叫ぶ猗窩座殿だけどこればかりは譲れない。
「分かっていないのは猗窩座殿の方だよ!」
どうしてわかってくれないのかと感情が高ぶるままに大声を出してしまうなんてこと、絶対になかった。それだけ俺があなたに惚れているんだってことを余すところなく伝えたいのに伝わらないもどかしさ。〝昔〟、猗窩座殿と入れ替わりの血戦をしたときには感じたことのないグラグラした気持ち。
誰かに自分の気持ちを分かって欲しいなんてことを感じたことがないのに、猗窩座殿にはどうか理解してほしいと心から思うのにどうしても伝わらない。
「…童磨…」
目の前で驚いた顔をしている猗窩座殿を見て興奮状態が少しずつ収まってくる。
それと同時、自分がどれだけ子供じみたことを叫んでしまったのかも否応なしに理解してしまう。
「…ごめん」
荒げた息を深く吸って吐いて落ち着かせながら目を逸らす。今だけはこの人のまっすぐな視線に射貫かれたくないなとらしくないことを考えた瞬間、唐突に腑に落ちてしまう。
───…ああ多分これが。
────…惚れたら負けってことなんだなぁ。
「ごめん猗窩座殿」
「?」
「もう、学習したから…。惚れたら負けってこと」
そう言って笑顔を取り繕うとするも、そんな暇も与えられずに俺の頭が勢いよく猗窩座殿の腕によって抱き寄せられたのはすぐのことだった。
惚れたら負けっていう言葉があるけど、マジで何をもってして負けなのか分らんし、両方惚れてるなら両方負けで勝ちってことでいいじゃんと思って書いたみたいです\(^0^)/
結局は二人仲良くしながら末永く幸せに生きてればそれ以上の勝ちなんてないんだってこと☆
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