ハイスクールバレンタインラプソディー - 1/4

その①

「あのね、猗窩座殿…これ…」
放課後、童磨に呼びだされた猗窩座は校舎裏へとやってきた。
通常、人通りの殆どない呼びだされたとなればすわ果たし合いかカツアゲかと身構えるところだが、彼に限ってその心配は全くない。
むしろ猗窩座からすればようやくかといった心境ですらある。
そう言って童磨からおずおずと差し出されたのは綺麗にラッピングされた小さな包み。ご丁寧にも猗窩座の瞳の色のリボンもかけられている。
「…」
無言のまま猗窩座はそれを受け止った。目の前の童磨はじっと猗窩座の顔を見つめている。
「…開けてもいいか?」
「! うん、いいよ!」
猗窩座の言葉に童磨はたちまちパッと花が咲いたように笑顔になる。全くコロコロ表情が変わる奴だなと内心で微笑ましく思いながら、猗窩座はペリペリと包装を解いていく。
果たして現れたのは予想を違わぬ小さな箱。これは猗窩座と同じ髪の色。その中から漂うのは予想通りの甘い仄かな香り。そっと蓋を開けてみれば、仕切りのある箱に詰められた少し歪な形のトリュフが六個。
それを見た猗窩座の顔が徐々にこらえきれないように笑みで溢れてくる。そんな彼の様子を見た童磨は、あれ?あれあれ?という表情を浮かべ、思わずこてりと首を傾げた。
「…あの、猗窩座殿…?」
「食っていいか?」
「うんいいよ…じゃなくて!」
さも当たり前のように受け取った挙句、食べてもいいかと訊ねる猗窩座に童磨は思わず即答するが、いやちょっと待ってとストップをかける。
「驚かないの? 親友からいかにも本命だって言わんばかりのチョコレート貰って」
「美味そうだな、サンキュ」
「どういたしまして♪ ってだから!」
またもや即答してしまう童磨に猗窩座はわかったわかったと、もらったばかりのチョコを落とさないように大事に抱え込みながら片手をあげて種明かしをする。
「というかだな、お前、バレバレだったぞ」
「え!?」
そのバレバレとはどのあたりを指すのだろうか?猗窩座に想いを寄せていたことか、それともこんないかにも本命ですと言わんばかりのチョコを作っていたことか。
「まあ気づいたのは俺もお前を見ていたから、だろうな…」
ポツリと頬を掻きながら零れた猗窩座の言葉に、童磨は猫を思わせる形のオパールの瞳をこれでもかと言わんばかりに見開いた。
「えぇぇ…俺、結構隠してたんだけどなぁ…」
猗窩座に隣に座るように促されて腰を降ろした童磨が気まずそうにポツリと呟く。隠し事は得意だと思っていただけに隠しておきたい相手にバレバレだったのは割とショックが大きい。
「いや、お前あれだけあからさまにしておいてそれはないだろ」
「へ?」
「毎日のように俺と一緒に登下校していたのが、ここ数日週3日になっただろう」
え、それだけでバレちゃったの?と童磨は驚きを隠せない。猗窩座に作るチョコのために個人練習をしていたのだが、同じ曜日だと勘づかれる恐れがあるためランダムに曜日をずらしていたにも拘らずだ。
「それにお前といるときチョコの匂いがしてたし、コンビニに立ち寄れば、手作りチョコになる材料を真剣に見ていただろう」
「いやちょっと待って」
チョコの匂いなんてそんなに付くものなの? 確かに味見はしていたけど、猗窩座殿と一緒にいるときは結構時間がたっていたし甘ったるい味がするからブレスケアもしていたのに。それに手作りチョコの材料になる板チョコを見ていたのは確かだけど、あまりあからさまに見るのもバレるかもしれないから『これ美味しそうだねぇ』なんてさりげなさを装って買っていたのに。え、え?
混乱に陥る童磨とドヤ顔で告げる猗窩座の他に第三者がいれば、『恋する男の眼力と洞察力は半端じゃないのだが、あんたの想い人のそれは既に至高の領域だ』と告げるだろう。むしろ独占欲と言った方が良いのかもしれない。
「童磨」
名前を呼ばれて思わず振り向くと自分が上げたチョコを咥えた猗窩座がじっとこちらを見ている。
「ん」
「ん?」
「ふえ(食え)」
そう言って更に顔を突き出す猗窩座に、一応自分が作ったチョコなんだけどなぁと苦笑しながらも、童磨は彼の咥えたチョコにぱくりと喰いついた。
うん、味は良好。何度も何度も作ってクラスメイトや事情を知る謝花兄妹に味見してもらいながら指導してもらった甲斐があったなぁと思う。最も梅の方は「あのまつ毛なら生コンクリート混ぜてもありがたがって食べるわよ」と呆れかえっていたし、妓夫太郎も妓夫太郎で「あのクソまつ毛童磨さん泣かせたらケツ毛まで取り立ててやるからなぁあ」と呪詛を吐きながら童磨のチョコレートをもりもりと食べていたのを猗窩座はもちろん童磨も知る由はない。
「ふぁ…」
いつの間に恋心を抱いていた親友だった相手に贈ったチョコを一緒に端から食べていた童磨の唇は他でもない猗窩座によって塞がれる。
「ん、ぁ…」
そのまま蕩けたチョコレートと共に食まれる唇の甘さと熱さに思わずクラリとしてしまう。二月も半ばだが、人気のない校舎裏は日がほとんど差していないため肌寒い。
だけども与えられるキスと、グッと抱き寄せられることによって間近で感じられる体温によって、全身が火照っていく童磨にしてみれば、このくらいの温度が心地よく思える。
「…童磨」
名残惜しい気持ちをこらえながら猗窩座は一度顔を離すと向日葵色の瞳をまっすぐ虹色の瞳へと向けた。
「…お前が好きだ」
「ぁ…」
そういえば本命のチョコを渡したのはいいけど好きだとは言っていなかったことに気づいた童磨は火照った頬を更に赤らめながら、そっと唇を開いていった。

 

元ネタ:お題ガチャより”猗i窩i座の驚く顔が見たくて秘密でチョコレートを作っていた童i磨。しかし、猗i窩i座はそれに気付いていた。”から。

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