「あ、お帰りなさい猗窩座殿♡」
「ただいま、童磨」
このやり取りも何度繰り返したことだろう。相変わらずどちらかが先に戻ってきたのなら玄関先にまで出迎え、お帰り、お疲れ様と顔を出す二人の行動を、世に溢れるパートナーたちはどれだけ習慣にしているのだろうか知る由もないが、猗窩座と童磨はこの日も心からお互いの無事と帰還に感謝しながら挨拶を交わしていた。
「寒かったよね。早く温まろ?」
「おう、あ、そうだ童磨これ…」
今日も一日無事に戻ってくれてよかったという気持ちと労わりを込めてお互いに頬にキスを贈り合った後、猗窩座は買ってきた白い箱を童磨に差し出す。
「え、なになに?? お土産??」
「ああ、ちょうど小腹が空いて入った店で美味そうなアップルパイがあったからついでにな」
冬の仕事帰りは特に小腹がすきやすくなるのはどうしてだろうか。帰路へ着く間にあるコンビニやケーキ屋と言った店はある意味で誘惑の関所と言ってもいいと猗窩座は思う。だが家に帰れば愛する伴侶の作った飯が待っていると思うとそのまま振り切ることも可能だが、抗えない場合も多々ある。そうなった場合は素直に諦めて童磨と一緒に美味しく食べる物を見繕って買ってくるわけだが、十中八九後悔はしない。
「わあ、美味しそうなアップルパイだぁ♡」
寒い玄関先から移動し、ついでにうがい手洗いを済ませて共にリビングに行けば、受け取った箱を開けて嬉しそうに笑い、ありがとうとお礼を言う童磨が目に入る。猗窩座も顔をほころばせながらああ、やっぱり買ってよかったなぁと心から思う。
「あ、でもね」
「ん?」
「俺も今日色々買って来ちゃったんだよねぇ」
猗窩座からのお土産にはしゃぐ笑顔がそのまま自嘲をを含んだものに変わる。大切な人が買ってきてくれたお土産を嬉しく思わない訳がないが、量が量だけにほんの少し複雑な気持ちが拭えない。アップルパイと串団子、どちらも早めに食べた方が美味しいのだが、折角猗窩座が買ってきてくれたお土産なら早く食べたいと思う。
「タイミング悪かったかなぁ」
太い眉毛を下げてアハハと笑う童磨を見ながら猗窩座の胸に突き上げてくる想いは、例えようのない愛しさと、そして嬉しさだった。
「あ…」
アップルパイの箱ごと猗窩座が童磨をぎゅっと抱きしめる。もちろん美味しく食べるためにアップルパイを潰さないように最大限配慮してだ。
「そんなことない……、ベストタイミングだ」
「えぇー? だって俺、あんなに買ってきちゃったんだけどなぁ…」
ちら、とダイニングテーブルの方を見る。帰ってきてからウキウキとエコバックから取り出した透明パックに詰め込まれた団子と紙袋の中に入っている苺どら焼きが鎮座している。消費期限は冷蔵で保存すれば三日は持つがそれでも風味は落ちてしまうだろう。出来立てを食べてもらいたいという気持ちはあれど猗窩座殿が買ってきてくれたアップルパイも美味しいまま食べたい、でも食べすぎるとまた胸が大きくなってしまうという葛藤に沈む童磨の唇が、不意にかさついたそれで塞がれた。
「ん…っ」
団子より柔らかく、アップルパイよりも甘い、猗窩座の口づけに反射的に目を閉じてしまう童磨。チュッと軽い音を立て、そっと離れていった猗窩座の顔はとても優しく嬉しそうに笑っていた。
「それはつまりお前も俺も、お互い美味しいものを一緒に食べたいと思って買ってきたってことだろう? 心の通い合っている恋人や伴侶は行動が似てくるものだってお前の持っている本にも書いてあったじゃないか」
猗窩座の言葉に思わずポカンとなった童磨の胸に、また温かなものがホワホワひたひたと満たされていく。確かに仕事で使う本の中にそういうことは書いてあったが、猗窩座の言葉を聞くまで忘却の彼方にあった。だけど猗窩座は覚えている。時々童磨の書斎から本を借りて読んでいるのは知っているが、きちんとその内容を覚えてくれていたことが何故かたまらなく嬉しくて仕方がなかった。
「俺も、いつも俺のために尽力してくれるお前に似てきたのかと思うと正直嬉しいし誇らしい」
「猗窩座殿…」
優しく揺れる向日葵の瞳が真っすぐに虹を覗き込む。その視線に童磨の鼓動はとくとくと高鳴るのを感じてしまう。
「それにな、童磨」
「ひゃんっ」
突然猗窩座の手がわしっと童磨の柔らかく豊満な胸を揉みしだく。いきなり何するんだいと唇を尖らせる童磨にすまんと一応の謝罪をすると、今度はもう一度優しく胸にそっと手を置くと、ニヤリとした笑みを浮かべた。
「食べすぎて胸がデカくなるのは俺は大歓迎だ」
「~~~っ猗窩座殿の助平! 俺は本気で…!」
さっきまでの甘く柔らかな雰囲気は何だったのかというほどに下心丸出しの猗窩座に思わず童磨はぷんすかする。だがそんな表情も心から童磨を愛しく思う猗窩座にしてみれば可愛らしい以外の何者でもない。
「俺だって本気だぞ? 健康に支障がない程度なら太ったところでお前への愛情が枯渇することなどありえん。そもそも体調管理はしっかり整えている結果、胸に食ったものがいくのはそれはもう仕方がないことだろう? 何を悩む必要がある」
「それは…っ、そう、なんだけど…!」
それでもやっぱり男としていかがなものかという気持ちが拭えず気まずそうな顔をする童磨の胸をもにゅもにゅと揉みながら、猗窩座はそんな悩める可愛らしい恋人の唇にもう一度キスをする。
「何度も言うが俺は気にしない。特に胸の痛みやしこりはないのだろう?」
「う…、まあそういう病気的な兆候は見られない、けど…」
「ならそれでいいではないか」
「う~~~~~~」
気恥ずかしいのか、小さく唸りながら首をすくめじっと虹色の瞳が猗窩座を見上げる。まるで警戒している猫のようだななどと思いながらも、童磨が本気で悩み始めたのなら胸筋に付いた脂肪を落とす筋トレやエクササイズに付き合ってやろうと密かに決意を固める。
「ではひと段落着いたところで、早速お前が買ってきてくれた物を頂こうか」
「あ、じゃあ俺も」
なんだかうまく言いくるめられた気もしないでもないが、これも心が通い合っている者たちの証拠なのだろう。猗窩座殿が喜んでくれるならそれでいいやと、ここでその悩みを考えるのを切り上げた童磨は恋人と共にお土産を食べるために団子を取ってこようとするが、猗窩座からストップがかかった。
「お前は食いたい物を食え」
「うーーーん…、じゃあお言葉に甘えて」
そんな他愛のないやり取りを経た後、猗窩座は童磨が買ってきてくれたいちごと大福の串団子を、童磨は猗窩座が買ってきてくれたアップルパイを食べることに決める。同じものを共に食べてもいいのだが、互いが互いを想って買ってきてくれた物をそれぞれ食べるというのも十分に幸福で満たされる。
「それじゃあ、頂くね猗窩座殿」
「おう、俺も頂くぞ童磨」
「いつもありがとうね」
「こちらこそ、いつもありがとうな」
ふふ、と見つめ合い、笑い合いながら二人同時にお土産を口にする。
「ん~♡ おいひい♡」
「んっ、美味い!」
幸せそうに顔を綻ばせながら恋人からのお土産を食べながら、今日一日何があったかを語り合う。お腹も胸も満たされ合う感覚を覚えながら、また一つ二人の間には新たな幸福の記憶が積み重なっていく。
当然、食べきれなかったお土産にはそれぞれの名前を書いておくことも忘れない。
【俺の愛する童磨が買ってきてくれた団子と愛する童磨を想って買ってきたアップルパイ】
【大好きな猗窩座殿と一緒に食べるお団子♡】
そんな文字に綴られた白い箱と透明のケースは仲良く並んで冷蔵庫の中に仕舞われ、二日後には綺麗に主たちのお腹の中に美味しく収まったのだった。
更に余談だが、やはり童磨の胸は若干ながら大きくなり、そこもまた猗窩座にたっぷりと可愛がられて愛し尽くされたことも付け加えておく。
自分一人だけが美味しい物を買ってきて貪り食うのはサルやゴリラの幸せ。
美味しい物を他の人と分かち合って食べるのが人間の幸せ。
これはとある脳科学者の著書に書かれていた一文(要約)ですが、まさにその通りだと思います。
サルやゴリラの幸せでも確かに人は幸せになれますが、分かち合うことや尽くし合うことで幸せになれるのって人間だけなんですよね。多くの書籍でも幸せになれる方法は多く書かれていますが、それらに共通して書かれているのってやっぱり相手を想って想いやって感謝するってことなんですよ。前回も同じことを書きましたが、ガチで大事なことなので二度書きました。
そしてラストの名前を書くシーンですが、これは春の猗窩童祭りでも書いたネタを使いまわしてますw
名前を書くのすらラブラブな猗窩童…いいですよね!
まかり間違っても買ってきてくれた相手に対して「死ね」「馬鹿」「アホ」「クソ〇〇」とか書くような真似はし腐らないのがうちの猗窩童ですから(^ω^)
つうか買ってきてくれた相手に感謝することなくそんなことするような性格ドブクソゲロ以下な奴、後生大事に想っている方も趣味が悪すぎるとしか言いようがない( ゚д゚)、 そもそもそんなことするような奴っていったいどんな教育受けてきたんだろうってマジで思うし、そんな奴に食われる食べ物がガチで可哀想すぎる。雨や埃や排せつ物や吐瀉物はおろか霞ですら勿体ない。口も鼻も縫い閉じてそのまま一生を終えろ(^ω^)凸
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