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「猗窩座殿ー♪ 来ちゃった♡」
「お前という奴は…!」
とある郊外のフィットネスジムにて。前世は鬼同士であったが色々あり今生では人として劇的な再会を果たして只今関係を再構築中の童磨が、週五回のペースでやって来たのを確認した現職コーチである猗窩座は流石に額に血管を浮き上がらせる。
「来ちゃった♡じゃないだろ!? お前はペースを飛ばし過ぎだ!!」
「んもう、親友に対してつれないなぁ」
「確かに俺とお前は親友だが、ここではコーチと客だ!」
やいのやいのと言い合う光景を、ああまた夫婦漫才しているよと他の客とコーチから生温く見守られながら、猗窩座の説教とそれを受け流す童磨の攻防はしばらく続く。
「何度も何度も言うが筋肉は筋トレ後が本番だと言っただろう?! お前の筋肉が弱者になるか強者になるかの分かれ道はお前がきちんと休むかにかかっているのだぞ!! ぶっちゃけお前の顔が見れるのはうれ……ゲフンゲフン! ともかく! 会えない時間が筋肉を育てるのだと何度言えばわかるのだ!?」
「そりゃ分かるけどさぁ。来週以降はまた忙しくなるんだよ。だからできるだけ通いたいなぁって思って…」
端正な顔立ちには一見ミスマッチとも取れる黒く太い垂れ眉を瞬と更に垂れ下がらせ悲しそうな顔をする童磨。ちなみに同僚のコーチたちは『あれ? それって先週も言っていなかったか??』と満場一致で同じことを思ったが、色々と拗れることは目に見えているので黙ることをこれまた満場一致で決めて口を閉ざす。加えて口では何だかんだ言いつつも童磨が来てくれて浮かれ切っている猗窩座はまるで気づいていないのだからあえて藪をつついて蛇を出す必要もあるまい。そ、それなら仕方があるまい、ただしきっちりとセーブしてトレーニングしろよと釘を刺しながらもあっさりと入場を認めてしまい、ありがとう猗窩座殿♡とそれはそれは嬉しそうに笑いながら更衣室へと入っていく童磨の後姿をまんざらでもなさそうな顔で眺める猗窩座を同僚及び客たちは先ほどよりも生温かかく見守るしかなかった。
さて、このフィットネスジムは男性専用であり、数多くのマシンが取り揃えられている。
上半身と下半身をまんべんなく鍛え上げられるように交互に設置しており、三十分の時間をあっという間に過ごせるように頻繁にコーチが声掛けをしながらきちんと入るべきところに圧が入っているかを確認し、トレーニング中のモチベーションを上げていく仕組みになっている。
そんなコーチ陣の中でもとりわけ猗窩座の声掛けはかなり好評を博しており『全力を出せ!! 集中しろ〇〇(本名)!!』『初めてきたあの日、お前は圧倒的初心者だった。だがどうだ!? 今のお前は!! 目を瞠る成長だ!!』『俺は純粋に嬉しい! 心が躍る!!』等、飴と鞭を使い分けるその声掛けは客たちの限界点とやる気を突破させると評判になっているのだ。
そんな猗窩座の声掛けを聞きながら、うーん、そこは相変わらず〝昔〟と同じだなぁと着替え終えた童磨は苦笑しつつサーキットの入り口に立つ。
「お、来たか童磨」
「うん、お待たせ」
「全然待っていないぞ。そうだな…」
そして童磨に対してはこの変わり身の速さである。金銭を払ってきてもらっている客からすればコーチたるもの誰に対しても平等に接さなければ色々と問題が起きそうなものなのだが、この二人に関しては口ぶりや雰囲気から昔の知り合いであるということは見て取れたし、何より鬼のようにトレーニングに厳しい猗窩座が秀麗の美丈夫にだけ見せる甘やかな笑顔と蕩けそうな声というのは何というか色々とクるものがあると、実はそっちの意味でも人気であることを猗窩座は勿論のこと童磨も知る由もない。
そんな二人のやり取りを器用にトレーニングをしながら見つめている客たちと、気持ちはわかるが集中しようねとやんわりと注意するコーチのやり取りを尻目に、猗窩座はやや混み合っているサーキット内でどの場所に入れるかを目算する。
「そうだな…、じゃあ次の場所チェンジで2番に入ってくれないか?」
「あ…、ふふ、了解」
「? どうした」
一瞬戸惑った表情を見せたのも束の間、すぐに含み笑いをする童磨に対し猗窩座は怪訝そうな顔をし問いかけるが、終わったら教えてあげるからとひらひらと手を振りながら童磨は指定された2番目のマシーンへと入っていった。
このジムは人の入り具合によっては一番目から順番に入るというわけではなく、空いている場所から順番に入れていくシステムなのである。そして猗窩座によってサーキット内に案内されると必ずと言っていいほど2番目から開始されるのだ。
狙ってやっているわけではないのだろうしそれ以外の番号のマシンからの時もある。だけど圧倒的に2番目始点が多いのは、〝昔〟からの縁なのだろうと思う自分は随分と感情豊かになったものだと思う。
そして、恐らくそれに気づいていない猗窩座にそのことを教えたなら、一体どんな反応を見せるだろう?
そんなのは偶然だ!と照れながら噛みつくように怒鳴るか。
それとも、そそそそんなつもりじゃない!!とやっぱり照れてそっぽを向いてしまうのか。
いずれにせよそんな猗窩座の様子を想像すると、なんだか胸がホワホワしてくる。
そんなひそかな楽しみを胸に蓄えながらトレーニングを終え満を喫してその事実を伝えたところ、一瞬で顔を真っ赤にしたところまでは予想と同じだったが、じわじわと嬉しそうな笑みが浮かんできた猗窩座にそうか、そうか!!と叫ばれながら両手で持ち上げられクルクルとその場で32回転し、お互い目を回し倒れ込んでしまいちょっとした騒ぎを起こしてしまうことになるなど、この時の童磨は知る由もなかった。
通い始めたジムで一時期頻繁に起こっていた出来事を猗窩童でなぞりました。実録小説的な物です。
というか実際通ってみて分ったんですが、座殿の性格ってジムのインストラクター向きなんですよね。
飴と鞭の使い方が上手いからなんかコアなファン増えそうだしwww
ちなみに会えない時間に育まれるのは愛だけじゃなくて筋肉だということも学びました\(^0^)/
ちなみに以下の小ネタは前にツイッターで呟いた奴なんですが、割と気に入っているのでもう一回呟きます。
※※※
会えない時間が〇〇を育む。
〇〇に当てはまる言葉を答えて下さい。
一般人「愛」
どまさん「幸せ」
座殿「筋肉」
おあとがよろしいようで\(^0^)/
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