がしりと両腕を捕まれて、壁に押し付けられる。
痛いよという間もないまま、俺の唇は肉付きの薄い猗窩座殿のそれにより荒々しく塞がれていた。
「んん…っ!」
ギリギリとニットカーディガンに食い込んでくる彼の武骨な太い指先。俺よりも小柄なはずの彼の力は俺よりも強くて、どこにも行かせないと言わんばかりにますます俺を壁と自分の身体に挟み込むように閉じ込めにかかる。
「んは…っ」
唇から差し出された舌先で俺の唇をこじ開けようとする猗窩座殿に答えるようにかすかに唇を開けば、遅いと言わんばかりに舌が入ってきた。
「んんんー…っ!」
そのまま俺の舌は捉えられてそのまま猗窩座殿のと絡められる。温かい猗窩座殿の舌先を感じるたび、俺の身体から力は抜けていきがくがくと震えて立つことだって難しい。
「んぁ、ぁ…っ♡」
キス、口づけ、口吸い。昔から伝えられてきた愛情確認と表現の一つであり、〝昔〟の俺たちの間では当然のことながら起こりえなかったやり取り。それが今ではこんな風に頻繁に彼から俺へ与えられる。
どこか肌寒さを覚える建物と建物の間の日陰に俺たちはいるのに、猗窩座殿の口づけによって火を付けられていくように熱く体が火照っていくのを感じる。
「は、ぁ…、かざ、殿…っ」
息が続かなくなりそうになった頃、不意に猗窩座殿の方から唇が離される。今生では八センチほどの差しかなくなった猗窩座殿は必然的に俺を見上げる形になるんだけど、〝昔〟は鬱金色だった向日葵色の瞳はギラギラと好戦的に輝いていて、まるで飢えている獣のようだ。
「どうま…」
腕をつかんでいた手が俺の両頬に添えられたかと思うとそのままがっちりと固定される。一時たりとも猗窩座殿から目を離せなくするかのように。
「お前は俺のものだからな」
余裕のない掠れた声で囁かれて俺は一瞬言葉に詰まる。
もうとっくに俺の心は猗窩座殿のものだし、身体だって同じだ。
なのにこうして猗窩座殿は俺をどこかに行かせないように、自分のものであると確かめるようにキスをしてくる。
まだ何か、不安なことがあるのかな?
〝昔〟に猗窩座殿が俺にしてきたことならもう俺は気にしていないし、地獄であなたに逢えたことは本当の本当に嬉しかった。
そのことを余すところなく言葉に伝えても伝えても、まるで一定期間水がたまれば底が抜けて全部流れ落ちる貯水槽のように、猗窩座殿は不安そうな顔をする。
それでもいい。
俺は優しい…、ううん、猗窩座殿を愛しているから。
不安な気持ちがあるなら全部全部表してほしい。
何度だって受け止める。
荒々しいいキスに載せたあなたの愛情も不安も全部受け止めてあげるから。
だからもっとキスを頂戴。
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