荒い息を吐きながら、俺の両手に頬を包まれたまま童磨はそう言った。
そのおねだりに誘われる形で俺は再び上部にある童磨の唇を狙って俺のそれで塞いでいく。
「んっ…」
鼻にかかったような甘い吐息。閉じられる虹色の瞳。少しだけ大きく男にしてはぷっくりとした柔らかさのある唇。
どれもこれもが愛おしいし、余すところなく俺のものにしたいと願うたび、耳と脳みその狭間の部分から、まるで金属音に爪を立てるような不快な思考が湧き出てくる。
────…あの時出会ったのはただただ運が良かっただけだ。
聞こえてくる声はまぎれもなく〝俺〟の声だ。
────…現に、例の蟲柱が彼奴の口説きに応じていたらお前と童磨はこうしてはいられなかっただろう?
五月蠅い。
────…あの場所で待っていたのが黒死牟だとしたら?
煩い。
────…黒死牟とは限らない。壺を贈るほどに仲が良かった玉壺やアイツが直々に拾って鬼にしてやった陸の兄妹だとしても、アイツは再会の喜びに涙を流しただろう。
喧しい。
────…お前でなければならない理由なんかどこにもないんだよ。
忌々しい…!
散々自分自身の軟弱さに目を背けてきて八つ当たりしかできなかったお前ごときが、コイツに触れて大切にしたいだと?
黙れ。
お前の独り相撲もここまで来れば滑稽だな。どんなに存在を刻み付けようとしたところで、何度言葉を重ねたところで、お前がコイツに過去に犯してきた罪は消えることなどありはしないのに
黙れ────…!!
「いっ…!」
不意に目の前の童磨が顔をしかめる。と同時に伝わってくるのはがりッと何かに齧りついた感触と鉄のような臭いと味だった。
「っ!? すまん!!」
一拍おいてそれが童磨の唇から伝わってくること。何物でもない俺が童磨の唇に噛みついていたことに気づいたのは更にその一瞬後のことだった。
慌てて唇を離せば、朱く染まった唾液の糸が互いの唇を繋いで消えていく。
「もう、猗窩座殿ってば。情熱的なのは大歓迎だけど、予告くらいはしてくれよ~」
痛みに顔をしかめたのも束の間、ぺろりと長い舌で血を舐め取った童磨に対し湧き上がってきたのはどうしようもない罪悪感だった。
「…すまん…」
何もこいつは悪くはないのに。今はもちろん〝昔〟だって、俺に対して何もしてこなかったのに。
「…すまない、童磨…」
下げた頭はこのまま一生上げられないと思うほどの罪悪感に打ちのめされる。コイツは間違いなく『いいいい、俺は優しいから許すよ猗窩座殿』と言って、俺のすることなすこと全部甘やかしてくれるんだ。
その度に俺は救われると同時、不甲斐なさに打ちのめされ、ますます焦燥感に駆られてこいつを縛り付けることに躍起になる。
ほら見ろ、と俺の頭の中のもう一人の俺が嘲笑う。
────…所詮お前はその程度の男だ。お前があまりにも弱者で哀れだから、面倒見がよく優しい此奴は付き合ってくれるに過ぎないんだ。
「…ねえ、まずは頭を上げて?」
「すまない…」
「すまないじゃなくて、どうしてこんなことをしたのか理由を聞かせてほしいよ」
穏やかな童磨の声に俺は弾かれたように顔を上げる。するとそこには少しだけ悲しそうに笑う童磨の姿があった。
コメントを残す